2-11.
前話あらすじ
六花と紫苑の冒険者登録を終えた彰弘は自分の登録のために訓練場にある試験場へと向かう。
山田や宮川との再会の後、無事に彰弘は冒険者登録のための試験に合格するのだった。
※十二月二十三日:「2-6」話に砂時計が道具として存在する文章を追加。
(話の流れには関係ありません)
職業斡旋所に戻った彰弘は無事冒険者ギルドへの登録を完了させた。
短時間で斡旋所へと戻って来たことや称号のことで通常よりも少しだけ時間はかかったが、それ以外は特に問題となるようなことはなかった。
そんなこんなで無事ギルドへと登録した彰弘は、自分と一緒に行動していた少女四人と訓練場で出会った誠司達五人、そして職業斡旋所で学園関係の説明を聞いていた瑞穂と香澄の家族と共に大食堂で昼食をとった。その際、六花の担任であった桜井先生こと桜井 澪と再会し無事を喜び合った。
そんな偶然の再開もあり、食事後に小一時間ほど皆と談笑し、それから冒険者ギルドへと向かったのである。
彰弘は少女四人の案内で冒険者ギルドの建物の前まで来ていた。
少女達がその建物の位置を知っていたのは、避難拠点に到着した翌日から彰弘が目覚めるまでの間、冒険者ギルド併設の訓練場で魔法の練習をしていたからだ。
通常、ギルド併設の訓練場はギルドに登録した上で使用料を支払わなければ使えない。しかし、彰弘達が避難していた小学校へと救助に来た部隊にいたメアルリア教の司祭であるミリアとその仲間達の言葉、加えて今現在その訓練場を使用する者が皆無だったこともあり、ミリアが所属する冒険者パーティーである、竜の翼の訓練を見学するという名目で少女達は訓練場への出入りを限定的に許可されていたのだった。
そんな理由があり少女達は建物の場所を知っており、彰弘を目的の場所まで案内できたのである。
「何ていうか、普通だな」
冒険者ギルドの建物を見た彰弘の口からそんな言葉が洩れた。奇しくも総管庁庁舎を見たときと同じ感想であった。
北門と仮設住宅がある区画の中間点に建てられた冒険者ギルドの建物はその雰囲気や外観が総管庁の庁舎とよく似ている。
庁舎の三階部分を取り除き、外から見える窓を半分くらいに減らす。続いて出入り口のガラスドアをガラス窓をはめ込んだ木製のドアにし、最後に何の建物かを示す看板を冒険者ギルドを示すものへと取り替える。これだけで冒険者ギルドの建物完成である。
そんな建物を見ていた彰弘だが、その建物から出てきた人物を見て少し目を大きく開けた。
「違和感が半端ない……」
彰弘は北門方向へと歩み去る一組の男女を目で追いながらそう言葉を出す。
今、彰弘の目の前でドアを開けて出てきたのは鎧を身に着け武器を携帯した冒険者の二人であった。
冒険者ギルドの建物という関係上、当然、その建物を利用するのは冒険者やギルドの職員、またはそこに関係する人達だ。
何もおかしなところはないのだが、彰弘から見たらコスプレした人間が日本の役所から出てきたような感覚を覚えたのである。
もっとも、人物だけを見るならばコスプレのような微妙な違和感を感じることはないのだが……。
ともかく、何時までもギルド前で建物を眺めていても仕方ない。彰弘はそう考えると少女達に目配せをして、建物の出入り口へと歩き出した。
なお、少女達が初めて彰弘と同じ光景を見たときの感想も同じであったことを追記しておく。
冒険者ギルド建物内部は大きく二つに分かれており、出入り口から向かって右側が依頼の受付や素材の買取など様々なギルド業務を行うための場所で、逆の左側は待ち合わせや休憩などが行える喫茶室のような場所である。広さはそれぞれ四十坪程度で、どちらも狭さを感じる広さではない。
とはいえ、今は昼を少しすぎたくらいでこの場所に最も人がいない時間帯である。これが朝となれば依頼を求める冒険者で建物の中は混雑し、夕方は夕方で依頼の完了報告や魔物素材を売りに来る冒険者で混雑する。
彰弘達がこの時間帯に冒険者ギルドへ来たのは正解といえた。
「とりあえず売れる物を売るか」
ギルド建物の中を軽く見回した彰弘は、自分達に注がれる数人からの視線を感じながらそう声に出す。
魔石は魔物から取れたそのままの状態では魔導具の燃料として使えない。それようの加工をする必要があるのだ。
