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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
2.避難拠点での生活と冒険者
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2-36.

2-36

 前話あらすじ

 自分達の心の変化を不思議に思い、考えを巡らす彰弘達。

 そんな中、謎の声が彰弘の頭に届き、その不思議の原因を教えると伝えてきたのであった。



 二〇一五年六月十一日 二十時二十四分に下記修正実施。

 後書の『浄化の粉』の説明から

 「地中産だろうと魔物産だろうと、」

 を削除。

 魔物産の魔石に何かを付与することはできませんでした……。



 『最適とは言えないが悪くはない結果』

 避難拠点へと帰還する救援部隊とそれに連れられる人達を見送りながら彰弘はそう考えていた。

 自分達側に死傷者はいない。

 少女達も自らが行った行為自体には――異常なことではあるかもしれないが――負担を感じてはいない。

 精神的には、考え解明しなければならないことはあったが、今この場で即対応しなければならないことはなかった。故に彰弘は『悪くない結果』、そう考えた。









 彰弘とセイルが、そして少女達四人が殺した者達を司祭(プリースト)であるミリアが儀式で浄化させてから程なく、建物へと突入していた人達が自分達とほど同数の人間を拘束した状態で引き連れて戻ってきた。


 救援部隊は、まずその建物の出入り口を確保するため、三つある出入り口全てに兵を配置させた。二つの通用口に各四名、それ以外の人員は全て正面口にである。

 そして配置を完了させると、すぐさま突入を開始した。

 突入後は一部を除いて順調に事が進んだ。建物の中にいた者達が、部隊長であるアキラの勧告を素直に聞き入れたためである。

 事前に何事もなければ、ここまで上手く事が運ぶことはなかったであろう。しかし、建物の中にいた者達は自分達の下から逃げ出した女を追った者達の監視を行っていた。故に、勧告を受け入れた場合と断った場合の結果が想像できたのだ。第二陣の者達とは違い離れたところで監視していた、またその話を聞いていただけであるために、最悪の事態を招く判断をせずに済んだのである。


 なお、一部を除いての一部とは、共通語を解さない者達のことだ。それら討伐対象者は打ち倒された第二陣の中にいた者が全てではなかったのである。

 その者達には、匿っていたヒュムクライム人権団体の者達の身振り手振りによる説得が行われた。しかし、それは意味を成さなかった。結局、喚き散らし発狂してアキラ達へと襲い掛かり討伐されたのである。

 もっとも、仮に匿っていた者達の説得が功を奏していたとしても共通語を解さない者達の末路は変わらない。ただ、抵抗せずに討伐されるか抵抗して討伐されるかの違いしかないのである。









「さて、そろそろ行こうか。予定外の件は片付いたけど、別の予定外が追加になったようだしな」

 救援部隊が交差点を曲がり姿が見えなくなってから、セイルはそう言うと彰弘を見る。

「何故、そこで俺を見る。まあ、いつまでもここにいる理由はないわけだし、移動することに反対はないけどな」

 自分に向けられた視線の意味を理解しつつも、若干の不服を顔に表し彰弘は同意する。

 移動については依頼元の職員であるレンへと話を振ればいいのだ。彰弘に確認を取る必要はない。

 追加となった予定外の件である『脳内に聞こえた声の主に会いに行くこと』に関しても、了承したのはミリアであり彰弘ではない。まったく関係ないとは言わないが、半分以上はミリアに原因があると彰弘は思っていた。

「そんな顔するなよ。で、冗談抜きにして本当にいいのか?」

 セイルは移動することの是非をレンに確認した後、再び彰弘へと声をかけた。

「ああ。……いや、ちょっと待った」

 それを受けて即答した彰弘だったが、何かを思いついて静止の言葉を口にした。


 彰弘は自分とセイルのやり取りを見ていた少女達へと向き直り、真剣な顔で口を開いた。

「出発前に、一つ約束をしてくれ。二度と今回のようなことはしないと。何か起こす前に何をやるのかを教えて欲しい」

 その彰弘の言葉に少女達は俯いた。

「別に全てについて伝えろとか相談しろってわけじゃない。自分達で何かを決めるなと言っているわけじゃないぞ。基本、俺は君達が考えやろうとすることを否定するつもりはない。それが明らかに間違っている場合や危険度が高すぎる場合は別だがな。今回の件だって、俺達に何も伝えないで行動を起こしたことを怒りはするが、行動そのものを否定するつもりはない」

 俯かせていた顔を彰弘へと向けた少女の表情には後悔の色が滲んでいた。

 それを見て彰弘は表情を緩める。

「そんな顔しなくてもいい。反省やら後悔なんてものは長引かせるもんじゃないぞ。それらは認識したら今後に活かすための材料とするだけのものだ。今回で言ったら次からは一言教えてくれるだけでいいんだ」

 先ほどと違いどこか軽い調子で彰弘は持論を口にした。

 しかし、少女達は再び俯いた。彰弘はあえて口にしていなかったが、逃げて来た女達を追って来た者が自分達より強い可能性もあったのだ。もしそうだった場合、今この場に立っていなかったかもしれない。そこに思い至ったとき、少女達は自分達を見つめる大人達がどれほどの心配をしてくれたかを悟った。だから、彰弘の言葉を聞いても後悔の念は消えなかったのだ。

