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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
6.リュウを名乗る者たち
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6-22.【相手】

6-22.

 前話あらすじ

 名前にリュウの付く者たちの仲間割れに遭遇。






 予想外の遭遇戦とその片付けが終わてから暫し。彰弘たち一行は左手側の森林が途切れ、街道の左右両側が程よく見渡せるところまで来ていた。ところどころ丘のようになっていたり、野営地のためか整地されている場所も見える。

 ちなみにフウリュウやガンリュウたち二十名も彰弘たちと一緒に来ていた。

「さてと、このあたりなら良いだろう。野営の準備をしちまおう」

 自分たちの周りをぐるりと見渡した彰弘が、視界が充分確保できていることを確認し近くにいる者へと聞こえるように声を出す。

 日はまだ高いが先の戦いの疲れもあるし、早めに休もうと彰弘は考えたのだ。勿論、フウリュウやガンリュウたちからの話を早めに聞くべきだと考えたこともこのタイミングとなった一因である。

「了解です!」

「檻は……不要ですか」

 元気良く彰弘の言葉に応えたのは六花で、フウリュウやガンリュウたちを見ながら拘束についてを呟いたのは紫苑である。

 瑞穂と香澄は大体いつも通りの表情と態度で了解の意を彰弘に返していた。未だ先の戦いで覚えた感情は完全に消化できてはいないが、戦い直後の彰弘の行動があり、二人はその感情をほぼほぼ受け止めることができたのである。後はほんの僅かな時間さえあれば、いつも通りの二人になるだろう。

 そして、残りのクリスティーヌにエレオノール、ウェスターにガルドとポルヌアもいつも通りだ。

 なお、紫苑の言葉にある「檻は不要」は彰弘も同意していた。

 フウリュウは口を塞ごうが何しようが、極論生命と魔力さえあれば檻の中からも魔法が使えるほどの実力があることを彰弘たちは分かっている。そのため、今現在彼らが造れる単純に頑丈な檻に捕らえておいても意味がない。それならば、檻という油断材料を作らない方が良いとの判断であった。

 皇都サガへ向かう途中の一件でメアルリア教のサリナが使用した散魔の首輪があれば檻を造って入れておくという選択肢はあるが、残念ながらその魔導具はここにはない。

 大剣使いのガンリュウは檻に入れておいて行動を制限するということの利点はあるが、現在の態度や雰囲気なども考慮した結果、問題ないと判断したのである。もっともだからといって無警戒というわけではなく、ガンリュウはウェスターが専属で警戒にあたることにしていた。

 ちなみに残る十八名については、彰弘たち一行の中で実力で劣るクリスティーヌやエレオノールが単独で戦っても勝てる程度の強さしかない。

「とりあえず今回は建物はなしだぞ」

「あー、ということは、おふろも?」

「お客さんもいるからな」

「久々のスライム風呂ですね」

 フウリュウやガンリュウたちがいることを考え、野営の準備を彰弘たちは進めていく。

 そんな感じで整地しカマドを造ったりと一時間足らず。彰弘たちの野営準備は、そろそろ終わろうとしていた。

「魔法ってのは便利だな」

「あれを普通とは思わない方がいいねえ。保有魔力もさることながら地属性魔法の練度がおかしいから。ヘタしたらさっき使ってた魔法よりも凄いかもしれないねえ」

「うちのメンバーをお褒めいただきありがとうって感じだが、ちょっと警戒してもらおうか。お客さんがきたっぽい」

 フウリュウとガンリュウが六花たちの野営準備で使った魔法の感想を口にしていると、彰弘がその二人に近づき警戒を促す。

「獣車だねえ」

「流石にまだ御者の顔は見えねえな……で、なんで客だと?」

「あそこ、街道が二手に分かれてるだろ。そこで一度止まってからこっちに進路を向けた」

「なるほどねえ。とりあえず警戒だけはしとこうかね」

 フウリュウとガンリュウが徐々に近づいて来る獣車を見つつ、いつ戦いになっても良いように準備を始める。

 無論、彰弘たちと同じようにまだ武器を抜いてはいない。

 まだ相手が敵対者と決まったわけではないので、後々問題とならないように今はまだ警戒だけに留めておくのが正解なのである。

 そんな感じで彰弘たちは野営準備の手を一旦止めて、来客の到着を待つことにするのであった。









「なんで、ここにいるんだ?」

「メアルリア教から依頼を受けたからだな」

「はい。私たちからの依頼です。早朝と昼過ぎに感じた魔力は調査するに値するものでしたので。……本来なら依頼は出さず自分たちで調査を行うのですが若干の人手不足でして」