また討伐証明はあくまで魔物を討伐した証明であるため、持っていても仕方ない。中にはその討伐証明が貴重品となるものもあるが、彰弘が持っているのはゴブリンの物だ。竜などの討伐証明と違って所持しているだけで価値がある物ではなかった。
「魔石とかを売るのなら一番奥のカウンターです。でも、まずはギルドの説明を聞きませんか?」
彰弘の声に紫苑が言葉を返す。
「そうだねー、ここに来てたのは魔法の練習のためだったから、あたし達も詳しい説明とかまったく聞いてないし、それがいいかも」
瑞穂が紫苑に同意し、残りの少女二人もそれに頷く。
その様子を見た彰弘は、そうするか、と『総合案内』と書かれた吊り看板が下がる受付カウンターへと歩みを進めた。
彰弘達が向かう受付カウンターに座っているのは、どこかほっとする雰囲気を持つ栗色の髪をした二十代半ばの女だ。耳が長かったり猫耳が生えてたりはしていない極普通の人族である。
「ジェシーさん、きたよー」
「いらっしゃい六花ちゃん。元気そうで何よりね」
受付カウンター前まで来た彰弘達の中で六花が一番初めに声を出し、それに受付に座っていた女が答えた。
数日間ではあったが、竜の翼の誰かと一緒にギルドへ来て朝から晩まで魔法の練習を帰る。そんな生活をしていた少女達はいつの間にかギルドの職員と仲良くなっていたのだ。
「それでご用件は? 今日は竜の翼の人はいないみたいだけど……」
受付嬢であるジェシーは彰弘を視界に捉えながら六花へと言葉をかけた。
「うん。今日は冒険者になったからお話を聞きにきたの」
そうジェシーに答えた六花は自分の身分証をジェシーに差し出した。
受け取った身分証を確認したジェシーは「ありがとう。確認したわ」と、それを六花に返した後、彰弘に顔を向けた。そして一瞬だけ目を鋭くしたが、すぐに元の表情に戻す。
「みんなのも確認させてもらえる? 一応、規則だからね」
そう言うとジェシーは彰弘から目を離し、六花以外の少女達へと順に目を向ける。そして少女三人の身分証を確認し終えるとそれを持ち主に返し、最後にまた彰弘へと目を向けた。
「では、あなたの身分証を確認させてください」
言われた彰弘はジェシーへと身分証を差し出しながら、さっきの鋭い視線がないことに気付き、見定めは問題なかったのかね? と声に出さずに呟いた。
彰弘達は冒険者ギルドの二階にある会議室で冒険者について説明を受けることになった。
説明を行うのは一階のカウンターでもよかったのだが、五人という人数のこともあって会議室に移動したのである。
なお、説明役はギルド内で少女達と一番接点があったジェシーだ。一階の総合案内のカウンターにはジェシーの変わりに別のギルド職員が座っていた。
「では、説明を始めます」
ジェシーの言葉に彰弘達は真剣な顔をしてそれまで雑談していた口を閉じた。
「最初にお伝えしておきますが、恐らく後で分からないことが出てくると思います。そのときには遠慮なくギルド職員に聞くか、ギルドに置いてある説明書をご確認ください。では、まず冒険者とは何なのかですが、言ってしまえば何でも屋です。冒険者は基本的にはギルドを通した依頼という形で、様々な仕事を行っています。仕事の内容は、街中での人々の手伝いから、街から街へ移動する人々の護衛。そして魔物や野盗の討伐など、その仕事は多種多様です。また各地に点在する遺跡の調査なども仕事の一つとなります。このように冒険者という言葉からは離れる内容も多々ありますが、これらが冒険者の仕事となります」
ここで一度言葉を区切ったジェシーは何か質問がないかを彰弘達に尋ねる。
彰弘は少しの間、考えを巡らしてから声を出した。
「二つほど。野盗なんてものが討伐対象になるくらい外にはいるのかということと、遺跡などは依頼がないと入れないのかどうか、というところを聞きたいかな」
「順番に答えます。野盗は魔物と同じ討伐対象と考えてください。この世界で自らの利益のために他の人を襲う野盗はことによったら魔物よりも討伐すべき存在です。元日本人であるあなた方には理解が難しいかもしれませんが、冒険者をやる以上はそう理解してください。でないと即自身の破滅に繋がります」
ジェシーの言葉に彰弘は頷く。
元々、野盗のような犯罪者に情けをかける気は彰弘になかった。ただ、少女達と一緒に外へ出たときのことを考えていたのだ。
だから彰弘はジェシーの言葉にただ頷き、少女達を守る決意を強くした。
