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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
2.避難拠点での生活と冒険者
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2-43.

 前話あらすじ

 彰弘が戻ったことで本題である少女四人のことを国之穏姫命に確認する一行。

 諸々あったが、それも終わり二つ目の本題でもある国之穏姫命の頼みを聞くことになる。

 しかし、それはその場の面々を驚かせるものであった。



「いや、無理だろ」

「流石に……それは……」

「無理だな」

「穏姫様だけならともかく、土地ごとは……」

「頼む相手を間違えています」

 口を開けたまま呆けていた彰弘達だったが、ややあってから国之穏姫命の頼みについての答えを声に出した。

 一応、国之穏姫命の頼みについて、彰弘達はそれが可能かどうかを考えはした。しかし、当然の結果ながら誰一人として可能との結論には達しなかったのである。

 しょんぼりする国之穏姫命に向けて彰弘が口を開いた。

「別に頼みを聞きたくない訳じゃないんだ。この周辺の土地もってことは、つまり穏姫様が今現在動ける範囲をそのまま移動させるってことだろ?」

「そうじゃ」

「そうなると、最低でも境内全てを移動させる必要があるわけだ。で、これは単純な人の力でどうにかなるもんじゃない」

 それほど広くない境内とはいえ、その広さは二十メートル四方ほどある。加えて社などの建物もあり、文字通り人の単純な物理的な力でどうにかなるものではなかった。

 彰弘は言葉を続ける。

「だから、魔法的には可能かどうかを考えたんだが……、唯一思いついた方法も現状では実現不可能って結論になった」

「ちなみに、その魔法を使った方法とは?」

 魔法と言う言葉に興味を示したライが彰弘に声をかけた。

「笑うなよ?」

「笑いませんよ。私は何も思いつきませんでしたからね。純粋に興味があります」

 真剣な表情をしたライと興味深そうに自分を見る他の面々の視線を受けて、彰弘は一つ息を吐き出すと、その方法を話し始めた。

「至極シンプルな方法さ。物質化した魔力で土地ごと持ち上げる、それだけだ。ただ、この方法だと俺が十万人くらいは必要そうなんだよな」

「なるほど」

「アキヒロが言った方法はありなのか?」

 彰弘が口にした方法に頷くライに魔法には詳しくないセイルが問う。

「条件さえ揃えば可能です。ただ、現状ではアキヒロが言うように不可能です。ライズサンク皇国にノシェルとサシールの両公国を合わせても人員は足りないでしょう。それほどに魔力を物質化させ、ある程度以上の時間維持できる人は少ないのです」

 魔力の物質化とは魔力操作系の一種で、普段は常に動いている魔力を一時的に圧縮し固定する技術である。使用者の制御を離れればまた動き出すため、厳密には物質化とは言えないものであるが、便宜上そう呼ばれていた。

 さて、何故魔力操作系の一種である物質化を行える者が少ないのか? 

 一つには魔力を圧縮固定する技術は魔法を使う者に不要な技術であることが挙げられる。魔力の圧縮はともかく、固定については魔力を動かし変質させ現象を成す魔法については不要な技術だ。そのため、魔法を使う者が物質化の修練をわざわざ行うことは皆無に等しい。

 また、物質化に使われる魔力の量は同じ規模の魔法に使われる魔力と比べて遙かに大きいことや、魔力を動かすより固定する方が難度が高いことも物質化の技術を行える者が少ないことの理由であった。

「まあ、そんな訳で彼の言う方法は理論上は可能ではありますが、現状では不可能と言うことになりますね」

 そんなものかと首を傾げるセイルへと「そんなもんです」と答えたライは、そう言えばといった風に再び彰弘へと声をかけた。

「それにしてもよくそんな方法を思いつきましたね。魔力の物質化が可能だとしても、荒唐無稽すぎて普通は考えもしないことだと思いますが」

「ああ、精神世界で得た知識の中にいろいろあってな。その内の一つにあったんだ」

「その知識は羨ましい気もしますが……あなたの顔を見る限り、良いものばかりではなさそうですね」

 微妙に顔を顰めた彰弘へとライはそんな言葉を返した。

 彰弘が顔を顰めたのは、ふいに浮かび上がった延々と殺され続けた記憶のためである。そんな彼が何とか自分の頭に詰め込めたのは、破壊神であるアンヌが人種(ひとしゅ)であったときに経験した戦闘や魔法、加えてその時代の魔導具に関する知識が主であった。もっとも、それらにしても全てを記憶できたわけではない。アンヌは一千年以上生きたハーフエルフであったため、その記憶された知識も半端な量ではなかったのである。


