表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
98/265

4-11.

 前話あらすじ

 正面から大ホールに入っていったウェスターたちとは違い左側の扉から中に入る彰弘とオーリ。

 その中で彰弘は世界融合前の同僚である須藤に遭遇するも、それを気にも留めずに斬撃を振るう。

 やがて彰弘たちと野盗の戦いは、野盗のほぼ全滅という形で終わりを向かえたのであった。





 近付いてきたウェスターとオーリの二人は、彰弘が怪我などをしていないことを確認すると、すぐさま捕らえられていた元日本人がいる場所へと戻っていった。

 捕らえられていた人たちに今の状況を説明する必要があるし、今は大人しくルナルたちに取り押さえられている野盗たちをしっかりと拘束する必要もあった。特に後者はいつまでも静かなままでいる保障はどこにもないのだから、早急な対応が必要だ。

 なお、彰弘は説明にも拘束にも参加しないでいた。

 説明はウェスターが、拘束はオーリたちだけで事足りるということもあるが、最大の理由は捕らえられていた人たちが持った、彰弘への恐怖がある。

 彰弘は大ホールに現れるや否や野盗の一人を両断。その後に元日本人である自身の同僚だったという男を躊躇なく殴り飛ばし浅くない怪我を負わせた。更には、ほとんど抵抗のない野盗たちを有無を言わさず殺害したのである。野盗に捕らわれていた人たちが彼に強い恐怖を感じたのは仕方ないことであった。

 実のところ彰弘に向けられたのは恐怖だけではない。子供に見せるべきではない惨劇といえる光景を見せたことによる、子供の親たちから向けられる非難も少なからず存在していた。

 このような理由から彰弘は、その場から動かずにいたのである。









 ウェスターが元日本人の捕らわれていた人たちに現状を説明する姿や、オーリたちが野盗を拘束する姿を見つつ、彰弘はため息を一つ吐き出した。

 既に終わったことではあるが、捕らわれていた人から向けられている恐怖と非難の視線は、子供たちの目の前で野盗を殺害したこと、また世界融合前の会社の同僚であった須藤にとった行動の二つについて、彰弘に考える材料を与えていたのである。

 なお、須藤のことはともかく、野盗を殺すところを子供に見せてしまったことについては、今現在はグラスウェル魔法学園に通う六花たちとの関係が影響していた。

 彰弘は世界の融合から半年近く六花たち四人の少女とほぼ毎日を一緒に過ごしている。その少女たちは魔物を自分で狩ることもできるし、倒した魔物を解体することもできた。そして人を殺すこともできる。そんな四人と過ごしていた彰弘だったから、彼が起こす行動の基準にはいつの間にか少女たちがいた。つまり、普通の子供に対する配慮というものが欠けてしまっていたのである。

 ともあれ、今現在の状況を見れば彰弘の選択は間違っていたとは言えない。捕らわれていた人たちの心情は間違っているわけではないが、彼にそれを向けることは必ずしも正しいといえるものではなかった。

「ため息ですか」

 大ホールに備え付けられた椅子に座り魔石から魔力を補充していた彰弘は、そう声をかけてくるウェスターに顔を向ける。

「後悔はしていないが、子供に人を殺すところを見せてしまったからな。少し反省してた。ところで、どうしたんだ? 厳しい顔してるが」

 その彰弘の問いかけに、ウェスターは一つ頷くと口を開いた。

「とりあえず、捕らわれていた人たちへの説明と野盗たちの拘束は終わりました。それで、野盗に他の仲間はいないかと問い質したのですが……。とりあえず、他に野盗はいないそうです。ですが……」

「ですが?」

「この緞帳の向こう側に、女性が二人ほど捕らえられているそうです」

 彰弘は首を傾げる。

 他に野盗がいないのは朗報と言えるだろう。捕らわれた人がいる場所を知れたのも朗報と言える。だが、これだけならウェスターが厳しい顔をする必要はない。

 少しの間を空け、彰弘は思いついたことを口にした。

「まさか、性処理か?」

「半分正解です。その女性たちは意味の分からない言葉を喋り、こちらの言葉を理解しなかったらしいです」

「今の状況でそれが来るのかよ」

 ウェスターの言葉に彰弘は天井を仰いだ。

 今の世界で言葉による疎通ができないのは、悪意を持って他国に残留していた者たちだけである。世界の融合前に声帯を失い声を出せなかった人も、脳の障害によりまともな発言ができなかった人も、今現在は神の恩恵により言葉だけは話すこともできるし理解できるようになっていた。

