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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
2.避難拠点での生活と冒険者
60/265

2-45.

 避難拠点に帰還した彰弘達はそれぞれの目的を持って、それぞれの場所へ脚を運んだ。

 そんな中の彰弘はセイルとレンと共に国之穏姫命を乗せた荷車を引いて総管庁庁舎へ辿りつく。

 そして、そこで国之穏姫命の要望を総管庁の避難拠点支部長のケイゴとその補佐のレイルへと話すのであった。




 総管庁の庁舎で一夜を過ごした彰弘達は、国之穏姫命が最適と選んだ場所へと来ていた。その場所は神社が建つ丘ごと元に戻しても問題ないと、昨日総管庁から示された三つの候補地の内の一カ所であった。

「ここか?」

「そうじゃ」

「そうか」

 国之穏姫命に場所の確認をした彰弘は目的地をジッと見つめた。ここに到着するまでに他の候補地の近くを通ったが、こことの違いは何なのか? それが気になったのである。

「アキヒロ達では分からんと思うが、他よりちょっとだけ、わらわにとってバランスが良いのじゃ」

 彰弘の顔を見た国之穏姫命はその場所を選んだ理由を口にした。

 そう、その場所はあくまで国之穏姫命にとって他の候補地より少しだけ土地の状態が良かったのである。別に他の候補地に欠点があったり、他の候補地に悪い部分があるわけではなく、あくまで国之穏姫命にとって良い場所であったというだけである。

