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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
2.避難拠点での生活と冒険者
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2-12.

 前話あらすじ

 冒険者ギルドへと登録を終わらせた彰弘は少女達の案内でギルドの建物へと向かった。

 そこで冒険者について説明を受け、所持していた魔石などを売り払ってから武器屋へと向かうのであった。


 ※十二月三十日:「2-11」話にギルド昇格試験の条件に年齢制限があることを追記。

  (話の流れに関係はありません)

 グラスウェルの北に位置する避難拠点には、今現在、武器屋と呼ばれる店舗は一ヵ所しかない。しかし、これは武器を専門に扱う店舗が一店舗しかないという意味で、武器を扱う店舗が他にないわけではなかった。


 サンク王国での商店は大別すると二種類に分けられる。それは特定の系統の物品だけを取り扱う専門店と、ある程度広い範囲の系統の物品を取り扱う総合店だ。

 この二種類の商店は一見では共存が難しく思えるが、その客層により見事共存関係となっていた。

 専門店の商品は一級品以上の物が大半を占める。当然、その商品の価格はそれなりに高価だ。

 一方の総合店はどの商品も普通といえる品質である。そのため、手頃な値段となっている。

 つまり、ある一定以上の品質を求める必要がある人達は専門店へと向かい、そこまで品質を求めない人達は総合店へと向かうのである。









 避難拠点の役割がまだ避難所である現在、多くの商店は門戸を閉ざしている。これらの商店は避難所が街へとその役割を変えるときに活動を開始するのである。

 そのような商店が立ち並ぶ一角ではあるが、中には門戸を開いている商店も存在していた。それは武器屋をはじめとする冒険者などが利用する商店である。

 そんな商店の中の武器屋前まで彰弘達五人は来ていた。

「ここだな」

 彰弘達五人は武器屋の前で立ち止まり商店を眺めた。

 その商店の出入り口は大人二人が並んで通れるくらいの広さがあった。店の中は外からではよく分からないが、そこそこの広さがありそうだった。

「なんか、どきどきします」

 店の中を外から覗きこんだ六花が興味深そうに声を出した。

 そんな六花に彰弘は笑みを向けると「じゃ、入ろうか」と少女達に声をかけてから、店内へと足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ〜」

 彰弘達が店に入ると、奥にあるカウンターの向こう側で本を呼んでいた少女が声を出した。

 歳は小学生低学年といったところか、銀髪をツインテールにした可愛らしい女の子であった。

「あ〜、俺の剣がここに預けられていると聞いて来たんだけど、分かるかな?」

 少女一人だけが店番にいるという状況なのに、彰弘は自分の目的をそのまま告げていた。

 普通なら店番にしては幼すぎる少女に他に人はいないか聞くべきだったのかもしれないが、少女があまりにも自然に声を出していたため、他に誰かいないかを確認し忘れた彰弘だった。

「ん〜? おか〜さ〜ん、お客さん来たよ〜!」

 彰弘の言葉に小首を傾げた後、少女は後ろの扉の奥へとそう声を投げた。

 そして彰弘達に向き直った少女は「おかあさん、おトイレ長いからちょっと待っててください」と言い放ち、頭を下げた。

「……あ、ああ。分かったよ」

 知らなくてもいい情報を貰ってしまった彰弘は、何とかそう声を出す。不特定多数のそういう情報なら気にすることはないが、特定の人物のそういう情報は取り扱いに困るのである。

 ともかく、一瞬の沈黙の後、気を取り直した彰弘は、今後もこの武器屋を利用することを考えて簡単に自己紹介をした。

 それを受けた少女は「わたしはアリーセです。六歳です。よろしくお願いします」と、そう言って頭を下げてからにっこりと笑った。


 六花達のアリーセへの自己紹介が終わり、雑談をしているとアリーセの母親が奥から出てきた。

「お待たせして申し訳ありません。イングベルト武器店へようこそ。私は店主であるイングベルトの妻、アラベラと申します。よろしくお願いします」

 そう挨拶したアラベラは娘と同じ銀髪をポニーテールにした少しふっくらした女であった。

「おかーさん、遅い〜」

 アラベラはそう言う自分の娘へ微笑みながら「ごめんね」と声をかけると、改めて彰弘達へと向き直り「何がご入用ですか?」と聞いてきた。

 一瞬、アリーセが先ほど言った「トイレが長い」という言葉が彰弘の頭に浮かんだが、そんなことをおくびにも出そうものなら、碌なことにならないことは火を見るより明らかだ。

