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第92話:神草森林

神の揺り籠での話、三回目です。


ガメオベアーとその一党を撃破した後、周辺を探索すると、彼らが根城にしていただろう洞窟を発見した。

そこにもメガベアーとダンジョンベアーが残っていたが、これを掃討して、今日の寝床にする。


神の揺り籠のモンスター、魔物は縄張り意識が強いので、今日までガメオベアーの縄張りであったのなら、明日までは大丈夫だろう。


寝るだけなら『テレポート』で家に帰ればいいんだけど、何度も言うけど、一度家に帰ってしまうと、次に来る気が起きるのがいつになるかわからないからな。

ハーピーの素材を手に入れるまでは帰らないと決めているんだ。

キリっなんて言ってみたところで、実際はものぐさなだけなんだよな。

12年のヒキコモリニート生活が未だに俺を蝕んでいる。


サラリーマンにでもなっていれば、都合三年ヒキニートから脱却して生活している訳だから、性格、体質共に改善されていたんだろうけれど、自由業な自営業だからな。

外に出ているだけマシとも言えるか。


洞窟で寝る際には、洞窟の外に焚火を作り、俺達は奥で寝る。『空気の嫁セカンダス・エアリアル』を使って空気を対流させる事で、一酸化中毒になる危険性をなくす。

ちなみに不寝番は置かない。

『センスアトモスフィア』で警戒は十分だし、エレンに頼んで戦の精霊(ヴァルキリー)に番をさせる事にしたからだ。


森の夜と言えば、夜行性の鳥獣の声や、虫の鳴き声。風に揺らぎ木々のざわめきなどが、不協和音を奏でて不気味さを演出するものだ。

まぁ、神の揺り籠だと怪鳥の鳴き声、魔獣の咆哮、巨大な虫類が動き回る音、樹木系モンスターが蠢く音などな訳だが。

別の意味で恐怖だよな。


「ああ、旦那様、エレンはとても恐ろしいです」


などと言ってエレンは俺に抱き着いて来る。棒読みも良いところだ。

ローテーション的には今日はエレンの日なので、サラ達も文句を言えない。


「貴女、一人でエルフィンリードで寝泊まりできるんでしょ!? 白々しいのよ!」


しかしモニカは退かなかった。


「エレンはこの中で一番戦闘力がありませんから。エルフィンリードより危険なこの神の揺り籠を恐ろしく感じても仕方ないじゃないですか」


「総合的なステータスが一番低いのは私よ!」


モニカが強気なのはつまりそういう事であった。

哀しい自慢だな。これも自虐って言うのか?


