表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
融合した世界  作者: 安藤ふじやす
6.リュウを名乗る者たち
260/265

6-24.【再会②】

 前話あらすじ

 アンヌと国之穏姫命に再会する






「ちょっと待った。そっちの話を聞く前に、一つ確認だ」

 一つ前の話題が終わり、アンヌが次の話題に移ろうとする寸前に彰弘が待ったをかける。

 その様子に言葉を止められたアンヌが小首を傾げた。

「なに?」

「さっきはさらっと流しちまったが、何でアンヌの気配が強いと狙われるんだ? それだけで俺が狙われるってのが、よく分からん」

「ああ、それね。シンリュウってのが今の状態になった原因は、ドルワザヌアのせいでもあるけど、うちの神域が彼の仲間の息の根を止めたからでもある。んで、その神域をサリナが顕現させたときに彼女に一番魔力を渡したのが私なのよ。いつもなら私とリース以外が主なんだけど、あのときはいろいろとあって、私の魔力九割の神域だったのよね」

 メアルリア教の神は五柱。平穏の神メルフィーナ、安らぎの神アルフィミナ、平穏と安らぎを司る守護神ルイーナ、平穏と安らぎを司る戦神リース、そして平穏と安らぎを司る破壊神アンヌだ。

 余程のことがない限り、神域顕現に力を貸すのはアンヌとリースを除いた三柱の女神であるが、世界融合当初は世界を安定させるために全力を注いでいた。リースもドルワザヌア以外にも侵攻してくる別世界の神がいたため、サリナの手助けをする余裕がなかったのだ。アンヌにしてもリースと似たような状況だったが、偶々外敵を滅ぼした直後で他に気を回す余裕があったために、神域用の魔力を与えることができたのである。

 ちなみに神域に使われた残りの一割は、地上の状況に気付いてはいた、アンヌ以外の四柱が無理矢理時間を創りサリナへと分け与えたものであった。

「神様にもいろいろと、か。それは置いといて、つまりはシンリュウってのが覚えているだろう魔力の気配みたいなの……か? それがお前のものであるから、結果として今現在お前の気配が一番強い俺が狙われると」

「まあ、そうなるわね。今、ゴーレムの中に入ってるポルヌアって子も同じよ。だからあなたを狙った。もっとも、彼女は気配の強弱ってより自分に近い位置にいるからっていうのと、将来の脅威度で判断したみたいだけどね」

 ポルヌアはサリナが顕現させた神域内に留まることができず、されど滅せられることもなく神域外へ弾き飛ばされている。そのため、彼女の記憶には神域に込められたアンヌの魔力の気配が刻み込まれていた。だから、その魔力の気配を持つ三名を脅威と感じたのである。

 彰弘を狙ったのは、忌々しく脅威と感じる気配を持つ三名の中で自由に動くことができ、将来的に厄介となりそうだからであった。

「一応は納得できるか? さて話の出端を挫いて悪かったな。んじゃ、頼む」

「いえいえ、どういたしまして」

 彰弘が若干の引っかかりを見せつつも、とりあえずは納得の表情を見せたことに、アンヌは笑みで応える。

 少々余談だが、自分が関わっていない事柄が理由で自らが狙われるとなったら多少なりとも憤りを表したり不満を漏らしたりするだろうが、彰弘にはそれがないし、周囲もそのことについて何かをとやかく言ったりはしていない。

 周囲の者に関しては、彰弘があまりにも平然としているから、そういうものだと認識しているというのが理由の一つ。後は神の名付きの加護を持っているからというのも理由であった。古今東西、神に気に入られなければ名付きの加護は得られず、得られたら試練というものが課せられるのが世界の常識であるからだ。

 周囲の者については前述のような感じなのだが、それでは彰弘が今回のような生命の危険もあることを受け入れているのは何故か? それは彼が決して弱いとは言えない力を持っていて、シンリュウを放っておくと家族や知り合いに悪影響が出る可能性があるからだ。