「正直に言って、まだ野盗の残りがいる方が心情的に楽です」

 ウェスターも彰弘と同じ意見を持っているようであった。

 世界が融合して半年以上。各街で過ごしていれば、緞帳の向こう側に捕らわれている二人が討伐対象であることを理解できるであろう。しかし、ここに捕らわれていた元日本人のように、偶然の幸運も重なり何とか生き延びていた人たちは、今の世界の常識というものに疎い。討伐対象だからといって、この場で始末した場合に、どのように説明すべきか、非常に頭の痛くなる問題であった。

「ともかく、まずは見に行こうか。でなけりゃ始まらない」

「そうですね。真偽を確認するために、私も行きます」

「ああ。俺だけが行って対処したとしても、多分あの人たちは欠片も信じないだろからな」

 彰弘は未だ恐怖に非難の色を乗せた視線を向けてくる、助け出された人たちを一瞥をくれる。

「それについては、すみません。もっとやりようはあったと思うんですが」

「まあ、いいさ。じゃあ、行こうか」

 彰弘は椅子から立ち上がると舞台へと向かって歩き出した。

 ウェスターもその後を追う。

 その後、舞台に上がり緞帳の端からその向こう側へ入った二人の目に映ったのは、事前の想像通りの光景であった。









 舞台の中央付近には二本の杭が無理矢理に突き立てられており、そこからはそれぞれ鎖が伸びていた。そして、その鎖の先には一糸纏わぬ二人の女が横たわっている。野盗に汚されたままの姿の女たちは、生きている証拠に呼吸に合わせて身体が動いていた。

「酷いな。……東洋系。年は……二十前後と後半か」

「討伐対象でも、そうでなくても最悪です」

「同感だ」

 討伐対象だった場合、この場で殺すか街まで連れて帰り衛兵に引き渡して処分してもらうことになる。どちらを選択したとしても、罪に問われたり非難されることはないが、後味が悪いことだけは確かだ。

 仮に討伐対象でなかった場合は、保護し連れ帰り肉体と精神を癒すための施設に入れることになる。勿論、本人たちが何とも思っていない場合は施設に入ることはないが、どちらにしても気分が良いものではない。

「ウェスター。あまり時間をかけると同情してしまいそうだ。確認を頼む」

「ええ」

 彰弘の言葉にウェスターは頷くと、腰の後ろに下げた物入れから一枚の布を取り出した。それは、白地に赤色の円が描かれたライズサンク皇国の国旗である。

 悪意を持ち他国に残った者たちは、言語を理解できないことに加えて、その残った国の国旗に異常なまでの敵意を示すことが特徴だ。そのため、現在では大抵の冒険者がその確認を行うために、防壁の外へ出るときには国旗を持ち歩くようにしていた。