 多少の驚きを見せる彰弘の疑問に答えたのはセイルという男とミリアという女であった。

 セイルとミリアは彰弘の知り合いであり命の恩人でもある。そしてこの二人は竜の翼という四人組の冒険者パーティー所属であるから、当然残る二人のパーティーメンバーのディアとライもこの場にいた。

 さて、セイルたちがこの場に来た理由は、早朝と昼過ぎに起きた異常といえる魔力の噴出原因を、アルフィス――メアルリア教の総本山――からの依頼されたからである。二股に別れた街道のこちら側に来た理由は、彰弘たちだと分かっていたわけではなく、見つけた集団が単純に何か知っているからもしれないと思ったからだ。

「いや、……ああ、この場に来た理由も聞きたいところだったから間違っちゃいないが、そうじゃなくて、なんでアルフィスにいるんだってことだ。特にそんなことは言ってなかったと思うが」

「まあ、確かに。ひと月前くらいだったか? メアルリア教からの依頼があってな。依頼したいことがあるからアルフィスまで来てもらいたいと」

「そうですね。本命の依頼を受けるか受けないかは別として、ただ来てもらいたいと。自分のところながら妙な依頼でしたね。ちなみに私たちだけでなく、ガイさん、フウカさん、ジェールさんのパーティーと、後はベントさんのところも同じ依頼で、この地に来ています。ついでに言うとカイエンデさんもお弟子さん連れで来てますよ」

 大体、彰弘たちが皇都サガ到着と同じくらいの時期に、セイルたちはメアルリア教からの依頼を受けたことになる。

 その依頼はアルフィスに来てもらいたいというだけの内容であって、本当にメアルリア教が受けてもらいたい依頼内容は、そのひと月前の段階ではセイルたちに知らされていない。勿論、メアルリア教の高位司祭であるミリアもその時点ではアルフィスで依頼される内容を把握していなかった。

「カイエンデと弟子って……ミレイヌたちも来ているのか。俺らに関わりがある人たちのみって、何か意図でもあるのかね?」

「神託だそうです」

「ま、そうらしい。でな、本命の依頼ってのが、お前がメインの戦いの雑魚掃除だとよ。今回の調査はまた別だ」

「雑魚ときたか……って待てよメインが俺だと?」

「はい。どうも、そちらの方々の組織のトップと戦うのはアキヒロさんになるということです。理由は不明ですが」

 セイルとミリアからの言葉を受け、彰弘の顔がフウリュウとガンリュウに向かうも、視線を受けた二人は首を横に振るのみである。

 ともかく、彰弘たちのところに来たのは、メアルリア教から依頼を受けた竜の翼であった。

 ちなみにポルヌアに関して特にセイルたちから何らかの問いかけがなかったのは、事前にメアルリア教の神官から神託があって問題はなくなったと説明を受けていたからである。









 今野営地にいるのは彰弘とウェスターにポルヌア、セイルとミリア。それからフウリュウとガンリュウたちである。

 残りの面々は本日食べる夕食のおかず獲りだ。

 ちなみにガルドはいつも通り彰弘の肩の上である。

「さて、んじゃまあ、話を聞こうか」

「ああうん、そうだねえ。……その前に一つ、本当のことを話しちゃって大丈夫かい? 邪神関係なんだけど」

 彰弘の言葉でフウリュウが口を開くも、話す前提の情報について確認をしてきた。

 一般的に出回っている情報と真実では若干の違いがある。フウリュウとしては、その持っている情報によって自分が話す内容の受け取り方に違いが出てくる可能性があるために確認をしたのである。

「こっちは問題ないぞ。本命の依頼のときに聞いた」

「んじゃ、こっちも……待てよ。ウェスター、邪神討伐関係とかで知ってることを教えてもらえるか?」

「皇国の最高戦力により世界融合の翌日には討伐されたということと、影響を受けた土地の浄化を各神殿の神官がやっていてもう少しでそれも終わるということくらいですが」

「ああ、やっぱりか。だよな、あのときいなかったもんな。……とりあえず、話して問題はないか? ま、大丈夫だろ。ウェスター、このことを喧伝するようなことをしなければ大丈夫だ」