 ならば、もし力がなかった場合はどうなるかが気になるところだが、その場合の、彰弘はシンリュウを倒せそうな者や組織へと持っている情報を伝えて、自身は家族や知り合いとともにどこか安全そうな場所に避難するだろう。彼は別に善人でも正義感があるわけでもないので、命に係わる勝算のない戦いに意味なく身を置くことはない。

 さて、そんな理由でシンリュウとの戦いを受け入れた彰弘は、改めてアンヌへと向き直り話を聞く体勢を見せるのであった。









 彰弘がアンヌに向き合ってから数秒。

 何かを少しだけ悩んでいたアンヌが、意を決したように一つ頷くと口を開いた。

「人への説明って得意じゃないから、そこは勘弁ね」

「気にするな」

「ありがと。で、何から話そうかと思ったんだけど、次の順で話すことにしたわ。1.あなたの家族の居場所。2.あなたと私の関係。3.何故、魂の欠片がお互いに交換されることになったか。まあ、2.と3.は分ける必要はなさそうだけど、一応ね」

「了解だ。ところで、今さらで思い出したんだが、神殿に着いたら教えてくれるという話じゃなかったか?」

「細かいこと覚えてるわね」

 話の流れを簡単に説明された彰弘がふいに思い出した疑問を口にすると、アンヌは苦笑気味に笑みを零す。

 確かに世界融合当初の国之穏姫命の件があったときに、アンヌは彰弘へと「二年後以降にアルフィスの神殿に来たらそこで教えてあげる」と伝えていた。

「んじゃ、まずそれを話してしまいましょうか。といっても、別に難しいとかそんなことはなくて単純よ。ここも神殿の一部だもの」

「うん? 意味が分からないんだが」

「この場所はアルフィスという地だったわけだけど、まずそこにメアルリア教は神殿を建てたわけよ」

「それで?」

「神殿が建ったとき、このアルフィスには何もなかった。まあ、森林の中にエルフの集落があったりっていうのはあったけど、少なくとも平地……というべきかしら、結構な広範囲に神殿以外はなかったのよ。ついでに地名はあっても、誰のものでもなかった」

「……え? そういう話になんのか?」

 一つの結論に至った彰弘は、呆れたような表情で目の前の破壊神を見る。

 その態度にアンヌという破壊神はゆっくりと頷いた。

「今、アルフィスって呼ばれている国の土地は、ほとんどメアルリア教の総本山である神殿の敷地なのよ。つまり、今あなたたちが野営している場所も神殿の敷地。ついでに言うと、国境検問所も神殿の施設の一部」

「だから問題はないと」

「ええ。てなところで、話を進めるわよ?」

「ちょっと疑問に思っただけだからな。了解だ」

 実際のところ、アンヌが言う事実を正確に把握している者は僅かである。メアルリア教の聖典にこのことは載っているが、特別強調されているわけでもなく、仮に誰も知らなくなっても問題はでないため、この事実を知っている者もあえて喧伝するようなことはしていないからだ。

 ともかく、アンヌの話はちょっとした脱線の後で始まったのである。









 彰弘の弟以外の家族のいる場所は普通であった。

 アルフィスという国のアルフィスという街で、現在は両親、妹、妹の旦那に娘という家族で暮らしていた。

「エルフと結婚して子供までか」

「そうねえ。ライズサンクの方だったら、もしかしたら融合前に付き合ってた人と結婚してたかもだけど」

「国を跨ぐとなかなか難しいってことか」

「実感してるでしょ? 弟の情報はあったけど、両親や妹の情報は全く入ってこなかったんだから」

「まあな」

 世界融合により離れ離れになった家族や友人などを再会させる人探し事業は国主導で行われていた。

 人探し事業は各地から集めた情報をデータベース化して、それを基に尋ね人の擦り合わせを行い、出された結果を総合管理庁を通して必要な人へ届けるというものである。

 しかし、この事業は対象者の数がライズサンク皇国内だけでも一億を超えていることに加え、通信インフラストラクチャーが無いに等しい今の世界ということで膨大な時間がかかっていた。

