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第91話:神に至る獣

投稿100回目です。

特別な事はありませんが。神の揺り籠での話、二回目です。


北西に見えた岩山を目指して俺達は山道を歩く。

道が舗装されてないのは当たり前だけど、獣道とさえ言えない道なき道だ。

とは言え、ドラゴンのようなバカでかい存在が闊歩していたりするんで、『人類未踏の秘境』と聞いてイメージするよりはまだ開けている。


「これは、中々、大変ね……」


エレンの次に根を上げたのはモニカだった。

エレン、ノーラに次いで体力が低いせいだろうな。

そういう意味じゃノーラってすげぇな。体力的にはまだまだ余裕そうだ。

何か種族的な補正でもあるんだろうか?


おっと『サーチ』に感あり。

う、大分近いな。ここまで近付かれないと気付けないのは、相手が隠密行動に長けているからか、それとも相手のステータスが高いせいで『サーチ』をレジストされているのか。


「周辺に敵。モンスターだな」


「距離と方向と数は?」


「前方に半円形。囲まれている。数は6、7、8……」


カタリナの問いに俺が答えると、彼女は顔を顰めた。


「群れで襲ってくるのか。獣系のモンスターかな?」


「お? 獣系? ならアタシでも戦えそうだにゃ」


そしてそいつらが姿を現す。

木の陰、茂みの奥からのっそりと近付いて来るのは、体長3メートルはありそうな巨大な熊だった。


ダンジョンベアーだ。群れで居るって事は、この辺りはこいつらの縄張りか?


名前の通り、ダンジョンに出没する熊型モンスター。

あとはここみたいに、魔力濃度の高い山や森でもその姿を見かける事ができる。

野生の熊と同じく、俊敏で堅牢で怪力、という中堅冒険者からは恐れられ、上級冒険者からは嫌がられる相手だ。


とは言え、俺達のステータスなら、危険なのはエレンとノーラくらい。

『疲労』の状態異常くらってるモニカもヤバイか?


