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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-04.

 彰弘がミレイヌとバラサと行動を共にし始めてから2か月。

 そろそろ護衛依頼を受けようというミレイヌとバラサだったが、それに対する彰弘の答えは「無理だ」という言葉であった。

 ギルド職員もが疑問に思うその理由は、彰弘が未だランクFであるからというものだ。

 その後、ギルド職員から出された依頼により、彰弘は無事ランクE昇格試験を受ける資格を得るのであった。




「交代よ。ところで、今回のランクEへの昇格試験は七人だっけ?」

「ええ、そうです。六人はもう来ましたから、あと一人ですね」

 グラスウェルの冒険者ギルド北西支部、その総合案内カウンターに座る金髪の女職員は、後ろからかけられた声に振り向いてから言葉を返した。

 昼過ぎで暇な時間ということもあり、そして現在誰の相手もしていなかったために、金髪の女職員は振り返り対応したのである。

 この金髪の女職員の名前はイナンナ・エリス。グラスウェルと避難拠点がまだ別々だったころに、冒険者ギルドの元北支部――現北東支部――で見習いをしていた女だ。彼女は元北支部で半年近くの見習いの後に、新たに建設されたこの北西支部の総合案内受付担当として正式に勤務することになったのである。

 なお、イナンナに声をかけてきたのは元西支部で総合案内受付担当であった、ネイリン・カミナという二十代後半の栗毛の女だ。彼女はイナンナとは違い元西支部でも見習いではなく正規の総合案内担当として働いていたが、グラスウェルと避難拠点が繋がることによる冒険者ギルド支部の増加に伴い、この北西支部へと配置換えになったのである。

 ちなみに、現在のグラスウェルにある冒険者ギルドの支部は、北・北東・北西・南東・南西・南、それに中央というように全部で七つとなっていた。

「その人って、随分ゆっくりなのね」

 カウンター横の砂時計に目を向けたネイリンは、そんなことを口にする。

「確かにあと少しですね。でもそろそろ来ると思いますよ。今朝ここに来たときに『五分前くらいでいいか』って呟いてましたから」

 そんな返しをするイナンナに、ネイリンは眉をひそめてため息をつく。

 ネイリンのその様子は、明らかに未だ姿を現さない昇格試験対象者への憤りが現れていた。

「とてもこれから昇格試験を受けるとは思えないわね。冒険者というものを侮っている」

「あはは、そんなことはないと思いますから、そう怒らないでください。あの人、いろいろ普通じゃないっぽいですけど、不真面目とかそういうのじゃないと思います。この北西地区にだって昨日の内に来てたようですし、今朝だって訓練場で修練してたんですよ」

「それでもです。ランクEの昇格試験を受けるということは、まだランクF。まだまだ冒険者として見習いといっていい段階です。それなのに……。勿論、ランクが上なら、良いというわけではありません。例えランクが上であったとしても……」

 イナンナの言葉にも納得することはなかったネイリンは持論を展開する。

 その様子にイナンナは「これさえなければなー」と、こっそりと軽くため息をつく。

 これには、依頼受付や魔石及び討伐証明受付のカウンターに座っていた職員、そして掘り出し物の依頼はないかとのんびり依頼書を探していた数名の冒険者も同意の笑みを浮かべていた。

 そして、そんなときに全身に黒色の装備を身に着けた男が、ギルド建物の正面出入り口の扉が開き入ってきた。

 その男は真っ直ぐに総合案内受付カウンターへと近付くと口を開く。

「すみません。ランクEへの昇格試験の説明を聞きに来たんですが、どうすればいいですか?」

「お待ちしておりましたアキヒロさん。まず身分証の提示をお願いします」

 口を軽く開けたまま固まるネイリンを余所に、イナンナは笑顔で男に声を返した。

 今回、ランクEへの昇格試験を受けるために、その説明会に訪れた最後の一人は彰弘だったのである。

「ああ。ところで、彼女は?」

「あまり気にしないでください。すぐに戻ると思いますので」

 見知らぬ女職員がいたため、少し丁寧な言葉で話しかけた彰弘だったが、応対したのがイナンナだったことで口調を普段通りに戻す。

 そんな彰弘に、イナンナは笑顔のまま答えると、提示された身分証を魔導具に翳し手続きを始めた。

 それから数秒、イナンナが身分証を彰弘へと返す。

「それではご案内しますので付いてきてください」

 イナンナはそう言うと席を立ち、ようやく固まりから復帰したネイリンに顔を向ける。

「ネイリンさん、私はアキヒロさんを会議室にお連れした後でお昼休憩をいただきます。カウンターをお願いします」

「え、ええ。分かったわ。よろしくね」

 ネイリンはそうイナンナに返し、続いて彰弘に向き直り、「お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした」と頭を下げる。