一方、少女達も決意していた。竜の翼のメンバーから魔法の指導を受ける合間にリルヴァーナのことをいろいろと聞いていた。当然、その中には野盗などの犯罪者についての話もあった。それに瑞穂と香澄の経験が加わり、まだ十代前半の少女ながら四人は野盗に対しての情は皆無となっていた。
「どうやら杞憂のようですね」
彰弘達五人の表情を見たジェシーはそう声を出す。
正直、彰弘に関しては身分証に表された称号から問題ないと考えていた。ただ、少女達のことは心配していた。元リルヴァーナ人でも、この話の段階で野盗といえど相手が人であるということで躊躇うことがあったのだ。だが、この少女達の様子を見る限りでは、実力はともかく、その精神は野盗が相手でも問題はないと思えた。後は実際に戦闘となった際にどうなるかであったが、そればかりはそのときにならないと分からないことであった。
この後、ジェシーは彰弘の二つ目の問いに、封鎖されているのでなければ問題ないことと自己責任であることを伝え、次の話題へと進んだ。
「では、次に依頼についてです。と言っても難しいことはありません。まず、掲示されている依頼の中から自分達のランクに合った依頼を選び、その依頼書を受付カウンターに持っていき手続きを行います。そして、依頼を完遂してから受付カウンターで完了の手続きを行い報酬を受け取ります。流れとしてはこのような感じとなります。依頼の完遂については依頼内容によるので一概には言えませんが、もし街の人の手伝いであれば、その依頼人から完了の証である割印の付いた依頼書の控えを受け取りギルドへと提出してください。魔物の討伐であれば討伐証明となる部位をギルドへと持ち込んでください。後、注意事項ですが、依頼を完遂できない場合は、ギルド側の不備や依頼人の不正がない限り、冒険者の方に罰金を支払ってもらうことになっています。あ、ギルドのランクについてはこの後で説明します。このようなところですが、何か質問は御座いますか?」
依頼についての説明を受けた彰弘達はお互い一度目を合わせてから考え込む。
暫くして再度お互いに目を合わせた。そして彰弘が口を開いた。
「今のところは、特にないな。実際にやってみないと何ともいえないというのが正直なところだ。だから、とりあえず次へと進んでもらって構わない」
そう言う彰弘にジェシーは頷いてからランクの説明を始めた。
「冒険者ギルドのランクは一番下を『G』、一番上を『A』としています。『S』というランクもありますが、これは極稀にAにさえ当てはまらない方がおり、そのためのものですので、あまり考える必要はありません。さて、ランクを上げることのメリットですが、ランクを上げればそれだけ実力があるということで、様々な依頼を受けることができるようになります。また、一部の人を除いて街に入るためには『入街税』を支払わなければならないのですが、ランクによりそれを免除される範囲が広がります。例えばランクGとランクFの場合、登録した街への入街税が免除されます。その上のランクになると領内全ての街、国内全ての街、というように免除になる領域が広がっていきます。ちなみに、この範囲は依頼を受けることのできる街の範囲でもあります。ですので登録した街以外で依頼を受けたい場合は、ランクを上げる必要があるわけです」
そこまで説明したジェシーは一息つき、水を一口飲む。
実のところ別の街で依頼を受ける場合は、その街の住民登録を行えばよい。しかし、頻繁にそれを繰り返すとブラックリストに載ることになる。そして、載った後で正当な理由なしに一度でも同様の行為を行うとギルド登録を抹消され、以降はどのような理由があろうと冒険者ギルドへの登録ができなくなるのである。
ちなみに、冒険者として活動しない人が成人となってもギルドへと登録し続けることにメリットはないに等しい。何故ならば、いくら街に入るのに税金がかからないとはいえ、ギルドに所属し続けるためには毎年一定額をギルドに納めなければならないからだ。頻繁に街の出入りをする必要がある冒険者には恩恵のある制度であるが、そうでない者にとっては無駄に金が出て行く制度であった。
一息ついたジェシーは説明を再開する。
「次にデメリットですが、ランクがE以上となると強制依頼の対象となります。この強制依頼はそうそうあるものではありませんが、主に街に危険が及ぶ可能性のある魔物の大規模討伐時に発令されてきた経緯があります。強制依頼発令時その街にいた場合、拒否すると罰金が発生しますから注意してください。ここまではいいですか?」