一体の強さは戦士LV40相当くらいだけど、流石に数が多いな。


「俺が前方。サラが右側、ミカエルが左側を担当。モニカ、ノーラ、エレンは後方を警戒。カタリナは中心で魔法による援護を」


「はい!」


「わかったよ!」


敵はやる気満々だ。モンスターは基本的にヒトを見かけたら襲い掛かって来るからな。

ゴブリンみたいな弱い奴だと、ステータスの差を感じ取って逃げたりするもんだけど。


「グガゥッ!!」


一つ吠え、四足歩行でダンジョンベアーが突っ込んで来る。

その体当たりを受けても、俺には大したダメージは無いが、流石に相手の質量に速度が加算された衝撃力は無視できない。

カタリナを巻き込んで吹っ飛んだら色々まずい。


という訳で突っ込んで来る鼻先に『マジックマイン』を設置。爆発で突進力を削ぐ。


動きが止まったところへ『インヴィジヴルジャベリン』を連打。

一体に集中するんじゃなくて、前方全体にバラ撒く感じで乱打する。

敵を一体ずつ撃破するのも大事だけど、とにかく数が多いからな。俺が抜かれないためにも、全体の足止めを優先する。


流石にその弾雨の中では前進できないようで、一体、また一体と魔石へとその姿を変えていく。


「くっ! せいっ!」


余裕ができたので周囲に気を配ると、ミカエルが一体のダンジョンベアーと切り結んでいた。

ステータス的には余裕な筈だけど、やはり体格差は大きいのか、敵の強力な一撃を盾で防ぎ、すかさず一撃を返す、という事を繰り返している。


「はっ! やっ! てい!」


右側では盾でベアーの突進を受け止めたサラが、槍の連撃で押し返している。


背後には回り込まれてないようだな。


何度目かのミカエルの反撃の後、カタリナから魔法が飛び、更にベアーを仰け反らせる。

その隙を逃さず、ミカエルが前進。腹部に刃を突き立て、そのまま一気に股の部分まで切り裂いた。


「グルァァアア!!」


断末魔の悲鳴を上げて、ベアーが魔石にへと還る。


右を見ると、サラが押し返したベアーをボコボコにしていた。

槍の連撃を、巨体が頭を抱えるようにして縮こまって耐えている様は、見ていて哀れに思う。

ウーズスタンによる『強酸』の効果でベアーの皮膚のあちこちから煙が上がっている。

毛皮は禿げ、皮膚が爛れて、周囲に不快な匂いが漂う。


「でやあぁ!」


気合いと共に槍を顎下から脳天に突き抜けるように突き入れると、その部分を中心にベアーの体が砕け散り、光の粒子となって消えた。


「少し急ごう。ダンジョンベアーの縄張りをさっさと抜けたい」


「だね。今は大丈夫でも、この先ずっとこんな調子で襲われたらたまらないよ」


ミカエルを始め、全員が俺の意見に賛同し、進む速度を上げる。

モニカだけじゃなく、全員に『スタミナタンク』をかけて持続力の向上を図る。


「ち、囲まれてるな……!」


行く道を塞ぐように、『サーチ』では輝点プリッツが俺達を包み込むように近付いて来ている。


「前進やめ! 一旦迎え撃つ!」


宣言して俺が足を止めると同時に、目の前の木々を薙ぎ倒し、五メートル程もある巨大なダンジョンベアーが姿を現す。

ダンジョンベアーの上位種族、メガベアーだ。

モンスターは敵を殺したりして魔力をその身に溜め込む事で進化するからな。

群れの中にはこういう強力な個体が居てもおかしくない。


総合的なステータスで言えばドラゴンとほぼ同じ。

火を吹いたり、空を飛んだり、という特殊能力がある分ドラゴンの方が強いか。

けれど、基本的に単体か、多くても番でしか行動しないドラゴンと違い、メガベアーは他の群れと行動を共にする。

部下か子供か知らないが、ダンジョンベアーが次々と姿を現す。


「この辺り一帯がダンジョンベアーの縄張りみたいだな。これはちょっと厳しそうだ」


「どうする? 一旦帰る?」


「それも一つの手ではあると思うけれど、そうしたら次に行く気が起きるのはいつになるやら……」


まぁ、ハーピーの素材がどうしても欲しい訳じゃないから、それはそれで構わないんだけどさ。


「じゃあ仕方ないね。せめてハーピーの出現地点まではいこうか」


しかしミカエルはやる気を見せ、サラ、カタリナも臨戦態勢を取る。

好戦的? いや違うな。疲れでハイテンションになってるんだ。


まぁ、本当にヤバくなったら『テレポート』で逃げればいいんだから、行ける所まで行っても良いか。


「デカイのは俺がヤる。他は任せた!」


俺目がけて突進してくるメガベアーに向けて火竜槍を構え、そして、その進路上に『マジックマイン』を設置して爆発させる。

流石にダンジョンベアーより強力だな。突進の速度は落とさず、構わずに突っ込んで来る。

今度は顔面目がけて『インヴィジヴルジャベリン』を連打。


「これでも止まらないのかよ!」


四足歩行で走りながら、器用に右手を振り上げ、俺に飛び掛かるメガベアー。

うわ、迫力ヤベー。


しかし小足見てから昇竜余裕だぜ!


空中にあるメガベアーの真下から、光の槍が出現し、メガベアーを直撃する。

第四階位の自然魔法、『アースブラスト』だ。


大地の持つ魔力を凝縮して相手にぶつける魔法。その性質上、地面からしか放てないけれど、それはそれで奇襲にもってこいの魔法だ。


「グギュアァ!?」


空中で撃墜されて地面に落下するメガベアー。

うお、流石の質量。今地面が揺れたぞ。


倒れたままのメガベアーに『インヴィジヴルジャベリン』を五発同時に投擲。

命中したところへ突っ込み、程好い高さに下がっている鼻面目がけて槍を振り下ろす。


「グルゥウウゥゥ!」


流石に固い。けれど、鼻頭を抑えてメガベアーは顔を背けた。

よし、後は畳みかけるだけ!


