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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
3.グラスウェル
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3-14.

 グラスウェル魔法学園へ向かう道すがら昨日のことを気にするガイを普通の状態に戻す。

 そんなこんなで道を進み後少しで学園というところで、冒険者ギルドで少女達が相対したミレイヌとバラサと遭遇。

 二人からの謝罪を受け、ついでに助言も受けて、そしてようやく学園の前まで彰弘達は辿り着くのであった。




 彰弘達がグラスウェル魔法学園の校門に併設された守衛所の前で待つこと少し、校舎の一つから二人の人物が出てきた。一人は事前に聞かされていた学園見学の対象者が来たことを知らせに行った守衛。もう一人は学園見学の案内役を務めることとなる人物である。

「どうやら戻ってきたようです」

 待ち時間の間、彰弘達の相手を務めていた守衛は、そう言うと校舎の出入り口へと顔を向けた。

 それに釣られるように彰弘達も校舎の方を見る。

 そして、そんな彰弘達へと、守衛はほんの数分前に口にしたことをもう一度繰り返した。

「念のため、もう一度言いますが、ここから先は学園の見学をされる方だけしか入れません。ご了承ください」

「分かってる。学園の案内役に挨拶したら一度帰るさ」

 守衛の言葉に、ここまでの案内役の一人であるガイはそう返すと、歩いて近付いてくる二人の人物へと再び顔を向ける。

 そんなやり取りをしている内に、校舎から出てきた二人の人物は彰弘達の下へと辿り着いた。

「はじめまして。私は今回の案内役を務める第一学年学年主任のアシナ・ファクルと申します。よろしくお願いします」

 彰弘達の下へ到着した内の一人、四十前後の女がそう言って会釈をする。

 それに対する彰弘達がアシナへ返す挨拶は、ほんの少しだけ遅れた。

 アシナは青色の髪をセミロングにしている。それについては融合した後の世界では珍しいことではない。ただ、顔立ちとかけている眼鏡の縦幅が狭いことが相まって、彰弘達は初見で彼女のことをキツそうな正確だと考えた。しかし、そう考えた直後の挨拶では、微塵もそんなことを感じさせなかったのである。つまり、初見と挨拶のときでの彼女の印象が大きく違ったことに内心驚き、対応が遅れたのであった、

 ともあれ、挨拶を済ませた彰弘達は、街の外での護衛役兼街の中での案内役のガイ達と一旦別れ、アシナの案内で学園見学へと向かうことになったのである。









 アシナの案内で校舎に入った彰弘達は、校舎の最上階である四階にある学園長室へと向かっていた。

 校舎の造りは六花達が通っていたような元日本の学校に似ている。違いは校舎の中に入るのに上履きに履き替えることがないくらいである。

 なお、グラスウェル魔法学園の校舎は元リルヴァーナ側のものとしては背の高い建築物と言ってよい。魔物の存在や過去にあった戦争などの影響で、元の地球のような高層建築物は極一部の例外を除いて建てられることがなかったのである。

 さて、建物の高さはともかくとして、アシナの案内で校舎の階段を昇り最初の目的地となる部屋の前へと辿り着いた彰弘達は、そこで一度足を止めた。

「ここが学園長室となります。皆さんには、まず当学園の学園長であるルスターと会っていただき、その後実際に学園の案内に移りたいと思います」

 彰弘達へと向き直ったアシナはそう言うと学園長室の扉をノックし、扉越しに学園見学の対象者が訪れたことを告げる。すると、その言葉には即答えが返ってきた。

「どうやら、お待ちかねだったようです」

 彰弘達へと向き直ったアシナは困ったような笑みを浮かべる。

 そして、その顔のまま扉へ再度向き合い、「失礼します」と一言扉の向こうへ告げて、学園長室の扉を押して開いた。

 アシナに促され学園長室に入った彰弘達を出迎えたのは、六十台半ばに見える灰色の髪を後ろへと撫で付けた中肉中背の男である。

「ようこそ、グラスウェル魔法学園へ。私は当学園の学園長を務めるルスター・ウルグラと申します」

 学園長であるルスターは、満面の笑みで彰弘達を迎え入れたのであった。









 学園長室と扉続きとなっている応接室に場所を移した彰弘達は、学園長であるルスター自らの学園説明を受けていた。

 その内容に突飛なものはない。ルスターからの学園の説明は、基本全て避難拠点の職業斡旋所内に設けられた各学園の紹介ブースで配られていたパンフレットに載っていたことであった。