「左右があるから、ローテーション的に順番であるエレンと、一番ステータスの低いモニカが俺に抱き着けばいい」


「それはちょっと贔屓なんじゃないかな?」


「そうだぜ。そもそもステータスで言えばアタシが一番低い筈だろ?」


「ノーラさんはそもそもご主人様とそういう関係ではないのでは……?」


「じゃあ間を取って私がタクマ様と……」


「エレン、夜の森は怖いわね。タクマにひっついてないと安心して眠れないわ」


「そうですよね? モニカ様、一緒に旦那様に包んでいただきましょう」


サラ達の参戦に慌てて協定を結ぶモニカとエレン。

こうして神の揺り籠初日の夜は、騒がしく過ぎて行った。


あ、流石に外ではヤってないからね。



翌朝。日の出と共に起きる。

焚火を囲んで朝食。夕食はドラゴン肉を炙ったものだったので、朝は軽く白パンと野菜スープだ。


「サラ様? 野菜も食べないと大きくなれませんよ?」


「その分お肉食べるから大丈夫。あと、エレンが言っても説得力が無い」


「それはどういう意味でしょうか?」


「自分の胸に聞くといい」


「エレンじゃ場所がわかんないでしょ?」


「モニカ様……?」


ちなみにコレは仲が悪いという訳じゃない。ジャレ合いみたいなもんだ。

複数人でする時は、女性同士で高め合っている時もあるくらいだしな。



朝食を終え、一休みした後、岩山を目指して登山再開。

暫くすると、死臭のようなものが漂い始めた。


「『サーチ』で見ると、周囲に敵性反応があるな。縄張り争いでもあったか?」


「考えて見れば、ダンジョンと違って、ここだと魔物同士、モンスター同士でも戦闘が発生するんだよね」


ダンジョンの攻略をメインにしている冒険者だとありがちな勘違いだよな。

ダンジョン内で生まれたモンスターは、ダンジョンという同じ親を持っているせいか、モンスター同士で殺し合う事は無い。

だけど、ダンジョンの外では普通に弱肉強食。生存競争に晒される事になるからな。


警戒しながら進むと、頭上から何かが降って来るのを感じた。

素早く小鬼の大鉈を振るってこれを迎撃する。二つに切り裂かれた葉っぱが、俺の目の前を舞った。


上を見ると、次々に、笹の葉のような、尖った葉っぱが降り注いで来た。


「『ウィンドウォール』!」


風の魔法で一気に薙ぎ払う。

ざわざわと、周囲で木々が蠢いた。


そこに居たのは巨大なツジギリソテツ。五メートルはあるだろうか。


「囲まれていますわね」


カタリナの言葉に周囲を見回すと、巨大なツジギリソテツが何体も俺達を取り囲んでいた。


「足元にダンジョン狼。ダンジョンベアーも見えます」


サラに言われてツジギリソテツ達の根元を見ると、無残に切り刻まれた動物系モンスターが見えた。

縄張り争いか、それとも、彼らがツジギリソテツのテリトリーに踏み込んだのか。


「サラ、カタリナ、炎解禁!」


「かしこまりましたわ! 『エクスプロージョン』!」


これまでは山火事的なものに気を使って、炎系の魔法を使わせなかったけれど、この状況なら仕方ない。

カタリナが放った爆発系の魔法が、俺達に向かって放たれた、ツジギリソテツの小葉ごと、その本体を吹き飛ばす。


元がツジギリソテツだから、大きくなってもそこまで強くないな。

サラも炎の魔法で小葉を燃やしながら、ソテツの本体に槍を撃ち込んでいる。


「嫌な思い出が蘇るわ」


「そうですか? 植物系のモンスターの中では比較的倒しやすい相手ですよ?」


同じエルフィンリード経験者でも、モニカとエレンの感想は対照的だった。


「昨日の熊と違って、図体がでかいだけだにゃ! アタシでも十分戦えるぞ!」


「油断はしないようにね」


ミカエルが片手剣と盾で小葉を防いでいる間に、ノーラがソテツを蹴り倒す。


「逃げていくわね……」


何体か倒すと、ツジギリソテツ達は器用に根っこを動かして、後退るように俺達から離れて行く。


「ダンジョンの外のモンスターは強い相手とはあまり戦おうとしませんからね」


カタリナの言葉に成る程と納得する。

縄張り意識が強いとは言っても、ダンジョン外のモンスターは基本的に野生動物と似たようなものらしい。

危険だと判断したら素早く逃げるんだな。


「追うかい?」


「別にあいつらは目的じゃない。魔石を回収したら先を急ごう」



どうやらこの辺りは植物系モンスターの縄張りらしく、ヒトトリクサや、巨大な食虫植物であるドラゴンイーターなどが居た。

何か凄い名前のモンスターだけど、確かにドラゴンの子供くらいなら、靭蔓的な捕虫袋に入りそうだ。

触手にモンスターや魔物が囚われていたり、捕虫袋が妙に膨らんでいる個体がある。


俺達が近付くと、新たな獲物を発見したとばかりに襲い掛かって来る。