 だから彰弘は努めて平静に声を出した。

「申し訳ありませんが、今日は買い物に来たわけじゃないんですよ。実はここに私が持っていた武器が預けてあると聞きまして、それを受け取りに来たんです」

 『私』と言ったことに微妙な視線を送ってくる六花達に、彰弘は軽く笑いを浮かべた顔を向け「初対面だからな」と小声で言ってから、すぐにアラベラへと視線を戻した。

 すると、その様子を見ていたアラベラが「いつも通りの話し方で結構ですよ」と微笑みながら彰弘へと声をかけた。

 一つ息をついて彰弘は、口調を普段通りに戻し再度武器屋を訪れた目的をアラベラへと伝え、自分の身分証を差し出した。

「ちょっと待ってくださいね」

 そう言うとアラベラは受け取った身分証を目視し、その称号欄に少し驚きながらもカウンター脇に置いてある魔導具に翳した。そして魔導具が青の発光を出したのを確認すると、身分証を手元に戻し、カウンターの下から紙束を取り出した。

 少しの間、無言で紙束を捲っていたアラベラは目的の場所を見つけて手を止めた。

「ええっと、ありました。お預かりしているのは、長剣が一本に小剣が九本ですね」

 紙に書かれている情報をアラベラが読み上げる。

「思ったより数があったな」

「ふふ。ゴブリンが持っていたにしては品質がいいと、うちの旦那が言ってました」

 彰弘の呟きに微笑みながらそう答えたアラベラは、横で一緒に紙を見ていたアリーセに「アキヒロさんって方が来たって、お父さんに言ってきて」と声をかけた。

 アリーセは母親の言葉に元気よく返事をして、カウンターの奥にある部屋の方へと走っていった。

「旦那が来るまで、少し時間がかかると思います。よかったら店内の武器でも見ていてください。簡単な説明くらいなら私でもできますので、気になる物でもあったら遠慮なくお聞きください」

 アラベラは娘のアリーセが奥に行くのを見届けてから彰弘達にそう伝え、身分証を返してきた。

 それを受け取った彰弘は少女達と一度顔を見合わせてから「そうさせてもらう」とアラベラへと言葉を返し、店内を見回ることにした。

 少女四人は物珍しさからか、わいわいと楽しげに壁の武器を見始め、彰弘はそんな少女達の後ろについて自身も壁一面に飾られたそれらに目を向けた。

 壁にある武器は、剣に槍、斧に鞭、他には手甲に刃を取り付けたような物まであった。そんな中で彰弘の目に止まったのは緩やかな反りを持つ鞘に収まった剣であった。

「アラベラさん、これは?」

 その声にアラベラは自分の視線を彰弘が指差す武器へと向ける。

 それに同調するように他の武器を見ていた少女達もその武器へと目を向けた。

「それは数日前に冒険者の人が持ち込んだ剣ですね。調べてみたところ結構いい剣らしいですよ。何でも魔金属を使っていないのに、それに勝るとも劣らない性能とうちの旦那が言っていました」

