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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
2.避難拠点での生活と冒険者
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2-16.

 前話あらすじ

 ギルドで依頼報告を済ませランクをFに上げた彰弘達だったが、ゴブリンの大量発生のため暫くの間、依頼をすることができなくなるのであった。

 ランクF以下の冒険者が防壁の外へ出ることを禁止されてから十日目の朝を迎えた。

 この禁止令は彰弘達がいる避難拠点と、その南に位置するグラスウェルだけに発令されていた。本来なら広範囲に影響を及ぼしそうな事態が起きたときは、近隣の街へ使者が送られるなどしてその内容が伝えられるのだが、今の時点では他の街との交流が成されていないため仕方のないことであった。


 ともあれ、ランクがFとなったばかりの彰弘達も例に漏れず避難拠点の外へと出ることはできなかった。そのため、防壁の外の依頼しかない避難拠点にいる彰弘達は、その間ひたすら情報収集と訓練をしていた。

 もっとも、情報収集は冒険者ギルド職員に余裕がありそうなときに、彰弘達から話かけ必要と思われることを答えてもらうにとどめていた。逼迫した状況までにはなっていないとはいえ、それなりに忙しいはずのギルド職員に時間を取らせるのは申し訳なかったのである。

 情報収集をその程度にしていた分、訓練の時間はたっぷりとあった。

 午前中は冒険者ギルドへ登録するための試験を行った訓練場で、小学校の教師であった誠司や同じく小学校の用務員であった康人と木剣で模擬戦を行っていた。時折、その場を監督する冒険者ギルドから派遣されている職員や冒険者から、基本となる動きについて指摘を受けられたため、訓練場で行う訓練は彰弘にとって有意義なものとなっていた。

 一方の少女達は誠司の応援で来ていた美弥と一緒に、冒険者ギルド登録試験を受けるために訓練する人達に混じって木剣を振っていた。魔法を使えるようになったとはいえ、彰弘と共に行動するには接近戦もこなさねばならない。そのための選択だった。彰弘としても少女達が身体を鍛えることに否はなかったため、その意見を尊重したのである。

 なお、美弥が六花達と同じように木剣を振れるのには理由がある。彰弘が意識を失っている間、六花達と共に美弥も魔法の練習などを行っていた。そのため、六花達ほどではなくとも普通の大人程度には身体を動かせるようになっていたのである。


 余談だが、誠司と康人が兵士になるでも冒険者になるでもないのに訓練をしている理由を彰弘が二人に聞いたことがあった。それに返された答えは二人共同じで、今後グラスウェルの農業区画か近隣の街の農業区画で働くことにしたのだが、農地は壁の外にある場合が多くできるなら自衛できる力を持っていた方がよい、との話を聞いたからとのことだった。


 彰弘と四人の少女は、そんな午前中を過ごしてから大食堂で昼食を取った後、冒険者ギルド併設の訓練場へと場所を変える。場所を変えるのは魔法の訓練を行うためだった。

 兵士達の訓練場にも魔法を使える場所はあるのだが、その場所は兵士専用となっていて、そうでない者は使用することができない。だから彰弘達は場所を変えたのだった。

 なお、魔法の訓練とは言っても、精々が単体攻撃魔法を標的に向かって撃つ程度までしかできない。それでも今の彰弘達には十分であった。少女達は魔法の制御技術を上昇させることが目的であったし、彰弘にいたっては魔法を使えるようになること自体が目的だったからだ。









 彰弘は訓練場の片隅に座り込み、空へと向けた手のひらのすぐ上に浮遊する半透明の球体をジッと見ていた。


 防壁の外へと出れなくなってからの訓練の賜物か、先日やっと彰弘も魔力を感じ取れるようになり、ある程度動かせるようになった。これで少女達と同様に、とはいかないまでも魔法が使えると思っていた彰弘だが期待通りにはいかず、未だ小さな火さえ出せずにいた。

 しかし魔法が出せない変わりに、今、手のひらの上に浮かんでいる球体を出せるようになった。なったのだが、これが何なのか、何の役に立つのかがさっぱり分からなかった。少女達に聞いてみたが、はじめて見たようで「魔力の塊では?」という答えが返ってきた。それならとギルド職員に聞いてみたのだが、返ってきた答えは「魔力のようなものでは?」という少女達の言葉と同じ様なものであった。

 こうなると、後は本職の魔法使いにでも聞くしかないのだが、彰弘達の知り合いで魔法使いというと竜の翼の魔法使いライしかいない。しかし、竜の翼は避難拠点周辺の調査に朝早くから夜になるまで、または夕方から翌日の朝までといった感じで活動しているため、聞くことができないでいた。

