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第98話:月の勇者、立花乙女

前回登場した謎の人物の正体がわかります()。

サブタイトルでネタバレしてますが……。


俺の前に現れたそいつは、どこか戸惑っているようだった。

というか、『ライトボール』に照らされててわからなかったが、こいつ僅かに発光してないか?


青白い光……、月の輝きに似たような光だ。

あー、月の勇者ってそういう事?


勇者っていうより、使徒って感じの外見だけど。


いや、俺は例外だから。


以前、時空の女神フェルディアルに確認した限りだと、この世界出身の勇者というのは、基本的に存在しない。

例外は現在ユリアンくらいか。


元々、『勇者ヒーロー』自体が、神によって選定されて初めて獲得できる職業だからな。


空気の成分量に変化があると人が生きていけないように、魂もまた、環境に変化があると壊れてしまう。

こちらの世界に別の世界からやってきた魂が壊れてしまわないように、神が保護したのが、勇者であるのだと言う。


魂を保護するのと同時に、この世界で生きていく力を与えた訳だな。

何故そんな事をするのかと言うと、異なる世界を行き来できる力を持っているのは、フェルディアルだけであるからだ。


つまり、こちらの世界にやって来る異世界人は、何かしらの被害者なんだ。

この世界の人間だったり、マジックアイテムだったり、そうしたもののエゴによって、強制的に連れて来られる、つまりは、誘拐されて来た被害者。

そのため、神は彼らを保護する。


保護してすぐに送り返せばいいのだが、今度はこちらの世界の存在との関係が影響してくる。

彼らをこちらの世界に呼んだのが、この世界の存在であり、それが故意である場合、そして悪意を以て呼んだのだとしても、それを尊重し見守ろうというのが神のスタンスだ。

例外は勿論ある。


時空の女神フェルディアルに呼び出した存在から、直接(・・)依頼があった場合だ。

あとは、世界間移動が事故の場合だな。


これらのケースでは、フェルディアルがその力を使って、元の世界に送り返すようにしている。


ちなみに、ユリアのような転生の場合はこの限りじゃない。

そもそも、転生した場合は、魂がこの世界に馴染んでいるため、神が保護する必要が無い。


ユリアが『勇者ヒーロー』を獲得したのは、一応設定してあった、神から授けられる以外の獲得条件を満たしたからだ。


獲得職業が五つ以上かつ合計LV500以上。

幸運を除くすべてのステータスが1000以上。

ステータス合計が自分のステータス合計の三倍以上の相手を殺す。

一定数以上の存在から英雄として讃えられる。

種族LV100以上


なんていう、アホみたいな条件をユリアは達成してしまった。


ヒトでは一つ目と二つ目と三つ目が難しく、魔物やモンスターだと一つ目と四つ目が難しい。

特に、モンスターが四つ目を満たす事はまず無理だろう。


普通は『神から授けられる』以外の条件を設定しないもんだが、そこはそれ。

長く生きているが故に、暇を持て余している神々のお遊び設定だった訳だな。


フェルディアルに「転生者でも自力での獲得は不可能だと思っていました」と言わしめるくらいだ。

大方、達成できそうな存在を見て盛り上がり、やっぱり駄目だった存在を見て笑っていたんだろう。

趣味が悪いが、神々にしてみれば、世界なんてそんなものだ。


フェルディアルは、世界とそこに存在するものを自身の遊び道具程度にしか思っていない神々に対して思うところがあるようだ。

異なる世界を移動できるが故に、他の世界の神の事を多少なりとも知っているからだろうな。


それでも、他の神にはない『異なる世界を移動する力』『時間に干渉し、過去や未来を変化させる力』を持つフェルディアルは、神々の戯れの仕切りを任される事が多いそうだ。

そして、信者が少なく、神の中で力が弱いフェルディアルは、同時に立場も弱いらしく、神々からの頼みを断れないんだと。


さておきこの目の前の存在。

これまでもユリアのように『アナライズ』を使ってもステータスを読み取れない相手はいた。

けれど、そもそも表示がされないってのは初めてだ。


「あ、あの……」


どうしたものか、と俺が悩んでいると、そいつが口を開いた。


「あの、言葉、わかりますか?」


それが言葉を発したという以上に、俺はその言葉を聞いて衝撃を受けた。

日本語(・・・)だ!

