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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-09.

 前話あらすじ

 彰弘の合図で地下搬入口の前で見張りを行う野盗に攻撃をしかけるウェスターたち。

 ちょっとした予定外の出来事があり、想定よりも見張りを始末することに時間はかかったが、彰弘たち同様にウェスターたちは市民ホールの中に入ることができたのであった。

 月明かりが市民ホールの廊下を照らしていた。

 雲一つない夜空に浮かぶ十六夜月は、夜目に種族特性がない普通の人であっても、問題なく歩ける程度には地上に明るさをもたらしている。

 そんな光の中、市民ホール廊下を姿勢を低くして進む彰弘は、何となく外に面した窓から月を見上げ目を細めた。

 山間にある彰弘の実家から見る夜の月は、今彼の目に映る月に似ている。季節による違いはあるが、田舎故の澄んだ空気と人工的な光の少なさ、それらが相まって目を細めそうになるほどには眩しい。

 十六夜月が故郷で見る月と重なり、彰弘に一瞬だけ家族のことを思い出させたのである。

「どうかしましたか?」

 彰弘と同じ姿勢で、彼の後を続くオーリが疑問を口にした。

 どことなく前を行く彰弘の顔が翳っているように見えたからだ。

「いや、何でもない。思った以上に月明かりが強いからな。移動には自分の影も気を付ける必要があると考えてたんだ」

 そう(うそぶ)く彰弘に、オーリは頷く。

 内心で首を傾げたオーリであったが、影にも気を付けるべきであることは事実であった。だから、何も言わずに頷きだけを返したのである。









 屋上から市民ホールの中に入ってから暫く、最上階である四階の探索を終えた彰弘とオーリは、館内の案内板を見ていた。

 我谷市の市民ホールは地上四階、地下一階の建物だ。

 地下には関係者用の駐車場と物資を搬入するためのスペース、またその搬入したものを一時的に保管する保管室がある。一階は受付と展覧室、そして軽食などを提供する喫茶店が入っていた。二階と三階は、各種催し物を行う大小のホールが一つずつと、打ち合わせや着替えをすることができる小部屋などが用意されている。そして、今彰弘たちが見て回った四階にあるのは、この市民ホールで働く人たちの執務室などだ。

 なお、一般人が通常入ることができるのは三階までである。そのため、三階と四階を繋ぐ内階段は、扉で区切られた先にあった。一般人が誤って四階へと上がることのないように配慮されているのである。また、非常階段を除いた屋上へ上がるための階段も、配慮により設けられたこの扉の先にあった。

 ちなみに、エレベーターは荷物運搬用に関しては地下から四階まで通じているが、一般用は一階から三階までしか通じていない。

「とりあえず、ここには誰もいなかったな」

「はい。少なくとも見当たりませんでした」

「やっぱ、野盗がいる確率が高いのは、この二つのホールの内、どちらかかな?」

 彰弘は案内板に描かれていた大ホールまず指差し、次に小ホールと書かれている箇所へと自分の指を移動させる。

「可能性でいったら、そこそこの広さがある一階の喫茶店もあるでしょうが、僕もどちらかのホールだと思います」

 元リルヴァーナの人種(ひとしゅ)は、野盗であろうがなかろうが防壁の外で休むときは大抵が集まって休む。全てが全てそうとは言い切れないが、魔物の突然の襲撃などに備えて各個撃破されるのを防ぐために、ある程度は纏まって休むのである。

 そしてそれは、大規模な建物内であっても変わらない。勿論、外の見張りを十分に用意できるのであれば別なのだが、今回の野盗のように最低限の見張りしか置けない場合、万が一を考えるのである。