しかし、少し戦って俺達が手強いとわかると、そそくさと退いていく。


何が何でも縄張りを守る獣系とは違って、この辺りは柔軟なんだな。


「けほ」


更に進むと、突然エレンが咳き込んだ。


「どうし……!?」



状態異常:胞子



胞子を吸い込むなどして、体内にて発芽するとこの状態異常になる。

時間経過と共にステータスの低下や麻痺などを引き起こし、最終的には元になった植物、生殖細胞の苗床になってしまう。


寄生系の状態異常を治す魔法、『アンチボディ』で即座に状態異常を取り去る。


「! こいつか!?」


周囲を見回すと、足元にカラフルなキノコの群生を発見した。

一見するとただの毒キノコだけど、『サーチ』で見ると、モンスターだとわかる。


キノコ型のモンスター、シュリーカーだ。


「皆、気を付けろ……」


「んふふ、旦那様が一人。旦那様が二人……」


全員に注意を促そうとすると、紫色のキノコの絨毯の上に座り、ハイライトの消えた目で遠くを見つめ、何やらヤバげな事を呟いているエレンが居た。


エレンの足元に生えているのはメルヘンルームという、幻覚を見せるタイプのキノコ型モンスターだ。


どちらもステータス的には大した事が無いし、他の植物系モンスターみたいに根っこや茎を使って歩くような事も無い。

だからこそ、冒険者達の警戒に引っかからず、気付かれないうちに胞子を吸わせる事ができるんだ。


シュリーカーは生物の体内に胞子を発芽させ、その生物の生命力を養分に成長する。

メルヘンルームは幻覚で獲物を捕らえ、衰弱死させて苗床にする。


俺の『アナライズ』みたいに、鑑定系のスキルや魔法を持っていないと、状態異常に気付かないまま、深刻な事態を引き起こす事になる。


「カタリナ、『エクスプロージョン』!」


俺はエレンに『リフレッシュ』をかけて『幻惑』から救い出す。


「かしこまりましたわ!」


即座にカタリナが爆発系の魔法でキノコ達を吹き飛ばす。

ミカエルとモニカも剣を振るい、足元のキノコを薙ぎ払った。


「ガァルウウウウウゥゥゥウウ」


低い唸り声が聞こえたので振り向くと、そこには虚ろな目をし、歯を剝き出しにしたノーラが居た。


その背中には、巨大なヒマワリが咲いている。


「うわぁ……」


その光景に、俺は思わず呆れてしまった。

ノーラの間抜けさに、じゃない。流石に絵面がシュール過ぎた。


「あれ、助かるのかい?」


俺とは違い、悲壮感を漂わせてミカエルが聞いて来る。


「ああ。背中の花はモンスターだから、倒せば問題無い。シャイニングウィザードって言うんだけど……」


「グアアアァァァァアア!!」


俺の言葉を遮るようにして、ノーラが飛び掛かって来た。

う、いつもより速いな。

多分、無意識のうちに力をセーブしているサイコロジカルリミットが外されているんだろう。


俺目がけて飛び込みながら空中で回転。地面に手をつき、その反動を利用して蹴りを繰り出す。

寄生されてても技が使えるのか! 厄介だな。

しかも花が下になったから攻撃しづらくなったぞ。


「タクマ君、攻撃はボクが防ぐからキミはモンスターの本体を!」


俺とノーラの間にミカエルが割り込み、盾で、ノーラが放つ蹴りのジャブを防いだ。

俺は素早く二人から距離を取り、弓を取り出す。

『クリエイトウェポン』で矢を作り、弓に番えて引き絞る。

放たれた矢は寸分たがわず、シャイニングウィザードの中央に突き刺さった。


「ギャアアアアァァァァァアアアア!!」


その瞬間、ノーラが絶叫を上げ、苦しみだす。


「え? これ本当に大丈夫なのかい?」


「大丈夫な、筈……」


暫くノーラが苦痛にもがいていると、背中の花が光の粒子になって消え、魔石へと変化した。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


残されたノーラは俯せに倒れたまま荒い息を吐いている。


『アナライズ』で見ても、状態異常は無くなっているし、HPが多少減っている程度だ。


「ふぅ、なんとかなったな」


「ご、ご主人様……!」


俺が安堵の溜息を吐くとカタリナが切羽詰まった声を上げた。


「どうし……!?」


尋ねようとして、俺は驚愕した。


慌てて走って来たカタリナの後ろ。

虚ろな目をして、覚束ない足取りで、ゆっくりと近付いて来る、サラ、モニカ、エレンの三人。



状態異常:寄生(ゾンビパウダー)



どうやら群生していたキノコの中に、胞子を介して生物を操る、ゾンビパウダーが混じっていたらしい。


「俺が状態異常を除去するから、カタリナはとにかく周辺の植物を焼き払ってくれ!」


「はい! お任せください!」


とは言っても、『アンチボディ』をかけるだけなんだけど……。


え!? サラにレジストされた!?