 なお、避難拠点にいる彰弘達以外の冒険者は皆が強制依頼となっている周辺調査依頼を受けており、竜の翼と同じ様に活動しているため、今訓練場にはいない。なら、他のランクFやGは? と思うかもしれないが、融合直後にグラスウェルからこの避難拠点に来た冒険者は全てがランクE以上の者達だけだ。と言うのも、ランクFやGはまだ見習い扱いで、避難拠点で行う最初の依頼である人命救助などの依頼を受けさせることができない。そのため、見習いである彼らはグラスウェルの街にとどまり、そちらで活動をしているのである。

 ちなみに、彰弘達と同じ元日本人の冒険者志望の人達も何人かは冒険者として登録できてはいたのだが登録した直後に今回の禁止令を受けたため、冒険者ギルドへと足を運ぶことなく、登録試験のために活用していた訓練場で訓練を継続していた。


 魔力の塊と思しき物体をグニグニ動かしながら、それをジッと見ていた彰弘は身体に当たる風が冷たくなるのを感じた。いつの間にか随分と時間が経っていたようで、空に浮かぶ太陽が大分傾いているのが見て取れた。

「いかん。魔法を出すより動かすことに夢中になりすぎた……」

 彰弘は思わず独りごちる。

 塊は槍のように細長くすることもできれば、紙のように薄くすることもできた。最初のときは球体から形状を変化させることはできなかったのだが、魔力操作に慣れてきたお陰だろうか。今は自由に形を変えることができるようになっていた。

 立ち上がった彰弘は軽く伸びをしたりして凝り固まった身体を解し、それから訓練場の中央付近で真剣な顔で話し合う少女達へと目を向けた。

 どうやら魔法の撃ち合いによる魔法制御訓練は一段落がついたようだ。


 少女達がこの訓練場で行っていたのは相手を傷つけない程度にまで威力を落とした『ウインドアロー』を撃ち合い、相手に当てるというものだった。

 流石に最初は心配があったため、彰弘は威力の調整ができるまで自分に向かって撃つように提案した。少女達は彰弘なら万が一も起こらないという妙な信頼を抱くまでになっており、反論もなくその提案を受け入れた。

 一応、魔法練習にはそれ用の案山子があるにはあるのだが、あくまで標的としての機能しか持っていなかった。しかも並大抵の魔法では壊れないどころか、普通の魔法使いの単体攻撃用の魔法では微動だにしないほど頑丈に作られていたため、今回、少女達が行おうとしている訓練には役立たずだったのである。

 そんなこともあり、まず最初は威力の調整を彰弘で確認するところから始めた。

 結果は大正解であった。少女達の中で一番最初に魔法を放ったのは六花だった。六花自身が十分に威力を落としたと思った『ウインドアロー』は、念のためにと身体の前で交差させた彰弘の両腕に激突し、身体ごと一メートルほど後ろへ押した。彰弘は冷や汗と共に標的が自分でよかったと安堵した。

 ともかく、ゴブリンの火球をものともしなかったときよりも数段強くなっていた彰弘だったからこそ、その程度で済んだと言える。もし初めから少女達同士でやり合っていたら惨事になる可能性は否定できなかった。いくら魔力を扱えるようになったといっても素の防御力というものが存在する。彰弘と少女達ではその素の部分に大きな差があるのだ。