 その行動に少々面食らった彰弘だったが、とりあえず何に対しての謝罪なのかは理解していたので、「気にしないでくれ、いきなり声をかけて悪かった」とネイリンへと返した。









 彰弘を案内して二階へと上がりながら、彼とイナンナは先ほどの出来事についてを話していた。

「なあ、さっきのは何だったんだ?」

「多分、自分が想像していた人物像との違いで一瞬思考が止まったんだと思います。ランクEの昇格試験を受ける人は大抵が十代で、その雰囲気もまだまだ駆け出しといった感じらしいです。だから自分の想像と実際のアキヒロさんとでギャップがあったんじゃないかと」

「駆け出しというのは間違っていないんだけどな」

「あはは、冒険者になってからの期間だけなら、そうかもしれませんね」

 そんなことを話している内に階段を上がりきり廊下を進んだ二人は、目的の部屋の扉前に到達する。

 イナンナは彰弘に向き直り「ここです」と伝えてから、トントン、トントンとノックを行い、中からの「どうぞ」と言う声で扉を開けた。

「失礼します。昇格試験を受ける方をお連れしました。この方で今回の昇格試験対象者は全員となります」

 扉を開け一礼したイナンナはそう言うと身体を横にずらし、彰弘の前に道を空ける。

「分かりました。イナンナさん、ありがとうございます。ではアキヒロさん、こちらへどうぞ」

 彰弘の姿を確認した、部屋の中の一番奥に座っていた男が立ち上がり声を出す。

 それを受けてイナンナは、彰弘に向かって小声で「頑張ってくださいね」と伝えてから、室内に向かって再び礼をして一歩下がる。そして彼が中に入るのを確認してから扉をそっと閉めた。

 自分が閉めた扉を見てイナンナはふと元北支部にいたころに聞いた彰弘の噂話を思い出し、小声で伝えた言葉は余計な一言だったかなと扉の前で考え込む。しかし、言葉を伝えたときの彼の反応は特に気を悪くしたようでもなかった。なので、すぐにこの後何を食べようかと、昼食のメニューのことで頭をいっぱいにした。

 なお、彰弘は闇雲に他人に頑張れと言われるのはが好きではないだけで、純粋に激励されることは別に嫌ってなどはいない。自分が頑張って何かをしている最中に闇雲に言われるのが嫌なだけなのである。









 背後で扉が閉められるのを待ってから、彰弘は室内を軽く見回した。

 中央に大きめな長方形のテーブルが一つ置かれていて、椅子は長い辺に三つずつと、短い辺には一つずつの計八脚。部屋の広さは広すぎず狭すぎず、十人前後で打ち合わせなどを行うには丁度良い広さに思える。彰弘が入ってきた扉の反対側は訓練場に面しているため、時折気合の入った声が聞こえてきていた。恐らくそこにあるガラス窓から外を見れば、修練を積む冒険者の姿が見えるであろう。

 そんな部屋の中には、今現在彰弘を含めて八人の姿があった。

 彰弘が入ってきた扉から一番遠い辺にある椅子に座っているのは、先ほど声を出した三十代後半の男だ。雰囲気から察するに今回の昇格試験の説明をするギルド職員であろう。

 訓練場に面した側には男が一人と女が二人座っていた。真ん中に男で、その両隣に女である。年齢は三人ともに十代半ばを過ぎたあたりといったところ。

 廊下側の席には男が二人に女が一人である。ギルド職員であろう男の方に二十代中ごろの男、その横に十代後半の男、そしてさらにその横に十代半ばの女が、それぞれ座っていた。

 ざっと室内を観察した彰弘は、おもむろに空いている席へと向かい、そこに腰を下ろす。

 するとそれを待っていたように、彰弘の正面に座る男が口を開いた。

「それでは全員揃いましたので、説明を始めようと思います。と、その前にまずは自己紹介を済ませてしまいましょう。私は今回の説明とあなた達の試験官を務めことになりました、タリクです。言うまでもありませんが、この北西支部所属のギルド職員です。よろしくお願いします。では、私から見て左から順に名前と戦闘のスタイル、主に使用する武器を言ってください」