 彰弘の言葉は少女達に必要以上の影響を及ぼしていた、と言うことである。発言した人物が考えてた以上に、相手が深刻に考え込んでしまうことがあるが、まさに今の少女達がその状態であった。

 そんな少女達を見た彰弘は内心で失敗したと思うも、それをおくびにも出さずに口元に僅かであるが笑みを形作った。

「そうか……。そんなにお仕置きが必要か?」

 少女達の表情が変わらないのを見て彰弘がそう呟いた。

「アキヒロ?」

 事の成り行きを見ていたセイルが訝しげに声を出した。少女達以外の面々も顔に怪訝さ表している。

 少女達は顔を伏していたために彰弘の変化には気付いていない。

「ふっふっふっ。仕方ない、どちらか選んでもらおうか。アイアンクローとデコピンどちらを選ぶ? なあ、六花、紫苑、瑞穂、香澄」

 左手はものを掴むようにわきわきさせ、右手は親指で抑え力を込めた人差し指を弾く動作を繰り返させた。

 思わず顔を上げた少女達は妙に力の入った彰弘の左右の手を目にし、一歩後ずさる。

「おおう……」

「なんかやばい、あれはやばい。デコピンで風切る音するとかありえない」

「左手の力の入り具合もはんぱないです。あれ、割れるよね? 絶対割れるよ。どうするの瑞穂ちゃん」

「どうするって……どうするの!?」

「こう、頭に魔力集めて防御力上げて、あと風の盾を使えばなんとかなるんじゃない……かな?」

「それだ! 六花ちゃん、ナイスアイデア。それでいこう。よしどんとこい!」

 彰弘の様子を見た紫苑を除く三人の少女は、慌てて被害を最小限に抑えるための方法を模索する。

 そんな中で紫苑は一人別の意見を口にした。

「問題ありません。何よりも深く反省し今回のことは心に刻み、気持ちは切り替えました。次からは余計な心配をかけるようなことはしません。ええ、私はもう大丈夫です。ですから、それは必要ありません」

 混乱に近い様相の三人の少女達を余所に、紫苑は被害を抑えるではなく回避する道を選んだ。

「紫苑は大丈夫なようだからいいとして、どうする?」

 こっそり安堵の息をつく紫苑の様子に、彰弘は微笑ましさを感じながらもそれを表に出すことなく残る三人へと選択を迫った。

「え? それありなの? え?」

「彰弘さん。わたし、もうだいじょぶ。反省は次に活かすための糧、おばあちゃんの言葉を思い出したから、もうだいじょぶ」

「わたしも大丈夫です。たった今、後悔と反省は次への標となりました」

 紫苑の発言に困惑する瑞穂を尻目に、六花は勢いよく挙手し彰弘へ問題ない旨を伝えた。それに倣った訳ではないだろうが、香澄も同じく挙手してから回避への道を進んだ。

 残るは瑞穂一人。その場にいた瑞穂以外の全員が未だ困惑の中にいる彼女がどう動くのかに注目した。

「えと、あー。うん。えー。あたしも問題なしだよ。まだ後悔の気持ちは残ってるけど……うん、危険だってことも心配かけたことも分かってる。これから気をつけなきゃいけないことも分かってる。心配かけてごめんなさい」

 少しの沈黙の後、瑞穂の口から流れた言葉は至極真面目なものであった。

 場の流れに乗り遅れた故に考える時間があったためか、他の三人とはその雰囲気が違っていた。

「どうやら、これは必要なさそうだな」

 瑞穂の雰囲気、そしてその言葉の最中に変わった残り三人の雰囲気に、彰弘は左右の手を下げた。

 元々、彰弘としてはアイアンクローやデコピンをする気はなかった。ただ、深刻になりすぎた少女達を元に戻そうとしただけである。瑞穂の最後の言葉は予想外に真面目な返しで彰弘の思惑からは多少外れたが、それが切欠で四人の少女達の雰囲気はある意味では最良と言える結果となった。

 これからも少女達と一緒に行動することは少なくないと考える彰弘にとって、今回のこのやり取りは必要だった。融合前より厳しいこの世界では気持ちの持ち方は、より重要な位置を占めているのである。


 少女達から改めての謝罪を受けた大人達は、それに対して笑みを返した。

 ここにいる大人達はただ少女達を心配していただけである。なので、今回少女達が、自らが行った行為の意味を理解し、その上で謝罪をしたのならば、それ以上大人である自分達から何かを言う必要はなかった。後は、必要となったその時々で大人である自分達が適切に対応していけばいいのである。









「では、出発しましょう。今から動けば私達の依頼分は今日中に達成できます。途中で問題が発生しなければ、呼ばれた場所である神社へも日が暮れる前に着けるでしょう」

 少女達の謝罪で、この場に遣り残したことは全て終わった。そう判断しレンは出発の言葉を口にした。

 この後、位牌の回収は順調に進み、レンの言葉通りに日暮れまではまだ余裕がある段階で依頼は完了する。

 そして、日暮れ前に彰弘とミリアの頭に直接話しかけてきた声の主が指定する神社前の階段へと一行は到達する。

 一行が見上げる石階段のその先には、小さな社が建っているのが見えていた。

お読みいただき、ありがとうございます。


いつもより遅い上に少々短いです。

わらわな声の主は来週までお預けとなってしまいました……。

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