 彰弘の弟以外の家族が住んでいるのはライズサンク皇国の隣に位置するアルフィスであるが、どちらの国でも国内の情報が優先的に確認されており、そのために彰弘の家族でも弟のみ情報が彰弘へと伝えられたのである。

「電気とか電磁波とかありゃ違ったのかね?」

「少なくても今よりは捗ったでしょうね」

「ま、それを今考えても仕方ないか」

「んじゃ、話を進めましょか」

 既に何年も今の世界で彰弘たちは生きている。

 電気がなくても生きていける状態だし、それほど不便でもない。

 融合前の世界において電気で動いていたものが、この世界では少し形を変えて魔力で動くようになっているからだ。まあ、当然そのように作ってあるから動くのだが。

 なにはともあれ、元の世界と比べて魔物のことと通信関係以外はそれほど不便はないのが今の世界というのが、彰弘の感覚であった。









 無くなっていたコーヒーカップに新たなコーヒーを注いでからアンヌが口を開く。

 彰弘は始めその言葉の意味が分からなかった。いや、意味は分かるが脳が受け入れを拒否したかのように認識できなかった。

「もう一度頼む」

「まあ、そうなるのも分かるわ。んじゃ、もう一度言うわね。私とあなたは同じ存在だったの」

「……同じ……だと? ……同じだから魂がくっ付いた?」

「話す予定だった、2.と3.の結論を言ってしまうとそうね」

 今現在の彰弘の表情に一番適している表現は困惑だろう。

 神の一柱であるアンヌの顔が真剣なこともあり、今話題となっているものが嘘だと断言できる要素がない。だが、常識を逸している内容であることは確かだ。

「説明はしてもらえるんだよな?」

「勿論。こんな事実だけを伝えたからって何になるのよ。とりあえず質問は後でね。でも、話が分からなくなりそうだったら、それは言って頂戴。分からないまま話を聞いても仕方ないから」

「ああ」

 彰弘とアンヌは居住まいをお互いに正し、これまたお互いに一口コーヒーを飲む。

 そして両者のコーヒーカップがソーサーの上に固定された。

「今からだと十年ほど前になるわ。あまり有名ではない……いえ、ほとんど無名ね。その神々が現状に不安を感じこの世界を去ったのよ」

「早速で悪いが、この世界というのは……」

「ごめんさない。融合前の地球側の世界のことよ。で、その神々は自分と一緒に行く人を募集した。『一緒に異世界行きませんかー?』ってね。後で聞いたら寂しかったらしいわ。……脱線したわね。まあ、昼休憩中にその声を聴いた私は、その言葉に応え、そして融合前の地球から消えた」

「十年前……ね」

 彰弘にとっての今から十年前。

 今と違って、それほど波のある生活をしていたわけではない。刺激というものには乏しかったが、平穏無事に過ごせていた。ただ何か生活を変えた方が良いのではないかと思っていた時期だったということを彼は思い出した。

「そ、十年前。ともかく、私は消えた。この消失は結構な事件として取り上げられたみたいよ。私だけじゃなくて、結構な数だったみたいだし。有名人もいたみたいよ。私が行った異世界には有名人来なかったけど」

「まて、全く記憶にないぞ」

「そりゃそうよ。あなたがいた世界では起こってないんだから。あくまで神の声に応えて、世界から移動した人がいる世界での話なんだから」

「平行世界ってやつか」

「その捉え方で良いわよ。ああ、ちなみにこれから説明することは、分かりやすさ前提で正確じゃないけど、そこは飲み込んで頂戴。相対性理論とか零次元幾何とか話されても困るでしょ」

