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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
3.グラスウェル
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3-15.

 前話あらすじ

 グラスウェル魔法学園へと入り、まずは学園長自らの学園説明を受ける彰弘達。

 その後、六花と紫苑、それに瑞穂と香澄にその弟の正志は案内役と一緒に授業の参観へと向かう。

 彰弘達大人三人は、学園説明を受けたその場で、学園長と入学やら学費やら諸注意などの小難しい話をするのであった。




「思わぬところで問題発覚」

 通称学食と呼ばれている、学園の食堂の席に座っていた瑞穂は、空となった食器を見つめて思わずそう呟いた。

 六花と紫苑、そして香澄もその呟きには同意のようで、瑞穂と同じように空の食器へと目を向けている。

 そんな四人の姿に彰弘は苦笑を浮かべ、内心で同意しながら緑茶に口をつけた。









 学園長からの学園説明を受けた後、少女達は魔法の基礎理論と武器取り扱いの授業を参観し、それから昼食のために学園内にある学食へ来ていた。勿論、授業の参観に同行していた正志も、案内役である第一学年の学年主任のアシナも一緒だ。

 彰弘と瑞穂と香澄の両親も、今は少女達と同じテーブルについている。

 学園長のルスターと学費やら何やらの話をした彰弘達は、その後で学園長の案内で校内を見て周り、武器取り扱い授業を参観する少女達と合流したのである。

 なお、今この場にルスターの姿はない。彼は急用のため、それを伝えに来た職員と共に学食を去ったのである。


 グラスウェル魔法学園の学食は、学園関係者なら昼食は無料である。これは生徒なら学費の中に、職員ならその給与からの天引きという仕組みになっているからだ。

 提供される料理だが、その種類はさほど多くはないが日替わりの定食などもあり飽きは少ない。量に関しても小盛り・並盛り・大盛りとあるため、普通であれば最年少で入学した生徒も職員である大人も十分に満足できるものである。

 なお、料理のおかわりは、昼食時間の三分の二を過ぎたあたりから可能になる。しかし利用者がほぼ学園関係者という関係上、用意すべき食材は計算できるものであり、その時間になって余る料理はほとんどない。そんな中で、この国での主食となる米を炊いた物と汁物は残ることはある。しかし、副菜や主菜はほとんど残らないのが現状であった。

 ちなみに、彰弘達が今回食事をした代金は、学園長の給与から天引きされることとなっていた。









 昼食の開始時間からおよそ四十分、おかわりが解禁されたことで少女達四人と彰弘の前には、椀に山盛りとなった白米ご飯と、半分ほど入った味噌汁の椀が並んでいた。

「とりあえず、今はバランス無視。いただきます!」

 二度目の「いただきます」を口にした瑞穂は、待ってましたとばかりに箸と口を動かし始めた。

 残る四人も同じようなものだ。それぞれ食材に感謝の言葉を述べてから、食事を再開する。

「アキヒロさんはともかくとして、ここまで食べる子達だったなんて」

 一度、空になった大盛り定食のご飯の椀一杯の小山を黙々と食べる瑞穂と香澄に、もきゅもきゅ口を動かす六花。そして姿勢正しく楚々とした姿にも関わらず、他の三人と同じ速度でご飯が減っていく紫苑。その様子を見てアシナは驚きを隠せない。

「足りないだろうとは思ってたけど、やっぱり足りなかったんだね」

「明らかにいつもより少なかったものね」

 食後の緑茶を飲みながら笑みを浮かべた正二が呟き、瑞希が笑みを返す。

 なお、この場での最年少である正志は、小盛り定食を平らげ満足そうな顔をしていた。

 ともかく、食事風景を見守る同じテーブルについた四人と、その中の一人であるアシナと同様の感想を抱いている周囲の生徒や職員の視線の中で、彰弘達五人は箸と口を動かし続ける。

 やがて彰弘が箸を置いた。それから順に少女達も目の前にあった小山を完食し箸を置く。そして全員が食べ終わったところで、手を合わせ「ごちそうさまでした」と声を合わせた。

