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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-01.【確認】

 前話あらすじ

 グラスウェル魔法学園への入学試験に無事合格した六花達は、入寮ギリギリまでを彰弘達と過ごす。

 そして入寮当日、知り合いへの挨拶をした後でグラスウェル魔法学園へ向かうのであった。




 振り下ろされるオークの棍棒を、銀髪の男は左腕で持った盾で受け止め相手の動きを止める。その直後、風の刃がオークの首を斬り裂いた。

 目の前で崩れ落ちるオークが動かなくなるまで見届けた銀髪の男は、念のために周囲の様子も確認する。それから、僅かに表情を緩め後ろへ向き口を開いた。

「お見事です。お嬢様」

 銀髪の男が振り向いた先にいたのは、彼と同色の髪をポニーテールにしたローブを着た女である。

 女の名はミレイヌという。以前、百近い数のゴブリンに追われ、それが原因で一時的に自分を見失い、彰弘と行動を共にしていた少女達に諌められ、我を取り戻した女魔法使いである。

 男の方はバラサ。ミレイヌに付き従っていた言葉少なかった戦士だ。

 二人はあれから反省をして、それまで以上に真摯に自己研鑽を続けていたのである。

「あなたのお蔭よ」

 バラサからの賞賛の言葉に、ミレイヌは笑み浮かべ言葉を返す。

「ありがとうございます。ところで、解体はどうしますか?」

「そうね……。魔石と討伐証明部位、後は四肢。残りは勿体無いけど、この場で処分」

 バラサの問い掛けに、息絶えたオークのすぐ真上に生成されつつある魔石を横目で見たミレイヌはそう答える。

「畏まりました。では、まず魔石から身体を離します」

 その言葉の後でバラサは盾を背中の留め金に固定し、血糊を落とした片手剣を鞘に収めた。そして、魔石の生成が完了するのを待ち、息絶えているオークの両脚を自らの両脇に挟み込む。それから彼は気合をいれて、オークの死体を引きずり始めた。

 ミレイヌがその行動を見守ること数秒。オークの死体は元の位置から身体一つ分離れた距離に置かれた。

「魔石はこれでよし。そっちは大丈夫?」

 オークの死体が元あった場所の地面に落ちた魔石を拾い上げたミレイヌが、一息ついたバラサへと声をかける。

 バラサはその言葉を受けると、「少々お待ちください」と返してから、解体用のナイフを取り出し、オークの討伐証明部位である鼻を切り取った。

「問題ありません」

「そう。じゃあ、残りを切り取ってしまいましょう」

 頷いたミレイヌは、早速とオークの脚の付け根部分にナイフを入れるバラサを見つつ、魔石を魔法の物入れへ仕舞い、変わりに解体用のナイフを手に持つと腕を切り離すための作業を始めた。

 死んだ魔物と魔石の関係には不思議なところがある。ほんの少しの違いで雲泥の結果をもたらすのだ。

 まず死んだ魔物から魔石を取り除いたとしよう。この場合、魔物の種類に関係なく死体は急速に消失へと向かう。この状態の魔物の死体は非常に脆くなり、バラサがやったように刃を入れるだけで、その判別が可能となる。当然、素材や食材として使えるようなものではない。

 一方で、魔石から魔物を取り除いた場合は、前述のようなことにはならない。こちらは普通に素材を素材として手に入れることができるし、食材として使える部位を得ることができるのである。

 この二つの違いを生み出すものは何なのかというと、それを行った人の意識が関係あると言われていた。

 今回、バラサが「魔石から身体を離す」と言葉に出したのは、「魔石と取る」ではなく、まず「身体を取る」という意識を持つために行ったのである。経験を積めば自然とできるようになることではあるが、彼はまだランクEの冒険者で、そこまでの経験はない。

