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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第一章:異世界生活開始
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第8話:小鬼の群れと油断

盗賊達に続き、再び戦闘です。

そして再びグロ描写があります。

ちなみに後始末というのは所謂剥ぎ取りの事だ。

死体なんかは基本そのまま放置。

賞金首とかならその首を切り取り持ち運ぶ事もあるらしいけど。


誰もそれを言い出さないところを見ると、レベルは高くとも有名な盗賊ではなかったらしい。


パーティなら剥ぎ取りは基本パーティ共有だけど、今回のような個人が集まっただけの集団の場合、止めを刺した相手が自分の獲物になる。


という訳で俺は最初に倒した高LV盗賊と弓使い、それと暗殺者だ。

弓使いは遠いけど、矢を回収したい。

いや俺が使った奴じゃなくて、相手が持ってるだろうそれな。


弓使いが持っていた鉄の矢は十四本だった。

暗殺者からはシミター(物理攻撃力12)を回収。

ショートソードは佩刀目的だからな。無料でより高性能な近接武器が手に入ったのならそちらに替えるのに問題はない。


あまり強力なものとか、珍しい魔法の武器とかだとちょっとためらうけど。


「お……!」


高LVの盗賊の懐からは魔石が二つ出て来た。

一つはゴブリンの魔石。


うん。いるんだよ、ゴブリン。

あんまり迷宮では出ない。屋外の魔力溜まりや始祖迷宮から溢れる魔力を受けて自動出現するモンスターだ。

現代日本のイメージ通り、雑魚モンスター。


ただ売却額は5デュー。

ステータス的には山羊小鬼の方が強いが、あちらはシュブニグラス迷宮に行けば幾らでも遭遇できるのに対し、ゴブリンは集落の場所でも知っていない限り、遭遇するかどうかはかなり運に頼る事になるからだ。