言語チートのお陰で、日本語のように聞こえる、いつもの感じじゃない。

目の前の相手は、はっきりと日本語で喋っている。


「……ああ、通じる。君は何者だ?」


だからと言って、すぐにその事に言及したりはしない。

こいつの事をまだ何もわかっていないんだからな。


「良かった……。私は立花たちばな乙女おとめと申します。姓が立花で名が乙女です。こちらだと、オトメ・タチバナと表現するのでしょうか?」


立花と名乗った相手は、名前と声からすると女性、それも少女のようだった。

しかしなんだろう? 『アナライズ』で表示される情報が少ないせいだろうか。

安堵し、こちらに縋ろうとしている感じなんだが、何となく、俺に対して壁があるような気がする。

初対面の人間を前にした、緊張した感じとは違う。

警戒している?


まぁ、こんなダンジョンで突然一人で居る人間と出会ったら、警戒して当然か。

しかも、相手の話を信じるなら、彼女はこちらの世界の文化をまるで知らない。

つまり、人と出会う事さえ初めてなのだろうからな。


「実は、私と私の仲間が、現在窮地に陥っておりまして、厚かましい話だとは思いますが、助けていただきたいのです」


仲間? 複数人で転移して来たのか?


「お礼……ができるかどうかはわかりませんが、私を始め、数人はある程度戦う事ができます。例えば、この洞窟に出て来る怪物や大きな虫なんかは、特に苦戦せずに倒せるくらいの力があります」


数人が戦える、という事は、戦えない人間も居る?

全員が異世界人なら、全員勇者の筈だよな。精神的な問題か?

どれだけ強い力を持っていても、それを振るう事を躊躇う人間は居るからな。


「救う……というのは具体的にどうすればいいんだ?」


「ええと、荒唐無稽な話だと感じるかもしれませんが、私達はこの世界の人間ではありません。別の世界から、突然こちらに呼び出されたのです」


「呼び出された? 何者かに召喚されたという事か?」


「ああ、やはりそういう事があるんですね。いえ、それもわからないのです。気が付けば、荒野の只中にいましたから」


召喚者が居ない? じゃあ人為的な原因じゃない? それとも召喚に中途半端に成功した?