 魔石を拾い上げたミレイヌが確認の言葉をかけたのも、そのためであった。

 ちなみに、このミレイヌの冒険者ランクもEである。









「バラサ、そろそろ戻りましょうか」

 討伐証明部位と解体した四肢を自身が持つ魔法の物入れへと仕舞い、浄化の粉と火によってオークの後始末をした後、ミレイヌは周囲を警戒するバラサへと声をかけた。

 ミレイヌからの言葉を受けたバラサは、今日討伐した魔物の数を頭の中で数え、そして頃合だと判断して口を開く。

「そうですね。オークが三、ゴブリンが九。無理は禁物です。良い頃合かと思……」

「どうしたの?」

 僅かに眉を寄せ言葉を途中で止めたバラサの様子に、ミレイヌは小首を傾げる。

「あ、はい。私の見間違いでなければ、あれはアキヒロさんだったのではないかと」

「アキヒロって、あの女の子達と一緒にいた?」

「ええ、そうです」

「冒険者であるなら、この森にいてもおかしくないと思うけど。何か気になることでもあるの?」

「他に人影は見えませんでしたから、多分一人なのではないかと。噂どおりの実力なら問題はないと思いますが」

 ミレイヌは顎に手を当て少し考えてから口を開く。

「まだ時間はあるし、体力も魔力も大丈夫……バラサ、少し追うわよ」

 その言葉にバラサは少し驚くも、興味本位だけではないことを見て取り頷く。

 幼い頃から付き従っていたバラサは、主であるミレイヌの機微を多少なりとも読み取ることができるのであった。









 彰弘の後を追っていた、ミレイヌとバラサは木の陰から様子を窺っていた。

「何をしてるのかしら?」

「先ほど魔力を感じると言ったのはお嬢様ですよ。魔法なのではないですか?」

「そうだけど……長い」

 目的の場所に着いた彰弘は、肩にかけていたリュックサックを地面に降ろすと、おもむろに右手を前に突き出し何かに集中していた。

 ミレイヌが魔力を感じ取ったのは、そのときのことである。当然、今も彰弘の手を中心に彼女は魔力を感じ取っていた。

「少し前のお嬢様よりも、さらに長く感じます」

「そのことは言わないでもらいたいわ」

 後悔半分恥ずかしさ半分で、そう声を返すミレイヌに、バラサは「失礼しました」と謝罪する。

「それよりも妙ね。時間もそうだけど、手の平に溜めている魔力が多すぎる気がする」

「そんなにですか?」

「ええ。少なくとも私が普通に使うファイアアロー五発はあるわね」

「魔法のことは良く分かりませんが、暫く様子を見ましょう」

「そうね、それしかないわね」

 そんな感じで木の陰で様子を見続け、さらに数分。目の前で変化が起きた。

 彰弘の手の平から何かが飛び出したのである。

 思わずその現象に目を見張るミレイヌとバラサだったが、すぐに「は?」という声と共に、少々間抜けな表情を顔に浮かべた。

「ありえないわよ。何であの魔力であれなのよ」

 ミレイヌの目の前で起きた現象は、彼女が想像したものとは違っていた。それも上方向ではなく下への方向へである。

 彰弘の手の平から出た水の弾は正面の木に当たりはしたが、そこに傷をつけることもなく、ただ木の幹を濡らしただけだったのだ。

「こ、これは見ない方がよかったのではないでしょうか」

「見てしまったものは仕方ないでしょ」

 魔法の結果に頭を掻く彰弘を横目に、ミレイヌとバラサはそんなことを言い合う。

 そんな感じで言い合い、少しして自分達が手招きされていることに気付いた。

 勿論、手招きをしているのは彰弘である。

 ミレイヌとバラサは顔を見合わせた後、少々の罪悪感と共に木の陰から身体を出して彰弘の下へと歩み寄った。

「ごきげんよう。アキヒロさん」

「お久しぶりです」

 気まずそうな顔で挨拶をするミレイヌとバラサ。

 そんな二人を見て彰弘は苦笑を浮かべた。

「何となく、何を思ってどんな気持ちなのかは分かるが、気にするな。まあ、それは置いといてだ。何のようだ?」

 少なくとも目に付く範囲には自分達以外はいない。そのため彰弘は、目の前の二人の目的が自分であろうと考えてそう問いかけたのである。

 それに返したのはミレイヌであった。

「わ、私達とパーティーを組んでくださいませんかっ!」

「……パーティー?」

 彰弘が一瞬沈黙し、聞き直したのも無理はない。ミレイヌのその言葉には、何の脈略もなかった。彼女は短い時間でいろいろ考えすぎ、その結果として、最終的に伝えたいことだけを口にしてしまったのである。