 少しの間、その場を注視した彰弘だったがさっぱり分からないと首を振ると、先に進めるための言葉を口にした。

「まあ、いいとしようか。で、どうしたらいい? 荷車から降ろさないと駄目だろうし、どの場所に降ろそうか」

 その彰弘の言葉には当然ながら国之穏姫命が答える。

「とりあえず、あの杭の辺りじゃな、そこに降ろしてくれればいいのじゃ」

 その国之穏姫命の答えを聞いた彰弘は、六花と紫苑をその場に待機させ、レンと一緒に杭が出ている場所まで移動した。

「うむ、ここで良いのじゃ。特に問題はないと思うが、二人とも六花と紫苑のいる場所まで下がるのじゃ」

 彰弘とレンが協力して荷車からミニチュアとなった神社及びその周辺の土地を完全に地面へと降ろすと、そんな国之穏姫命の声が聞こえてきた。

 二人はその言葉を聞くと空になった荷車を引いて少女二人の下に戻る。そして、四人で国之穏姫命がいる場所を見つめた。

 しばらく、見ていると景色がいきなり変わった。避難拠点の外でと同様に何の前兆もなかった。比喩ではなく、いきなり小高い丘が現れていた。

「また……分からなかった、です」

 六花が地面に膝と両掌を付いてうなだれた。

 紫苑も悔しそうにしている。

「これが神の力なんですかね?」

「その一つではあるんだろうな。前兆もないし本当に一瞬の変化だしな」

 人生経験の違いか大人二人の反応は少女達に比べると、あっさりとしている。

「さて、行こうか。遅くなると穏姫が拗ねそうだ」

「むぅ、次こそは必ず」

 立ち上がった六花は膝小僧と掌に付いた土を払いながら、次に同様の現象が起きたときのために闘志を燃やす。

「神の力とは言え、何かあるはず。精進しなければ……」

 紫苑の目にも力強い炎が宿っていた。

 そんな少女二人の様子に彰弘とレンはお互い顔を見合わせた。そして軽く笑みを浮かべ合う。

「とりあえず、行こうか。神様が待ちきれなくて手を振ってるからな」

 彰弘は少女二人を横目で見ながら石階段の上へと視線を向けて、そう言葉を発した。

 その言葉に六花と紫苑、そしてレンは目の前に現れていた境内へと続く石階段を見上げる。その先には、彰弘が言う通り元気良く両手を振る国之穏姫命の姿があった。









 社の縁側に腰を下ろしたレンが書類を見ながら魔石の情報についての報酬に関して説明をしていた。

 それを聞いているのは彰弘と国之穏姫命だけだ。

 六花と紫苑は少し前に影虎を呼びにいったため、今はこの場にはいない。

「魔石の情報についての報酬などに関してはこのくらいですね。情報の価値が確定しないと報酬は支払えないので暫くはお待ちください。そこはご了承いただけたらと……」

 レンの説明に彰弘は頷いた。

 総管庁などの国家組織の場合、通常であれば情報の価値が確定した時点で予め決められている固定額の中から相応の金額が報酬として情報提供者へと支払われる。

 しかし、今回総管庁は固定額から選ぶのではなく、取得した魔石の五パーセントに相当する額を情報の報酬として彰弘へ支払うことを提案していた。

 当然、報酬は固定額で支払うべきとの声もあった。ただ、今回の場合は過去に例がない事態であることに加え、魔石の量により情報の価値に天地の開きができるため、へたに固定額に拘りそれを押し通してしまうと、情報に対しての報酬の低さ故の問題が発生する恐れがあった。

 例えば『情報の価値に対してあまりにも報酬が低いのではないか』などと指摘されたりといったものがそれだ。

 そして、このようなことが表に浮かんでくると、世界の融合についての諸々が済んだ後で、報酬についての正当性を審議されることになりかねない。そして、もし審議され不当と判断された場合、本来支払うべきとされた報酬額――審議の場で改めて計算される――に足りていない額を情報提供者へ支払わねばならないだけでなく、追加の報償までも支払う必要が出てきてしまうのだ。

 少々、話が脱線したが、このような理由から彰弘への報酬は割合で計算された額を支払うという算段になったのである。

 もっとも、レイルが言っていたように現状を考えると少々安めの割合であることは否定できない。しかし、当事者である彰弘が納得していることと、固定額より多い報酬額が確定的であるため、大きな問題にはならないはずであった。

 なお、ここで言う総管庁とはグラスウェルの北の避難拠点支部のことであり、他は含まれていない。今現在では連絡をするとしても、グラスウェルにある支部にしか連絡はできない。しかし、それでも避難拠点内でまず事を済ませるのとグラスウェルまで伝えた後で事を済ませるのでは、その煩雑さに雲泥の差が出るのである。そのため、できるだけ煩雑にならない方法で事態を進めるために、まずはこの避難拠点支部内だけで行動を起こし結果を確定させてから、別の支部へ報告すべきとなったのである。

 ちなみに、この総管庁避難拠点支部の施策は、割合計算となった彰弘へ支払われる報酬が少なくなるものであった。しかし、避難拠点支部だけで考えても相当な金額になることが予想できたし、仮に情報料がゼロであっても彰弘にとっては痛手とはならないため、それに対して異議を口にすることはなかったのである。

「元々、もらう予定になかったものだからな。面倒にならなきゃそっちに任せとくよ。それにしても悪かったなレンさん」

「何がですか?」

 頷いた後で謝罪をする彰弘へと、書類を閉じたレンは聞き返した。

「だって、昨日の内に領主の館とやらへ行って何やらやって、それで今日も早朝から仕事だろ? 悪いことしたなと思ってさ」

 確かに彰弘の言葉がなければ、レンが領主の館へと行くことはなかったかもしれないし、今日早朝から活動しここで報酬の説明などをすることもなかったかもしれなかった。

 しかし、レンは軽く笑うと「気にしないでください」と言ってから言葉を続けた。

「今回は領主の館に行ったと言っても、簡単な報告書を預けてきただけです。それに、確かに休みは先送りになりましたが、将来を考えたら凄い有益なんですよ。ここの支部で決まっていなかった各教団関係の担当に即日で指名されたのは驚きでしたが、大物貴族や教団関係者と知り合える可能性は格段に上がったんですから。まあ、その分面倒も多くあるわけですが、総合的に見ると良かったと言えるんです」

 総管庁の避難拠点支部で働く職員は、その大多数が元日本人である。当然、元サンク王国側の職員もいるのだが、その人達は元日本人の職員と同様にライズサンク皇国の通常の行政のため避難拠点支部で働いている。そのため、少々特殊で人を選ぶ本来ならまだまだ関係を持つことはないであろう各教団が関わる業務については、支部長であるケイゴが片手間で行っていたのだ。

