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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
3.グラスウェル
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3-01.

 紫苑の声で目を覚ました彰弘達は、境内までやって来た影虎達と国之穏姫命に関することを話し合う。

 少々、問題はあったが紫苑や影虎達と一緒来ていたセイルを除く竜の翼メンバーにより、その問題は解決と言って良い結果を迎えたのであった。




 吐き出す息が白くなる十一月半ば、彰弘は避難拠点の南門前の広場で四人の少女と談笑していた。彼と一緒にいるのは六花と紫苑、瑞穂と香澄だ。そこから少し離れた場所では瑞穂と香澄の家族と、もう二組の家族が話をしている。

 今現在、南門の広場には七人の大人と八人の子供の姿があった。この集団はこれからグラスウェルへ向かうために集まっていた。

 そんな目的で集まった十四人が、グラスウェルまでの案内人と自分達を護衛する冒険者を待つ間、それぞれで会話をしているとどこかで鐘の鳴る音が聞こえた。

「もう、そろそろかな?」

「二回目の鐘が鳴る頃、とのことでしたので恐らくは」

 八時頃を知らせる朝二回目の鐘の音を聞いた彰弘はそう声を出すと、紫苑が言葉を返し六花が頷く。瑞穂は笑いながら「このルーズさ最高!」と笑みを浮かべ、香澄にため息をつかれていた。

 この世界には元の地球のような細かい時刻を知らせる時計というものは現在存在しない。あるのは砂時計などのような大雑把に時間を計る道具だけだ。

 別に機械式時計を作る技術がないわけでも、魔導具としての時計を作る技術がないわけではない。ただ、単純に何分何秒を知る必要性がなかったのである。

 ちなみに、朝の二回と昼の一回、そして夕方から夜の二回の鐘は、国に所属する専門の担当官達が鳴らしている。彼ら彼女らは五回の時刻を知らせる専用の魔導具を用いて時を知り、それを元に鐘を鳴らしているのであった。

「まあ、のんびり待つか」

 普通の会社員であった彰弘は、未だにゆとりのある時間での生活に慣れていなかった。ただ、こういうのは悪くないと感じていのは事実だ。だからこの待ち時間は素直に少女達との会話を楽しむことにした。








 国之穏姫命と影虎を引き合わせてから一月(ひとつき)と少しが経っている。彰弘達は、そのときから今日までの間、比較的穏やかに生活をしていた。

 さて、この一月ほどをどのように彰弘達が過ごしていたのかだが、出来事としては五つほどがあった。


 まずは指輪の回収である。指輪とは竜の翼の位牌回収依頼同行中に持ち出すことを諦めた瑞穂と香澄の両親の指輪だ。結論を言うと、これは無事に回収できていた。

 彰弘からの情報による魔石回収が完了してから二日後、総管庁と冒険者ギルドにより規制されていた防壁の外に存在する家の中にある物の持ち出し規制が解除された。それを知った彰弘達は、何はなくとも瑞穂と香澄の両親の指輪の回収に向かったのである。

 そうして到着した二人の少女の両親の指輪は、ライの魔法による陣のお蔭かただの運か、その場にあり無事に回収できたのである。

 なお、彰弘が手に入れたマジックバングルという桁外れな収納量を持つ魔法の物入れがあったことから、ついでとばかりに二人の少女が住んでいた敷地にあった物は、そこに建つ家の内外に関わらず根こそぎ回収していた。ただ、流石に家自体はマジックバングルに収納するための特殊条件である『少しでも動かすこと』を満たせなかったため、回収はできなかった。

 しかし、帰りの道中で見つけたプレハブハウスはちょっとした思惑があり、少女達の魔法で地面に傾斜を作り彰弘が無理矢理動かし回収していた。

 ちなみに、六花と紫苑の家とその敷地にあった物、そして彰弘の借りていた部屋に残されていた物は全てマジックバングルへと収納されている。


 指輪を回収し避難拠点に帰還した彰弘達を待っていたのは、総管庁からの『衣服などを回収してくる』という依頼であった。回収した物は総管庁で保管され、後日中古市の形で避難者達へと分配されることになっていた。

 その依頼は受けなくても問題ない依頼だったが彰弘達は受けることにした。

 防壁外の家屋からの物品持ち出しの規制は解除されたままだ。ならば依頼のついでに指輪回収の帰り際に思いついた『融合後に親しくなった人達の物を回収して引き渡す』ということを実行するのに丁度良いと考えたのである。

 依頼を受け影虎達に住んでいた住所を聞いた彰弘達は、少女達の家や自分が借りていた部屋のときと同様に、まず知り得た住所へと向かい親しくなった人達の物品を根こそぎ回収した。その後、見知らぬ人達が住んでいた家で衣服などを回収して依頼を達成したのである。