「だよな。となると、できるだけ早くウェスターたちと合流するべきか。流石に二十もの野盗を二人だけで相手にしたくない」

「そうですね。見張りに立っていた、あの二人のように油断してくれているならまだしも、そうとは限りませんし。慎重に確認しつつ下へ向かいましょう」

「ああ。さて、配置は頭に入れたし、そろそろ行こう」

「分かりました」

 案内板の前で、そうやり取りした彰弘とオーリは、周囲を警戒しつつ近くにある下へ向かう階段へと慎重に足を進める。

 なお、通常は市民ホールに勤務する職員しか立ち入ることのない四階に、建物内のどこに何があるかを示す案内図があるのは、来客――別の市の職員など――があった場合に四階で打ち合わせをすることがあるからだ。

 案内板はちょっとした待ち時間のコミュニケーションのために、各所に設置されているのである。









 彰弘とオーリが四階の探索をしているころ、ウェスターたちは地下倉庫の探索を終え、一階へと繋がる階段を進んでいた。

 地下からの階段を慎重に上がり、一階に顔を出したウェスターは注意深く辺りを見回す。そして、目に映る範囲に人影が見えないことを確認すると、自分の後ろで静寂を守る四人に合図を送り、自らがまず一階へと足を踏み入れた。

「こっちへ」

 ウェスターは再度辺りを見回し、良い具合に陰となっている一角を指し、その場へと静かに移動する。

 そこには、彰弘たちが四階で見かけた案内板と同様の物が壁に掛けられていた。

 暫くその案内板を確認し、それぞれが意見を出し合った後、ウェスターがここでの行動を説明する。

「これからこの階を調べます。ここでも地下と同じように上へ続く階段と、今入ってきた扉を見張ります。そして、それ以外のメンバーが各部屋を調べることにします。アカリとシズクは、また見張りをしてください」

「はい」

「分かりました」

「少しでも何かあったら合図を。では、行動開始」

 事ここに至って無駄口を叩く者はいない。

 それぞれが、それぞれの役目を果たすために、ウェスターの合図で動き出した。

 市民ホールの一階は正面出入り口から少し中に入り右手側を向くと受付がある。その受付の前を通り過ぎ進んで行くと、左手側には簡易的な休憩スペースあり、右手側には各種展示が行われる展覧室へ続く通路があった。その両方の間を抜けた先が喫茶店だ。

 二階へと続く内階段は、休憩スペースと喫茶店の丁度中間地点の壁際に設置されていた。休憩する人や喫茶店に入る人、それから展覧室に向かう人。様々な目的で館内を移動する人たちのことを考えて、それぞれが邪魔にならないように各施設は配置されていた。

 ちなみに、非常階段へ続く扉は喫茶店の通用口を抜けるか、展覧室へ行くための通路進んだ先にある。

 ウェスターとルナル、そしてキリトが展覧室の方へ移動するのと同じくして、アカリとシズクは階段と自分たちが入ってきた扉を見張ることができ、尚且つそう簡単には見つからない月明かりの陰となっている場所に身体を小さくして入り込んでいた。

 もし正面出入り口が開閉可能な状態であれば、そちらも監視の対象としなければならなかったのだが、そこは彰弘が偵察したときから変わっておらず、格子状のシャッターが下りている、そのため、見張る必要はなかった。

 静寂が二人を包む。

 そんな中、シズクが階段から目を離さずに小さく声を出した。

「ごめん、アカリ」

 何に対しての謝罪なのか、少し考えたアカリは声を返す。

「それは何についてなの?」

 地下でも見張りについていた二人であったが、そのときの二人の位置は少し離れていたために会話をすることができなかった。

「いろいろ。外でのこと、街の門でのこと、その前のことも。覚悟ができていなかった。何も見えていなかった。自分で判断するのが怖かった。……キリトの声に従うのが楽だった」

「そう」

 アカリの口からは一言、そう漏れるのみ。

「いつからかな……よく分からないけど、わたしは自分の考えで動いたことは、ほとんど記憶にない。中学のときの陸上部の部長も周りに言われ、キリトがやってみたらと言ったから。進学先の高校を決めたのもキリトがそこにするって、そこにしようっていったから。冒険者になったのもそう。アキヒロ……さんを嫌悪したのも、多分そう。身近な強い声に流されて、その流れに乗っていれば楽だったから。自分で考える必要はほとんどないし。知ってる誰かの声が元なら、何かあったときにその誰かのせいにできるから。わたしが強気に見えてたのは、卑怯な逃げ道を作ってたから」