「それで、可能なら元の世界に帰りたいんですが……」


「元の世界か……」


「やはり難しいんでしょうか?」


多分、フェルディアルに頼めばなんとかなるだろうけど、勝手に約束するのはまずいだろうなぁ。


「なんとかなるかもしれないが、確約はできない」


「いえ、方法があるとわかっただけでも十分です」


そして立花は安堵したように一つ息を吐き出し、頭から被っていた革のローブを脱ぎ、その素顔を晒した。

うん、可愛いな。高校生くらいか。

真面目そうな、いかにも委員長といった感じの少女だ。


「その制服は……」


「え?」


思いのほか普通の少女だったのも驚いたけど、それ以上に俺を驚かせたのは、彼女が纏っていた服だった。


淡い紺色のブレザータイプの制服。女性ものでも左前で、ダブル仕様の特殊なデザイン。


俺が通ってた高校の制服だ……。

十年以上変わりなしってのも、凄いが、その辺どうなんだろうな。

昔がどうだったかなんて、話せるような相手もいなかったしな。


「なんでもない。それで、君の仲間っていうのは?」


「あ、はい。この洞窟を出て二日程した場所に居るんですけど……」


「二日か。君の話を聞いた限りだと、君は数くない戦える人間なんだろう? そんなに長く離れて大丈夫なのか?」


「ああ……えー、そうですね。その辺りは話さないとフェアじゃないですね。その前に一つ聞かせて欲しいんですけど?」


「なんだ?」


スリーサイズは秘密だぜ、なんてボケをかます心の余裕が、今の俺には無かった。


「この世界の人って、皆あなたのように強いんでしょうか?」


くっ、『致死予測』持ちか。

ただ職業で『勇者ヒーロー』を持ってるだけじゃなく、スキルもしっかり保有しているわけか。


「いや、俺はこの世界でも大分強い方だ」


謙遜するのは簡単だけど、あまりかけ離れた嘘を吐くと、今後に誤魔化すのが面倒そうだからな。


「そうですか」


立花はそれを聞いて安心したようだった。

うーん、ステータスが表示されないから俺の名前が何色で表示されてるのか気になるな。

まぁ、俺を強いって評しているんだから、少なくとも黄色以上だろう。

これまでに見た勇者のステータスを参考にすると、平均ステータス500~600くらいか。


「私には特殊な力がありまして、ええっと、分身、で通じますか?」


「ああ、わかるよ」


種族:朧月はそういう事か。


「その分身を生み出せるんです。今も意識を共有できているんですよ」


そう言って胸を張る立花。

ふむ、可愛い。


「つまり、仲間が居る場所を守る君と、こうして協力者を探す君と、二人居るって事か」


「それと食料調達の私が居ます」


最低三人分か。ステータスが低くても、厄介な【固有技能ユニークスキル】だな。


「けれど、それだけ強い君が沢山になれるんなら、君で護衛して仲間と一緒に動いた方が良いんじゃないか?」


「私達が移動した場所に原因があるかもしれませんし、できる限りそこは動かないでおこうと思いまして」


ち、乗ってこないか。

よくある分身の弱点として、人数が二倍になれば能力が二分の一になるっていうのがあるからな。

そこを確認したかったんだが。


「しかし二日か。このダンジョン、洞窟を出るまではどのくらいかかる?」


「そうですね、半日くらいでしょうか」


ちらりと、腕時計を見て橘は答えた。


「……じゃあちょっと待っててくれ」


「え?」


立花が何か言う前に、俺は『テレポート』でその場を離れた。




「あ、おかえりなさいませ」


『テレポート』で家に戻った俺をいち早く出迎えたのはサラだった。

なんでお前は俺の部屋に居るんだ?


「俺のベッドで何してるんだ?」


「タクマ様成分を補充しておりました」


「…………それ、エレンもやってたりしないか?」


「むしろ彼女に教わった事ですが?」


なにか? と小首を傾げるサラは可愛いのだが、どうしても溜息が出てしまう。


「装備を整えて下に来い。二日程出掛けるぞ」


「は、はい!」


笑顔で応えたサラは慌てて部屋を飛び出して行く。


俺は部屋を出て一階に降りた。

そこには勉強をしているウォードの子供と、掃除中のミカエル達がいた。


「おや、お帰り、タクマ君」


なんてミカエルは淡泊に話しかけてくるが、体から滲み出る『そわそわ』が隠しきれてない。

多分、飛びつきたくてたまらないんだろう。

それでも、彼女がそれをやってしまうと、他の女性達も歯止めが効かなくなるから自制しているんだろうな。


男冥利に尽きるな。


「二日程出掛けて来る。ミカエルは装備を整えてついて来い」


「わかったよ!」


いつもなら、理由を聞いたりするのがミカエルの役目のような感じだけど、三日もお預け喰らってた影響だろうか。サラと同じように、自分の部屋へと駆けていく。


「私たちはお留守番なのですか?」


尋ねたのはリビングを掃除していたカタリナだった。


「ああ、家を完全に留守にする訳にはいかないからな」


「以前に神の揺り籠へ赴いた時は、全員連れて行ってくださったじゃありませんか?」


カタリナが反論してくる。


「むしろあの時が例外なんだよ。それに、今回はあの時以上にどんなトラブルに巻き込まれるか予測がつかない」


「またそういうのなのですね」


俺の言葉に、呆れたようにカタリナが呟く。


「女神様からの試練という事ですわね。そういうことでしたら、仕方ありませんわね」


カタリナも納得してくれたようだが、諦観の色が滲んでいる。


「エレンは?」


「モニカさんやノーラさんと一緒にシュブニグラス迷宮ですわ」


となると暫くカタリナ以外はウォードさん一家だけになるのか。

まぁ、それで何かあるとは思えないけどさ。


いっそカタリナも連れて行くか?