顔を背けた方向から槍を横薙ぎに振るい、強引にこちらを向かせる。そこへ『インヴィジヴルジャベリン』を撃ち込み、怯んだところへ刺突の一撃。

喉に突き刺さったそれが止めとなって、メガベアーは魔石へと還る。


ふぅー、なんとかなったか。


さて皆は……。


「おう……」


振り返った俺は、目の前に広がる光景に思わず絶句した。

ダンジョンベアー達は、サラ達を囲んだ状態で動けなくなっている。

そしてその皮膚が、徐々に消失(・・)していっているんだ。


原因はエレンの後ろに浮かんでいる二体の存在だろう。

一体は黒い人影。男子トイレのピクトグラムのような姿をしているから人影と評したけれど、上下逆だったりするかもしれないし、そもそも上下とか左右とか前後とかの概念が無いかもしれないな。

もう一体は紫色の丸い肉団子。


『影の神の使徒』


『腐食の神の使徒』


なんてもの召喚してんだ? このエルフは。

ピクトグラムの方が影の神の使徒。ダンジョンベアーの影を縛り付けて動きを止めてるんだろう。

肉団子の方が腐食の神の使徒。ダンジョンベアーの肉体を、腐食させて風化させているんだ。


どう見ても邪神です。ありがとうございました。

実際こいつらの仕える神は、闇の神ヴェルの側に属していて、光の神側の神やその心棒者からは、出会ったら即殺すくらいに敵愾心を持たれてるからな。


まぁ、邪神で間違いじゃない。


なんか、エレンが『召喚士サモナー』を獲得する時に呼び出しただろう、亜神以上の存在が何か、聞くのが怖くなってきたよ。


ていうか、俺も時空の神の使徒なんだけれど、あいつらと同類になっちゃうのかー。


ダンジョンベアーの全てが魔石に還ると、二体の使徒も虚空へと消える。


「エレン、無茶をするなよ」


「いえ、私も旦那様のお役に立ちたいのです。いつまでもミカエル様やサラ様にばかりイイカッコ、もとい、守られている訳にはまいりません」


今ちょっと本音が漏れたな。

まぁ、純粋な戦闘だとステータスの高い二人が頼りにされがちだから、それに嫉妬しちゃったんだろうな。

ステータスで言えばカタリナも高いけれど、彼女は接近戦のスキルと技術を持ってないからな。

エレンからすると、自分と同じ守られている存在ってところなんだろう。


あ、いや、ひょっとしたらカタリナにも嫉妬したのかもしれない。

カタリナの役目は魔法での援護は勿論だけど、守って貰っている間に大技を準備しての一撃必殺だからな。

汎用性の高い戦の精霊(ヴァルキリー)はなくて、使い方の限られる神の使徒を召喚したのが良い証拠だ。


「頼りにしてるよ、エレン。けれど、皆同じ、俺の大事な人達だ。変な対抗心で無茶な事だけはしないでくれよ?」


「はい……」


言って俺が頭を撫でてやると、嬉しそうにはにかみ、エレンは頬を赤らめた。


「さっきはボクも左翼を守っていたんだけどなー?」


「わ、わたしも、右側で頑張りました!」


「魔法で援護させていただきましたわ」


「あー、私たちは遠慮しましょうか?」


「え? アタシ達もにゃでてもらおうぜ?」


あっという間に俺を取り囲み、それぞれ頭を突き出して来る。


「ああ、皆もよくやってくれているよ、ありがとうな」


そう言って俺は全員の頭を撫でてやった。




「縄張りが広かった理由はこいつか……」


それから暫く、メガベアーを隊長とした、ダンジョンベアーの小隊と何度か遭遇し、これを殲滅していた。

神の揺り籠が広いとは言え、ちょっとテリトリーの広範囲過ぎないか? と思っていた。

しかしそれ(・・)が姿を現した事で、俺の疑問は氷解した。


体長としてはメガベアーと同じ五メートル程。

ダンジョンベアーの灰色とも、メガベアーの赤色とも違う、藍色の体毛が特徴的だ。

纏う雰囲気は王者の風格。生涯敵無し。そんな歴戦の古強者然とした威圧感を放っている。


周囲には三体のメガベアーと、二十体を超えるダンジョンベアーの群れ。

そのメガベアーが、物理的には同じ体格なのに、小さく見える程の強烈な存在感。


その名はガメオベアー。


メガベアーの更に上。超位種と呼ばれる存在だ。

ランクとしてはユリアのヒーローゴブリンと同じ。