 まず入学試験だが、これはグラスウェルにあるどの学園も一緒で毎年二月と三月の初旬に行われる。二回の試験がある理由はグラスウェルにある学園に通おうとする子供は何もグラスウェルに住んでいる者ばかりではないからだ。一回目の試験を何らかの理由で逃がしたとしても、二回目の試験を受けることができる、所謂他の街からくる受験生への配慮であった。

 元の日本であれば間に合わないのが悪いとなりかねないが、それでも大雪などで交通機関に影響が出た場合は、そのことが考慮され試験時間が繰り下げられることがある。グラスウェルの学園の場合も、言ってみればそれと同じようなものである。


 次に第一学年、つまり初年度になるが、この年は座学が七の実技が三という割合で、魔法の基礎的なことから魔法や魔力を使う様々な事柄について学ぶ。他には元日本にもあったような国語や社会、算数などの教育課程もある。

 なお、この第一学年では入学試験の成績によりクラス分けが行われる。その実力に多きな差がある者同士が同じ内容の授業を受けることはそれぞれの者にとって良い結果と生み出さないことが過去の事例から分かっているからだ。そのため、グラスウェル魔法学園では試験結果の内容によりA・B・C・D・Eとクラスを分けることとなっていた。

 クラスを実力で分けることについては、そのせいで差別が生まれるのではないかと考える者もいるのだが、それについては『学園マギカ』の存在があるため、皆無であった。自分より魔法の実力が劣るという内容での差別は「そんなこと言うならマギカへ行けよ」で一蹴されるからだ。今現在のグラスウェル魔法学園は、魔法や魔力を使う職への登竜門という意味合いが強いのである。

 ちなみに、クラスごとの授業の違いは実技のみで座学については共通となっていた。


 第二学年となると座学と実技の割合は半々、加えて初年度と違い生徒それぞれが目指す職に向けての教育課程となる。例えば魔導具の作成に携わりたい者は魔導回路の基礎知識のような、それを成すために最低限必要な教育を受けるのだ。


 そして第三学年では実技の割合が七割を超える。魔導具作成を目指す者は丸一日魔導回路を練習用の基盤へ刻む。冒険者となる者は防壁の外で過ごしたりもする。とどのつまり、最後の一年は実際にその職についたときと同じような内容を教師監督の下で行うのである。


 このように学年によりその教育課程が大きく変わるグラスウェル魔法学園は、ただ教育を受けるだけで進級したり卒業することはできない。第一学年と第二学年では、その年の十二月に進級試験があり、それに合格しなければ留年、または退学となる。第三学年も同じ時期に卒業試験が行われる。

 初年度の試験は比較的簡単で入学時より魔法技術が少しでも上がっていれば進級できる。第二学年から第三学年になるための試験は、それぞれが進む職の理解度が必要だ。そして卒業するための試験は、その職に入るための最低限の実力が必要となる。

 入学時の年齢を考えると卒業条件に厳しい面があるかもしれないが、これが現在の世界にある学園の一般的な姿であった。

 余談だが、世界の融合があったことでグラスウェル魔法学園の教育課程から、と言うか全世界の教育機関からなくなった教育課程がある。それは、外国語に関するものだ。言語の統一が起こったため、完全に不要となったのである。









 一通りの説明を終えたルスターは緑茶で喉を潤すと壁にかけられている絵に目をやり、それから再び口を開いた。

「まだ時間があるし、何か質問があればお答えします。何かありますか?」

 彰弘達はその言葉に顔を見合わせる。

 ルスターの言葉は学園についてのことだと彰弘達は理解はしていた。しかし、そのときに浮かんだ疑問は「何故に絵を見てその言葉なのか?」という、学園のこととは全く関係ないものであった。

「何故、今絵を? っと失礼。学園のことではなく申し訳ないですが……」

 彰弘は思わず声を出していた。

 一瞬の間の後、ルスターは理解を笑みと共に顔に浮かべる。

「ああ、あれは言ってみれば時計です。左の水平線に太陽があるときが朝第一の鐘が鳴る時刻、そして右の水平線に太陽があるときが夜第二の鐘が鳴る時刻。ちなみに、夜には月が浮かびます。まあ、それで、今現在はあの鳥がいる少し左側に太陽がありますので、お子さん達に授業を見学してもらうまで、まだ少し時間があると分かる訳です」

