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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
2.避難拠点での生活と冒険者
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2-15.

 前話あらすじ

 無事初依頼の物品を手に入れた彰弘達はその場でおやつ時間を堪能する。

 そして、そろそろ帰ろうかという時にゴブリンの群れと遭遇するが、これを撃破するのだった。

 討伐証明である角と魔石を回収し終えた後のゴブリンの死体は一ヵ所に集められていた。ゴブリンがアンデットとなる前に焼却するためである。

 アンデット化の条件は三つ。死体であることとその死体が移動可能な部位を備えていること、アンデット化防止の祝福を受けていないことである。

 死体であることと祝福は言葉の通りだ。問題となるのは『移動可能な部位を備えていること』という部分であった。これは五体が全て揃っていなければいいという訳ではない。過去には首を刎ねられた者の胴体部分だけがアンデット化したり、胴で上下に切断された者の上半身と下半身がそれぞれ別のアンデットとして動き出した事例が報告されていた。

 このようなアンデット化対策として一番手っ取り早いのが焼却であった。特に魔物であれば魔石さえ取り除けば、普通の火でさえ数分という短い時間で対象を燃え尽きさせることが可能なのだ。仮に魔物でなかった場合は焼却用の魔導具を使わねばならないが、それでも労力を考えると焼却が一番無難といえるのである。


「では、いきますよ。今回はこの集められたゴブリンの死体とあなた達の攻撃により集めるのに時間がかかるからと放置してある部位を一度に焼却します。私の魔力の流れをよく見て今後魔法を使う際の参考にしてください」

 短杖を持ったライはそう言うと、少女四人に目を向ける。そして少女達が自分に注目したのを確認すると魔法を発動するための詠唱を口にした。

「火の欠片よ、我が意志に従い汝が力をここに示せ。降り注げ『ファイアレイン』」

 ライの言葉により積み上げられたゴブリンの上方に現れた小さな火は、最後のキーワードと共に無数の雫となり真下のゴブリンの死体と四方八方に散らばる手足などがある付近へと降り注いだ。

「ゴブリンの上に火を出すことで攻撃時間を短縮して……」

「火の粉レベルにまで分裂させた火に最低限必要な火力を維持させて……」

「で、火が余計に広がらないよう周りに、こちらも最低限の障壁を展開……」

「ぐぬぬ、先は遠いです」

 ライの魔法を見た少女達が悔しそうに声を出した。魔法の精度の違いに気が付いたからだ。

 一番大きな違いは魔力操作であった。少女達は魔法を使うとき、自分の目の前に使う魔法の基礎となる現象を出現させた。これはライと違い少女達が自分の身体から離れたところには、まだその現象を発生させることができないからであった。自分が意図したところに直接現象を起こすには、その場所に自分の魔力を操ることのできる自分の基幹魔力を届かせなければならないのだ。そもそも基幹魔力と魔力は本来体内でのみ活動するものだ。それを魔法使いなどは、その意思により体外へと放出して魔法とするのだが、この体外へ出し魔法と成すのは非常に難度が高いのである。しかも基幹魔力の操作は自身の身体から離れるほど制御が難しくなる。この制御は時間をかけて少しずつ習熟していくしかないのである。

 なお、手元に発生させた現象を別の場所に移動させることも難しいことではあるが、それは魔法を行使できない人にとってであり、魔法使いと呼ばれる者達にとってはできて当然のことであった。とは言え、移動させる距離が遠くなるほど魔力操作の難度は上がっていくのだ。ライの魔法を見て悔しがる少女達ではあったが、数十メートル先に現象を移動させることができるその実力は十分に熟練の域に達していると言える。

