プロローグ
改めて初めまして。
投稿を再開するにあたって新シリーズを立ち上げました。
心機一転頑張っていきますので、どうぞ応援のほど、よろしくお願いいたします。
異世界転生ものです。
暫く句点が無い文が続きます。順次修正予定です。
俺の名前は佐伯琢磨。
ヒキコモリ歴12年のニートである。
中学までは良かった。
勉強もできたし運動もできた。
仲の良い友達もいて、それなりにモテた。
小学校の時に近所の女子との仲をからかわれたせいで誰かと付き合う事には抵抗があったから、彼女はいなかったけれどな。
人気者であったのは間違いない。
周囲から尊敬され、称賛されるのが快感だった。
だから高校は無理してレベルの高い所へいった。
進学先を告げた時の周りの驚愕が気持ちよかった。
合格した時の周囲の称賛が心地よかった。
うちの中学からは誰もその高校へいかなかった。
俺以外では、いくことができなかった。
そう。
その高校に俺の知り合いは一人もいなかった。
自分では社交的な方だと思っていた。
しかし違った。
俺の周囲にいたのは幼稚園、小学校から一緒にいた奴らばかり。
中学で知り合った人間も、俺のコミュニティに向こうから寄ってきたんだ。
つまり俺は――
自分から知り合いを作る方法を知らなかったんだ。
空気など読まずに、勢いだけで友達になれた幼少期と違って、思春期真っ只中で若干中二病も患っていた当時の俺にとって、知らない人間に声をかけるのはハードルが高かった。
しかもその目的が友人になる事であれば尚更だ。
俺はかっこつけたかったんだ。
周囲からカッコイイと思われたかったんだ。
友達がいないボッチが、周囲に話しかけて必死に仲良くなろうとする様を滑稽だと思ってしまっていたんだ。
そもそもなんて話かければ良かった?
俺の周囲にいたのは昔から一緒の奴らだったんだぜ?
趣味も嗜好も何もかもわかっていたんだ。
知らない人間と友達になるのにどうやって話しかければいいか、当時の俺にはわからなかったんだ。
今もわからないけどな。
県内でも有数の進学校だったから、勉強の事でも話題にすればよかったのかもしれない。
けれど、県内有数の進学校だったから、授業のレベルは非常に高かった。
公立の中学でトップレベル程度の学力では太刀打ちでない程にな。
赤点こそ取らなかったが、最初の中間テストで俺は下から三番目の成績だった。
一番下には既に不登校になっていた奴。二番目はスポーツ推薦の特待生。
つまり実質俺の成績はクラスで最下位だった。
そんな奴が勉強の事でなんて話しかける?
「勉強でわからない事があるんだけど?」←先生に聞けよ。
「テストの結果どうだった?」←聞き返された時に恥かくぞ。
「テスト順位見たぜ。すげーじゃん」←お前がダメすぎるだけだろ。
そんな死にたくなるようなシミュレーションを繰り返しては、俺は一人で過ごしていたのだ。
学校が楽しくなくなったのは言うまでもない。
不謹慎と思うかもしれないが、俺が小学校、中学と楽しく学校へ行けていたのは、周りに仲の良い友人達がいたからだ。
授業なんて二の次だったんだ。
褒められたいから勉強も運動も頑張った。
叱られたくないからサボったりなんてしなかった。
けれど高校では……。
まぁ、なるよね。ヒキコモリ。
学校を休みがちになり、不登校になり、そしてヒキコモリになった。
父は何も言わなかった。
別の学校で教職についていたから、明るみに出たら体面が悪いとでも思ったのかもしれない。
母も何も言わなかった。
家事をやりつつ、一日4時間、週四日のパートで働く普通の主婦。
やや遅い反抗期を迎えたとでも思ったのかもしれない。
順調な人生を歩んできた両親にとって、高校を中退しヒキコモリニートになるという事が、人生にどれだけ悪影響を与えるかわからなかったんだろう。
わかっていたなら、力づくでも俺を引きずり出していた筈だ。
一年生の冬に高校を中退し、一日中部屋の中で過ごすようになった。
ネットを眺めながらDVDを鑑賞し、漫画を読んでラノベを読んでエロゲーして寝る。
そんな生活を五年ほど繰り返したある日、異変が起きた。
母が、壊れた。
パートで稼いだお金を全てある新興宗教に寄付するようになった。
俺の部屋の前で説法をするようになった。
説教ではなく、説法。
意味的には同じであるし、説法は元々仏教用語らしいが、まぁ、ニュアンスはわかってもらえると思う。
毎日2時間、その宗教の成り立ちとか理念とか神様の体系とかを俺の部屋の前で延々と語り続けた。
お蔭である程度用語を覚えてしまった。
一度宗教名と神様の名前で検索してみた。
結果は1件。
世界最大の宗教の検索数は百万件を超えるらしい。
比べる事が間違いだとは思うが、いくらんでも少なすぎる。
その宗教の公式サイトしか検索に引っかからないって、逆に異常だろ。
そんな怪しい宗教に全財産を捧げる母の行動に父は何も言わなかった。