「へぇ。これは手に取って見ても構わないかな?」

 アラベラの説明を聞いた彰弘は更なる興味を持ち、そう問いかけた。

「構わんよ。振り回したりしなければ抜いてもいい」

 壁の武器に集中していた彰弘達は聞きなれない男の声が聞こえてきた方向へと顔を向けた。

 そこにいたのは隣のアリーセより頭一つ高い程度の身長に髪と同じ豊かな銀色の髭を蓄えたがっしりした体型の男だった。

「あなた、早かったのね」

「ああ、丁度休憩中だったからな……ん? どうした。手に取って見ても構わんぞ?」

 背格好のせいか何となくアンバランスな三人を眺めてしまっていた彰弘は、その言葉で壁へと手を伸ばした。

 彰弘は左手で鞘を持ち右手で柄を握る。そしてゆっくりと刀身を鞘から引き抜く。引き抜いた刀身は七十センチ前後の長さを持ち見る者を引きつけるような刃紋が浮かんでいた。

「きれーですー」

 六花が目をキラキラさせながら声を出した。

 瑞穂と香澄も声こそ出していないが、六花と同じことを感じているようで、その刀身に見とれていた。

「彰弘さん、それって刀ですよね? 日本で美術品扱いされていたのも納得がいきます」

 刀身を眺める彰弘達に紫苑が声をかけた。

「そうだな。真剣を見たことはないが、これなら頷ける」

 彰弘は紫苑の言葉にそう声を返しながら、頭では別のことを考えていた。

 これほどの刀でなくとも、融合前に刀を買っていれば少しは小学校での戦いが楽になり被害を減らすことができたのではないかと。今更悔やんでも仕方ないと分かってはいたが、彰弘は若干の後悔を感じていた。

「どしたの? 彰弘さん?」

 刀身を見つめる彰弘の顔が険しくなっていることに気付いた六花が声を出す。

 その声に彰弘が刀身から目を離し少女達へと目を向けると、六花だけでなく残りの少女三人も心配そうな顔をしていた。

 苦笑した彰弘は「なんでもない」と少女達に言うと刀身を鞘に仕舞い、刀を壁へと戻した。

「お、もういいのか?」

 彰弘が刀を壁に戻したのを見た男はそう言い、奥から持ってきていた剣をカウンターの上へと並べ置いた。

「ああ、いい刀っぽいが扱える自信はないしな。何より買う金もない」

「はっはっはっ。まあ、今回は縁がなかったと諦めてもらうしかないな。それよりこれらがお前さんのだ」

 男は笑いながら彰弘に言葉を返してから、アラベラに言われ思いついたように自己紹介をした。


 自分の名前を店の名前にしたドワーフの鍛冶師でもある店主は、剣を眺める彰弘達に向かってカウンターに並べた剣の説明を始めた。

「まず九本の小剣だけどな、ゴブリンが持っていたとは思えないほど良いできをしている。総合店で売られている物よりは上だ。ちゃんと手入れをして使えば数年は問題なくもつだろう」

 カウンターに並べられた刃渡り五十センチ前後の磨き上げられたその刃は、その言葉の通りの性能を発揮できそうな雰囲気を纏っていた。

「で、次にこの長剣だが……。これはちょっと特殊だな。『血喰ブラッディイートい』という名持ちで、血を持つ相手を斬りつけるとその血を使って自身の修復を自動で行う能力がある。恐ろしげな名前ではあるが手入れの必要がないと言ってもいい便利な能力だ。後、もう一つ特殊な能力があってな、刃の部分に触ってみれば分かるが、何もしてない状態だと刃物ですらないんだ」

 イングベルトはそう言いながら鍔にあたる部分がない黒色の長剣を持ち自分の手のひらに刃を押し当て、そのまま引いた。

 彰弘達が息を呑む中、イングベルトは平然と話を続ける。

「と、まあ、こんな感じだ。だが魔力を流すとこんな感じで普通の剣と同じかそれ以上の切れ味を持つ刃物になる」

 今度は、何かの革をカウンターに置き、それに鈍い光を放つ長剣を押し当てて引いた。

 すると先ほどはイングベルトの手のひらに傷一つ付けなかった長剣が、木製のカウンターにも傷を残しその上に置いた革を切り裂いた。

「つまり、魔力を剣に通さなければ鈍器、魔力を通せば刃物として使えるわけだ。もっとも相応の魔力がないと数振りしただけで魔力が枯渇するから注意が必要だけどな」

 そう言ってイングベルトは長剣をカウンターに戻した。

「さて、説明はこんなところだな。何か質問はあるか?」

 イングベルトのその言葉に彰弘は数瞬考え返事をする。

「質問じゃないんだが、売って欲しいものがある。魔物の素材を剥ぎ取ったりに使える刃物を五本と、カウンターの上に並んでる剣の数だけの鞘。ああ、後、食材を切る刃物も五本頼む」