「不安しかないんですが……まあ、分かりました」

 自問自答の後に大丈夫だと口にする彰弘へ、本当に大丈夫なのか半信半疑ながらも受け入れるウェスター。

 なお、彰弘の言うあのときとは、数年前に輝亀竜の甲羅の件でケルネオンという街に行ったときのことだ。そこで彰弘は邪神を討伐したのがライズサンク皇国の最高戦力ではないことを知ったのである。

「というわけで、よろしく」

「うーん、軽いねえ。まあ、いいか。まずボクたちが所属した組織の目的は自分たちの仲間を最終的に殺すことになった原因を作った者への復讐だよ。少なくとも最初はそうだった」

「最初は、ね」

「うん最初は。で、その復讐対象っていうのが今のメアルリア教の教主をしているフィリーネ・サガ。……邪神を討伐するためにあの地に自分たちの神の神域を顕現させ、そして見事邪神を討伐した人さ」

「嘘じゃ……ないんでしょうね」

 周囲の、特に彰弘とミリアの態度や雰囲気からフウリュウの言うことが嘘ではないと感じ取り、ウェスターが重いため息とともに言葉を漏らす。

 想像したくなくても想像してしまう。考えてしまう。

 邪神顕現の影響で亡くなったのは二千万人を超えるが、その中に神域の影響により生命を落とした人がどれだけいるのか。そこまで強大な力を持つなら無害の人を巻き込まない方法はなかったのか? そんなことをウェスターは考える。考えたが、世界融合の翌日が邪神が討伐された日だ。他の方法を考える余裕はなかっただろうと想像がついた。

「で、なんでその人が復讐対象になるのかっていうと、組織のトップであるシンリュウと、それからさっき嬢ちゃんたちが倒したヒョウリュウがいたそれぞれのパーティーは、当時即死するほどじゃないけど、ある程度邪神の浸食を受けた場所にいて衰弱していたんだ。まあ本当に外周といえるだろうところだね。で、そこから何とか逃れようとしているときに神域が顕現したのさ。後は分かるだろう」

「耐えられなかったか。……この世界の者を排除するような意思はなかったかもしれないが」

「うん、そうだねえ。弱っていたから神域の力に耐えられなかった」

「例え排除の意思がなくても、神域顕現はある意味で邪神顕現での浸食と同じと言えます」

「神官から、その言葉を聞くとはねえ。ま、それはそれとして、シンリュウとヒョウリュウが生き残れたのは排除の意思がなかった上で、二人が一定以上の強さを持っていたからだろうね。神域の顕現は邪神の浸食を浄化し、場をメアルリア教徒が戦うため有利とすることに特化させることだったぽいし」

「それが必要であったと私は聞いています」

 邪神の影響で弱っていたところに、自分たちを受け入れる意思のない神域が顕現し、それからもダメージを受けた結果、余力がなかった者たちが命を落としたということである。

 この会話ではシンリュウとヒョウリュウという二人の仲間だけがそのような破目に陥ったように感じるが、実際にはその何倍何十倍、ことによったら更にその上の人数が同じような状況だった可能性があった。

 だが、それは今考えても仕方ない。だからこそ、それについてをこの場にいる者たちは触れることはせず、フウリュウへと話の先を続ける視線を送る。

「まあ、そんなわけで生き残った二人なんだけど、いきなりのことに納得できなかったんだねえ。仲間が死んだ原因を調査し始めたんだ。そして真実に辿り着いた。碌な情報がないまま日数が過ぎてったんだけど、ある日に入った皇都の酒場で、どこの神官だったか忘れたけど聞いたんだよ。邪神を討ったのが誰かと、それを成すために神域が展開されたことを。まあ、聞いた話が本当かどうかの確認に大体一年間くらいは使ったけどねえ」

「そのどこぞの神官がメアルリアの教主だってのを言ってたのか?」

「そうだねえ。その神官も家族が死んで自分だけが生き残ったってことで、シンリュウたちと似たような状況だったね。違いは神官の家族は邪神の浸食のみが原因らしいけど……まあ消化できなかったんだろうねえ。そんなこんなで情報を集めている間に同じような境遇というのかな、そういう人たちが集まったよ。そしてシンリュウが最初に復讐の声を上げた。組織として活動するようになったのは、そのすぐ後だったね。ちなみにこの神官は組織の初期メンバーの一人だったよ」