 当の本人もそれに気が付いたのだろう。顔を赤くして伏してしまっていた。

「お嬢様……。僭越ながら、私からご説明いたします」

 ミレイヌの様子を見たバラサは、彼女が復帰を待たずに自分が説明する方が良いと考え口を開く。

 彰弘達三人が今いる場所は、グラスウェルの北東に広がる森の中だ。これが街の中や森でも平原に近い極浅い場所ならば比較的安全と言えるため、ミレイヌ自身に説明させるのが筋である。しかし、現在の場所はそこまで浅い場所ではない。魔物が大量に現れることは少ないだろうが、それでも襲われる可能性は低くない場所なのだ。そのため、バラサは自分が説明をしてしまおうと考えたのである。

「わたし達は現在二人だけで活動しております。理由は自分達の行動を見直すためです。その切っ掛けとなったことについては、ご存知のとおり、あなたと一緒にいた少女達との出会いです。ともかく、自分達を見直し、それからパーティーをと考えていたのですが……」

 バラサはそこで一息ついた。

 恐らく、その先はバラサにとって言いづらいことだったのだろう。なかなか次の言葉が口から出てはこなかった。

 そんなとき、顔を伏していたミレイヌが顔を上げ声を出す。

「バラサ、そこから先は私が話します」

「お嬢様……」

「気にしないで、ほとんどの責任は私にあるのだから」

 バラサが一礼をして、ミレイヌにその場を譲る。すると彼女は軽く一呼吸してから話し始めた。

「恐らく予想がついているとは思いますが、あの一件以来、私達の……いえ、私の冒険者間での評判は最悪となった。勿論、それは自分が蒔いた種のせいだけれど……。ともかく、今の状態では誰かとパーティーを組むことはできない。それどころか協力して何かをすることもできない。そんな状況を何とかしたかった。だからバラサと二人で数ヶ月間依頼をこなしてきたのだけれど、状況はほとんど変わらない。中には私達を認めてくれる人達もいたけど、その人達と私達とではランクも実力も違いすぎた。そんな中で今日森に来て、そしてあなたを見つけた。あなたの実力が噂どおりなら私達では釣り合わないかもしれないし、受け入れてもらえるかも分からない。だけど、私達だけではそろそろ限界。だから、駄目で元々、あなたに声をかけようと思って近付いたのよ」

 一気に言い切り、至極真面目な顔でミレイヌは彰弘の目を見る。

 ミレイヌの言葉に嘘はなかった。陰口を叩かれることは少なくない。逆に認め励ましてくれる人も確かにいたのである。しかし、ミレイヌとバラサは成人しているとはいえ、まだ十六歳だ。生命の危険がある依頼をこなした後に、耳へと届く陰口の内容は精神的に非常に厳しいものがあった。限界というのも嘘ではないのだ。

 ミレイヌとバラサが求めているものは、自分達と普通に接してくれる存在であった。別に庇ったりしてくれなくても、励ましてくれなくてもいい。ただ、自分達以外で普通に接することができる人がいれば、それは精神を安定させ良い方向へと導くものと成りえるのだ。

 彰弘は、「そんなことになっていたか」と内心で独りごちる。そして、何故自分なのかも得心がいった。

 ミレイヌとバラサに近くて、二人のことを認めている人達なら、どうしても庇ったり励ましたりしたくなるだろう。逆に認めれない場合は批判的になると想像できる。遠くても同じだ。事によったら詳しい事情知らないだけに噂のみを信じ、近い人達よりも極端な反応になるかもしれない。