 余談だが、彰弘はアンヌの知識からいくつかの疑問の答えを手に入れていた。

 その一つが、総管庁で確認した銃に関してだ。急激な燃焼反応はそういうものだと納得するしかなかったが、魔導具で威力のある弾を発射できないことが不思議でならなかった。しかし、アンヌの知識によりこれが分かったのである。

 結論から言うと『そういうものである』であった。

 魔導具は魔力を使い起動し動作するものであるのだが、どのような回路を用いても一定以上の力を発揮させることができないのである。これには回路としての導線の太さが関係していた。この導線は太ければ太いほど多くの魔力を流せるのだが、ある一定上になると魔力を拡散させてしまい魔導具を動かすことができなくなるのである。そのため、元地球で言うような銃は、火薬の代わりなるものがないこの世界では作ることができなかったのである。

 また、流せる魔力量と魔法の威力は比例するため、通常並の威力を持つ魔法を撃ち出す魔導具の作成もこの導線の太さが原因で作成はできない。

 ついでに言うと、金属などで作った丈夫な筒に弾を込めて、それを魔法の力で撃ち出し攻撃することもできないと言っていい。魔法で弾を筒の外へ出すことはできるが、そうするとその弾は撃ち出す力となった魔法の魔力の影響を必ず受ける。この世界では魔力の影響を受けたものは、その魔力の霧散と共に受けた影響まで消失する。つまり、弾を撃ち出せたとしても離れた場所へ攻撃可能なほどの威力を保たせることができないのだ。仮に大砲のような物を用い、最適な発射角で弾を撃ち出したとしても、一般的な魔法使いでは数メートル先までしか弾を飛ばすことはできない。費用対効果、労力と結果、魔法を使ってのそれは無駄でしかないのである。

 なお、空気銃に関しては圧縮すべきガスが抜け出ない密度で巨大なタンクに溜めておき、弾を発射する間際に一気に密閉した容器に送り込むことで、一応の銃としての性能を維持できる。しかし、溜めておくタンクの大きさ、溜めるべきガスの種類などから現実的ではない代物であった。

 他にもいろいろと分かったことはあるが、それら殆どがリルヴァーナにいた人達にとっては常識と言えるようなものであった。

 ちなみに、元地球人が行った銃の魔導具作成に関して元リルヴァーナ側の人達は、『実際に経験しなければ理解できないだろう』と知識と作成の補助を行い、その実験を見守っていたのである。


