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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
2.避難拠点での生活と冒険者
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2-38.

 前話あらすじ

 目的の神社の境内に入った彰弘達は、そこで声の主であった黒髪おかっぱ少女と出会う。

 その後、名がないという黒髪おかっぱ少女に名を付け、それが原因で彰弘の身体に異変が起きるのであった。

 苦しむ彰弘の身体から何かが放たれる。すると、金属を裂くような音と共に何もない空間に亀裂が走った。しかしそれは、数秒と経たずに元の何もない空間へと戻る。次に放たれた何かは地面へ向かい、その終着した場所の土を少し削り飛ばす。地面の方は元に戻らずそのままであった。

 不定期に繰り返されるそれに、その場にいた面々は愕然とした。それは世界の融合前まで日本人であった少女達やレンだけでなく、リルヴァーナで熟練の冒険者として活動していた竜の翼パーティー、そして神の一柱となった国之穏姫命くにのおだひめのみことも同様であった。

「なんだ……これは?」

 幾度となく繰り返される現象にセイルがかすれた声を出した。

 地面が削られ爆ぜるのはまだ分かる。だが、何もない空間に亀裂が走り本来見えないものが見えるこれはなんなのだ? 冒険者となってすでに十年以上、死にそうになったこともあるし、不思議な現象も幾つか経験している。しかし、そんなセイルでも今起きている現象は未知のものであった。

「まさか……そんな!? わらわは……」

 現象の原因に思い至った国之穏姫命が動揺で後ろへ一歩下がった。

「穏姫様? 何か知ってるのか?」

「わらわは、そんなつもりじゃ……」

「知ってるなら、答えてくれ! 何なんだこれは!?」

 何かを知っている様子の国之穏姫命にセイルが詰め寄ろうとする。セイル以外の面々も国之穏姫命へと注目した。しかし、それをミリアの声が止めた。

「セイルさんに皆さん、それは後です。今から私の言う指示に従ってください」

「ミリア、あなたも何か知っているのですか?」

 ミリアの静止にライが疑問を投げかける。

 しかし、ミリアはそれには答えない。厳しい表情を返したのみである。

「何が起こっているのかは想像できます。詳しくは全てが終わった後に説明します。ですから、今は指示に従ってください。急がないと手遅れになります」

 ミリアは言葉を止めて、その場にいる面々の顔を順に見る。その表情は切羽詰っていることを如実に表していた。

 皆の反応を待つ時間も惜しいとミリアは再度口を開く。

「皆さん、まず自身の身分証に穏姫様の加護が表示されているか確認をしてください」

 そこ内容に訝しげな顔をした面々だったが、ミリアの雰囲気から必要なことだとそれぞれが確認を行う。当然、ミリアも自分の身分証を確認した。

 彰弘と国之穏姫命以外の全員に加護の表示があることを確認したミリアは次の指示を出す。

「すみませんが、皆さんが持っている魔石を全部私に貸してください。それから私が言う位置へと移動してください。穏姫様はその位置から右に二メートルほど横へ移動してください。はい、そこです」

 ミリアは最初に国之穏姫命へ移動を指示し、次に魔石を受け取った順に移動すべき場所を示していった。

 そうしている内にも彰弘から放たれる何かは空間に亀裂を走らせ地面を削り飛ばす。心なしか、最初に比べると空間の亀裂と削り飛ばす地面の大きさが増している。それだけではなく、その範囲も広がっていた。

「っ!? 穏姫様、今から言う順に魔力の線で皆を繋いでください。冗談抜きで時間がありません! まず、カスミさん。次にミズホさんです。そこから……」

 焦る心を押さえ込みミリアは指示を出す。

 ミリアの指示で移動した面々は、彰弘を中心に円を描いていた。それぞれの間隔はほぼ等間隔である。

 国之穏姫命は未だ自分が起こしたことに半ば呆然としながらも、ミリアが指示するとおりに魔力を伸ばし時計回りに人と人を繋いでいく。そして、円の終着点である自分へと最後の線を結び彰弘を中心に置いた魔力よるに円を完成させた。それを待って再びミリアの指示が飛ぶ。