 そんな中で彰弘の立ち位置は、ある意味理想的だ。真の事情を知っていながらも、ほとんど二人に関わっていないのだ。六花達のように直接関わったわけでも、ジンとレミのようにパーティーを組んでいたわけでもない。良くも悪くも過剰に反応する可能性がない立ち位置なのである。

 もっとも、何かに感化されやすい性格を彰弘がしていれば話は別だが、幸い彼に関してはそんなことはなかった。

「とりあえず、話は分かった。パーティーを組んでもいい。まあ、いくつか条件はあるが」

 暫し黙考した後で彰弘はそう口する。

 現在、彰弘のパーティーは解散こそしていないものの、実質の一人だけのパーティーだ。ミレイヌとバラサの求めているものを察している彼が、意味もなくその要望を断る理由はなかった。

 六花達が学園に通うことになり、数年は彼女達と行動を共にすることができなくなる彰弘は、先月一時的にだが冒険者となった誠司達と行動しようと考えていた。しかし、その誠司達は彼が六花達と学園の入学についてのあれこれをやっている内に、偶然か必然か今目の前にいるミレイヌとバラサの元パーティーメンバーであるジンとレミの二人と知り合い、パーティーを組み一緒に行動するようになっていた。

 勿論、そのパーティーに彰弘が加わることも可能だったのだが、今年の夏には冒険者を辞めファムクリツへと向かうという境遇が同じ五人な上に、その会話内容がファムクリツでの生活のあれこれにまで及んでいた。そのため、邪魔になると考え誠司達のパーティーに入ることをしなかったのである。

「あの……その条件とは、いったい」

 彰弘の言葉に安堵の表情を浮かべたのも束の間、条件という単語を耳にしてミレイヌは恐る恐る確認の声を出す。

「ああ、悪い。二人が、というよりも俺の方の問題が大きいかな。条件は二つある。まず、一緒にパーティーを組むことになったら、『断罪の黒き刃』というパーティーに所属してもらう。これが一つ。もう一つは、俺の実力の話だ。魔法についてはお察しのとおり、詳しいことは後で説明する。それは置いといて、俺は今まで武器の性能に頼ってたから、普通の武器でもある程度戦えるようになりたいんだ。だから、俺が戦うのを見て、それで二人がパーティーに入るかどうかを決めてくれ。折角入ってもらっても、俺が足手纏いだったら悪いからな。まあ、そんな感じだ」

 彰弘は笑顔で条件についてを、ミレイヌとバラサへと話す。

 それを受けた二人は想像と違った条件を示されて困惑を顔に表した。

 多少、パーティー名が大仰で引っかかるが、ミレイヌとバラサにとって、それは妥協できる。実力についても、噂の半分程度だとしても十分だと考えていた。そもそも、彰弘の力の噂の出所は元冒険者ギルドのグラスウェル北支部だ。二人の耳に届いた噂は訓練場でのことであり、彼が口にした武器は関係ないはずである。

「さて、ちょうどいいのが来た。とりあえず、それを見てから決めてくれ。一体は、さっき言った剣を使う。もう一体は普通の剣だ」

 まだ困惑顔のミレイヌとバラサに背を向けた彰弘は表情を引き締め、木々の隙間に見える二つの影を見据えた。そして、二人から少し離れるように前進する。

 足を止めた彰弘は、腰に吊るした鞘から黒魔鋼(こくまこう)血色晶(けっしょくしょう)だけで造られた『血喰い(ブラッディイート)』という魔剣を抜き放ち、こちらに気が付き咆哮を上げる魔物を睨みつけるのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。


第4章の開始です。

この章は六花達の学園入学から卒業までの予定。

学園編をどうするかは未だ悩み中ですが、多分【グラスウェル魔法学園―入学―】みたいな感じで、投稿することになると思います。



二〇一六年 四月 二日 十三時三十四分 追記

バラサの髪の色を追記

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