 そんな彰弘達が『まず最初にと』行ったことに対して意見した一部の元日本人冒険者がいたが、その意見は黙殺された。回収してきた量が元日本人の中では随一であったことに加え、他の冒険者や避難者達の不利益となるものではなかったことが理由だ。もしこれが、今の世界において価値ある物を本当に片っ端から回収したとかであれば、流石にルール違反ではなくとも黙殺とはならなかっただろう。だが、彰弘達が行ったのは数万軒ある内の十軒ほどを先に回っただけだ。問題となるほどではなかったのである。

 ちなみに、彰弘がマジックバングルに収納した親しくなった人達の衣服や装飾品は早々にその人達へと渡されていた。残りの物品については一年間ほどは彰弘が保管するが、それを過ぎた場合は彼が独断で処分するということで同意していた。


 依頼を済ませた彰弘達は、その数日後避難拠点の東南東に融合した森の中にいた。冒険者となって最初の依頼である『薬草採取』を行った場所から見えたあの森である。何故、森にいるのかは位牌回収依頼同行中に竜の翼より話があった、森での依頼について、そのノウハウを教えて貰うためであった。

 しかし、これについては何とも中途半端な結果に終わった。竜の翼のメンバーはこの機に森で野宿をしなければならない場合や魔物との戦闘方法を実践で教えたかったのだが、タイミングの妙か予定の滞在期間である三日間、全く魔物と合わなかったのである。

 森の最奥へと進めば流石に魔物と遭遇するだろうと竜の翼のメンバーは考えたが、彰弘達が冒険者として活動してきた期間と自分達の経験に鑑みて、これ以上は危険と結論を出したのだ。

 そのため、結果として戦闘に関しては口頭での説明となり、中途半端に終わったのである。


 指輪の回収。冒険者ギルドの依頼。森への滞在。これらを終えた彰弘達は、その後、国之穏姫命を祀る神社で魔法の修練と神の奇跡を行使する方法を探っていた。

 もっとも、魔法の修練については只管魔力操作を行うだけであった。街中の決められた場所以外で実際に魔法を使うことは禁止されているのだから、それは当然であった。

 さて、魔法の修練はともかくとして、ある意味一番重要な神の奇跡の行使はどうなったかというと、なかなかに驚きの結果となった。影虎が僅か三日で神の奇跡を行使できるようになったのである。

 この結果に一番驚き衝撃を受けたのはミリアであった。それほど時間をかけずに習得できると口にしたミリアだったが、その時間とは数箇月単位を考えての発言であり、事によったら一年を超えるかもしれないとも考えていたのだ。

 神の奇跡は、神から加護を授かり人種(ひとしゅ)には感じにくい神属性の魔力を受け感じ取り、そして術として顕現させる。加護を授かったからといって即行使できるものではない。どれだけ早くても数箇月、遅いと一年を超える修練を必要とすることもある。それが神の奇跡の常識であった。

 実際、ミリアは信徒となってから五年ほどで加護を授かったが、神の奇跡を行使できるようになるまで、さらに半年ほどの時を修練に費やしていた。

 それが僅かに三日である。彼女が丸一日以上復活できなかったのも頷けるというものだ。

 もっとも、ミリアの心には影虎への嫉妬などはない。自らの教団の教主などに代表されるように、自分の常識を超えている者がいることは十二分に承知しているからだ。しかし、それでも衝撃的なものは衝撃的であったのである。

 なお、十一月半ば現在、国之穏姫命の魔力で神の奇跡を行使できるのは影虎唯一人である。もう少しで使えそうだというのが、影虎の配偶者である瑠璃と学習所で働くことを決めた澪、そして総管庁職員のレンだ。それ以外で国之穏姫命の加護を授かっている人達は様々な理由により難しい言えた。特に彰弘とミリアに関しては、もう一つの加護との結び付きが非常に強固なため、その可能性は難しいではなく皆無であった。


 最後の一つは彰弘が手に入れた魔石の換金と、その魔石の情報に対する報酬だ。

 魔石の換金については無事完了していた。もっとも一番最初に手に入れた八百万ゴルドを下らないとライに言われた魔石についてだけは、冒険者ギルドに買い取ってもらうのに時間が多少かかった。流石にその額となると持ち込まれたからといって、即買取ができるわけではなかったのだ。

 ともかく、このような感じで自分達で使う分を残して、魔石の換金は完了していた。

 さて、一方の魔石の情報に対する報酬だが、これはまだ支払われていない。その理由は回収できた魔石の量が想像を遙かに超えていたことにより、報酬額が比例して上がったことにある。

 避難拠点の総管庁支部に割り当てられている予算は相当な額であり、上がった報酬額を支払っても問題は起きないと試算されてはいるのだが、業務の補佐として入っている一部の貴族から「支払う額としてどうなのか?」という議論が持ち上がったのだ。

 支部長であるケイゴ、そしてその補佐であるレイルは、心情的に何よりその立場から既に決めたことを覆すわけにはいかない。しかし、支部長権限で貴族の言い分を完全に無視し支払いを行うのは、後々のことを考えると面倒になる。そんな状態なため、未だ彰弘へと報酬は支払われていなかった。