「まあ、多少は知ってるが……確かに理解しきれるかは分かんねえな」

「だから、ざっくりとあなたに分かりやすく説明するわ」

「それで頼む」

 相対性理論、零次元幾何、平行世界、世界線など、言葉を聞いたことがあっても、それを正しく説明できる人はそうはいないだろう。

 彰弘もそうで、言葉自体は聞いたことがあるし見たこともあるが、その説明をしろと言われても咄嗟に簡単にでも説明する言葉は出てこない。

 だからこそ、彰弘は素直に簡単な説明をするということを受け入れる。

 そもそもの話、今回の話にこれらの詳しい説明は必要ないのだから問題はない。

「十年前に地球に紐づけられていた一部の神々が去り、それにそこそこの数の人類が付いていったことで、融合前の地球がある世界は分岐した。尤も世界全体で考えたら些細なことだけど……ああ、私が言う世界というのは地球だけのことじゃなくて、無数の宇宙が存在する領域と考えて」

「了解。なんとなく分かる」

「うん。で、私たちが残ったままの世界といなくなった世界に分かれ、暫くはそのまま二つの世界が存在していたんだけど、地球側の世界で今から六年くらい前。私たちがいなくなったまま存在していた世界が消滅した」

「消滅?」

「そ。文字通りなくなった。私たちが行った異世界が無くなることに巻き込まれたせいでね」

 アンヌがいた世界が終わりを向かえた理由は神々の力をもってしても解き明かされてはいない。

 ただ今回のことで、世界は終わる可能性があるということと、別の世界に融合することができるということが判明した。

「なぜ分岐した片方だけがなくなったのかについては、経路ができてしまっていたから。勿論、あなたが残った方の世界にも経路はできていたんだけど、それは本当に細いもので、すぐに影響が及ぶほどじゃなかったの」

「それで?」

「その分岐した世界の消滅で、わたしたちは自分たちがいる世界が終わることを知った。それと同時に残った地球側の世界を道連れにしてしまう可能性があることも知ったの」

「細いとはいえ経路は繋がっていたからか」

「そうよ。神になってできることも知識も随分と増えたけど、そのことを知ったときはどうしたら良いか分からなかったわ。経路を破壊すればとも考えたけど、影響範囲が分からなかったし、自分たちの信徒を見捨てるのも嫌だった。そんなとき、うちら側のお偉いさんが世界全体は無理でも融合で一つの宇宙を生き永らえさせることができるという情報を持ってきた」

「随分と都合が良く感じるが?」

「私も同じことを考えたわ。でもいきなり頭に浮かんだらしいのよね。ともかく、終わる以外の選択肢がなかった私たちは即座に地球側の世界の神々へと連絡を取って事情を説明したのよ。地球側の方でも一つの分岐した世界が突然消滅したことで、その原因が私たちがいる世界の終わりによるものだと認識していたし、このままだと自分たちがいる宇宙が消滅。果ては世界全体が終わる可能性もあると考えていた。だから協力してくれた」

「俺ら側の神も融合に力を使ったわけか。……ん?」

「どこか分からないところがあった?」

「分からないというか……時間の流れが違うのか? ってのと、そっちの世界に行った神ってのはどうなったんだ? いなくならなかった世界は残ってたわけだろ?」

 彰弘の疑問は、自分も彰弘だったと口にするアンヌが異世界に行ってから、それほど時を待たずに世界の終わりに直面したと言っているように感じたことが一つ。

 もう一つは不安から異世界に向かった神々はどうなったのか、というものだ。

「ああ、そこは必要だったわね。まず時間だけど、流れが違うっていうよりは、今よりずっと昔の異世界に行ったって考えて。覚えてないと思うけど、私が異世界に行ってから神になるまで、大体一万二千年くらいかかってる。ちなみにハーフエルフだった時代は二千年くらいね」