 しかし、レンから報告を受けた国之穏姫命の件でまだまだと言ってはいられなくなり、少々特殊な人選が必要な教団関係の担当を早急に選ぶ必要が出てきた。とは言っても後で決めることとなっていた担当は、そうそう見つかる訳がない。そのため、彰弘と魔石や国之穏姫命のことで話している最中も秘かに悩んでいた。悩んでいたのだが、その話し合いの最中にケイゴは彰弘から有益な情報を得ることができた。それがあって、白羽の矢がレンへと立てられたのである。

 ちなみに、称号に関しては個人情報と言えなくもない。しかし、広く開示するものではないとはいえ、世界の法則で隠せるものではない――必ず一つは身分証へ表示される――ことも事実。やたらと吹聴するでもなければ、責められることはないのであった。

「ああ、でも、お願いはあるんです」

 レンは一通り話した後、一拍置いてそう声を出した。

「何だ? 気にするなと言われたが、負い目は感じるからな。できることであれば受ける」

「今、何かある訳ではありませんが、何かあったら手助けをして欲しいんです。何せいろいろと特殊らしくて、貰った資料だけではよく分からないんですよ。特に各教団との付き合い方とか」

 一瞬、目を大きくした彰弘だったが、それを元に戻して口を開く。

「レンさん……分かってるとは思うんだが、俺がそれを知っている訳ないだろ。辛うじてメアルリアの破壊神については知っているが、それ以外は何も知らないのと同じだぞ。まあ、でもそうだな、穏姫との交渉はやってもいい。後はミリアやサティに頼んでみようか。少なくとも俺よりはマシなはずだ」

 そこまで口に出してから「二人に関してはいいネタもあることだし」と心で呟く。

「レンよ、わらわのことは別にアキヒロに頼むことはないのじゃ。伊達や酔狂でお主を含むあの場にいた者へ加護をあげたわけではないぞ。だから、どんと相談してくれていいのじゃぞ? 何だったら、他の神にちょこっと聞くくらいはするのじゃ」

 今まで自分に関係ないと我慢で無言を通してきた国之穏姫命が会話に口を挟んできた。

 なお、「伊達や酔狂で……」のところで、彰弘が向けたジト目は国之穏姫命に無視された。

 だからと言う訳ではないが、彰弘はジト目に続けて国之穏姫命が口にした内容に突っ込みを入れる。

「いいのかよ、それは……」

「そう頻繁でなければ神託の形を取れる……らしいのじゃ」

 呆れが混じった声で突っ込む彰弘に、少々不安を含んだ言葉で国之穏姫命は言葉を返した。

 その様子を見ていたレンは、国之穏姫命に向き直ると笑みを浮かべて声を出す。

「ありがとうございます、穏姫さん。そのときはお願いしますね」

「んむ。任せるのじゃ!」

 先ほどの声とは裏腹に国之穏姫命は元気一杯自信満々にレンへと返す。どうやら、自分の言葉を受け入れ頼ると言ってくれたことが心底嬉しいようであった。

 レンにしても、それまで相手が神であるとかのいろいろな理由で一歩引いていた感があったが、国之穏姫命に感化されたのか、今の彼は吹っ切れたような顔をして笑みを浮かべている。

「あ、雑談でも何でもいいのじゃぞ?」

 思わずといった感じで国之穏姫命が言葉を付け加えた。

 それに対してレンは、一度目を見開いたが笑みを浮かべてから「はい」と返していた。

 そんな一柱と一人を見て彰弘は顔を綻ばせた。破壊神であるアンヌの言葉と記憶の一部から、国之穏姫命とレンの今の関係が喜ばしいことであると再認識したからである。

 神の名を持つ加護は人種(ひとしゅ)にとっては当然であるが、神自身にとっても特別である。何故ならば、自らの名を持つ加護を与えるということは、単純にその人種(ひとしゅ)を気に入ったというだけでなく、語り合いたい対象であるからだ。

 神と成ったばかりの国之穏姫命も例外ではない。故に国之穏姫命はレンの態度に喜びを素直に表したのである。









 この後、しばらくの間、一柱と二人は雑談に花を咲かす。

 避難拠点の一ヵ所で復元された小高い丘に建つ神社には、とても穏やかな風が流れていた。

お読みいただき、ありがとうございます。


 二〇一五年 八月十日 2-44話に追記しています。

 ・総管庁から彰弘へ支払う魔石の情報に対する報酬について追記(中盤あたり)



二〇一六年 二月六日 二十時五十二分 修正

誤字修正

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