6-27.【戦い終わって】
前話あらすじ
シンリュウ無事撃破
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そこに横たわっているのは、既に生命活動を終えた巨大な竜の亡骸であった。生前の強さに比例した魔石が亡骸のすぐ上に浮いている。
「バカだねえシンリュウ。完全に魔物となるなんて」
物言うことがなくなったかつての知り合いの姿に悔恨の情を顔に浮かべたフウリュウが呟き、その彼の横ではガンリュウが類似の表情で立っていた。
魔石は魔物からしか生成されない。普通なら人種であったシンリュウからは仮に姿形が変わったとしても生成されないのだ。だが、今現在シンリュウの亡骸の上に魔石がある。それはつまり、シンリュウという人種が完全に魔物へと変異した証拠であった。
フウリュウとガンリュウが亡骸となったシンリュウのところまで来て少し。その場には残りの主要人物たちも集まっていた。
元からその場にいて戦っていた彰弘たち。戦闘には参加しなかった元シンリュウが作った組織の一員であったフウリュウとガンリュウ。後はキメラとゴーレムの対処に向かい、見事死者を出すことなく殲滅を完了させた冒険者たちの各リーダー。この面々が、今シンリュウの亡骸の前に集まっていた。
「遠目ではよく分からんかったが、こりゃでけーな」
「全くだな。よく倒せたものだ」
セイルとガイの言葉にキメラとゴーレム殲滅組だった冒険者のリーダーたちが頷きで同意を示す。
どれだけ切れ味が良くても、刃渡りを大きく超える深さの傷をつけるのは難しい。それを成すには彰弘のように魔力の刃を伸ばすか、純粋に魔法で抉るかだ。
数十メートルの長さがある武器を造ればと考えなくもないが、その場合は強度と重量に扱いやすさという問題があった。大きくなればなるほど扱いづらく重くなるが、だからといって軽くして持ちやすく造ると強度が足りずに武器として使い物にならなくなる可能性が否定できない。
「とりあえず、その辺りの話は後だな。今はこいつをどうするかについてだ」
「というと?」
「全部で三つある。一つ目は魔石と素材を全員で山分け。二つ目は魔石か素材の一部をフウリュウたちに渡す。で、最後は全てこの場で処分。こいつと戦った俺らの総意は全て処分か、素材の一部のみをフウリュウたちに渡すだ」
魔物討伐の依頼であれば、可能な限り肉も鱗もそれ以外も持ち帰り、換金するなりなんなりで自分たちのものにするのが普通だ。
だが、今回に限っていえば、その選択肢はなかった。
「お前らがその結論を出した理由を聞こうか」
「実際に会ったのは今日が初めてだが、このシンリュウってのは俺らと同じ人だったらしい。神様もそう言ってるからそこは間違いじゃないんだろう。それで、こいつがこんなことになった原因は、世界融合直後に顕現した邪神と呼ばれているドルワザヌアと、それを討伐した際のメアルリアの神域の影響で大切な人をなくした結果って話だ。まあ、簡単に言ってしまえば感傷的なことか。どうしても素材とかに使う気になれなかったのさ」
「そういうことか。……とりあえず、俺は異論はない。うちのパーティーメンバーも同じだろう」
「問題はない。元々、この竜と戦ったのはお前たちだ。それをどうしようと俺らが口を出す筋合いにはない」
「だね。それに、今回の件についてはメアルリア教から充分な報酬が約束されているからね」
シンリュウの魔石と素材についての彰弘の説明に、セイルにガイとジェールが言葉で肯定を示した。フウカとベントの二人も言葉には出さなかったが態度で問題はないことを示していた。
残るはフウリュウとガンリュウである。
「こっちの結論は出た。そっちはどうだ?」
彰弘が代表で声を出す。
それを受けたフウリュウとガンリュウの二人はお互いの顔を一度見てから、彰弘たちへと向き直った。