通常、回復系の魔法は味方にかける訳だから、レジストされる事は有り得ない。

だけど、今回のように、操られているような相手にかける場合は抵抗される事がある。

そして、『アンチボディ』は世界魔法の第二階位だ。

位階が低いって事は、魔力上限(キャップ)も低いという事。

だから、俺の魔力をもってしても、魔抵が高い相手だとレジストされる可能性があるんだよな。


シャレになってねぇ。


飛び込んで来たサラが、槍による突きを繰り出す。

リミッターが外れた、正真正銘本気の一撃。

まるで稲妻のような攻撃が、次々と俺に向けて放たれる。


これは、ちょっと、まずいな……。


「タクマ君……!」


「大丈夫だ! 任せろ!」


心配そうな声がミカエルから飛ぶが、俺はすぐにそう返す。

まぁ心配するなって。

サラを育てたのは俺だぜ?


一撃も貰わずに。

一撃も返さずに。

圧倒してみせるさ。


放たれた槍の一撃を、俺も『マジックボックス』から火竜槍を取り出し、受ける。

穂先を下から叩くように掬い上げ、こちらの穂先を引っかけて引く。

その動きにサラは抗わず、自ら地面を蹴って飛んだ。

今度はサラが、俺の穂先に引っかかった部分を中心に回転。着地すると同時にその反動を使って、俺の槍を跳ね上げる。


けれどそれは俺の想定内。

手の中でクルリと柄を回して穂先の引っ掛かりを外すと、跳ね上げた事で無防備になったサラの懐へと槍を走らせる。


俺の穂先がサラの柄を叩いた。

槍はサラの手を離れ、空中に舞う。


「いんびじぶるじゃべりん」


武器を奪われたと判断した直後、すぐさまサラが魔法を放って来た。

流石にこれは躱せない。しかし、サラの魔力では俺の魔抵を抜く事はできない。


両腕で頭さえ守れば大したダメージじゃない。


「!?」


何かが体内に入って来る感覚があった。恐らくゾンビパウダーの寄生だ。『狂戦士バーサーカー』の『正気は沙汰の外』で寄生系の状態異常を無効化する。


「うおーたーぷれじゃー」


その隙を突かれ、サラからウォーターカッターの魔法が放たれる。


躱すとミカエル達に被害が及ぶかもしれない。『レインボーシェル』で防ぐ。

再び体内に何かが侵入する感覚。

攻撃が命中する度にゾンビパウダーに寄生されるのかよ!


サラが魔法を放ち、俺がそれを防ぐ。するとゾンビパウダーの寄生判定が入るので、スキルを使用してこれを無効化。

その間隙を縫ってサラが再び魔法を放つ。

以下繰り返し。


「あ、タクマ様……?」


何度か繰り返していると、突然サラが正気に戻った。

攻防の間にも、俺は『アンチボディ』を何度も試していた。

勿論、何の作戦も無くただ数を撃っていた訳じゃない。


サラの足元には持続型の魔法、『ステータスダウン』を設置しておいたんだ。

なんとかレジストされないところまで魔抵を下げられたみたいだな。


「とりあえずサラ、こっちへ来い」


「は、はい……」


どうやら寄生されている間の事は記憶から消えているみたいだな。

敵に操られて俺を襲ったなんて、覚えていたらサラが冷静でいられる筈ないからな。

『ステータスダウン』は時間経過で消えるから、サラをその場から動かさないといつまでもステータスが下がり続けちゃう。


「キノコ型モンスター、想像以上にヤバイな。えっと……?」


俺は『アナライズ』を使いながら全員を見回す。

状態異常を発症している者は居ない。


「全員すぐにこの場を離れるぞ。ここに留まるのはまずい!」


俺の言葉に異論を唱える者はおらず、全員駆け足でキノコの群生地帯を後にする。

直接戦闘するタイプじゃないモンスターってこんなにヤバかったんだな。


特にサラやカタリナはステータスが高いから、状態異常系はレジストできるだろう、と高を括っていたのがまずかった。

考えてみれば、ドラゴンのバインドシャウトなんかは食らってた訳だから(カタリナの場合は『不運』のせいだとは思うけれど)、この状況も予想しておくべきだった。


ああ、今夜の寝床どうしようかな。


モンスターの中でも植物は色々な事をしてくるトリックスターなイメージ。

特にキノコ系は状態異常攻撃を沢山使って来そう。

神の揺り籠、まだ続きます。

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