「次はレンさんへ魔力を伸ばしてください。レンさんの後はミズホさんです……」

 ミリアの次の指示は、国之穏姫命を起点とする魔力の五芒星を描くことであった。

 この段階でようやく国之穏姫命の顔に贖罪の決意が宿る。それに伴い、円を描いていた魔力線が魔力の行使に最も縁遠いレンにさえ視ることができるほどに濃度を増す。加えて五芒星を描く速度が飛躍的に上がった。

 途中、彰弘から放たれる何かが魔力の線に触れそれを切断するも、ミリアの鋭い声が飛び、国之穏姫命が再度繋ぎ直した。

「続いてセイルさん側から半円を描いて私まで、そしてカスミさん、次にディアさん……」

 国之穏姫命は何度も切断される魔力の線をその度に繋ぎ直しながら、今度はミリアを起点とした五芒星を描いていく。

「後はリッカさん側から半円を描いて、再び自分まで魔力の線を繋いでください」

 ミリアは反時計回りで届いた国之穏姫命の魔力が自分を起点とした五芒星を描き終わり戻ってきたのを確認し、再び反時計回りで今度は国之穏姫命自身へと魔力の線を繋げるように指示を出した。

「穏姫様、感謝します。後は全てが終わるまでその線を切らさぬようにしてください」

 二重の円とその中の正逆の五芒星を描いている魔力の線は、彰弘から放たれる何かが当たっても切断されるようなことはなくなっていた。しかし、当たればその位置の魔力が揺らぐ。連続で当たった場合、切断される恐れがあったためのミリアの言葉であった。

 何故ミリアは魔力の扱いに長けたライではなく、神である国之穏姫命に不敬とも取れる危険を犯して指示を出したのか? 単純に何らかの術を行うための補助であるならばライでも問題はなかった。しかし、これからミリアが行おうとしている術は今起こっている現象を外に出さないようにするための術である。そしてその術は、自らが信仰する神の助力を得てしか行使できない領域に属する術であった。つまり、人の魔力ではこの術を行使するには不足だったのだ。

 もっとも、ミリアが遙か高位――冒険者としてならランクS以上――に位置する実力者ならば単独で術の行使は可能であっただろう。しかし、現在のミリアはまだ人としての枠組みでの実力しかない。そのため、力ある者の助力が必要だったのである。

「これから、アキヒロさんから放たれているものを外へ出さないための障壁を彼の周りに張ります。穏姫様のお力で最低限の準備は整いました。しかし、まだ足りません。私が術を行使している間、皆は自分が守りたいと考える人やものなどを思い続けてください。それが今から行う術をより強固にします。お願いします!」

 ミリアは術の行使前にどのような術を使うのかを説明すると共に、それに必要なことを懇願した。

 少女四人は一瞬不満を顔に表した。てっきり彰弘を治すための術を行うためだと思っていたからだ。しかし、次の瞬間にはその表情を消して目を閉じた。会ってから今までいろいろと助けてくれたミリアが、神が絡んだ事象について一番詳しいと思われるミリアが言及しなかった。ということは、ミリアから見て彰弘は大丈夫だと判断したと考えたのだ。彰弘に対しての信頼もあった。付き合いの短い自分達のことを真剣に思い考えてくれた。それに、すぐにでも探しに行きたいだろう家族を探索することを、自分達が成長するまで待つと言ってくれた。そんな彰弘がこの程度でどうにかなるとは考えられなかったのだ。だから不満な顔は一瞬だけ、その後は彰弘のことや家族、友達に知り合いなどの大事な人のこと閉じた瞼の裏へと映し出した。

 少女達の表情を目にしたミリアの瞳に僅かだが罪悪感が浮かんだ。

 実際のところは彰弘がどうなるかはミリアにも分かっていなかった。何故このようなことになったのかは、彼の部屋で出会ったアイスとドーイと名乗る自らが信仰する一柱である平穏と安らぎを司る破壊神アンヌの使いから聞かされていたので理解することができた。しかし、彰弘がどうなるのかは推測すらできない状態であった。そもそもの話、いくら相性が良いと言っても(アンヌ)の魂が万分の一の欠片と言えど(彰弘)の魂と混じり同居するということは、その性質やら格やら故にありえない。当然、過去にそのような事例はない。どの文献を紐解いても、どの口伝を聞いたとしても、出てくることはないのである。そんな推測すら難しい彰弘のことを口にして、いたずらに不安を撒き散らすくらいなら、(アンヌ)の使いの言葉を信じ彰弘については彼自身に任し、自分はそれ以外の自らができることを最大限行うことが有用だと考えた。だから、ミリアは彰弘のことについてを口にしなかったのである。