 現実ではキリトであれ、それ以外の誰かであれ、その声が元にあったとしても、何かを起こした責任が自分以外にだけ向けられることはまずない。起こした本人にも、その責任が向けられるのが道理だ。

 そのことはシズクも心のどこかで分かっていた。ただ、キリトに依存――周囲に気付かれない程度にだが――するようになり、そして、その依存先に責任の押し付けるということが、今まで破綻なくできていたのだ。上々の結果をこれまでもたらしてきたと言っても良い。元来それほど強くないシズクが、そんな状況を何の切っ掛けもなく抜け出せるはずがなかった。

 では何故、シズクはこのような少女となったのか。

 それにはシズクの性質の他、幼少期に両親の口喧嘩を目撃してしまったことや隣に引っ越してきたキリトの存在にあった。

 両親の口喧嘩は、その当時の些細な価値観の違いが原因であって、それほど険悪なものではなかった。事実口喧嘩をした日の翌日夜にはもう、シズクの両親は元の仲の良い夫婦へと戻っていたのだ。

 しかし、初めて両親の口喧嘩を目撃したシズクは、その幼い心に大きくはないが確実に傷を負っていた。

 それでも、この後何事もなければ、仲直りをした両親の下で過ごすシズクの心は遠くない内に癒えたであろう。

 だが、この時期にキリトが隣へと引っ越してきた。彼の存在は普通に過ごしていれば癒えた傷を無理矢理治し、その後遺症をシズクへと残す結果となったのである。

 両親の口喧嘩が原因で落ち込むシズクにとって、自信満々で正義を語るキリトの存在は、とても頼もしく思えた。「一緒にいれば大丈夫」、意味もなく無意識に、そんな考えをシズクに抱かせるだけのものがあったのだ。

 勿論、年齢を重ね、ある程度自分の考えを持つようになっていれば、キリトの正義も自信満々の態度も、変であることに気付いたかもしれない。しかし、そのときのシズクはまだ小学校にさえ通っていない年齢だ。そのおかしさに気付くことはできなかった。

 実のところ、今のシズクは当時のキリトとのやり取りについて、はっきりとは覚えていない。幼い時期の僅かな時間のやり取りということもあるが、シズクがキリトに依存する切っ掛けとなったことでもあるため、彼女の本能が自分の心の均衡を保とうとしていたためだ。

 キリトの正義が変だということに気付いてしまったら、今まで自分が行ってきたこともおかしいと同義。そう認識できてしまうことを少し前までのシズクは無意識下で恐れていたのである。

 余談だが、実はシズクとの出会いからの一連のやり取りはキリトもほとんど覚えていない。彼にとっては、シズクが表面上立ち直ったように見えたことで、全て解決したこととなっていたからだ。

 ともかく、幼少時の僅か数分程度の出来事が、シズクに多大な影響を与えていたのである。

「それで、今それをここで話す理由は? さっきのキリトの顔と言葉? 勝手だよね」

 シズクの告白に、冷ややかな声をアカリは返す。

 何度言っても聞き入れなかったシズクが、このときになって、依存先から邪険に扱われた今になって告白してきた。アカリの反応が冷たいものであるのは仕方ないと言える。

 少しの沈黙がアカリとシズクの間に流れた。

 そして、シズクが再び口を開くことを決めた目をしたところで、ウェスターたち三人が展覧室側から戻ってきた。

 アカリはウェスターへと無言の頷きを返す。特に変化はないことを示す合図である。

 それを受けたウェスターたちは、アカリとシズクの前を通り今度は喫茶店の方へと向かった。

 ウェスターたちの姿が見えなくなり、シズクは口を開く。

「分かってる。勝手だと思う。今までの自分を知りたくなかったから目をそらしてきた。そうしててもキリトに頼ってればよかったから。そのキリトに少し冷たくされただけで、こんなになるとか酷いと思う。でも……ううん、間違いなく今が、わたし自身を正す切っ掛け。そして、キリトも……」