どこにでも出るけどどこにもいない。

それがゴブリンなのである。


とは言え、ゴブリンの魔石自体は驚くほど珍しいものではない。

運任せとは言っても、迷宮の周りでウロウロいていたら、一日に一体くらいは遭遇できるだろうからだ。


おれが思わず声を上げたのはもう一つの魔石のせいだ。


リザードマンの魔石。


溜める程珍しいモンスターではないように思えるだろう。この世界でもかなりメジャーなモンスターだ。


でもこの魔石、一個四十デューで売却できる。

ゴブリンの八倍。山羊小鬼に至っては二十倍だ。


何故こんなに高いのかと言うと、リザードマンが基本的に強いからだ。


総合的なステータスはLV20くらいの『戦士ファイター』並。

群れを作って生活しているし、様々な武器を使う器用さと知能も持つ。

おまけに生息地域が川や湿地帯の近くなので、おのずと戦場も似たような場所になる。


リザードマンと戦えるくらいの冒険者なら大体装備も整っている。

金属の具足で身を固めた人間が水場で戦うとなると、かなりのペナルティを受ける事になる訳だ。


大規模なリザードマンの集落が発見されて、大人数で壊滅させるのでもない限り、積極的にリザードマンを狩る冒険者はいない。


だから流通が少なく、価格も高くなる。


「リザードマンの魔石か。俺も初めて見るよ」


近づいて来たソードがそう言って俺の肩を叩く。


「こっちはあまり良いのは無かったな。まぁ、装備も売ればいくらかにはなるけどな」


そう言ったソードは槍を背中に背負っている。

あれは普通の鉄の槍だ。。

それでも売却価格は十デューくらいにはなる筈。単純計算、山羊小鬼五匹分だ。

やっぱり護衛クエストって結構実入り良いよなぁ。

まぁ、魔石にはレア素材っていう宝くじがついてるけど。


流石に鎧なんかはかさばるので持って行けない。

良いものやレアな魔法の防具なんかならこの場で取り換えていくこともあるけどな。


メイスやワンハンド、エストックもそれぞれ倒した盗賊の武器を抱えている。

そういやランスだけ何もなしだ。。

そう思って目線を向けると、彼は口元を歪めて肩を竦めた。

おお、なんかカッコイイな。


その後は夜まで馬車を走らせ、川の近くで野営。

俺達護衛は薪を囲んで交代で見張りをする。


俺はメイスと一緒だった。

特にどちらも喋らず、時間まで周囲を警戒していた。


メイスは時折俺の方をチラチラ見ていた。

どうやら、俺と話したいらしいが彼もそれほどコミュニケーションに長けている訳ではないらしい。

巡礼者だからな。特別コミュスキルが高くなくても問題無く旅を続けられるのかもしれない。


俺は俺で一人でいる事には慣れていた。なんせ十二年もヒキコモリだったのだ。

数時間会話が無い程度、なんの問題も無い。

やる事がないならともかく、『サーチ』で周囲の状況探っているだけでも結構時間は潰せる。

大抵は鳥や獣の反応を見ていただけだけどな。

野生の動物の動きって意外と面白いわー。



「ゴブリンだ!」


次の日。昨日と同じように昼食を摂っている最中に襲撃があった。

今度はゴブリン。

緑色の肌をした、一メートルくらいの身長のモンスター。

髪の無い頭に尖った耳。だんご鼻。口元から覗いた鋭く伸びた二本の牙。

およそゴブリンと言われて思いつく姿形をしている。


それが十体程。

装備は腰ミノと棍棒。

しかしそれらに混じって錆びてはいるが、金属製の剣を装備した奴が三体居た。

赤い髪の生えたゴブリン、レッドキャップだ。


地球で言えばレッドキャップは、イギリスのおとぎ話に登場する、悪妖精の事だが、こちらではゴブリンの亜種として伝えられている。

強さとしてはゴブリンとその強化版であるホブゴブリンの間くらい。

ちなみに、ゴブリンが進化してホブゴブリンになるような事はないらしい。

『常識』によると、だが。

ゴブリンもホブゴブリンも、この世界に満ちる魔力によって虚空から突然出現する存在であるから、魔力さえ与えてやれば、姿形なんて幾らでも変えられるような気はする。


ゴブリン自体の強さはそれほどでもないが、戦う力を持たない一般人からすれば十分脅威だ。

今回も俺が『サニティ』を乗客にかけながら馬車への避難を促す事になった。


近くの茂みに潜んでいたため、距離が元々近かった。

そのせいもあって、俺が乗客の避難誘導をしている間に、ソードとエストックとランスが既に接敵していた。

昨日後詰に回ったエストックとランスをまず前に出す事で、稼ぐ機会を均等にしようというソードの考えだった。

ソードも一緒なのは、彼は攻撃一辺倒で周辺警備には向かないからだ。

つくづく、護衛クエストには向いてない能力である。


馬車を挟んで反対側を警戒するのはメイスとワンハンド。

俺も乗客の避難を終えたら戦闘に加わるつもりだった。


「おや……?」


モンスターの様子が……。

既にゴブリン五体とレッドキャップ一体が倒されている。

残ったゴブリン二体とレッドキャップ二体も、その実力の違いを目の当たりにしてか、飛び出してきた時のような積極性は見せなかった。


凶暴で攻撃的な性格をしている彼らがそのような姿勢を見せる事に俺は違和感を覚えた。

臆病風に吹かれたのなら一目散に逃げる筈だ。

三人と距離を取り、隙を伺うような動きをするなんて有り得ない。


ソード達もそれは感じたようで、迂闊に切り込まずゴブリン達と同じように隙を伺っていた。


「ギャギャッ!!」


暫くして、ゴブリン二体が二体共ソードめがけて飛び掛かって来た。


「ふっ!」


棍棒が振り下ろされるより先にソードが大剣を振るう。

一撃で一体の頭が割られ、青い血と中身が飛び散る。

続いて、刃を返して横薙ぎ。もう一体のゴブリンも空中で体を両断された。


うーん、青い血がリアリティを薄めてくれているとは言え、臓物が空中に撒き散らされる絵面ってのは結構クるな……。

『常識』が無かったら間違いなく吐いてただろうな。


隙を突いたつもりだったのか、レッドキャップ二体も下からソードに切り掛かっていた。

しかしソードは慌てず、素早くレッドキャップの方に向き直り……。


どこからか飛んで来た火炎に頭を焼かれた。


「えっ……?」


それは誰が漏らした言葉だっただろうか?