 少女達以外の面々もミリアの言葉に従って、目を閉じそれぞれの想い人などを思い浮かべていた。

 ミリアは思考を切り替える。罪悪感は今は不要、謝罪も今は考える必要はない。今はただ、彰弘が治まり戻るまでの間、この起きている被害を最小限にとどめればいい。

 術を使い維持する最後の準備を済ませるとミリアは両手を胸の前で合わせた。

「いきます! 平穏と安らぎを司る神々が一柱、守りを常とする女神ルイーナよ! 信徒たるミリア・アーティが希う。今ここに、あらゆる現象を封殺するその御力を顕し給え! 顕現『神絶障壁(しんぜつしょうへき)』!」

 最後のキーワードと共に、国之穏姫命が紡いだ魔力線の全てから無色透明な障壁が顕れた。その障壁は十メートルほど上空へ伸びたところで動きを止め、光を放ちながらキンッという澄んだ高い音を立てる。そして、唯一空いていた上面(じょうめん)を覆った。これにより彰弘は封殺の障壁である『神絶障壁』の内側に完全にその身を置くことになった。

 なお、この障壁は上空へだけでなく、地中へも同じ規模で顕れている。そのため、彰弘の身体から放たれる何かがどこへ向かったとしても封殺される。また、この障壁は女神ルイーナが認識するあらゆる次元空間に作用する。故に空間を切り裂く力だとしても障壁内から外へ影響を及ぼすことはできないのである。









 障壁を顕現させてから僅か三十分弱。ミリアが借り受けた魔石はいつの間にか残り僅かとなっていた。分不相応な術を行使していることは確かだが、あまりにも障壁が封殺する現象が多い。彰弘の身体から放たれる何かは初期と比べて数倍にもなっていた。

 ミリアは靴とストッキングを脱ぎ捨てた素足で、自分の周囲に置いていた魔石に触り消耗した魔力を回復する。

 手で持って回復する余裕などはないと、術を行使することを決めたときに感じていた。だから術を使う前に、足で魔石へ直接触れるように邪魔となる物を脱ぎ捨てていたのだ。上品な所作とは言えないが、そんなものに拘っている場合ではなかった。

 ミリアの考えは今のところ功を奏している。しかし、それも持って後数分。魔石が尽きたら後はミリア自身の魔力で流れ込んでくる神属性の魔力を障壁へと導くしかない。

 どれだけ死力を尽くしたとしても、この『神絶障壁』は十分を超えて維持をすることはできない。

 急激に減っていく自身の魔力を感じながらミリアは彰弘の復活を望んだ。


お読みいただき、ありがとうございます。



・司祭などが行使する神の奇跡について

 神は基本的に神属性の魔力を自らを信仰するその信徒へ分け与えるだけです。

 そのため、信徒が神の奇跡と呼ばれる類の術を行使するには、その信徒の実力がそのまま術の威力などに反映されることとなります。

 要するに神の奇跡を行使する神職は神属性を扱う魔法使いとも言えます。それ故に元魔法使いで今神職の者は最初から神職だった者より神の奇跡の扱いが上手かったりします。

 しかし、あくまで扱いが上手いというだけです。神の奇跡を行使するために必要な神属性の魔力は信仰の度合いにより分け与えられる量が増減します。そのため、余程稀有な存在でない限り元魔法使いがの方が強い偉いとはならない仕組みとなっています。

 なお、稀有な存在を除いて神職以外が神属性の魔力を使うことはできません。


・神の加護持ちについて

 神の加護は基本その信徒にのみ与えられます。そして加護を賜った信徒は晴れて神の奇跡の代行者となることができるのです。

 なお、信徒でない者が加護を受けることも稀にですがあります。しかし、加護を受けたからといって信徒でない場合は神の奇跡を行使することはできません。

 神の奇跡の行使鍛錬は各教団の秘中の秘だからです。

 では、加護自体に意味はないのかと言う話ですが、神の加護はそれを受けただけで若干各種耐性が上昇します。

 作中で彰弘の魔法防御力が高かったのは、これも理由の一つだったりします。

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