 ちなみに彰弘もマジックバングルの中にライズサンク皇国の国旗を入れている。

「二人とも私の声が聞こえますか? 返事をしてください」

 ウェスターはまず相手がどのように声を返してくるのかを確認することにした。

 国旗を見せればいいだけであるのだが、可能な限りの精度で判別をするためだ。

 ウェスターと彰弘の二人は、横たわる二人の女を見つめる。

「聞こえていたら返事をしてください!」

 反応がない女たちに再びウェスターが声をかけた。

 すると年が上に見える女の方が顔を上げ何事か呟く。

 それから少しして、もう一人の方も顔を上げた。

「助けにきました。私の言っていることが分かりますか?」

 一つ前の自分の声に反応した女の声は小さすぎて聞き取れなかったために、再度の問いかけをウェスターはしたのである。

 ややあって、先に顔を上げた女が口を開く。しかし、そこから流れ出たのは意味不明の雑音のごとき言葉であった。

「ウェスター、最終確認を」

 感情を殺したような声を彰弘が出す。

 彰弘は武器を抜いてはいないが、活性化させた魔力を体内で循環させ始めていた。彼の中で目の前で野盗に汚された女二人は討伐対象と確定したのである。

 その様子にウェスターは取り出し手に持っていた国旗を広げ、上半身を手で支えるようにして起こした二人の女に見せた。

 女二人の反応は一目瞭然だ。激しく鎖を打ち鳴らし国旗を持つウェスターに飛びかかろうとする。しかし、当然ながら鎖で繋がれているため、その身体が彼に届くことはい。

「ウェスター」

 静かな声が彰弘の口から漏れる。

 それに対するウェスターの声も静かなものであった。

「はい……確定です」

 その瞬間、彰弘の足元が爆ぜた。そしてそのすぐ後、二つの頭が舞台の上に転がる。

 魔力の循環を止め、『血喰い(ブラッディイート)』を鞘に戻した彰弘は横たわる真新しい死体を見て、「分かっていても嫌なもんだ」、そう呟いた。









 舞台から降りた彰弘とウェスターは二人揃って、どうなったのかという目を向けてくる人たちのいる場所へと歩みを進める。

 今回は彰弘も一緒だ。緞帳の向こうで何があったのかを説明するため、そして理解させるために必要だったのである。

 ランクE昇格試験のメンバーと、その試験管。捕らわれていた人たち、そして拘束された野盗の前まで来たウェスターは何があったのかを説明するために口を開いた。

「緞帳の向こうにいたのは討伐対象者でした。従って、その場で処分を実行しました」

 苦渋の顔で話された内容に、その場の面々は沈黙をする。

 ウェスターのパーティーメンバーは、当然討伐対象の意味を理解していた。そのため、相手の性別が女であると知ってはいたが、キリトでさえも意見を述べることはない。

 今回のランクE昇格試験の試験官であるタリクも同様だ。

 拘束された野盗は驚いたが、ウェスターに続いて彰弘の顔を見たところで納得を顔に表す。自分たちを討伐に来た冒険者たちと違い、野盗二人は緞帳の向こう側にいたのは、まだ若い女だと知っていたから、即殺すことはないのではないかと思っていた。しかし、彰弘が自分たちにとった行動を思い返し、彼なら殺してもおかしくはないと納得したのである。

 残るは助け出された元日本人の人たちであるが、ウェスターの言葉の意味を捉えかねていた。討伐対象者もそうだが、その処分が何を意味するかが分からなかったのである。

 しかし、少しの考える時間があり、やがて気付く。

「あの緞帳の向こうにいたのは、まだ若い女性二人です。処分とは……もしかして、殺したということですか?」

 口を開いたのは三十代後半に見える男であった。

 その発言に、周りにいた元日本人の皆が騒がしくなる。

「そうです。あなたがたは知らないかもしれませんが、悪意を持って他国に残った者は全て討伐対象となります。これは野盗などよりも明確に排除すべき対象です。ですから処分しました」

「ちょっと! まだ若いかったのよ。それをすぐに殺すなんてありえない! もしかしたら、違うかもしれないでしょ! ちゃんと調べたの!?」

 男の問いに答えたウェスターへと、今度は三十代中ごろの女が喰いついた。

 ウェスターはその女に説明するために口を開こうとしたが、それは彰弘に止められる。

「ウェスター、多分埒が明かない」

 それだけ伝えると彰弘は前に進み出た。

「もしかしたらはありえない。あんたらはこれを見てどう思う?」

 そう言って彰弘が広げて見せたのはライズサンク皇国の国旗である日の丸だ。

 当然、元日本人には馴染み深いものではあるが、別段気にするようなものでも、見ただけで激昂するものではない。

「良かった。この中に討伐対象者は含まれていないようだな。ウェスターが言った悪意を持って他国に残った者たちはな、言葉を理解しないだけじゃなくて、その国の国旗を見ると異常な敵意を見せて襲い掛かってくるんだ。当然、舞台でもそれを試した」

 確認方法を示されて騒いでいた人たちが沈黙をした。

 しかし、すぐに先ほど声を荒げた女が声を上げる。

「だからといって、殺す必要はないでしょう! あなたに何の権利があるっていうの!?」

「いいか、よく聞けよ。今の世界での討伐対象者っていうのは処分されて当然なんだよ。それでも野盗とかならば捕らえて衛兵に引き渡しても、その後で奴隷として生きていけるが、あの舞台にいたような者たちは別だ。仮にここで死ななくても、衛兵に引き渡された直後に処分される。ついでに教えておこうか。事情を知った上で討伐対象者を匿った者も結構な罪に問われるぞ。特にあんたのような間違った意味で慈悲深い人は注意が必要だ」

「ふざけないで!」

「俺がふざけてるとでも思っているのか? いいか、討伐対象者については説明したし、その末路も教えた。そして、注意の言葉もかけた。これ以上、この場で余計なことを言うな。もし言うようなら殺しはしないが、拘束して衛兵に引き渡さなきゃならなくなる。頼むから不要な手間をかけさせないでくれ」