 シズクの声は最後まで続かず途切れる。

 しかしアカリには、シズクが何を言おうとしてかが推測できた。恐らく、「キリトも自分を正す切っ掛けは今」そう言おうとしたのだろうと。

「ふー。私、この試験の後で今のパーティーを抜けようと考えてる。どれだけ周りの声があっても、どれだけ私が言っても事実を見ようとしない二人にうんざりしてたの。シズクがもし自分を正す、本当に自分の今までを見つめ直すつもりなら、シズクもキリトとのパーティーを辞めて、あいつから離れるべきよ」

 シズクの反応は極僅かであった。

 これがほんの少し前の段階でアカリの口から出ていたら、もっとシズクの反応は大きかったかもしれない。しかし、今は彼女自身がそうするべきではないかと考えていた。

 今は冷たくされたことで、そのおかしさに気付いているが、もしキリトに少しでも優しくされたら、きっとまたすぐに彼に依存という逃げ道を作ることになる。その程度のことはシズクにも分かっていた。

「そうね。どうするか考えなきゃ」

「そうだね。とりあえずパーティーだけは抜けて、後のことはゆっくり考えればいいと思う。勿論、シズクと私も別行動」

「うん。それは分かってる」

 アカリとシズクの中で一段落がつく。

 シズクはまた別の依存先を見つけてしまうかもしれない。

 アカリもある意味で一からの始まりとなる。

 だが二人とも現状から抜け出す切っ掛けを見つけたのである。

 そのため、喫茶店の確認を終え自分たちの方へと近付いて来るウェスターたちを見る二人の顔には、僅かながら笑みが浮かんでいた。









 一階の探索を終えたウェスターは、アカリとシズクへと簡単に探索の結果を伝えていた。

 とはいっても、その内容は複雑でも何でもない。何故ならば自分たち以外に誰もいなかったからだ。この階についても地下と同様に、最近人が立ち入った痕跡を見つけることはできたが、あくまでそれだけだったのである。

「さて、これからが本番です」

 まず階段を上がって二階へ出ると、そこには大ホールに入るための入り口と、小ホールに続く通路の始まりがある広めのロビーに出る。そこは別に問題ではない。

 問題なのは一階に野盗の姿が見えなかった以上、二階以上の階層に野盗がいるはず、ということだ。

 更に今のところ上階から争いの物音は聞こえてこない。ということは、自分たちよりも先に建物の中に入ったであろう彰弘たちが、まだ四階を探索し終わっていないとは考えられないことから、恐らく四階にも野盗はいなかったと捉えて間違いはない。

 つまり、必然的に全四階層であるこの市民ホールの二階か三階に野盗がいる確率が高いとウェスターは考えたのである。

 なお、非常階段と一階にある通用口の使用は考えていない。非常階段は二階の非常口がどのような状態か分かっていないため、通用口については世界融合の影響か開閉不能状態となっていたからだ。

 ちなみに、この市民ホールにはエレベーターも設置されていたのだが、世界融合前の仕様であるので、当然稼働はしていない。

「では行きましょう。姿勢を低くして物音を立てないように。屋上から入った二人がどの辺りにいるかは分かりません。最悪、この五人だけのときに野盗と対峙する可能性があります。いいですか、躊躇は自分だけでなく味方をも危険に晒します。そのことを肝に銘じてください」

 ウェスターは、自分の言葉にそれぞれが頷くのを確認する。

 そして、静かにゆっくりと二階へと続く階段へと足をかけ上り始めた。









 四階へと続く階段と三階の通路を隔てる扉を慎重に開けた彰弘は、背後に控えて攻撃態勢をとっていたオーリへと合図を出した。

 扉越しに人の気配は感じなかったが、念のためにオーリへと何かあったらすぐ攻撃できるように彰弘は指示していたのである。

「鍵がかかってなくてよかった」

「そこは敵がいなくて、だと思うんですが」

「まあ、どちらも、だな」

 オーリが三階の通路へと入ったところで、静かに彰弘は四階へと続く扉を閉めた。

「さて、今のところ鍵がかかっていたところはないが、ここはどうかな?」

 可能な限り相手に見つからないように、されども何かあったときにはすぐ行動を起こせるよう身を屈めて通路を進む彰弘とオーリは、四階へ続く階段から一番近い位置にある茶褐色をした両開きの扉の前で立ち止まる。