俺かもしれないしエストックかもしれない。


だがそのくらい、その時は状況が理解できなかった。


見事な剣技でゴブリン二体を瞬殺したソードの首から上が、突然吹き飛んだのだから。


「メイジか!」


すぐに我に返って俺は叫んだ。


「っ!」


俺の声に同じく我に返ったらしいエストックが、びくり、と一つ体を震わせて、自分に標的を変えたレッドキャップに剣を向けた。


油断してた! 『サーチ』に数は記されていたんだから、最初に察知した数と、実際に襲って来た数が合わない事にも気付けた筈なのに。

二桁の敵を見て、いちいち数えるのを放棄したのは間違いなく俺の怠慢だ。


俺のせいでソードは死んだようなものだ。


「…………!!」


く、『常識』があってもこれは結構クるな……。

まぁ、自分のミスで仲間を死なせる事が、冒険者たちの常識として、よくある事だとしても、だから大丈夫、とはならないわな。


そして十年以上ヒキコモリだった俺に、このミスはかなりの精神的ダメージとなった。


ステータスを確認するまでもない。間違いなく自分の状態は『混乱』だろう。


すぐに心の中で『サニティ』を唱えて平静に戻し、弓を構えて矢を番える。

ゴブリン達が出て来た茂みに向けて狙いをつけ、放つ。

風を切り裂き飛んだ矢が瞬く間に茂みに到達すると。


「グギャッ!!」


そんな悲鳴が上がり、一体のゴブリンがよろよろとした足取りで茂みから姿を現した。胸に矢が深々と突き刺さっている。


姿形は完全にただのゴブリンだ。装備も腰ミノと棍棒だし。

だけど『アナライズ』で見れば一目瞭然。

そいつは魔法を使えるゴブリン、ゴブリンメイジだ。


これだけ姿が似ているのにゴブリンとゴブリンメイジを、『アナライズ』が使えない他の人間はどうやって判断するのか、と言うと、実際戦ってみるまでわからないのだそうだ。


一応一部の職業には『魔物鑑定』のような、『アナライズ』の限定版みたいなスキルがあるが、基本的には、戦ってみて、魔法を使って来たらゴブリンメイジ、と判断するらしい。

あと、倒した時に出現する魔石も、ゴブリンメイジの魔石だからな。


痛みに喘いで、魔法を使う事を忘れたメイジに更にもう一発撃ち込む。


「グギャァ……」


額に矢を受けたメイジは、そんな断末魔の悲鳴を残してその場に倒れ伏した。


つくづく、自分が嫌になる……。


魔法を使える点を覗けば、ステータスはゴブリンと大差ないゴブリンメイジだ。

俺がきちんと『サーチ』で確認しておけば、ソードは死なずにすんだ……。


俺がメイジを倒している間に、エストックとランスがレッドキャップを倒していた。


襲って来たモンスターは全滅した。しかし、俺達はそれを喜ぶ気にはなれなかった。

俺は無言で茂みに近付き、その場に落ちているゴブリンメイジの魔石を拾う。


エストック達も、倒したゴブリンとレッドキャップの魔石を拾っていた。


俺が戻って来ると、護衛の冒険者達がソードの死体の傍に佇んでいた。


彼の死を悼んでいる、訳ではない。

そういう気持ちもあるかもしれないが、彼らの目的は別にある。

俺はそれを責める事はしない。それがこの世界の当たり前だからだ。


俺を待っていた理由はわからなかったけれど、俺が取るべき行動はわかっていたので、そのままソードに近付き、彼が手にしていた大剣を拾う。鞘も外して俺の腰に取り付けた。


するとエストック、ランス、メイス、ワンハンドの順に、ソードが身に着けていたものを一つずつ取っていく。


これは冒険者が浅ましい訳ではなく、旅の途中で仲間が死んだ場合、遺品を一つ自分のものとする風習があるためだ。

自分のものにする、と言っても後生大事に形見として持っている訳ではなく、基本的にはすぐに売り払われる事になるだろうけどな。


俺が理解できなかったのは、何故俺が最初なのか? という事だった。


暗黙の了解で、死んだ人間と親しい者から遺留品を選ぶ事になっているからだ。

今回の戦闘で死んだのだから、普通は今回彼と共に戦った者、エストックかランスが先だろう。

実際俺の後はそのような順番になっていたようだし。


特に話し合っていた様子も無かったので、何も言わずに彼らは自然と、俺が最初に遺留品を選ぶべきだ、と結論づけた事になる。


それが解せなかった。


ブロードソード(物理攻撃力25)


何の変哲もない肉厚で幅が広いだけの大剣だ。

そう言えば、結局なんで彼がパーティを組まずに冒険者をしているのか聞けずじまいだったな……。


死体はそのまま野ざらしが基本。

魔力溜まりやダンジョンの近くだと魔力を浴びてアンデッド化してしまう可能性もあるが、ここならそれより先に野生の獣に食われるだろう。


ひどい話だが、これがこの世界の『常識』だ。

火葬にするのはこの世界だと逆に非人道的だし、一人で穴を掘って埋葬するのも気が引けた。


人としてソードを弔ってやりたいという気持ちより、周りから変な目で見られたくないという気持ちの方が勝ってしまったのだ……。


自己嫌悪に陥るには十分な思考だろう。

ステータスで確認すれば一目瞭然。俺の状態は『消沈(重度)』だった。

メンタル弱いな、俺……。


俺達が無言で馬車に乗り込むと、二台の馬車はゆっくりと走り出した。


馬車の中は沈黙で支配されていた。

ソードの明るく、爽やかな話声が、たった二日の事だってのに、懐かしく思えた。


仲間の死。それも自分のミスで。

初めての人殺しと並んで、この手の転生モノでは避けて通れないイベントですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「俺がきちんと『サーチ』で確認しておけば、ソードは死なずにすんだ……。」 きちんとサーチで確認していなかった、と言う状況があまり分からないな。命が掛かっているのにきちんと確認しないの? …
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