「よし、燃え尽きたな。ライ、ミリア、俺はグラスウェルに行ってこのことをギルドに説明する。お前らは嬢ちゃん達と避難拠点に戻って、そっちへの説明を頼む」

 焦げ跡だけになった草原の一部を見ながら、セイルが指示を出す。

「説明した後はどうしますか?」

「そうだな……適当に待っててくれ。グラスウェルで説明を終えたら、ディアと合流して俺らも避難拠点に戻る。そっから先は合流してから話そう」

 ライからの問い掛けに、そう答えたセイルは彰弘達に「じゃあ、また後でな」と一言声をかけるとその場を後にした。









 セイルの後ろ姿を暫く見送っていた彰弘だったが、このままここに居ても仕方ないと声を出した。

「俺らも行くか。あんま、いい状況じゃないっぽいしな」

「まだ、何とも言えませんが大体の予想でいいのなら道ながらお話します。それよりもアキヒロさん、手を出していただいてもよろしいですか?」

 まだ悔しがっている少女達の横で帰ろうと声を出す彰弘に、大胆なスリットの入った濃紺色の司祭服に身を包んだミリアが答えた。

 彰弘は治療院を出るときの少女達との会話を思い出し「見るなという方が無理だろう」と考えながらも、言われた通りに手を差し出す。

「何かくれるのか?」

 そう尋ねる彰弘にミリアは微笑みながら自身の腰に着けたポーチから小瓶を取り出し蓋を開けて中身を差し出された手の上に乗せた。

 小瓶から出たそれは彰弘の手の上でぷるぷると震えると饅頭のような形へとなり、その状態で固定された。

「さぁ、ケミちゃん。この人の汚れを落としてあげて」

 ミリアは彰弘の手に乗る物体に触るとそう言ってから触れた手を離した。

 するとその饅頭のような形とした半透明の物体は頷くような仕草をミリアに見せると、薄く広がりながら彰弘の手をずりずりと這い回るように動き出した。

 彰弘は、そんな物体の様子に困惑気味の顔をミリアに向ける。

「ケミちゃんはアルケミースライムです。今の彰弘さんはそれほどではないですが、ゴブリンの血で汚れていますから、そのまま避難拠点に戻るのはどうかと思いまして」

 その言葉に彰弘は、手を這いずるアルケミースライムのケミちゃんを気にしながら自分の身体を確認した。

 彰弘は汚れていると言われても仕方のない格好をしていた。とは言っても、全身血塗れというほどではない。血喰ブラッディイートいの効果で大半がその刀身に吸収されていたためである。

「確かにな。じゃあ、お言葉にあま……」

 自分の現状を認識した彰弘はミリアへと言葉を返し……いや、返す途中で言葉を止めた。

 不意に治療院でのサティの言葉を思い出したのだ。

 疑問を顔に浮かべるミリアを無視して彰弘は言う言葉を変えた。

「一つ、確認。汚れを落とすのは身体の表面だけだよな?」

 言われた内容の意味を理解しきれずにミリアは暫し黙考したが、やがて何やら思いついたのか得心がいったという顔をし、それから慌ててまだ彰弘の手を這いずるケミちゃんへと触れた。

「ケミちゃん、汚れを落とすのは……上半身の体表面と身に着けている物だけでいいからね」

 ミリアは一度彰弘の汚れを確認してから触れているケミちゃんへと指示を出す。ミリアに触られ動きを止めていたケミちゃんは薄く伸びたままで頷く仕草を返すと、またずりずりと彰弘の身体の上で移動を開始した。

「申し訳ありません。確かに下半分はそう汚れていませんし身体の中まできれいにするには時間がかかりますもんね。少々、うっかりしていました」

 ケミちゃんに指示を出したミリアは彰弘へと向き直るとそう言い頭を下げた。

 どこか自分が言いたかったこととずれているような気がした彰弘だが、わざわざ言わなくても実害はないだろうと、その言葉は飲み込み感謝の言葉だけを述べたのだった。


 なお、彰弘とミリアのやり取りが親しげに見えていた少女達は「これが嫉妬と言うものでしょうか」とブツブツと呟いており、近くにいたライを若干引かせていたりするのだが、それはまた別の話である。









 アルケミースライムが身体を這いずる何とも言えない感触を乗り越え、一通り汚れを落とした彰弘は、少女四人にライとミリアを合わせた計七人で避難拠点へと向かっていた。

「そう言えば、さっき予想がどうとか言ってたけどそれを聞かせてもらってもいいかな?」

 草原にある坂を下りきったところで彰弘がミリアに向かってそう声をかけた。

 彰弘から少女二人を挟んだ横を歩いていたミリアは「そうですね」と声を出してから、一拍置いて話始めた。

「簡単に言ってしまうと、あの森でゴブリンがあれほど発生したことは今までにないのです。と言うのもあの森の奥ではオークが繁殖する条件が揃っているらしく、ゴブリンがやって来てもすぐにオークと争いになり倒されてしまうのです。ですから、ゴブリンが倒されることもなくあの規模の集団になっているということは、それだけで何か異変が起きていると言えるのです」

 ミリアの話に彰弘は「そうなのか」と声を出す。ただ、その返しは話の内容に納得したという類のものではなく、そういう事情があるんだなという認識を持った故の返しであった。

 なお、リルヴァーナにおいての魔物であるオークの位置付けは、地球の豚と同じであった。違いは人のように直立しており道具を握ることができる手を持っていることと、人を見かけると襲ってくる可能性があることだ。付け加えるならゴブリンよりも強く、油断はできないことであった。