「大ホールの中に入れる扉ですよね?」

「ああ。正確には大ホールの二階席への扉の一つだな」

 オーリの言葉に彰弘が訂正を入れた。

 今彰弘たちがいる市民ホールの大ホールは、収容人数が四百人だ。二階にある大ホールの出入り口からは一階席と呼ばれる場所に、三階にある出入り口からは二階席と呼ばれる場所へ入ることができる。

 二階と三階ともに大ホールへの出入り口はそれぞれ三つあり、市民ホールの正面出入り口に対して、正対する位置にある扉が『大ホール正面出入り口』で、それぞれ左右にある扉が『大ホール左側出入り口』、『大ホール右側出入り口』だ。

 彰弘とオーリの前にある扉は、『大ホール左側出入り口』であった。

 ちなみに、一階席は三百席で二階席は百席である。

「どうやら当たりのようだ」

 ほんの少しだけ扉を手前に引いた彰弘は扉に耳を近付け中から聞こえる音を拾っていた。

 分厚い扉であり壁であったため、中の気配を探ることができずに冷や汗を掻きながら扉を動かした彰弘だったが、幸いにも扉の近くに野盗はいなかったようだ。

「どんな感じなんですか?」

「こんな時間なのに元気一杯だな。ん? ……待てよ」

 オーリの問いに答えつつ、彰弘は違和感を感じて聞き耳を立てる。

 それから少しして扉を静かに締めると、オーリに向き直った。

「なあ、『まだ二日目だ。寝てんじゃねぇ』とかって下から聞こえたんだが、どういうことか分かるか?」

 首を傾げて黙考するオーリだったが、やがていくつかの予想を口にする。

「何かのバツゲーム。賭け。誰かを捕まえて何かの目的のために寝かさないようにしている?」

「最後が一番可能性が高そうだな」

 そう言って彰弘は少し記憶を探る。

 世界の融合前、彰弘は多くの本を読んでいた。本以外からも多くの知識を仕入れている。そんな中に誰かを寝かさない理由として一つ思い当たることがあった。

「言うまでもないが、人ってのは休息を取らないと判断力とかいろいろと鈍る。これは別に寝ることを意味するだけじゃないんだが、何かを延々と続けるとかもそうだな。で、その結果心身限界まできたときに、何か楽になる方法を提示されたりすると、例えそれが最初は受け入れられないものであっても、案外あっさりと受け入れてしまうことがある」

「聞こえた声は、それだと?」

「中を見れたわけでもないし、少し声を聞いただけだから完全に予想でしかないけどな。誰が誰に対してやってるのかも分からんし」

 オーリが考え込み、彰弘も同じように考え込みそうになる。

 しかし、彰弘は寸前で今ここにいる目的を思い出す。

「とりあえず、ここで考えても仕方ない。かといって今の状況で中に入るわけにもいかない。オーリ、考えるのは後だ。まずはウェスターたちと合流しよう」

「そうでした。では、急ぎましょう」

 いろいろと考えたいところではあるが、それはウェスターたちと合流してからでも遅くはない。

 そう判断した二人が扉の前を離れたそのとき……。

「敵だーっ!」

 聞き覚えのない男の叫び声が彰弘とオーリの耳に届いた。

 二人は身を低くしたまま全力で声のした方へと駆け出す。

 そんな彰弘とオーリが二階へ下りる階段の手前へ到着しそこで見たものは、二階ロビーの中央で血に沈む見知らぬ男二人と、武器を抜き放ったウェスターたちが大ホールの中へと突入していく姿であった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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