 ギルド職員であるタリクはそう言うと、廊下側の席に座る二十代中ごろの男へと目を向ける。

「分かりました。私はウェスター、主に大剣を使う戦士です。もっとも、大剣はその大きさ故に狭い場所には適しません。狭い場所では片手で扱える剣を使用します。以上です」

 二十代中ごろの男はそう言うと、隣に座る十代後半の男を見た。

 それから、当然ではあるが自己紹介は順調に進み、数分後には全員のそれが完了する。

 あえて言えば、彰弘が自己紹介をしたときに訓練場側に座る三人の態度が少しおかしかったが、それ以外に変わったところはなかった。

 自己紹介が終わり、彰弘は改めてその場の面々の顔を見る。

 ギルド職員で試験官でもあるタリク。

 大剣、または片手で扱える剣を武器とする二十代中ごろの戦士であるウェスター。

 ウェスターの隣に座る、槍を武器とする戦士のオーリ。

 廊下側の席に座る最後の一人である魔法使いのルナル。

 訓練場に面した席に座る三人は、男が長剣と小型盾を使う戦士のキリト。

 女の一人は小型の弓を使う弓師のアカリ。

 残るもう一人の女は、クロスボウと短剣を使う半戦士半弓師という少し変わった戦闘スタイルのシズク。

 名前と顔を一致させた彰弘は、あることを思い出した。

 それは世界が融合してから、それほど経っていない時期に総合管理庁から出された、『衣服などを回収する』という依頼を行ったときのことだ。

 あのとき、自分達に対して意見をしてきた中心人物が、今この場にいて訓練場側の席に座っている三人だったのである。

 彰弘は自分の自己紹介のときのことを思い返し、だからあの態度になったのかと内心で独りごち、ため息をつく。半年も前のことであり、しかも自分たちは非となるようなことをしたわけではないはずだと彼は考えていた。ため息の一つも出るというものだ。

 そんな彰弘の心の中を知る由もないタリクは、当初の想定通りに自己紹介の後の沈黙を破り昇格試験の説明を始めた。

「では説明を始めます。まず、今回のランク昇格試験ですが、その内容は野盗の討伐依頼となります」

 この言葉で訓練場側に座っていた三人と廊下側の十代の年齢の二人が身を固くする。

 野盗の討伐依頼を遂行する方法は二種類。

 一つは捕らえて街まで連れて帰り衛兵に引き渡すことだ。これにより野盗は、その罪を金額換算され、その金額分を完済するまで犯罪奴隷としての生活を送ることになる。ただし、その労働は過酷なもので、生命がある内に完済できる者は極僅かだ。

 もう一つは、その場で息の根を止めることである。ある意味では前述の犯罪奴隷落ちより、こちらの方が野盗にとっては救いだ。何十年も、事によったら死ぬまで過酷な労働を科せられるのだから、その場で殺される方が何倍も何十倍も楽といえた。

 なお、野盗として捕まり犯罪奴隷になった者たちも、全てが全て過酷な労働を科せられるわけではない。何者かに陥れられ者、住んでいたところが滅びた者など、何らかの事情があり野盗をするしかなくなった者たちは、その事情により科せられる労働内容が多少楽なものに変わることがある。もっとも、野盗となった要因がなんであれ、捕らえられたときの状態によっては情状酌量の余地はなし、となるのだが。

 ともかく、野盗討伐とは自分と同じ人種(ひとしゅ)と戦い殺さなければならないかもしれないということだ。それが故に十代という若さの五人は、試験の内容を想像し身を固くしたのである。

 さて、実のところランクEの昇格試験には今タリクが口にした防壁の外の野盗討伐の他に、近隣の街へ行く人の護衛依頼というものもあった。こちらは野盗討伐が常にあるわけではないために用意されているものだ。

 ただし、仮に人の護衛依頼であっても人と戦わないなどというわけがない。通常の護衛依頼であれば運が良い場合、全く何にも襲われることなく依頼が終わることも稀にだがある。しかし、このランクE試験で行われる護衛依頼の場合、当然冒険者ギルドの手が入っているわけだ。道中、ランクEを受ける程度の実力しかない冒険者では太刀打ちできない人種(ひとしゅ)に襲われることになっている。護衛依頼の場合、試験官は限界まで追い詰められ傷つけられ、そのときにどう対応したかで合否を判断していた。

 なお、この護衛依頼に冒険者ギルドの手が入っていることは試験の合格者にだけは伝えられているが、それが知れ渡ることはない。試験官からも口にしないように言われるし、何より体験した冒険者がこのことは必要であると理解するためだ。