 彰弘の顔を覗き込むように見て、それからその横に並ぶように立つ少女達へと視線をイングベルトは向けた。

「ふむ。一応、聞くが刃物はそこの嬢ちゃん達の分も含めての数なんだよな?」

「ああ。すでに冒険者への登録は済ませてある」

 少しだけ何か言いたげだったイングベルトだが、「少し待ってろ」と言うと奥に引っ込んでいった。

「差し出がましいようですが、その子達にも冒険者の道を歩ませるのですか?」

 イングベルトの変わりというわけではないのだろうが、アラベラがそう彰弘に向かって口を開いた。

 その言葉に彰弘が口を開く前に紫苑が声を出した。

「アラベラさん。私達は自分の意志で冒険者となることを決めたんです。決して誰かに言われたからではありません。ですから、彰弘さんにそのようなことを言わないでください」

 残りの少女三人も頷くことで紫苑に同意する。

「俺は危険かもしれないからと大人の都合を押し付けるつもりはない。世界が融合してからいろいろあって、今のこの子達の考えがあるんだ。だから俺はこの子達の意志を尊重する。他の誰に何を言われようと今のこの考えを変えるつもりはない。少なくとも、この子達が自分から別の道を進みたいと言ってくるまでは、冒険者をやると言うそれを尊重する」

「ですが!」

「それまでだ、アラベラ」

「あなた……」

 彰弘の言葉に反論しようとしたアラベラを奥から戻ってきたイングベルトが止めた。

「お前の気持ちもわからんではないがな、嬢ちゃん達の目は本気だ。それにそこの男も間違ったことを言っているわけじゃない。ついでに言うと、奥に行くまですっかり忘れていたがこの嬢ちゃん達は竜の翼が言っていた嬢ちゃん達だ。油断さえしなければ、そうそう間違いは起こらんよ」

 イングベルトはそう言ってから奥から持ってきた鞘とナイフをカウンターに置いた。

「アラベラのことは許してやってくれ。悪気があったわけじゃないんだ。アリーセとそこの嬢ちゃんが重なって言うのを我慢できなくなったんだろう」

 六花に目を向けたイングベルトはそう言うと頭を下げた。

 アラベラも「すみません」と謝罪する。

 それを見た紫苑をはじめとした残りの少女三人も「心配してくれて、ありがとうございます」と頭を下げていた。

 ついでに何故かアリーセまでも頭を下げる。

「とりあえず、みんな、頭を上げようか」

 一人だけ頭を下げなかった彰弘の言葉で全員の頭の位置が元に戻る。

 それを確認してから彰弘は「心配はありがたく受け取るよ」と声を出し、その後、強引に話を変えるため、イングベルトが持ってきた刃物などの値段のことを話題に出した。

 その彰弘の言葉にイングベルトは乗っかり、返答する。

「ああ、ナイフが一本三千ゴルドだ。鞘は総管庁から貰っている援助金の内だからタダでいい。ついでに手袋と剣帯はさっきのお詫びというわけではないが持っていってくれ。剣を使うのには必須のアイテムだ。もし手袋のサイズが許容外だった場合は、明日あたりに三軒先の防具屋へと行って直してもらってくれ。話は通しておく」

「なんか、悪いな」

「何、気にするな。あんたらは良客になりそうな予感がする」

 彰弘が差し出す硬貨を受け取りながらイングベルトはニヤリと笑った。

 その笑いを見た彰弘は自身も笑みを浮かべてから、剣帯を身に着けそこに長剣と小剣を一本ずつ吊るした。

 そして自分の分が終わった後は少女達が身に着けるのを手伝い、余った小剣をドラムバッグへと入れた。

「さて、ちょっと長居したな」

 そう呟くと彰弘はイングベルト達に帰る旨を伝えた。

 その言葉にイングベルトは「おう、いつでも来い。待ってるぜ」と言い、アリーセは「おねぇちゃん達、また来てねー」と手を振る。アラベラは若干申し訳なさそうな表情を残した笑みでお辞儀した。

 彰弘達はそんな三人に見送られて、イングベルト武器店を後にしたのであった。


お読みいただき、ありがとうございます。


今年もよろしくお願いいたします。


いろいろあって、こんな時間の投稿となってしまいました。

世の中、ままならん。


二〇一六年 七月十日  九時三十三分 誤字修正

誤)あか~さ~ん

正)おか~さ~ん

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