 なお、レンから内緒ですけどと前置きされて、このことを知らされた彰弘は「二人の頑張りに期待する」と、あっさりと流していた。しばらく生活するには困らないだけの金額が手元にあり、尚且つ今後も稼げる目算ができている。ついでに言うと、総管庁の内部事情などが分かるわけでもない。彰弘としては、そう返すしかなかったのである。









 朝二回目の鐘が鳴り、そこから数分ほど経った頃に案内人である一組の男女が避難拠点の南門前広場へと姿を現した。

 この二人は今日グラスウェルへ向かう彰弘を除く大人達が就職する先の採用担当である。

 男の方は適度な長さの藍色の髪を後ろに撫でつけており、女の方は肩口までの金色の髪をストレートに下ろしている。

「おはようございます。みなさん、お早いですね」

「おはようございます」

 広場に到着した男女は挨拶の言葉を出した。

 それを受けた彰弘達は雑談をやめ声の方を向き、そして挨拶を返した。

「どうにも、まだ慣れていなくてですね」

 広場で待っていた子供を二人連れた夫婦の父親の方が、軽く笑いそう言葉を出した。

「話題の一つ二つ話す時間であれば、早くても遅くてもたいして問題ではありませんよ。仕事だとしても会社ごとに差異はありますが、大抵の場合は問題を起こさず利益を出してくれるならば、出退勤について多少の早い遅いは重要ではありません。まあ、そんなわけですから気軽にしてください」

 案内人の男はそう言うと、隣へと顔を向けた。それを受けた案内人の女は「そうですね」と笑顔で頷いたのである。

 そんな二人を見て彰弘は納得の顔をする。元異世界とはいえ、そこは企業。営利目的なのは変わらない。それを認識した故であった。

 要するに『時間には厳しくありませんがしっかり働いて稼がないと駄目ですよ』という訳だ。

「それはそうとしまして、今後の予定を再確認しましょう。よろしいですか?」

 案内人の男はそう言うと元日本人の家族を見た。

 そして、全員が頷くのを確認すると再び口を開いた。

「今日は護衛の冒険者の方達が到着したら、簡単な打ち合わせをしてからグラスウェルへ向かいます。そして、向こうへ到着したら事前に決められている宿屋へとチェックインです。今日の予定はこれだけですから、残りの時間は自由にしてください。街中を見て回るのもいいですね。その際は道中護衛をしてくれる冒険者が案内をしてくれる手筈になっています」

 案内人の男はそこまで話して口を閉じる。

 続けて案内人の女が口を開いた。

「注意事項です。まずここからグラスウェルまでの距離は一キロメートルほどと長くはありませんが、まだ防壁はできていません。そのため、十分な注意が必要となります。もし、何かあった場合は必ず護衛の方の言うことを聞いて行動してください。自分勝手に逃げたりすると助かる命も助かりません」

 一度、言葉を切った案内人の女は真面目に話しを聞いている一同に微笑み、言葉を続けた。

「続いて街中での注意ですが、こちらも護衛の方の言うことを聞いて行動してください。あなた方が過ごしていた街と違いはあると思います。ですが、それが普通の場合があります。勝手な行動と判断はいらぬトラブルを起こすと承知しておいてください」

 注意事項が終わると再び案内人の男が話し出した。

「彼女が言った注意事項は守ってくださいね。それでは二日目ですが、明日も自由にしてもらって構いません。今日と同様に護衛の冒険者の方が案内をしてくれます。続いて三日目ですが、就職する方はそれぞれの会社に来てもらいます。私達が宿屋へと向かえに行きますので、それまでは待っていてください。なお、事前に言ってありますが、お子さんも一緒で構いません。それで……」

 と、そこまで言い、案内人の男は彰弘へと顔を向けた。

「ああ、気にせず。適当に過ごすさ」

 今の彰弘ならば時間の使い道はいくらでもあった。ただ街を散策してもいいし、冒険者ギルドで鍛錬をしてもいい。図書館へ行って知識を求めてもいいし、神殿巡りをしてもいい。ともかく、時間はいくらあっても現状足りていないのであった。

「はい、わかりました。それで四日目ですが、またまた自由時間です。そして五日目ですが、この避難拠点へと戻ってきます。とりあえずは、このようなところです。何か質問はございますか?」

 案内人の男は話を聞いていた面々の顔を順に見ていき、質問はないようだと判断した。

「はい、ないようですね。では、少しだけこのままお待ちください。冒険者の方々には少しだけ遅く来るように伝えていましたから……と、来たようですね」

 案内人の男はそう言って、避難拠点の南門から続く主街道の向こうへ目を向けた。その先にいたのは、武装をした数人の男女の姿であった。

お読みいただき、ありがとうございます。



二〇一五年 八月二十三日 十七時三十分 2-46.に文章追加。

・神域認定の流れなどのやり取りを追加

 最後の方のミリアの台詞「と言うことですので、事が成せるように協力いたします」以降へ文章を大幅追加。

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