 ちなみに、自分たちだけがこのような目に遭うのは納得いかないという気持ちが、この試験を受けた冒険者に芽生えることも、護衛依頼の内容が露呈しない理由の一つでもあった。

 ともかく、彰弘達のランクEへの昇格試験は、野盗の討伐である。

 タリクは試験を受ける彰弘たちの反応を確認した後、説明を続けるため再び口を開いた。

「さて、討伐対象の野盗の棲家ですが……こちらを見てください。このグラスウェルの北西門を出て北西方向へおよそ四十キロメートル、元日本の土地にある建物が奴らの棲家であると判明しています」

 テーブルの上に地図を広げたタリクはグラスウェルの北西門を指した後、そのまま指を野盗の棲家へと移動させる。

 タリクの指はグラスウェルを出て一度元日本の土地に入りそこを抜け、再度元サンク王国であった土地に入る。さらにそこも通り抜け、再び元日本の土地に入り、少し進めたところで止まった。

「ここは……我谷(われだに)市の市民ホールか」

「おや、この場所をご存知でしたか?」

「あくまで場所を知っている、という程度だが」

 地図を見ていた彰弘の呟きに、タリクが聞き返す。

 我谷市は、彰弘が住んでいた央平市の西隣の街を抜け、その先に位置していた街だ。徒歩で行くには少々難儀するが、電車でならば僅か数分の距離である。

 そんな我谷市の市民ホールという場所を彰弘が知っていても別におかしなことではない。

 なお、リルヴァーナでも過去には機密扱いであったために一般には出回ることがなかった地図だが、現在は街と街を繋ぐ主な街道などを示したものが広まっていた。

 これは魔法技術が進歩したことにより比較的容易に地図となるものが作れるようになったこともあるが、何より物流面での利便性が影響していた。

「そうですか。ともかく、そこが今回討伐すべき野盗がいる場所です。それで野盗の人数ですが、これは二十名前後であろうというのが調査の結果です」

「結構いるな」

「たったの七人で、その数を相手するのか!?」

 タリクが口にした野盗の数に冷静な口調で呟いたのはこの場での唯一の二十代であるウェスターで、非難するような声を上げたのはキリトである。

「確かに二十に対して七というのは少ないと言えるかもしれませんが、ギルドではこのメンバーなら十分可能との判断です。もし無理だと思うのでしたら、あなたは今回の試験を辞退しても構いません。ただし、そうなると次回の機会はずっと先となります。よろしいですか?」

 努めて冷静に声を出したタリクは顔をキリトへ向ける。

 それに対してキリトは、「辞退はしない」と一言口にすると、腕を組み僅かに下を向いた。

 その反応に室内にいた他の面々は、それぞれの考えを巡らせる。

 やがて、そろそろいいだろうと考えたタリクが視線だけを動かし、ウェスターと彰弘を順に見た。

 沈黙の場での無言の視線に、彰弘はその意味を考え、ウェスターの表情を確かめる。

 ウェスターの顔には気負ったものは見受けられない。少なくとも、彰弘はそのように捉えた。

「まあ、その野盗の実力にもよるだろうが……倍以上の数となると何らかの作戦が必要かもしれないな」

「その通りです。それも現地に行ってから、その場で決める必要があります。そのために、今回の討伐をするにあたり、リーダーを指名したいと思います。今回のリーダーは……ウェスターさん、あなたがしてください」

 ややあって口を開いた彰弘の言葉にタリクは頷くと、そう言ってからウェスターへと顔を向けた。

「リーダーをやれと言うならば、やってもいいですが……目的の場所を知っていて、実力的にも上である、あなたがリーダーをやった方がいいのでは?」

 ウェスターの言葉は彰弘に向けられていた。

 それに対して彰弘は僅かに口の端を上げる。

「実力云々は買いかぶりかもしれないぞ? まあ、それは置いとくとして、俺はギルドの意見に賛成する。確かに目的となる場所を知ってはいるが、冒険者としての知識なんかは、間違いなく君の方が上だろう。それに、今のこの世界は君達の世界が基準になっている。ならば、今の段階では俺のように元地球の常識をまだ引きずっている奴より、君がリーダーをやる方がいい。それならヘタな常識で遭わなくていい危険と遭遇することはないだろうからな。勿論、助言できることがあれば口を出させたもらうが……。ああ、一応、聞くが元リルヴァーナの世界出身だよな?」