「これはゆゆしき問題です」

 緑茶を一口飲んだ六花は、一息つくとそう発言した。

「そうですね。ご飯も美味しかったので、そこは良いのですが……」

「やっぱり、おかずは欲しいよね」

 続いたのは紫苑と香澄。

 味に関しては文句はない、けれども量と食事バランスは何とかすべき、それが最初の一食を食べ終わった後に「問題発覚」と呟いた瑞穂含む少女達の相違であった。

「と言う訳で、アシナ先生。なんか解決策はない?」

 その細身の身体でよくもまあ、と未だに驚きを表しているアシナへと瑞穂が問いかける。

 ややあって、アシナは自分へと視線を向けている一同へと口を開いた。

「そうですね……、正直に言いますと私の一存で、どうにかできるものではありませんので、これについては後日ということで……」

「良い機会です。やはり進めましょう」

 若干の申し訳なさを顔に表したアシナの後を、彰弘達には聞き覚えのない声が継いだ。

 彰弘達が声の方へ顔を向けると、そこには五十前後の金髪をした痩せぎすの男が立っていた。

「初めまして。私は当学園の副学園長を務めます、ラウン・ホージと申します。どうぞ、お見知り置きください」

 そう挨拶をしてきたラウンへと彰弘達は揃って会釈を返す。

 それを見てからラウンは「失礼」と一言断り、彰弘達が食事をしていたテーブルの空いていた席へと腰を下ろした。

 それを見たアシナは、予想より早く学園へと戻って来ていたラウンへと声をかける。

「副学園長、もう戻られていたのですね」

「ええ、今日は進捗の確認だけですからね。結果は上々、青果類も学園の備蓄が底をつく前に何とかなりそうです。……おっと、失礼しました。まあ、今日のことは聞いていたので、是非会って見たかったので、急いで戻ってきたのですよ」

 アシナの言葉に、ラウンはそう返して笑みを浮かべた。

 余談だが、貴族平民問わずにその子等が在籍する学園の経営層の一人であるラウンは、各街間の物流がどうのようになっているのかの確認にグラスウェルの総合管理庁へと出向いていた。

 物流の回復は特に重要であるからだ。

 一応、数箇月は他の街と物流が途絶えても、問題ない程度にはグラスウェルの街も、そしてグラスウェル魔法学園も食料の対策はされている。

 ただこれは、長期保存が比較的容易な穀物類や防壁の外での調達ができる肉類に関してだけだ。青果については現時点で不足し始めている。

 青果は普通の保存方法では、その保存期間の高は知れている。魔法の物入れが使えるならば保存期間は半永久的ではあるが、魔法の物入れはその作成方法の関係上、量産できるものではないし現存数も少ない。

 農業を主産業とする街との物流回復は、それ以外の街にとっては最も優先順位が高いものなのである。

 なお、生を繋ぐというだけであれば、グラスウェルの周りは森林もあり平原もあり、そして水源となる川も岩塩を含む岩場もあった。そのため、生きるだけなら物流が回復しなくても何とかなる。ただし、健康という面で考えると青果関係が圧倒的に不足するため、やはり物流の回復は必須なのであった。

 つまり、ラウンは物流の回復状況をもって学園での食事計画をどうするか決めるために、外出していたのである。

 ちなみに、総合管理庁へはラウンの他に学園の食堂長と事務長も進捗の確認に同行していた。

 ともかく、学園へと戻ってきたラウンは総合管理庁で確認したことを報告書に纏めて、その後学食へと足を運んできたのだ。そして、今に至るという訳であった。

「融合早々に当学園への入学希望と言うことでしたが……良い子達のようで安心しました」

 少女達の姿を確認したラウンは浮かべていた笑みを深くすると、そう言葉に出した。それから、一度頷くと居住まい正し再度口を開いた。

「それはともかく、学食での食事についてですが、実は蔭で進めてまして、来年度から始めれそうです」

「それって、定食とは別に料金を支払うことで、追加のおかずを増やすという、あれですか?」

 ラウンの言葉に、一拍置いてアシナが思い出した内容を口にした。

 それについてラウンは肯定して話を続ける。

「そうです。世界融合による物流の件もあり、学園長と私、それに食堂長のクワイエットさんと事務長のレンセルさんだけで話を詰めていました。物流も来年度を向かえる前には、ある程度回復しそうですから大丈夫でしょう。一応、来月の進捗確認状況次第ではありますが、それを待ってから、あなたを含む学園職員へ職員会議を行うことを通達。その後、会議での決定を得て生徒及びその親御様へとお知らせとなる見込みです」

 言われてアシナは、最近学園長室への廊下を歩くクワイエットとレンセルを見ることが多かったことに気が付いた。

「まあ、すでに学費という形で学食での費用をいただいていることから、躊躇っていた件ではありますが、おかずの種類がもっと欲しい、そんな要望が生徒側からもあったことですしね。定食のおかずを増やすという話もありましたが、それだといろいろと調整が難しいので、別途小皿でのおかずを用意することにしました」

 ラウンは一度言葉を切り少女達の目の前にある食器へと目を動かす。それからまた話し出した。

「この子達のような場合は、最初に料理を受け取るときに特盛りと言って必要分のご飯を盛り付けてもらうようにして、その上で追加のおかずを買う、そんな感じになるでしょうか」

 口を閉じたラウンを見て少女達が会話を始める。

「問題解決っぽい?」

「恐らく。ですが、追加で用意されるおかずの値段次第だと考えます」

「わたし達が稼げるお金の範囲ならいいんだけど……」

「そうですね。入学試験対策も必要ですが、近い内に彰弘さんに頼らず自分達だけで稼げる金額を把握しておきましょう」

「とりあえず、値段を聞こう、そうしよう」

 そのやり取りを興味深そうに見ていたラウンは口を開いた。

「一品の値段は十ゴルドから二十ゴルド、そんなところを予定しています。ちなみに、朝晩の食事は寮でとなりますが、こちらも学食と同じ形式とする予定です」

「おっふ、結構いきそう」

 値段を聞いた瑞穂が思わず声を出した。

 それを見ていた彰弘は、瑞穂と香澄の両親に一度目を向けてから話し出す。

「その程度ならどうにでもなるから心配するな。と言うかだな、何故自分達で稼いで支払うことを前提で話す? 今ここには六花と紫苑の保護者と、瑞穂と香澄の両親がいるんだぞ」