 それはさておき、国之穏姫命である。

 彰弘の荒唐無稽とも言える考えも、元はといえば国之穏姫命の言葉が原因であった。

「で、どうするよ?」

 彰弘とライの話を横で聞いていたセイルがそう口を挟んだ。その視線は若干涙目になっている国之穏姫命へと向いていた。

「一番現実的なところで考えたら……穏姫様にはこの場で待っていてもらい、防壁をここまで延ばしてもらう、くらい?」

 それまで黙っていたディアがそう呟いた。

「物質化した魔力で運ぶよりは、現実的かもしれませんが……」

 同意しつつも「何年何十年後でしょうね」とミリアが呟いた。

「うう、無理か? 無理なのか? ほんの一抱えしかないのに無理なのか?」

 つい先ほどまでは目尻に涙が溜まっていただけの国之穏姫命だったが、ついには泣き出した。

「あわわ、泣かないで穏姫様」

 いつの間にか一番近くに寄っていた六花が国之穏姫命の頭を撫でて慰める。

 残りの少女達も六花と同様に慰めに回っていた。

「ちょっと待ってください。一抱え?」

 実際の状況はともかくとして、一柱の神と四人の少女達のやり取りに何となく癒しの気分を感じていた大人達だったが、総管庁職員のレンのが出した疑問の声で我に返った。

「そんなこと言ってたか?」

 セイルはそう言うとレンへと目を向けた。

「ええ、先ほど確かに」

「言われてみれば、そうのようなことを言ってましたね」

 セイルへ返すレンの言葉にライが肯定の言葉を出した。

 大人達はお互いに顔を見合わせてから国之穏姫命へと視線を向ける。そうしてから、ミリアが代表して口を開いた。

「穏姫様。確認させてください。先ほどは一抱えと仰ったのですか?」

「そうじゃ。龍脈とかそのへんもいろいろ元の地球と変わっておっての、神々の審議の結果、わらわのような場合、その周辺の土地ごとぎゅぎゅっと圧縮して最適な場所へ移動させてから元に戻せるようになったのじゃ。一度限りじゃけどな」

「何故、最初にそれを仰っていただけなかったのですが? それを言っていただければ、もっと建設的に移動のことを考えることができたのですが……」

「すまんのじゃ。緊張ですっかり忘れていたのじゃ!」

 ミリアの確認に先ほどまでの涙は何だったのかと思わせる顔で答えた国之穏姫命に、その場にいた面々は揃ってため息をついたのであった。


 なお、国之穏姫命のような神がいない、また避難拠点の内部にある神社仏閣――いくつかの避難拠点は一部の神社仏閣を中心にして建てられている――以外は後々問題になる可能性があるとのことで、神々により地上から消されている。

 ちなみに、リルヴァーナの神殿などは元々街中に建てられているために、地球の神社仏閣などのように神々が手を出すことがなかったのである。









 国之穏姫命が移動のための圧縮術を使うとのことで、彰弘達は境内を出て階段を降り、その階段から数十メートル離れた位置まで下がり事が始まるのを待っていた。

「待ってろと言われたから、待つけどさ。いつになったら始まっていつになったら終わるんだ?」

「どうなんです?」

 なかなか始まらない国之穏姫命の術を待ちながらセイルが愚痴を零し、それを受けてライがミリアへ顔を向けた。

「私に聞かれても困ります。大体、私も穏姫様と初めて会ったのは皆と同じで昨日なのです。分かるはず……」

「あっ!?」

「なくなったー!」

 セイルとライの問いにミリアが答えている最中だった。

 六花が声を上げ、瑞穂が見たままを口にした。

 話をしていたセイル達三人は慌てて神社が建っていた小高い丘があった場所へ目を向けた。

「見逃した……」

 決定的瞬間を見逃したと、セイルの口から残念無念な声が漏れた。

 声こそ出していないがライとミリアの顔からして、その気持ちはセイルと同じであった。

「気にするな。ずっと見ていたが何がどうなったか分からない」

 話に加わっていなかったディアはそう口にした。その顔は信じられないものを見たという表情をしている。

 そして、それは声を出した少女二人とディアと同じく目を離さず小高い丘を見ていた彰弘達も同じだったようだ。

 それもそのはず、小高い丘は瞬きの間に云々というレベルの話ではなく、正に忽然と消え去ったのであった。

 そんな驚愕の中、いち早く我に返った彰弘は声を出した。

「ともかく、こうしてても仕方ない。圧縮されたものを探しに行こうか」

「まあ、アキヒロの言うとおりだな。二人共、行くぞ」

 すでに歩き出していた彰弘とそれに続く余所見をしていなかった面々のの背中を見ながら、セイルはライとミリアに声をかけ自らも動き出した。


 彰弘が歩き出して数十秒、目的の物はすぐに見つかった。

「凄い技術だな」

 それを見た彰弘は呆れたような声を出した。

 圧縮されたそれは精巧に作られたミニチュアのようであった。

 境内に繋がる石階段、鳥居、境内にあった社、周囲に生えていた植物、全てが極小の大きさになっている以外の変化は見当たらない。

 そんな感じで彰弘達が驚きを持って圧縮されたそれを見ていると、どこからともなく声が聞こえてきた。

「この大きさならどうじゃ? 運んでもらえるか?」

 声の主は国之穏姫命で、その声は圧縮された境内の真ん中から聞こえてきた。

 彰弘達が覗き込むようにして確認すると、境内でぴょんぴょん跳ねながら手を振る国之穏姫命の姿が見えた。

「何でこの大きさで普通に声が聞こえるんだよ」

 思わずといった感じで彰弘が声を出す。

 それに答えたのはレンだった。

「地球とは違うということです。研修とかで三メートルくらいある巨人の方と話したことがあるんですが、それはもう普通に会話できました。女性でしたけど野太く聞こえることもなく非常に聞き心地の良い女性らしい声でした。人種(ひとしゅ)の声は可聴域関係ないみたいですよ」