「一万二千歳か」

「じとー。……自分が私と同じだったていうの信じられないって態度してたけど、もう既に納得してるでしょ? あなた絶対にそんなセクハラ紛いの台詞言わないし」

 アンヌが突っ込んだように、この時点で彰弘はこの目の前にいる破壊神が嘘を言っているとは思っていない。勿論、確証はないのだが。

「ふっ。口で、じとーとか言うなよ。それはそれとして、神様の方は?」

「考え方が分かるっていうのは……まあいいや。で、神ね。神は別ね。例えばどこぞの一柱が、『こんな世界嫌だ。出て行ってやる!』って実際に出て行ったとしても、世界は分岐しないの。その神がいない世界が存続するだけ。私たちに声をかけて異世界に行った神々は元々無名に近かったから、抜けても影響が少なかったのよ。で、全部が全部戻ってきたわけじゃないけど、調整済だしで戻ってきても問題なかったってわけ。八百万の神様は伊達じゃないのよ」

 ドルワザヌアのように自分の世界の理のままであったら、排除の対象となった可能性はあるが、アンヌを連れて行った神は異世界の神となった後、再び地球側に来る際には問題がないように自分自身を変化させていた。

 ちなみにこの変化はアンヌ含む他の全ての神も同様である。

「こんな感じだけど良いかしら?」

「二つ。一つ目はこの段階で聞くことじゃないような気もするが、性別が変わってることについては?」

「確かに今さらの質問ね。それは試練のせいよ。ほら、あなたも延々と殺されてた記憶経験したでしょ? あれ殺されるだけ強くなるって話だったから、耐えてみたのよ。まあ、耐え過ぎて男で殺されるネタが尽きたらしくて、疑似的に女で殺される経験に移って、それからいくつか種族が変わって最終的にハーフエルフの女で時間切れ」

「……ちょっと理解できねえな」

「まあ、ともかく、そんな理由よ、性別は」

 呆れたような信じられないような、そしてドン引きも混じった表情の彰弘。

 それを苦笑で見返すアンヌだったが、一呼吸の後に二つ目の質問を催促する。

「二つ目は、もし異世界にいった人間が人間のまま戻ってきたらどうなるのか、ちょっと興味がある」

「限りなく近いけど別の存在として戻って来ることになるわね。まあ、あなたと私みたいに魂の形も非常に似ているから、魂が混ざり合ってテレパシー的なこととかができるようになるとか、いろいろ影響はあるでしょうけど。ちなみに人と人だから、あのときのあなたみたいになるようなことはないけど」

 アンヌが言う、あのときというのは彰弘が国之穏姫命と初めてあったときのことである。

 普通の人同士ならば、周囲に迷惑をかけるようなことにはならないとアンヌは言っているのだ。

 なお、異世界から人が人として戻ってきた場合、平行世界がどうなるかは時と場合による。平行世界を内包する世界に破滅の影響がなければ一定以上の重要さを持つ平行世界は存続するのだが、もし破滅に繋がる可能性がある平行世界ができた場合は問答無用で破壊されることになっていた。

「こんな感じよ。続けても良いかしら?」

「詳しく聞きたいこともあるが、とりあえずは」

「うん。じゃ、残りの説明だけど――」

 この後も、アンヌによる説明が続き、彰弘が時々突っ込みつつ会話が続く。

 そして、しばらく後。

「異世界に行ったことで、存在として別のものになった。そういうわけか」

「そうよ。限りなく近いけど別の存在。神の魂がくっ付いても、即座に喰われることがない程度には近いね」

「若干、まだ常識が邪魔してるが……とりあえずは理解した。で、これは前振りなんだろ?」

「流石、私。よく分かってるじゃない。まあ、世界融合直後の約束を守ったってことで言うなら前振りだけじゃないけど。ま、それはいいわ。で、本当の本題なんだけど」

「極論だが……自分の力なんだから使えないわけがない。そういうことだろ?」

「ご名答。確かに神と人で別の存在になってるけど、ちょっとした切っ掛けで魂が混じっちゃうくらいには近い。使えないわけがないのよ、私の魔力をあなたが」

「それで試練か」

「そうねえ。神官の子たちとは違うけどね。何かに変換する必要はない。ただ取り込んで自分のものにするだけの作業よ。体内に入ったちょっと濃い目の魔力を自分の魔力として使う練習をするの。それができれば、シンリュウとか名乗ってる、あの程度は滅ぼせるわ」