「彰弘さんの言う通りですよ。自分で稼ぐということは大事なことだ。でもね、目の前にいるのに頼られもしないというのは、少し悲しいね」

「そうよ。私も正二さんも働くところは決まっています。娘の食事代くらいは出せるのよ?」

 彰弘、そして正二と瑞希の言葉を聞いた四人の少女達は一様に目を開き、そして俯いた。

 その様子に、伝え方が悪かったか? そんなことを考え彰弘は声をかける。

「そう俯くな。別に責めている訳じゃない。学園に通う娘が食事代のことを気にしてその学園生活に支障をきたす、そんなのは保護者として親として受け入れがたいんだ。まあ正直、頼られたいという気持ちもあるんだよ」

 正二と瑞希は、彰弘の言葉に頷き自分達の娘二人を見る。

「とりあえず、折衷案だ。ギルドで依頼を受けることも金を稼ぐことも止めはしない。ただし、食事代を俺達から受け取ること。もし足りなかったら、そのときは自分達で稼いだ金から出す。後は、そうだな……足りなかったことは次に食事代を渡されるときに必ず言うこと。これでどうだ?」

 彰弘の言葉を受けた少女達は「それなら」や「うん」といった短い言葉でお互いに頷き合い、それぞれの保護者と親へと笑顔を見せた。

 それを受けた正二と瑞希も、そして提案した彰弘も娘達へ笑顔を返したのである。

 彰弘達のやり取りを見ていたラウンとアシナは綻ばせた顔を見合わせる。

 二人の常識では働いて稼ぐと言った子供を止めるようなことはしない。十五歳で成人し税金も自分で払う必要があるので、早い内から働き稼ぐことを覚えるのは悪いことではなく、むしろ好ましいことだからだ。

 しかし、親である彰弘達の気持ちも分からないでもない。自分の子供に頼りにされたいという気持ちは大抵の親が持っている欲求だろう。今回は金銭が絡んでいるので少し分かり難くなっているが、『学園での食事にお金がかかる。どうしよう』の段階で、親としては相談なり何なりで頼ってもらいたいのである。その結果、親が金を出すか、子供が自分で稼いで支払いをするかは重要ではないのだ。

 一方の少女達の気持ちも理解できる。自分達でもこれくらいはできる、自分達でできるであろうことで親に負担をかけたくない、そんな欲求が少女達の心にあったのである。

 学園という場所に勤め、それ以外の大抵の人よりは多くの家族に接してきた二人は、親の子供に対する欲求と、子供の親に対する欲求をある程度理解できたのである。

 二人が顔を綻ばせたのは、その理解をした上で両者の仲が良好だと見て取ったからであった。









 昼食後の話し合いの最中に、その時間の終わりを告げる鐘の音は鳴っていた。

 彰弘達がその事実に気付いたのは、食堂で後片付けを始めた職員の一人が親切にも声をかけてくれたからである。

「何て失態」

 アシナはそう言いつつ、急いで食器を回収用のカウンターへ運び、彰弘達にもそれを促した。

「次に参観する授業の先生には私から説明しますよ」

 急ぐアシナと彰弘達に、副学園長であるラウンは立ち上がりながら告げる。

「ですが……」

「親子にとっての重要な場面の一つだったのです。仕方ありません。大丈夫ですよ、まだ授業は始まったばかりです。参観の目的は十分果たせます」

 食器を返した彰弘達はラウンの下へ戻り、そして頭を下げた。

「すみません。話が長くなりました」

 代表して彰弘が謝罪の言葉を出す。

 しかし、それに対してラウンは首を横に振り「私の話の方が長かったですから」と苦笑した。

「それはともかく、行きましょうか。次に参観する授業が行われる場所までは数分の距離ですが、急ぐに越したことはありません」

 ラウンはそう言うと、学食の出口へと向かい歩き出した。アシナがその後に続き、彰弘達も移動を開始する。

 食事をする者が居なくなった学食を足早に出た彰弘達は、第一学年の一クラスが魔法の実技を行う学園内の訓練場へと向かうのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。


 2-18.に文章追加

 二〇一五年 十二月十二日 十一時 五分 文章追加


 なお、元地球人だった子供の一部は入学可能年齢に『特別な場合』が適用される。現時点で元の日本で言う中学校を卒業していない子供については、再来年までライズサンク皇国に存在する各学園への入学が認められているのであった。


※瑞穂と香澄の年齢が今年で十四となるのに、入学を一年先延ばしにできると発現してしまった、彰弘の言葉に対する追記です。

 なお、話の内容にはまったく関係ない模様。



二〇一五年 十二月十五日 二十一時五十六分 誤字修正

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