デメリットまでを伝えたジェシーは一度彰弘達に確認をとり、それからまた口を開いた。
「では、ギルドランクの昇格と降格です。まずランクの昇格ですがこちらはランクによって方法が違います。節目となるランク以外は依頼の達成率などにより自動的に昇格します。節目となるE、C、Aへの昇格については都度試験を受けてもらうことになっています。この試験を受けるには成人年齢に達していることが絶対条件です。これはランクがEとなると野盗のような対人の依頼や護衛などのように人命に直接関わる依頼を受けることができるようになるからです。そのため、保護者のいる立場ではなく自分の行動の責任を自分で取れる立場になるまでは、例外なく試験を受けさせることができなくなっています。なお、試験を受けることのできる他の条件は依頼達成率などで決定されます。ちなみに、各ランクへの明確な昇格条件については公平性を保つために秘匿とさせていただいています。後、降格についてですが、こちらは依頼の達成率のみで判断されます。ギルドのランクについては、このようなところですけど質問等御座いませんか?」
彰弘は少女達へと目を向け、少女達が頷いたのを見てジェシーに問題ない旨を伝えた。
若干、紫苑以外は情報量のせいで把握できていなさそうだったが、後でギルド職員に聞くなどすることができる。そのため、彰弘は話を進めてもらうことにしたのだった。
「最後となります。ギルドに納めてもらうお金についてです。ギルドに登録した人で成人の方には毎年一定額を納付してもらいます。このお金の内訳は、その人が通常国に納めるべき住民税とギルドの運営資金となります。なお、所得税に関しては取得した魔物の素材などを全てギルドに売っていただければ、こちらで対応します。もしギルド以外で物を売ったりして金銭を手にした場合は、その売った人から金額を証明する証書を受け取りギルドに提出してくだされば、それについてもこちらで対応します。ちなみに、元日本人の方は融合から十五ヵ月分の税金は全額免除されていますことをお伝えしておきます。まぁ、税金に関しては総管庁で詳しく聞くかギルドにも置いてありますが、冊子をご確認いただくのが良いかと思います」
最後に少し砕けた口調でジェシーがそう言った。
以外と長かった説明が終わり、幾分、脱力した雰囲気が室内に流れる中、彰弘が声を出した。
「そうする。会社員をやってたが、こんなに引かれるのかとか思っても詳しく知ろうとはしなかったからな。余裕ができたら調べることにする。ところで最後に一つ聞いてもいいかな?」
「何でしょうか?」
「ギルドに納める金額はどのくらい必要なんだ? ついでに住民税の額も知っておきたい」
「お納めいただくのは、八万ゴルドです。この内、住民税は六万ゴルドとなっています。ちなみに成人となった次の年からこの納税義務は発生しますので覚えて置いてください」
正直、安いのか高いのは分からない。
でもそれとは関係なく、特に渋るそぶりも見せないジェシーへと彰弘はその場でお礼を言ったのである。
なお、税金の話は総管庁の職員から聞いていたのだが、称号の話やら何やらで盛り上がったせいで彰弘はすっかり失念していたのである。
ちなみに、唯一その税金について覚えていた紫苑は場の空気を読み、黙して語らなかった。無論、ジェシーが嘘を言うようなら指摘をするつもりであったが、ジェシーの口にした金額は総管庁で聞いた金額と同じであった。紫苑としては、彰弘のためになることができれば、それでいいのであった。
ジェシーから冒険者ギルドの説明を聞いた彰弘達五人は、一階に降りて素材などの買取カウンターへと向かった。そして、彰弘はドラムバッグの中から魔石の入った袋と討伐証明の入った袋を出したのだが、最初は信じてもらえずに少々言い争いとなった。
そんな最中に彰弘へと助け舟を出す人物がギルド建物へと入ってきた。
その人物とは避難拠点第一部隊の部隊長であるアキラである。
急いでやって来た様子のアキラは、自分の身分証と何か書かれた紙をギルド職員に見せると彰弘の持つ魔石と討伐証明は間違いなく彼の物だと証言した。