 フウリュウが口にした神官の方は逆恨みのようなものだろう。復讐すべき対象が既におらず、負の感情の持って行き先がなかったというわけだ。

 だから心のどこかでは間違っていると分かっていてもシンリュウたちに手を貸したのである。

「組織ができて実際に活動が始まったんだけど、コウリュウが加入したり、復讐への道筋が上手く描けなかったりで、組織は良くない方向へと徐々に進んでいった。大切な人を亡くした心は壊れていたのかもしれない。理由はまあいろいろとあるだろうけど、結局自分たち以外の普通に暮らしている人たちへも復讐の矛先が向かうようになったんだよ。一応、最後の良心なのか、組織になって今日までは実験で使う意外に手を出すことはなかったけど」

「おいっ!」

「セイル」

 身を乗り出そうとするセイルを彰弘が抑える。

 セイルが覚えた感情を彰弘たちも分からないではないが、今ここでそのことを問い詰めてもそれほど意味はない。今は話を聞くことが一番であった。

「罰なりなんなりは後で受けるよ。で、今の組織の状態だけどね、もう組織としての体を成していない。元々それほど大きくはなかったけど、実験に志願したりで減ったし、最近だと各実験施設が摘発されて捕まったりで、人数が少なくなっていったんだよ。で、ボクたちが逃げ出し、ヒョウリュウとコウリュウが死んだ。残ってるのはシンリュウだけさ。戦力としてはゴーレムとキメラがまだそこそこあるけどね」

「なぜ逃げ出したのです?」

 興奮するセイルを彰弘が抑えているため、ミリアが代わりに質問する。

 ここまでの出来事を考えると、彰弘を除けばメアルリア教の高位司祭である彼女が応対するのが最も適切に思える。

 邪神関係ということならポルヌアもいるが、この場で出るのは相応しくないだろう。

「逃げなきゃ良くないことになりそうだったからねえ。ガンリュウとボクを除く十八名だけど、彼らは最後まで組織の建物に残っていた……あー、なんて言葉が合ってるかな? んー使用人みたいなもんだねえ。組織が復讐のために活動をしているのは知っていても、誰に復讐するとかは一切知らされていない雇われ人さ。そんな彼らをコウリュウはキメラの材料にしようとしていたんだよねえ」

「だから連れて逃げてきた、と」

「そういうことになるねえ。でも、彼らは戦闘に関しては素人だった。だからガンリュウとボクが護衛として一緒に逃げてきた。ああ、そうそうガンリュウは組織の復讐とは関係ないからね。彼は数年前にシンリュウに助けられたことがあって、組織が必要としていた魔物を狩って恩を返していただけ」

「見て見ぬふりをしてたんだ。だけ、じゃねえよ」

「まあまあ」

 フウリュウとガンリュウのやり取りを目にしつつ、二人以外の十八人を彰弘は観察する。

 座っている姿や雰囲気に周囲の警戒の仕方から戦いに関しては素人だと分かった。多分、しっかりとした装備があっても、一人では成体のゴブリン一体を辛うじて倒せる程度だろう。

「さて、後はボクのことも一応話しておこうかねえ。逃げてきた理由はさっきも言った通り、護衛さ。それ以上でも以下でもないよ。で、ボクが組織にいた理由はシンリュウやヒョウリュウが完全には道を踏み外さないようにしようと考えていたからなんだ。……完全に失敗したけどね」

 フウリュウが心底後悔しているのは、この場の誰が見ても明らかであった。

 少しだけ無言の時間が流れるも、再びフウリュウが話し出す。

「シンリュウの親父さんには恩があってねえ。何とかしたかったんだ。ヒョウリュウとは世界が融合した後に初めて会ったんだけど、もういない娘に似ていたからかな? 放っておけなかった。まあともかく、どちらも何とかしたかった。自分が同じ立場になったらと考えたら復讐を止めろとは言えなかったし、力を得るためにコウリュウの実験を受け入れるという二人を止めることもできなかった。……やっぱり、人体実験が分岐点だったかねえ」

「あんたがそこまで気にすることはねえだろ。そりゃ人体実験については、言いわけなんかできねえけどよ」

「まあ、ともかく失敗して、罪滅ぼしにもならないことをやっているのが今のボクさ」

 フウリュウとガンリュウの様子に彰弘たちは無言でいる。

 セイルは仏頂面で明後日の方を見ており、ミリアは何て言葉を返そうか思案しているようだ。ウェスターは自分ではどうにもできないと考えているのか、若干険しい顔で目の前の二人を見ていた。そしてポルヌアはというと、表情を変えずに彰弘へと視線を向けている。