「悲しむ人がいるのが分かってて、死にたくはないしな」

「私もあなたが死んで悲しむ人を見るのは嫌よ」

「んじゃ、早速やろうか」

「いいわね。やりましょ」

 コーヒーを飲み干した一人と一柱は立ち上がる。

 神の試練といっても特別な空間が用意されることはない。

 アンヌが創り上げたこの精神世界が既に試練の場としての機能を有しているからだ。

 そして試練が開始される。

 普通なら少しずつ本当に少しずつ一滴一滴というようにゆっくりと与えられる神の魔力だが、アンヌから彰弘に贈られる魔力は大瀑布のようであった。この一人と一柱の関係でなければ、決してできないことである。

 神々が住まう神界ならいざ知らず、人種(ひとしゅ)が住む現界であるから、精神世界であっても時間の進むを止めることはできない。

 アンヌの見立てではシンリュウは昼前には襲ってくる。そしてその可能性は彰弘も考えていた。だからこそ、可能な限り早く望む結果を出すために普通ではありえない試練を一人と一柱は始めたのである。

お読みいただき、ありがとうございます。




相対性理論とか平行世界とか、ちょっと真面目に調べてたら、頭が茹ってきた。

面白いことは面白いけど、理解するにはどれだけの年月が必要なのやら。


というわけで、今回の話の平行世界の解釈は多分の自己流解釈が入ってますので、現実に提唱されているものと異なっていても、この物語の中ではこうなのだとご認識ください。


では、また次回に。


二〇二〇年 六月十二日 二十三時五十分 追記

ある意味で一番重要な部分を書き逃していました。

何故性別が変わってるのか(女神なのか)、異世界に行った人が、人として戻ってきた場合どうなるのか追記(追記した文は以下)


「二つ。一つ目はこの段階で聞くことじゃないような気もするが、性別が変わってることについては?」

「確かに今さらの質問ね。それは試練のせいよ。ほら、あなたも延々と殺されてた記憶経験したでしょ? あれ殺されるだけ強くなるって話だったから、耐えてみたのよ。まあ、耐え過ぎて男で殺されるネタが尽きたらしくて、疑似的に女で殺される経験に移って、それからいくつか種族が変わって最終的にハーフエルフの女で時間切れ」

「……ちょっと理解できねえな」

「まあ、ともかく、そんな理由よ、性別は」

 呆れたような信じられないような、そしてドン引きも混じった表情の彰弘。

 それを苦笑で見返すアンヌだったが、一呼吸の後に二つ目の質問を催促する。

「二つ目は、もし異世界にいった人間が人間のまま戻ってきたらどうなるのか、ちょっと興味がある」

「限りなく近いけど別の存在として戻って来ることになるわね。まあ、あなたと私みたいに魂の形も非常に似ているから、魂が混ざり合ってテレパシー的なこととかができるようになるとか、いろいろ影響はあるでしょうけど。ちなみに人と人だから、あのときのあなたみたいになるようなことはないけど」

 アンヌが言う、あのときというのは彰弘が国之穏姫命と初めてあったときのことである。

 普通の人同士ならば、周囲に迷惑をかけるようなことにはならないとアンヌは言っているのだ。

 なお、異世界から人が人として戻ってきた場合、平行世界がどうなるかは時と場合による。平行世界を内包する世界に破滅の影響がなければ一定以上の重要さを持つ平行世界は存続するのだが、もし破滅に繋がる可能性がある平行世界ができた場合は問答無用で破壊されることになっていた。

「こんな感じよ。続けても良いかしら?」

「詳しく聞きたいこともあるが、とりあえずは」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