 ルスターのその説明に、彰弘達は口を揃えて「おお」と声を出し、時計と言われた絵に目を向けた。

 どこかの海岸を模写したようなその絵は、一枚の絵画として見ても違和感はない。それが時計の役割を持っているのだから、なかなかに驚きであった。

「実はあの時計はここの卒業生の作品なんですよ。十年以上前ですが、絵描きになりたいが魔導具にも興味があるという生徒がいましてね。その子が卒業した後、暫くしてから贈ってくれたものなんです。魔導具ですから魔石を使わないといけませんが、絵画としても良い物なのでこうして飾っているのです。ちなみに、学園長室にも同じ生徒だった子の作品が飾ってありますよ。そちらはこの学園を校門から見た状態を描いたものですが、これも時計の機能を持っています。是非、見ていってください」

 彰弘は自分の記憶を探り、ルスターの言う絵のことを思い出す。

 その絵画兼時計は、学園長の机から一番良く見える位置に飾られていた。少しの間しか学園長室には居なかったため、位置は気にせずよくできた絵としか思わなかったが、なるほど時計でもあるからあの位置に飾られてたのかと彰弘は納得した。

 時計の機能を持つ絵画を食い入るように見る少女達の姿に笑みを深くしたルスターは時計についてさらに話す。

「一般の方はほとんど時計を使わないですから……仮に使っていても砂時計くらいのものでしょう」

 確かに現在泊まっている宿屋の『遊休』も、避難拠点の大食堂にも大きさの違いはあれど、あったのは砂時計であった。そのことを頭に浮かべた彰弘は頷くことでルスターへ返した。

「それで十分だと私は思います。あなた方からしたら緩いと感じるかもしれませんが、ヘタに時間をきっちり決めて物事をやろうとすると焦りからつまらないミスを犯すことがあります。実際、過去にはそれが原因で取り返しのできない事態一歩手前まで陥ったことがあるようです」

 そこまで言ったルスターは緑茶を一口飲んでから、「神話レベルの昔ですが」と付け加えた。

 そして、さらに続ける。

「もっとも、ある程度時間通りに動かなければならないのも理解しています。学園の授業時間もそうですね。延々と授業を受けさせても効率は良くない、かと言って、授業の終わり間際に受けに来ても、それも意味はない。まあ、何事もほどほどが一番ということでしょう。ああ、そうです時計と言えばですね……」

「学園長、時計と時間の話はその辺りで。肝心な学園についての質問疑問をお聞きしていません」

 いつの間にか学園とは直接関係ないものと脱線していった話を、それまで黙っていたアシナが遮った。その言葉と眼鏡の位置を調整する動きをする彼女に、本来の話題を思い出したルスターは居住まいを正してから声を出す。

「む? 申し訳ない。どうです、何かありますか?」

 その声に暫し黙考する彰弘達。やがて、紫苑が小さく手を上げてから質問を口にした。

「第一学年でのクラス分けについて質問です。試験結果によりクラスが分けられるとのことですが、それは絶対でしょうか? 例えばAクラス相当の実力を持った者が、それ以下のクラスに入ることは可能でしょうか。後、身分の貴賎はクラス分けに影響を及ぼしますか?」

 紫苑のその質問に、ルスターは顎を撫でながら黙考してから言葉を返す。

「とりあえず、後半の質問については答えましょう。貴賎はクラス分けの判断材料にはならない。平民だろうが貴族だろうが、学園に入った時点でその扱いは同じです。もっとも、我々も人ですから誤ることがあります。そのときは、目安箱へ意見を入れてください」

 ルスターは一息つくと、紫苑が前半に言ったことに対して確認を行う。

「前半部分の質問ですが、何故そのようなことを聞くのか教えてもらってもいいですか?」

「何かの目的があっての確認ではなく、何かあったときのための指針としたいだけですので、現時点で学園長へと正確に答えを返すことはできません」

 自分の目を真っ直ぐに見て言葉を話す紫苑に、ルスターはまた黙考を始めた。


 第一学年のクラス分けは基本試験当日の結果のみで行う。基本というのは、試験当日明らかに体調不良と分かる者に関しては、後日再試験を受けさせる可能性があるからだ。故に試験結果のみでクラス分けを行うと説明することは間違いではない。