 ちなみに、人種にもオークという種は存在するのだがゴブリンと同じで彼らはすでに魔物のオークとは完全に別物である。そのためか、人種のオークは魔物のオークの肉を食べることに欠片も忌避感を抱いていなかったりする。当然、他の人種も個人的な好き嫌いは別としてオークの、また他の魔物の肉を食すことに忌避感を抱いてはいなかった。

「ミリアの言う通りです。恐らく原因が判明するまではランクF以下の冒険者などは壁の外に出ることを禁止されるでしょう。残念だとは思いますが」

 一人で後ろを歩いていたライがそう声をかけてきた。

「まぁ、残念なのは否定しないが、いい機会だ。外に出れるまでの間は勉強する時間にするさ。幸いにも、懸念材料だった今の自分がゴブリンと戦えるか? ということも解決したしな」

 ライの言葉に答えた彰弘には言葉にした通りの不安があった。小学校でゴブリンと戦えたのは、あのときの状況があったからではないかと考えていたのだ。だから、戦わなくても生活できる環境で戦うことができるかに不安があった。勿論、家族を探しに行くためには強くなる必要があることも分かってはいたが、それでも、今の状況で自分が戦えるという確信は持てないでいたのだった。

「とりあえず、魔物のこととか魔法のこととか、いろいろと知りたいことが多すぎる。だから、強制的にでも依頼ができなくなることは悪いことじゃないな」

 彰弘はそう言って軽く笑いを浮かべた。

 なお、彰弘の言った依頼ができなくなるという言葉には『避難拠点では』という言葉が頭に付く。何故かと言うと、元サンク王国の街では普通に街中の依頼というものが存在しているからだ。冒険者の依頼とは多種多様であり、当然、街中で行うものも複数あるのだ。だから元サンク王国の街を拠点にしている冒険者は壁の外に出れなくても依頼がなくなるということはない。

 しかし、今のところ避難拠点内部では冒険者が行うような依頼はほとんどない。それは避難拠点の住人の大多数が元日本人の避難者であるからだ。もう少しの時間が経てば依頼となるようなものも出てくるのであろうが、今の避難者には冒険者へと依頼を出す、というような考えはまだ根付いてすらいないのである。









 折角だからと、リルヴァーナの、そしてサンク王国のことをいろいろと聞きながら避難拠点への道を歩き、あと少しで南門に到着するということころでいきなり彰弘が「あっ」と声を出し足を止めた。

 当然、他の六人も何事かと足を止める。

「どしたの彰弘さん?」

 いつの間にか彰弘の左手を自分の右手で握っていた六花が、その手を軽く引っ張りながら問いかける。

 彰弘はそんな六花に顔を向け一言「お礼を言うのを忘れてた」と呟いた。

 このお礼というのは、小学校で気絶していた自分の怪我を治してくれたミリアへのものであった。

 話を聞いたときから、言おう言おうと考えていた彰弘だったが初対面が先ほどのゴブリンとの戦闘の後だった。そのため、お礼のことは頭の隅へと追いやられており、南門が見えてきたことでようやく忘れていたそのことが浮上してきたのである。

「何かこう、このタイミングになって失礼だとは思うんだが……」

 何とも微妙な表情を彰弘に向けられたミリアは少しだけ疑問を浮かべた顔をする。

「俺と瑞穂の怪我を治してくれたこととか、いろいろ含めて感謝する。ありがとう。返せるものが今はないけど、何か俺でできることがあったら言って欲しい」

 微妙な表情のまま言葉を出す彰弘にミリアは一瞬驚き、それから笑顔を浮かべた。

「お気になさらずに。私としてはあなた方が平穏に、そして安らげるようになることが望みでありますので、それに向かって進んでいただければと。それだけで満足です」

「それならば、言われるまでもないな。元よりそのつもりだ」

 ミリアの返しに彰弘も笑みで返した。

 そして、その顔のまま彰弘は少女達に目を向ける。そこには四人の笑顔が揃っていた。









 その後、南門で無事を喜ばれギルドへと向かった彰弘達は依頼達成の報告とゴブリンの討伐証明である角と魔石の買取をギルドでしてもらった。そして、依頼を無事成功させたことによりランクをFに上げることに成功した。

 しかし、ゴブリンの群れ発生の報告をライとミリアより受けたギルドの判断により、彰弘達は暫くの間、依頼をすることができなくなったのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。


話の筋には関係ありませんが、六花の小学校での担任である桜井先生とは、

2-11.話の大食堂で偶然の再会を果たしております。

(書くのを忘れていました……)



二〇一五年一月二十四日 二十一時十五分

誤字修正。一部文章表現修正。

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