サラとミカエルを連れて行く理由は、人手が必要になるかもしれないからだ。

立花のステータスが俺の推測通りで、それを基準に考えるなら、ハーレムメンバーなら大丈夫とは思う。

それでも、相手が勇者となると、どんな能力を使用してくるかわからないからな。

『エンゲージリンク』で自分を強化できるサラとミカエルを連れて行こうと思った訳だ。


ハーレムの中ではあの二人がステータス的に強いってのもある。

そういう意味ではカタリナも条件に合致しているが……。


しかし、こういう情報が不足している時には、カタリナの『不運』が怖い。


「そうか、じゃあ戻って来たらよろしく伝えておいてくれ」


「ええ、わかりましたわ」


という訳でカタリナは置いていく。


「タクマ様、お待たせいたしました!」


「タクマ君、お待たせ!」


「よし、じゃあ行くか」


サラとミカエルが完全装備で降りて来たので、二人を連れて『テレポート』を行う。


「いってらっしゃいませ」


柔らかく微笑んで、カタリナはそんな俺達を送り出してくれた。




「わ!」


神の揺り籠のダンジョンに戻って来ると、立花が驚いたような声を上げた。

いや、驚いたんだろうな。

いきなり目の前から消えた俺が、またいきなり現れたんだ。


『テレポート』の事を知らないんだから当然だよな。


「お待たせ」


「い、いえ。大丈夫です。そちらの二人は……?」


「俺の部下だ」


ハーレムや奴隷は、日本人には説明が面倒な関係だからな。


「サラです」


サラは無表情で挨拶をする。


「ミカエルだよ、よろしくね」


ミカエルはそう言ってウィンク一つ。

立花の頬が赤く染まった。


ミカエルは王子系の美形だからな。耐性がないとこうなるか。

俺と出会った時も女性を引き連れてたもんなぁ。


「た、立花乙女です。よろしくお願いします」


緊張に顔を赤くしながら、立花は自己紹介をして頭を下げた。


「あれ? 名前……」


立花がサラ達と俺を見比べている。

うん? どうしたんだ? 『致死予測』でステータスを確認しているんだとしても、俺を改めて見る必要は……。


あ……。


「ひょっとして、あなたも日本人なんですか? 佐伯さえき琢磨たくまさん」


そう言えば、『致死予測』に表示されるのは、タクマ・サエキじゃなくてそっちなんだっけ。

最初に俺を『致死予測』で見た時は、他に比較対象が無かったから、突っ込まれなかったんだな。

こっちの世界の名前も日本みたいな名前の可能性があるからな。

けれど、サラやミカエルの名前を見て、俺の名前が特異である事に気付いちゃったんだな。


「あー……」


さて、どうするか。

認めるのは簡単だけど、果たしてコイツをどこまで信用したもんか。


転移して来た日本人である事は確かだ。

けれど、コイツが果たして、俺が思った通りの善人なんだろうか。

善人で無かったとしても、本当に、元の世界に戻る事だけを考えているんだろうか?


既に彼女達を召喚した人間と接触していて、何かしらの理由で俺達を騙そうとしている可能性だってある。


「……そうだ、日本人だ」


「やっぱり……」


ここは認めておく事にした。


「俺はこの世界の神、フェルディアルの使徒として、日本からこっちに呼ばれたんだ」


「使徒……ですか?」


「ああ。この世界には普通に神が居て、普通に神の奇跡が存在しているからな」


「まぁ、この力と、怪物達を見れば、信じる事はできます」


うーん、テンション低いな。

日本人に出会えて嬉しいとか、ひょっとしたら帰れるかもしれない、みたいな感じは窺えない。


むしろ俺の正体が余計怪しくなって警戒を強めている感じがする。


「『ライトボール』」


俺はとりあえず光の球を三つ出現させ、周囲を照らす。


「じゃあ、出口へ案内して貰えるか? その間に、君達の事を色々と聞こう」


「はい、わかりました。こちらです」


このくらいだと驚かないのか、立花は先頭に立って俺達を案内し始めた。


「ところでタクマ君、彼女は誰だい?」


立花に続いて歩き出したところで、ミカエルが俺に尋ねた。

声に少し棘が含まれているような気がする。


まぁ、ハーレムの女の子放って一人で何日も出掛けていた主人が、他の女性と一緒に居たと知ったら、嫉妬しても仕方ないよな。


「うーん、説明が難しいな。世界の迷い人、かな?」


ちょっと詩的な表現になったな。意図せずだったから、恥ずかしさが込み上げて来る。


「ふぅん」


それ以上の追及は無かったが、ジト目をこちらに向けて来る。

サラに至っては、立花の背中を睨みつけたままだ。


「ここの出口がどこに繋がっているかわからないからな。油断だけはするなよ」


「ああ、大丈夫だよ」


「わかりました」


バレバレでしたが、彼女の正体は月の勇者、立花乙女!!

そのスキルによる分身でした。

次回は転移してきたあのクラスといよいよ絡みます。

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[一言] 神話体系のお陰で光が最上位の神ってなってるけど、カルダシェフ・スケールとかのやってることの規模だと時空神の方が圧倒的に格上なんだよなぁ。
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