元々生活費は父が管理していたらしかったから、母が捧げる財産は自分がパートで稼いだ金だけだったからだろう。
それと――
母が壊れた理由がわかっていたからかもしれない。
俺がひきこもって5年。キリが良いと言えば良いが、何故5年も経って? という疑問も湧く。
5年かけてゆっくりと壊れた、という可能性もあるが、それは原因の一つではあっても、直接的な理由ではないだろう。
おそらくは、妹が死んだからだ。
俺には六つ離れた妹がいた。
中学時代までは自慢の兄だった俺が、突然没落してしまっても、まったく態度を変えなかったできた妹。
ひょっとしたら内心では蔑んでいたのかもしれないけれど、少なくとも、俺に感じさせない程度には隠していた。
俺がわからなかったのだから、俺にとって妹は優しいイイコだった。
その妹が死んだ。
交通事故だ。
交差点で信号待ちをしていた妹はスピードの出しすぎで右折しきれず歩道に飛び込んできた車に轢かれて死んだ。
息子は5年間ヒキコモリ。
娘は事故で亡くなった。
母が壊れるには、十分だった。
俺がヒキコモリ、妹が死に、母が壊れて7年。
俺がヒキコモリニートになって12年目。
それは起こった。
いつものようにDVDを鑑賞しながらネットを覗いていると、部屋の扉の前に誰かが立つ気配がした。
「もうそんな時間か」
時計を見て俺は呟く。
母が俺に説法をする時間だ。毎日きっかり午後六時。
これから二時間、知りたくもない宗教の話を聞かされる。
いつもの時間。
「―――――――――」
だがこの日は何か違っていた。
母の口から紡がれる言葉が、いつもと違っていた。
「天の杯雨の道枝の端と葉の流れ隣なす大地にて座す姫の言の葉……」
ええー!? 呪文!? 呪文の詠唱!?
いや、お経って考えるのが普通か。
え? でもなんで?
なんで今日に限って?
混乱している俺に母が答える筈もなく、何かの詠唱は続く。
「我が意我が言に応じられんことを……」
だん、と扉の向こうから大きな音が響いた。
恐怖と混乱で固まっていた俺は、その音に驚き、思わず首を竦めてしまう。
「え……?」
すると、俺の目の前の床が突然光り始めた。
大きな円が一つ。そのすぐ内側にもう一つ光の円が浮かぶ。
二つの円の中には幾何学的な模様が輝き、円の中心には、三つの五角形が頂点を別にして重なって浮かび上がった。
え? これもしかして、魔法陣?
マジで呪文の詠唱だったの!? ていうか母よ、あなたは何をしているんだ!?
そしてゆっくりと、光の中から人が浮かんでくる。
輝く長い銀髪をたなびかせるその姿に、俺は見覚えがあった。
俺の記憶が確かなら、今魔法陣から出てこようとしている神秘的な美女の名前はフェルディアル。
母がハマっている新興宗教の女神の名前だ。
公式サイトのトップページにもその姿絵が掲載されていた。
萌え絵が掲載されている時には、新興宗教も信者獲得にはそっちへ媚びを売らなければならないのか、と複雑な気持ちになった。
瞳を閉じて柔らかな笑みを浮かべたフェルディアルが完全に姿を現す。
白を基調としたいかにも高級そうな仕立ての服。
日本、というかアジアンテイストな雰囲気だ。
エアコンもついてない室内で自ら光を放つ服の裾がひらひらと揺れている。
……浮いてるな。
まぁ、床に浮かんだ魔法陣から、ゆっくりと浮かび上がってきたのだから、宙に浮いているのは当然なのだけど。
ふわり、とフェルディアルが床に降り立つと、地面の輝きが収まり魔法陣が消える。
そしてフェルディアルがゆっくりと瞼を開く。
金色の瞳がその奥にあった。
「初めまして、佐伯琢磨さん」
フェルディアルがそう言って俺に挨拶をする。ローブの裾をつまんで軽く持ち上げ、優雅に一礼してみせた。
一挙手一投足から気品が溢れ、その姿は完成された一枚絵のようだった。
神様ぱねぇ……。
「私の名前はフェルディアル。宗教団体『天の杯』にて信仰の対象になっている神です」
鈴の音が鳴るような、ってのはこういう声を言うんだろうか。
それなりにオタクである自負のある俺だが、実はあまり声優さんって興味なかったんだよな。
声がいいかどうかより、キャラにあっているかとか、演技ができているかが重要だと思っているから。
そういう意味では初めてかもしれない。
この声をいつまでも聞いていたいと思ったのは。
「琢磨さんの御母堂の呼び掛けに応えこの度現界しました。彼女の願いを叶えるために」
やっぱり母さんのあの謎の呪文で呼び出されたのか。
マジ何やってんだよ、母さん!?
教団でそういう修行でもしてたのか!?
けどそう考えると、ちゃんとこうして女神を呼び出せるって事は、件の団体は本物って事なのか?
いや、宗教団体なんて、例え世界的に有名な教団でも、心底から信じてないけどさ。
でも、日本人なんてそんなもんだろ。
戒めっていうか、道徳や倫理を教えるためのもんじゃん。日本人にとっての宗教なんてさ。
「あなたには、真人間になっていただきます」
読了感謝します。