その証言の後は順調に物事が進んだ。魔石の数と討伐証明である角の数が合わなかったりしたが、それは彰弘の説明で事なきを得た。隣にアキラがいたことも影響があったのだろう。
事が終わると、今回のことを自分の落ち度だったとアキラは彰弘に謝罪してきた。そんなアキラへと彰弘は「気にする必要はない」と返した。
受け取った金額が予想以上だったこともあるが、彰弘自身がそれほど酷い過程ではなかったと思っていたからこその返しであった。
実のところ、アキラ達が忙しさのために失念していなければ、彰弘のギルド登録に関しての試験も回避できていたのだ。
もっとも、彰弘にしてみれば登録試験は誠司達との再会や、自身の動きの確認などもできたことで有意義であったため、仮に試験を回避できると知ったとしても気にすることはなかったであろう。
ともかく、説明を受けた後にこんな事があったため、初依頼は後日改めて受けることをジェシーに告げて彰弘達は冒険者ギルドの建物を後にしたのだった。
彰弘達五人は武器屋への道を歩きながら魔石と討伐証明で手にした金額について話をしていた。
今、彰弘の懐には十二万ゴルド強のお金がある。これは生活支援金として彰弘、六花、紫苑に支給された一万二千ゴルドと、先ほど冒険者ギルドで売った魔石の代金、討伐証明の報酬、さらにゴブリン・ジェネラルがいた群れを殲滅した報酬として支払われた金額の合計だ。
命をかけた報酬として安いか高いかはさておき、この金額はライズサンク皇国の都市部において大人二人子供二人の四人家族が四ヶ月ほど暮らしていける金額である。
人通りの少ない道を行く彰弘達の会話が金額の話になるのも無理はなかった。
「彰弘さん、お金持ちだね〜」
彰弘の一歩前を歩く瑞穂が陽気な声を出した。
「でも、あんな目にあったんだから、もっと貰えてもいいと思う」
そう不満気に言うのは香澄だ。
「そうですね。特に魔石の安さには愕然としました」
香澄に同意したのは紫苑である。
ゴブリンの魔石は一つたったの二十ゴルドである。日本円に換算すると二百円だ。紫苑の言葉ももっともであった。
「でもでも、ジェネラルの群れを倒したってことで金貨一枚貰えました。あ〜、でもやっぱ安いかも? です?」
金貨一枚は十万ゴルド、日本円で百万円。金額だけで言葉を出した六花だったが、頭の中で天秤が揺れに揺れて最後は疑問調になる。
そんな少女達のやり取りを笑いながら見ていた彰弘は自分の考えを口にした。
「リルヴァーナの人達にとってはゴブリンはその程度ってことなんだろうな。要は冒険者となって生活するには強くなればいいってことだ。それができないのなら街の中で就職先を探すしかない。強い魔物の魔石は高いし、その討伐報酬も高い。正にハイリスクハイリターンというわけだ。厳しい世界かもしれないが、今の俺には丁度いい」
そう言う彰弘の顔には少女達を見ていたときとは別の笑みが浮かんでいた。
その彰弘の言葉を受けた少女四人の顔にも、彰弘と同じ種の笑みが浮かんでいたのであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
武器屋までいかなかった上に、日付まで変わってしまいました。
もう予告なんて書けません。
本当に失礼しました。
二〇一四年十二月三十日 十八時00分
ギルドの昇格試験条件に年齢制限を書き忘れていたため追記。
また、この追記によりギルド職員ジェシーの台詞を若干変更。
以下追記文
「……この試験を受けるには成人年齢に達していることが絶対条件です。これはランクがEとなると野盗のような対人の依頼や護衛などのように人命に直接関わる依頼を受けることができるようになるからです。そのため、保護者のいる立場ではなく自分の行動の責任を自分で取れる立場になるまでは、例外なく試験を受けさせることができなくなっています。なお、試験を受けることのできる他の条件は依頼達成率などで決定されます。……」
二〇一五年一月二十四日 二十一時十分
六花の担任で会った桜井と再会していたことを追記。
二〇一五年 八月十一日 二十一時〇七分 修正
ジェシーの税金についての台詞で出た金額を修正
ギルドへの納付額:十万ゴルドから八万ゴルドへ修正
住民税の金額 :九万ゴルドから六万ゴルドへ修正
二〇一七年十月二十一日 二十時〇〇分 修正
強制依頼の発生頻度を『数年』から『そうそうあるものではない』に変更。
『違約金』を『罰金』に変更。