 試験結果と違うクラスへというのは認めていない。上下関係なく、それを許すとそこから綻びが出てくるのは様々な歴史が物語っている。学園のクラスくらいで大げさな、と言う者もいるだろうが、これに関して大小は関係ない。外から見た者が大げさだと言ったとしても、それが内にいる者にも適用されるとは限らないのだ。物事に対して柔軟性は必要だが、間違った方向方法での柔軟性は、文字通り間違っているのである。


 ルスターは思考は僅かな間であった。質問をしてきた紫苑がどのような意図であったかは考え付かなかったが、自分のところに入って来ている情報を吟味して学園の方針をそのまま伝えれば問題はないとの結論に至った。

「前半部分の質問に答えましょう。クラス分けは試験結果のみで決定されます。この試験結果とは、二月と三月の試験、それとは別にその当日、明らかに調子が悪いと判断した者への再試験の結果のことです。再試験時にも体調不良は、いくらなんでも考慮できませんので注意してください。後、試験結果と違うクラスへ入ることは認めていません。これは下へだろうが上へだろうが関係なく認めていません。あなたの質問への回答はこのようになりますが、いかがですか?」

「問題ありません。ありがとうございます」

 ルスターの回答に頭を下げた紫苑は、一瞬だけ自分と同じ立場にいる三人の少女へと視線を向ける。それを受けた三人は僅かに笑みを浮かべるたが、すぐに表情を元に戻した。

 そのことにルスターは気付いたが何を言えるでもなし、黙って様子を確認する。

 そうこうしている内に、この説明会が終わる時間がきたようだ。壁にかけられた絵画兼時計へと目を向けたアシナが声を出した。

「時間です。もし、何か質問があるようでしたら、お帰りの際にでも聞いてください。後日に確認したいことができたら、避難拠点に派遣されている学園関係者へと伝えていただければ、時間は少々いただきますが回答いたします」

 アシナは事務的なことを口にしてから学園長であるルスターへと顔を向ける。

「では、学園長。私はこれから子供達を連れて学園の案内と授業の見学に向かいます」

「ええ、よろしく頼みます。事前の予定通り、私は保護者の方達と金銭面などの話をしてから案内に出ましょう」

 ルスターから返しの言葉を聞いたアシナは頷いてから立ち上がり、少女達へと声をかける。

「予定では学園施設の案内を軽く行った後、魔法の基礎理論授業と武器の取り扱い授業の参観、それが終わったら学食での食事です。では、行きましょう」

 最後の言葉で六花と紫苑、そして瑞穂と香澄が立ち上がり、ルスターへ向かって一礼をする。

 その礼が終わり四人が顔を上げたころ瑞穂と香澄の弟となった正志も立ち上がった。正志は学園への入学ができる年齢でもないし、その気もなかったが、大人達だけの会話に混ざる訳にもいかないので、姉である瑞穂と香澄に付いて行くことになったのである。









 アシナに連れられて五人の子供が応接室を出て行くのを見送ったルスターは残った保護者へと声をかけた。

「なかなかに面白そう……っと、これは失礼。良さそうな子たちですね。是非とも入学してもらいたいものです」

「ふふふ。うちの娘達も残りの二人も、みんないい子ですよ」

 ルスターの言葉に、瑞穂と香澄、二人の母親となった瑞希は頬に片手を当てて嬉しそうに微笑む。

 彰弘にも、瑞希の夫となった正二にも「みんないい子」という言葉に異はない。二人の顔にも笑みが浮かんでいた。


 それから少しの間、大人四人は雑談を交わす。その後入学や学費、そして学園に通うことになった場合の諸注意などの話を交わすのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



グラスウェル魔法学園の第一学年で魔法(魔力)技術向上の実技があるのは、魔法や魔力を使う職では、どのような職でもその技術向上が直結するからである。

 当然、魔導具作成のような職の場合は、図面を描く技術も必須であることは言うまでもない。



二〇一五年 十二月十五日 二十一時五十五分 誤字修正

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