「ああ、そうなんだ」

 微妙に納得できないが、そんなものと無理矢理納得する彰弘。

 そんな二人の会話に元リルヴァーナ組みは首を傾げる。

 少女達は大人の会話を気にせずにちっちゃい国之穏姫命を興味深そうに見ていた。









 彰弘達は避難拠点へと帰る道を歩いていた。現在は国之穏姫命がいた神社と避難拠点の中間地点くらいである。

「いやぁ、近くに荷車があって助かったな」

 先ほどまで荷車を引いていたセイルが肩を回しながら、交代で荷車を引くことになった彰弘へと声をかけた。

「まったくだ。これがなかったら、また悩まなきゃいけないところだった」

 ぎりぎりで荷車に載せられている神社含む小高い丘の圧縮された物を視界に入れた彰弘はそう返す。

 圧縮されたとはいえ、神社の建っていた小高い丘だったそれは一辺が一メートル程度の容量を持っていた。そのため、国之穏姫命の言ったような一抱えとはいかなかったのである。

 なお、重量の軽減率は容量圧縮率以上であったことをここに追記しておく。

 と、このように人が持ち運べるようになった神社が建っていた小高い丘ではあるが、流石に何の道具もなく運ぶのは困難だった。そのため、とりあえず周りに何か良い物はないかと彰弘達は探し始めたのである。そんな彼らに幸運が味方したのは探し始めてすぐのことだった。最初に目に付いた家の敷地に今引いている荷車が置いてあったのである。

 彰弘達はこれ幸いと、その荷車を拝借し目的の物を載せたのであった。

「そうだ。避難拠点に運ぶのは構わないんだが、どこに運べばいいんだ? 穏姫様……ああ、いや穏姫」

 荷車を引きながら彰弘が声を出した。

 人がいるところといっても仮設住宅の真ん中で放置する訳にもいかない。そのための確認の言葉である。

 ちなみに、彰弘が国之穏姫命を呼び直したのは「様付けは他人行儀で嫌じゃ」と国之穏姫命が駄々をこねたからであった。

「うむ、それなんじゃがの、鷲塚 影虎……今で言ったらカゲトラ・ワシズカじゃな。その人物と会いたいのじゃ。こう何とも言えぬ感覚があってじゃな、わらわの本能がカゲトラに加護を与えろと言っておるのじゃ。ともかく、カゲトラじゃ、カゲトラなのじゃ!」

「そ、そうか……。まあ、それは分かった。ただ一つ言ってしておく。いきなり加護をやろうとするんじゃないぞ」

「分かっておるのじゃ。お主みたいのがそうそういるとは思わんが、しっかりかっちり見極めて他の神にも助言をもらうのじゃ。それからカゲトラの意思も確認するのじゃ」

 話す内にテンションを上げた国之穏姫命に、若干引き気味ながらも彰弘は個人的に気に入っている影虎が不幸にならないように忠告を口にした。

 そんな彰弘に意外なほどに慎重な言葉を国之穏姫命は返す。

 これには彰弘以外の面々も驚いたようで、荷車の上のミニチュアへ視線を落とした。

「わらわは本当に反省しているのじゃ。一歩間違えたら大惨事……どころじゃなかったからの。あんなのは二度と御免じゃ」

「俺の言葉は必要なかったみたいだな。影虎さんには会わせてやるから、ゆっくり荷車の旅を楽しんでてくれ」

 素直なのは言いことだな、そんなことを思いながら彰弘は反省してると口にする荷車の上の国之穏姫命へと言葉を返した。

 荷車へと視線を向けていた彰弘以外の面々の顔も、いつの間にか驚きから微笑みへと変わっていたのであった。









 こうして、道中いろいろあり過ぎであったが結果だけ見れば非常に今後の糧になる、異様に濃い内容の彰弘達の位牌回収依頼への同行と言う数日間は終えようとしていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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