けれど、本来のヒーローゴブリンが戦士LV50相当なのに、対し、こいつは100でも足りるかどうか。


万の軍勢を繰り出して、数ヶ月、へたをすると数年がかりで討伐するような、災害だぞ。


『常識』の中にはコイツの存在は無かった。けれど、『常識』の中の伝承にはその存在が確認できた。


山の神の凶暴な部分が分離して具現化した存在だと言われてる。


「グルゥウウォォォォォオオオオオオオァァァアアアアア!!!」


そして王者から放たれた咆哮に、全員の動きが止まる。

そう、全員。

サラ達は勿論、ガメオベアーの周囲に居る、奴の配下まで。

見境無しか。まぁ、バインドシャウトってそういうスキルだしな。


「しかしチャンス!」


何とかレジストに成功した俺は、配下を蹴散らして(・・・・・)こちらへ突っ込んで来るガメオベアー目がけて魔法を放つ。


「『シューティングスター』!!」


俺の体内からMPがゴッソリ抜けていくのを感じた。ガメオベアーを指差した指先から、眩い光を放つ魔法の星が放たれ、文字通りの光速で飛翔し、ガメオベアーに直撃する。

そして爆発。周囲のベアーモンスターを魔力の衝撃波で吹き飛ばす。


世界魔法と自然魔法の両方を高いレベルで修めた者だけが使えるようになる真理魔法。

自然魔法と精霊魔法の両方を高いレベルで修めた者だけが使えるようになる天理魔法。

精霊魔法と世界魔法の両方を高いレベルで修めた者だけが使えるようりなる超理魔法。

そして。

真理魔法と天理魔法と超理魔法を極めた者だけが使えるようになる魔法。


神理魔法。


その第九階位の魔法だ。

威力は比類無い。というか、これ以上の魔法になると、天変地異レベルの魔法になるから、おいそれとは使えない。

もうそれは、魔法の攻撃力どうこうじゃない領域に入るからな。

隕石落としたり。地割れを作ったり。ブラックホールを出現させたり。

ちなみに『テレポート』もこの神理魔法だ。


そして消費MPも半端ない。消費MPなんと1000!


俺以外だと、エレン以外は使う事さえできない魔法だ。


むしろエレンが凄いな、改めて。


「グルルル……」


体中ボロボロで、あちこちから焦げ臭い匂いのする煙を立たせながらも、ガメオベアーは健在だった。

ダンジョンベアーなんかは余波だけで魔石に還ったっていうのに、タフだな。


俺は火竜槍を手に火竜の全身鎧を纏い、『ソウルアームズ』を発動させる。


「せいっ!」


グレイブと化した魔法の槍を振るう。


「グガァ!」


碌に動く事もできない状態のガメオベアーの顔面にグレイブを叩き込む。

今がチャンス。というか、今しかない。

だってガメオベアーの皮膚、少しずつ再生してきてるんだぜ?

放っておいたら回復されてしまう。


動けるようになる前に殺しきる!


そして何度目かの一撃で、ガメオベアーがその強さに相応しい、巨大な魔石へと変わる。


「ふぅ……」


それを見て俺は一息吐いた。

そして顔を上げる。その先には、『シューティングスター』の余波から立ち直りつつあるメガベアー達。

こいつらの再生力もパねぇな……。


「行けるか?」


その呟きは自分に対してじゃない。


「はい、お任せください」


「ご迷惑をおかけしましたわ」


「タクマ君は休んでいてよ」


そして、俺の奴隷三人が、俺との絆の証、『エンゲージリンク』を纏ってメガベアーへと向かって行った。


モニカ、エレン、三人を羨ましそうに見ながら首を撫でるのやめなさい。


ガメオベアーはガメオベアーで合っています。

オメガの誤字ではありません。

次回も神の揺り籠での話。

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― 新着の感想 ―
ガメオベラ(GAMEOVER)?
[良い点] いつも楽しみにさせていただいております。 完結までどうか頑張って下さい [気になる点] 心棒者ではなく信望者では? マイクロソフト系のブラウザの予測変換だとなりがちですが
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