「この場で全てを終わりにしたいねえ。彼の親族を知っていて居場所の把握してはいるけど、いくら何でも魔物となった彼の一部を遺品として届けるわけにはいかないしねえ。だからこの場で終わりにしてほしい。できれば、ちゃんと送ってもらえたらありがたい」
「良いわよ。彼の行動が関係ない人たちを巻き込んだこと許容できないけど、それ以外のものは復讐含めてメアルリアとしては問題ないし。メアルリア教の高位司祭である、私サティリアーヌ・シルヴェニアが責任をもってやりましょ」
「どうやら、向こうは片付いたようだな」
フウリュウの言葉にサティリアーヌが応えたところで、彰弘の目にこちらに向かってくる複数の人影が映った。
その人影はキメラとゴーレムに対処するために向かい、先ほどまでその倒した後処理をしていた面々である。
「待つ必要は……ないかしらね?」
「説明は必要だろうが、待たなくても大丈夫だろ」
「それじゃ、やりましょうか。本当にいいのよね?」
「ああ。頼むよ」
サティリアーヌが最後の確認を行うと、まだ悔恨の情が浮かぶ表情のフウリュウとガンリュウが頷いた。
「彰弘さん。すまないけど、魔石を」
「ああ、分かった」
彰弘は血喰いを引き抜き魔力を流す。
この場で全て終わらせるというフウリュウの言葉を実現させるために、シンリュウの上に生成された魔石を完全に壊すのである。
そうすれば残されたシンリュウの亡骸は竜とは思えないほどに脆くなるのだ。
余談だが、魔石と魔物の素材の両方が欲しい場合は魔石を手にするよりも先に解体なりで必要な素材を手に入れればいい。もし解体をせずに魔物の死体全てを持ち去りたい場合は、魔石に触れる前に魔物の肉体を引きずるなどして魔石から離すという行為が必要となる。
なお、魔石だけ欲しいときは魔石そのものを回収するだけでよい。そうすれば残された死体は非常に脆くなり、普通の火をつけただけで十分とかからず燃え尽き消えてしまうのだ。
ともあれ、彰弘は確実に魔石を完全に利用できないほどまで壊すことができるように血喰いへ魔力を注いでいく。
「来世があるかは分からないが、次があったら穏やかに過ごせるといいな」
誰に聞かせるでもない言葉とともに彰弘が血喰いを振るう。
それほど力を入れたようには見えないが、剣身から分厚く伸びた魔力の刃はシンリュウの上の魔石に直撃すると、キンッという甲高い音を立てて魔石を横に両断。直後、どのような作用があったのか、両断された魔石が大気に溶けるように消え去った。
「後は任せた」
「任されました。平穏と安らぎを司る神々の信徒である、サティリアーヌ・シルヴェニアが希う。死した肉体より離れし魂が、迷わぬようその道を誤らぬよう、今ここに導きを与え給え」
サティリアーヌの言葉が終えると同時にシンリュウの身体が青白い神聖さを感じさせる炎に包まれる。一般的に『浄火』と呼ばれる神の奇跡だ。
誰もが無言で青白い炎を見つめる。
やがて炎はなくなり、それと同時にシンリュウの亡骸も消えた。
シンリュウのいた場所にあるのは何かに潰されたかのように倒れた雑草が生えているだけであった。
シンリュウと戦い全てが終わった翌日。
彰弘たちはメアルリア教の総本山であるアルフィス目指して出発していた。
とりあえず彰弘たちの最大の懸念事項は解消されたので足取りは軽やかである。
「後は彰弘さんのご家族がどこにいるかですねー」
「まあ、それは総管庁で聞けばすぐに分かると思うわ。ライズサンクとうちは別の国だから完全な連携は取れていなかったけど、国内に限っていえば既に全部の照合は終わってるから、必要な情報……名前と融合前の住所が分かってれば教えてくれるはずよ」
「じゃあ、とりあえず宿とってギルド行ってから総管庁か。で、その後は神殿にでも行くかな。都合が良けりゃ神殿は後で顔見せか?」
街へ到着後の予定を口に出しながら進む彰弘。
その周囲には笑顔の仲間がいるのであった。
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