 彰弘の態度は話し始めてからここまで、一貫して真剣で本気であった。余計な感情を込めず、事実をそのまま伝えていたのである。決してふざけてなどいない。

 しかし、それでも声を上げた女には届いていないようで、その女は三度声を上げようとした。

 そんな女にとって幸いだったことは、周りにいた常識的な人たちがその発言を止めたことである。

 女の発言を止めたその人たちも彰弘の言葉に納得したわけではない。しかし、その態度から少なくとも嘘は言っていないと思えた。それに、現れてから今に至るまでの短い時間ではあったが、彼が言葉に出したことを実行するであろうことは容易く想像できる。だからこそ、半年近くを一緒に過ごした仲間といえる女が無意味に拘束されるのを防ぐために、その人たちは女の口を止めに入ったのであった。

 暫くの間、止めに入った人たちと口論していた女が不承不承口を閉ざす。

 その様子に彰弘は、とりあえずは大丈夫だと判断して後ろを振り返り、ウェスターへと近付いた。

「あまり、代わった意味がなかったかもな。それはそれとして、この後はどうする?」

 苦笑気味の彰弘にウェスターはすまなそうに礼を言う。それから、これからの予定を話し出した。

「とりあえず、場所を移動させます。流石にこの場で一晩過ごすのは、いろいろな意味できついものがあります。移動の後は死体の始末ですね。即アンデット化するとは思いませんが念のために早めに始末すべきでしょう」

「そうか。移動するなら四階の会議室がいいかもな。中の机と椅子を外へ出してしまえば十分全員が横になれるだけの広さがあった。それに四階なら見張る場所を限定できる。まあ、地上の見張りは諦める必要はあるけどな」

 彰弘が言う四階の会議室の出入り口は、三階と屋上へ繋がる階段と非常階段へ向かう通路が、その場を動かなくとも見渡せる場所にあった。

 現在いる二階は場所の広さという面では申し分ないが、大ホールは野盗を殺した現場であるため除外。小ホールという場所もあるが、こちらも大ホールと同様に椅子が固定式のため、今いる全員が横になれるだけの場所は確保できない。そして、その他の部屋は、どこも広さが足りなかった。

 三階については、二階よりも面積が狭い上に大ホールの二階席部分が大部分を占めている。そのため、他にいくつかある部屋もそう広くはなかった。

 残るは一階と四階だが、一階は広さこそは問題ないものの、外に面した壁の多くがガラス張りなのが問題だ。野盗が一階で休むことがなかったのも、このことに要因があった。

「見張りに関しては、どう足掻いても足りませんから。屋上に二人、部屋の前に二人、残りは部屋の中で休みつつ、ですかね。明日の出発は……明日になってから考えましょう」

「だな。俺らはともかく、助けた人たちの状態次第では出発を延ばす必要があるかもしれないし」

「はい。では、私はまず助けた人たちを誘導します」

「分かった。ああ、そうだ会議室の場所はオーリに聞いてくれ。それと野盗とかの死体だけどな、俺が運んで始末しておく」

「一人でですか?」

 早速、行動しようと踵を返したウェスターは、彰弘の言葉に思わず立ち止まり振り返る。

 地上で始末するにしろ屋上でやるにしろ、一人でできないことはない。しかし、最低でも十六体分の死体を運ばなければならないのだ。ウェスターの疑問は当然のものであった。

 もっとも、この大ホールで始末を行うのならば、運ばなければならない数は減るのだが、何の対策もされていない場所で火による始末をすることはできない。

「ああ。流石に疲れたからいろいろ放り投げて楽な方法を使う。ま、後で説明するよ」

 そう返した彰弘は、ため息を一つ吐く。

 それを見たウェスターは、とりあえず了承の意を返すことにした。

「分かりました。とりあえず、こちらのことが一段落ついたら誰かを向かわせます。屋上ですか?」

「そうだ。ついでだから、俺はそのまま屋上の見張りにつく」

「お願いします」

 それから一言二言交わした後、ウェスターは皆を引き連れて大ホールの外へと出て行った。

 それを見送った彰弘は、自分と死体だけになった大ホールを見回す。

 そして……。

「まったく。ランクEの昇格試験がこれって、とんでもねーな。先が思いやられる」

 そう独り言を呟き、今日何度目かとなるため息を吐く。

 この後、彰弘は死体から有用そうなものを剥ぎ取り、残った死体を左腕に着けているマジックバングルへと回収していくのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



いつの間にやら翌日。

昼寝さいこーです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