「間違いなく。……分かりました。オーリ、ルナル、何か意見はあるかい?」

「いや。ウェスターさんがリーダーなら僕が言うことはない」

「わ、わたしもありません」

 彰弘の意見を受け入れたウェスターは自分と同じ側に座っている二人に確認を取る。

 そして、その返しを聞いてから、今度は正面で俯いているキリトと、その両隣のアカリとシズクへと顔を向けた。

「とりあえず、この人と同じ意見なのは少し納得いきませんが……。あなたがリーダーをすることに異論はありません」

 三人を代表して答えたのはシズクである。

 言葉の途中で彰弘をチラリと見た後、はっきりと賛成の意を返した。

 彰弘には分からない理由で彼を嫌っているシズクたちであったが、生命の危険があることのためか、冷静な考えを行うことができたようである。

「では、決定でよろしいですね。それでは野盗討伐へは、明日の朝二つ目の鐘が鳴るころに北西門前に集合。そして全員が揃ったら出発とします。ですので、今日の内にやることを終わらせてください。では、解散します」

 タリクはそう締めくくると席から立ち上がった。

 それを合図として、まずキリトたち三人が立ち上がる。彼らの内、キリトとシズクは彰弘をひと睨みしてから足早に部屋を出た。

 そんな後ろを一歩遅れるようにアカリが続く。しかし、彼女は部屋を出る直前に彰弘の方に顔を見せると、申し訳なさそうな表情で頭を下げ、それから先に行く二人の後を追った。

「ますます分からん」

 外に出て行く三人を見送った後で彰弘は首を傾げる。

 そんな彰弘に笑みを浮かべたタリクが近付き声をかけた。

「最後に出て行った、あの子が鍵かもしれませんね」

「かもしれないな」

 彰弘はタリクの言葉に、若干困ったような笑みで答える。

 それを見ていたウェスターは、「笑い事じゃないんですが」と頭を掻いた。

「ははは。あなたなら分かっていると思いますが、こういうのの取り持ちもリーダーの役目ですよ」

「言われなくても分かっていますよ。それでは失礼します」

 やれやれと言うような感じでタリクに言葉を返したウェスターは、彰弘へと顔を向ける。

 そして、一つの提案を口にした。

「アキヒロさん、この後時間があるなら訓練場でお互いの力を確認しませんか? 今日の内にあなたの実力だけは把握しておきたい。オーリとルナルの力は分かってるからいいとして、本当なら先に出て行った三人の実力も見ておきたかったところですが……」

「ウェスターさん、何だったら僕が追いかけて連れてきましょうか?」

 彰弘がウェスターの提案に答える前に、オーリがそんなことを口にする。

 しかしウェスターは少し考えてから首を横に振ると、それは必要ないとオーリに返した。

 そんなやり取りを見た後で、彰弘は先ほどのウェスターの提案について口を開く。

「訓練場の件は了解だ。ついでに参考になるかは分からないが、あの三人が俺に対してあんな態度を取っている原因であろうことも説明する。ああ、そうだ。俺のことは呼び捨てで構わない。俺の君のことをウェスターと呼ばせてもらうからさ」

「……分かりました。とりあえず訓練場に行きましょう。」

 彰弘の答えを聞き、名前のことを了承したウェスターはそう言うと、オーリとルナルに目で合図して部屋の外へと向かった。

 彰弘もその後に続く。

 最後まで部屋に残ったタリクは、先ほどまでの笑顔を消して真面目な顔で思案する。

 毎回のことではあるが、十分に達成可能だと判断しても、それは百パーセントというわけではない。少しのことで生命に関わる危険をはらんでいる。いくら危険を承知で冒険者となったといっても、いたずらに死なせるわけにはいかないのだ。

 ランクE昇格試験の試験官とは、試験の合否を判断する一方で、試験を受ける冒険者を死なせないための保険である。

 タリクは、そのことを一人残った部屋の中で、心に刻み込むのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



忙しいのはいいこと。



二〇一六年 五月 五日 二十一時五十二分 追記

野盗として捕まり犯罪奴隷になった者たちについて、下記を追記。


 なお、野盗として捕まり犯罪奴隷になった者たちも、全てが全て過酷な労働を科せられるわけではない。何者かに陥れられ者、住んでいたところが滅びた者など、何らかの事情があり野盗をするしかなくなった者たちは、その事情により科せられる労働内容が多少楽なものに変わることがある。もっとも、野盗となった要因がなんであれ、捕らえられたときの状態によっては情状酌量の余地はなし、となるのだが。

だがしかし、書く時間が削れるのは何とかならないものか。


二〇一六年 四月十七日 0時 十五分 修正

ボウガンをクロスボウ表記に

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