「とりあえず、あんたが元いた組織について何かをできる余地はもうない。あるとしたら、そこのガンリュウってのと残り十八人の先を示してから罪を償うくらいだ。理由は分かるよな?」

「シンリュウについてもかねえ? ……いや、分かってるさ。ヒョウリュウを……アマネーゼを自分の手で殺さずに、あの二人に任せてしまったからね。そうだ、任せてしまったんだよ……ボクは」

「そういうことだ。シンリュウってのは、俺らに任せておけばいい。あんたはそいつらを何とかすべきだ。その後については、アルフィスのお偉いさんにでも聞けばいい」

 フウリュウは自分たちを追って来たヒョウリュウを殺すことに躊躇いを感じ、その結果彼女のことを瑞穂と香澄に殺させることにしてしまった。生かしたいとか、元に戻したいとか、いろいろと複雑な感情はあったのだろうが、結局は人に頼ってしまったのである。

 世の中には一度失敗しても次の機会に成功させることができるものもあるが、今回の件はそれらとは別物だ。フウリュウが自分の情を完全に殺すことができればシンリュウを殺すことも可能かもしれないが、恐らくそれは無理だろう。少なくとも今のフウリュウを見る限りは無理としか言いようがない。

「情けないとしか言いようがないねえ。申し訳ないがお願いするよ。ただ注意したいことが一つあるんだ。ヒョウリュウはコウリュウの手によって魔法を使う力を随分と増した。シンリュウも同じだよ。彼は竜人と普人のハーフだったけど、コウリュウによって竜化の力を手に入れている。……襲ってくるときは、多分、姿も力も竜そのものだと思うよ」

「竜ならこっちにもいるさ」

「(うむ。負けはせぬぞ)」

「それに竜との戦い方は知っている」

 自分の言葉に応えてくれたガルドに笑みを向けた後、彰弘はそんなことを口にする。

 彰弘が実際に竜種と戦った経験は、ガルドとの模擬戦くらいで殺し合いをしたことはない。

 だが、竜との戦い方自体は知っていた。

 世界が融合した直後。彰弘は国之穏姫命くにのおだひめのみことから加護を授けられたことにより意識を失ったことがある。

 そうなった理由は、ほんのひと欠片ほどメアルリアの神であるアンヌの魂が不活性状態で彰弘の魂にくっ付いていたのだが、別の神の加護が彼に授けられたことでその魂のひと欠片が活性化したことによるものだった。

 そしてその時に彰弘はアンヌの記憶の一部を読み取ったのである。もっともその記憶というのは膨大過ぎて、結局彼は自分に今後必要になるだろうと思われる戦い方のみを覚えただけであった。

 つまり、彰弘の知っている竜との戦い方というのは、アンヌの記憶から読み取ったそれであった。

 余談だが大討伐時にはまだ実力がランクC相当しなかった彰弘が、オークのキング級とジェネラル級に囲まれ耐え続け最終的にキング級を倒すことができたのは、武器のお蔭もあるが、アンヌの記憶から読み取った戦い方があったからである。

「まあ、とりあえず、今日は休むとしようか。張り切って狩りに行ったから大量だろうし、腹いっぱい食って寝りゃ少しは落ち着くだろ」

「そうですねえ。セイルさんも、ね」

「わーってるよ」

 とりあえず、今のところは、ここまでだろうと彰弘は会話を止める判断をする。

 それに時間的にも丁度良いようで、氷のソリにオークを筆頭に夕食になる魔物や野草などを山盛りにした狩り班が戻って来るのが彰弘たちの目に映った。

 明日以降がどうなるかは不明だが、フウリュウたちがいた組織の襲撃対象が自分たち以外だというのなら、彰弘に躊躇う理由はない。六花たちは勿論のこと、未だ再会できていない自分の両親や妹、それから少し前に再会できた弟家族。更に、それ以外の友人知人たちにも危害を加えるというのだから当然だろう。今の彼にはシンリュウという者と戦う理由も戦う手段も揃っている。

 ともかく、彰弘はこれから襲い来るだろう敵を考えつつも、笑顔で戻ってきた仲間を同じく笑顔で迎えるのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。




GW中実家に帰れないから書く時間は充分あると思ってました。

が、難産過ぎて一話がやっとという。

ともあれ、もう少しで完結よー。

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