 その後、半日をかけて「ペチッ」という感じになるまで威力を落とすことに成功した少女達は彰弘に感謝しつつ自分達だけの訓練を開始した。

 最初は向かい合って動かずに撃ち合っていただけだったそれが、今では自分が動きながら動いている相手を見極め、即攻撃できる段階にまで進んでいた。


「そろそろ帰ろう。日が暮れ始めた」

 その声に少女達は一斉に彰弘へと振り向き「はい」と返事をしてから声の方へと歩き出した。

 彰弘の下へ到着するや否や六花が口を開いた。

「彰弘さん、どう?」

 いろいろと言葉は足りていないが六花の言わんとするところを彰弘は理解していた。

「相変わらず火とかは出せないな。だが、変わりにこんなことができるようになった」

 そう答えた彰弘は、少女達の目の前に差し出した自分の手のひらの上に半透明の塊を出現させた。そして、おもむろに形を変化させていった。

 細長くさせてみたり薄っぺらくしてみたり、球体に戻してぷるぷると震えさせてみたり。それから再び細長くしている最中に瑞穂が声を上げた。

「ねねね、それ触ってもいい?」

「ん? いいけど硬さは最初のときと変わらないぞ」

「そうなの?」

「ああ、硬くすることはできるが半端なく疲れる。ついでに硬さが微妙だ」

「そうなんだ」

 瑞穂は彰弘とそんな会話をしながら、三十センチメートルくらいの長さで直立する半透明の棒をニギニギと握る。

「おう、ほんとだ。最初に触ったときと一緒で香澄のおっ……」

 ボグッ

「うぐっ、か、香澄。ないすぼでぃぶろー……」

 鈍い音の後、瑞穂はお腹を抑えて蹲まる。

「お、おい、大丈夫か?」

 心配の声をかける彰弘に瑞穂は「だ、大丈夫」と答え立ち上がった。

「まったくもう。彰弘さんの前で何てことを言おうとするんですが、次はレバーいきますからね。レバー」

「ご、ごめん。もう言わないから。流石にレバーは勘弁」

「ほんとにもう、勘弁して欲しいのはこっちだよ瑞穂ちゃん。絶対だからね」

「今のは瑞穂さんがいけません。次は私も阻止に入ります」

「うん、わたしもそう思う。時と場合があるよ」

 顔を赤くして瑞穂に念押しをする香澄。そんな香澄に味方をする六花と紫苑。

 三人に責められた瑞穂は半泣きの顔で「もう言わないよ~」と頭を下げた。

 彰弘はそんな少女達を見ながら、いい動きだったなと香澄のボディブローを思い返す。

 決して瑞穂の言葉の先を想像してその対象物に目を向けるような愚を冒すつもりはない。

「ところで彰弘さん。どのくらいそれは硬くできるのでしょうか?」

 細長くした手のひらの上の棒を直角に曲げたり元に戻したりしていた彰弘は、その声で意識を紫苑に向けた。

「そうだな……。今日はもう帰るだけだからいいか」

 そう言うと彰弘は手のひらで細長くなっている塊に魔力を注ぎ込んだ。

「ふう。なんとも中途半端な硬さではあるが……。まあ、触ってみれば分かるよ」

 紫苑は言われた通りに彰弘が作り出した半透明の棒を握りこむ。暫くの間、その感触を確かめるように棒を強く握ったり、それを弱めたりしていた紫苑は棒から離した自分の手を不思議な物でも見るような目で見つめた。

「何と言うか硬質ゴムでできた棒のような、でも、それとも少し違うような不思議な硬さですね」

 そして、棒の硬さについてそんな感想を口にした。

 その言葉を聞いた六花が次に触り、香澄がそれに続いた。瑞穂はというと、また自分が変なことを口走るのを恐れてか触ろうとしながらも、その手を引っ込めていた。

「ほんとですー。でも、何か最近どこかで触ったような感触っぽい気がしないでもないです?」

 手を棒から離した六花は紫苑に同意しつつも記憶を探る様子を見せたが、結局は思い出せなかったのか「気のせいだったかも」と声を出した。

 棒に触った最後の一人である香澄は紫苑と同じように不思議そうに自分の手を見つめ「変な感触」と呟いていた。

「とりあえず、こんなところだな。んじゃ、帰るとするか」

 彰弘は手のひらの上の塊を消し去り、少女達にそう声をかけた。









 くだんの禁止令が出てから十日目が終わろうとしていた。


 禁止令が出ている間、彰弘達は只管訓練を続けていた。

 その結果、少女達の魔法制御技術は目に見える速度で上がり、それに比例するように身体能力も十日前とは比べ物にならないほどに上がっていた。身体能力の向上は少女達が身体を動かしていたからということもあるが、何より魔法の制御技術を上げるために魔力操作の技術を上げたことにその要因があった。

 この世界の生物の身体は基幹魔力を動かし体内魔力に働きかけることにより動作を可能とする。つまり魔力操作技術の向上は身体の動作にも多大な影響を与えていたのである。

 彰弘にしても少女達ほどではないが、魔力を感じ取れるようになりその魔力を体外で具現化させ、さらにそれを動かすことができるようになった。そのため、魔力操作は格段に向上しており、身体能力は十日前に比べて上昇しているのである。


 彰弘達はランクを上げるための行為こそはできていなかったが、その間に努力していた成果については本人達も意識をしていないところまでも含めて実を結びつつあったのである。

お読みいただき、ありがとうございます。


身体能力について、ちょっと補足

 この世界の生物は使用部位に魔力を多く流すほど身体を強くしたり、滑らか動かしたり出来ます。

 しかし、魔力が『五十の戦士』と魔力が『百ある魔法使い』の場合、通常では戦士の方が肉体は強くなります。

 これは、戦士の方が筋肉が太く、そこに作用させることが出来る魔力が多くなるためです。

 ただ、この法則にも例外はあります。それは筋肉の質です。筋肉は鍛え方により発揮出来る力が変わってきます。もし戦士の筋肉がただ筋力増加を目指しただけの筋肉で、魔法使いの筋肉が戦闘を行うための筋肉だった場合、魔法使いの方が肉体的に強くなったりするのです。

 ちなみに、筋肉などの身体の鍛え方は地球のそれとほとんど変わりません。違いは魔力によりその効果を上げることが出来るくらいです。


以上


二〇一五年二月一日 十八時二十五分

誤字修正

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