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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
6.リュウを名乗る者たち
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6-20.【リュウの分裂】

 前話あらすじ

 彰弘たちは何事もなくライズサンク皇国側の国境検問所を抜けるのであった。





 満月が地上を照らす深夜という時間帯。ライズサンク皇国とアルフィスの国境を跨ぐ山の頂上付近に二十の人影があった。誰もが一様に疲労を濃く表しており、普通の状態で山登りをして来たわけでないことが見て取れる。

「どうだ?」

「あの速度なら明日の朝ってところかねえ。ここでのんびりしてたら追いつかれるのは」

 大剣を背負った左手を義手にした男が尋ねると、その横で座り目を閉じてホークアイの魔法を使っていた男が答える。

 前者はガンリュウ。少し前にマイクラというゴーレム製作者の前で彰弘たちと戦い左手を失った男だ。

 後者はフウリュウという。こちらもガンリュウと同様に、以前彰弘たちと敵対したことのある男で、風属性と地属性の魔法得意とする魔法使いだ。

「ゆっくり休むことはできそうにねぇな」

「キメラとゴーレムくらいは覚悟してたけど、まさかあの二人まで追って来るとは思わなかったからねえ」

 ガンリュウがため息交じりに言葉を出せば、それにホークアイの魔法を止めて目を開けたフウリュウが同意する。

 現在のフウリュウとガンリュウを含む二十名の状況は、簡単に言えば「所属していた組織から抜け出して追われている最中」であった。









 フウリュウやガンリュウたちが何故このような状態になっているのか。

 それは組織が向かう先を彼らが止められず、またその方向を許容できなかったからである。

 フウリュウやガンリュウを含む二十名が所属していた組織というのは、一人の男の復讐心から生まれたものであった。彼が活動していくうちに同じ復讐心を持つ者たちや、その彼らに賛同するなり恩がある者たちなどが集まり、やがて一つの組織と成っていったのである。

 では、この組織の復讐の向かう先はどこだったのかであるが、それは自分たちの仲間を死に追いやった存在であった。それはつまり、ライズサンク皇国が正式発表として喧伝した当時はライズサンク皇国へであったが、少しの時が過ぎ真実を彼らが知ると復讐の矛先はメアルリア教へと向かったのである。

 世界融合と同時に異なる世界の神とその眷属が顕現した大災厄での死者は二千万名を超えていたが、神が何の制限もなく現界に顕現したにしてはこの数は少ない。

 この数で収まったのは、メアルリア教の教主が被害拡大を防ぐためと浄化するために、ある程度の犠牲は仕方がないとし、異なる世界の神による浸食が後々に悪影響を及ぼすだろう空間全てに、自らが信仰する神々の神域を顕現させ覆ったからである(その場には他の教団やライズサンク皇国の最高戦力とその配下もいたが、神域の顕現はメアルリア教の教主が単独で行っている)

 そしてこれが復讐の原因となった。

 異なる世界の神による浸食は、その神から離れていればそれだけ浸食度合いが低くなり、浸食域の外周にあたる部分では、ある程度の強者であれば生存ができていたのである。しかしその外周でさえ時間経過による浄化は難しい程度には異なる世界の神に浸食されていた。

 だからこそ、メアルリア教の教主はその部分にまで神域を顕現させたのである。

 だが神域とは正しく神の領域だ。神自らが許容するもの以外を排除浄化する領域なのである。つまり、異なる世界の神の浸食域で生きていた者たちの内、ある程度の余裕を持って生を繋いでいた僅かな数の除いて神域の影響を受け生命活動を停止させてしまったのだ。

 組織が起こる切っ掛けとなったシンリュウと呼ばれる男も、そして以前彰弘たちと戦ったことのあるヒョウリュウという女も例外ではなかった。

 本人たちはそれぞれの力で生き延びることができたが、シンリュウの恋人やヒョウリュウのパーティーメンバーといった彼らにとって大切な者たちは残らず、異なる世界の神の浸食とメアルリア教の神域のせいで生命を落としたのである。

 このようなことがあり当初は、復讐の矛先が暫くの間はメアルリア教のみであったが、ほんの少し前から復讐の対象が、最終的に仲間を死に追いやったメアルリア教だけではなく、自分たち以外全てへと変化していった。

 自分たちの大切な人は死んでしまったのに、何故お前らはのうのうと生きているのだ。そんな筋違いな考えが組織の本道となってしまったのだ。

 僅か数年だが、されど数年だ。

 大切な人を亡くした彼らの心は、その数年で擦り減ってしまい、本来なら行ってはならない方向へと進んでしまったのである。

 メアルリア教への復讐だけならフウリュウとガンリュウも許容していただろうが、何の関わりもない人たちへも復讐心を向けるのは許容できないのであった。









「人体実験に手を貸していたから、同類ではあるけどねえ」

 とりあえず五時間程度は休憩しても問題ないと判断し、交代で見張りを立てつつ休むことにしたフウリュウは、ふいにそんなことを呟いた。

 誰に言ったわけでもないのに、その言葉にガンリュウが反応する。

「でも、あんたが調整をしなかったら、もっと酷いことになっていただろ?」

「かもしれないねえ。でも赦されることじゃない。例え相手が無気力に何もせずに過ごしている者や犯罪者であったとしてもね」

 組織が行っていた人体実験は全部で三つ。

 一つは異なる世界の神が行った浸食を模倣すること。これは魔法でできる精神操作程度の成果しか出ておらず、現在は実用的でないと実験結果ごと破棄されている。

 残る二つは必ずしも求めた結果ではないが実用化されている。

 一つは、人種(ひとしゅ)と魔物のキメラを造ることであった。しかしこちらの成果は複数種の魔物によるキメラというところで止まっている。

 残る一つは擬魂を造るというものだ。命令者に絶対服従で細かい命令も必要な判断も人種(ひとしゅ)と同じように行えるゴーレムを造るための部品が擬魂である。人種(ひとしゅ)の魂を取り出し、世界に還らぬように異なる世界の理で覆い隠す。更にそれをこの世界の理で覆う。そしてそれをゴーレムを制御する魔導回路に組み込むのだ。擬魂自体は完成といえなくもないが、それを埋め込むゴーレムの調達に失敗しており、こちらも求めた性能には至っていない。

 なお、異世界の神の浸食実験と擬魂を造るための実験と材料という犠牲となったのは犯罪者や社会に迷惑をかけている者、また無気力になにもせず怠惰に生きていたものたちであった。キメラ実験も同様だが、こちらは復讐のために強くなろうと考えた組織の志願者もいた事実がある。

「まあ、そのあたりは落ち着いたら考えようぜ。今はアルフィスへ行くだけだ」

「当初の復讐先へ助けを求めなければならないとはねえ」

「あんたはシンリュウの親父さんに借りがあって、なんとかしようとしただけだ。俺はシンリュウに助けられた借りを返そうとしただけ。一緒に抜け出してきたこいつらも俺と同じだ。とりあえず俺らは別にメアルリア教に恨みがあるわけじゃない。借りた分の恩を返すために協力していたようなもんだ。で、借りはもう返してるだろう。あんたにしたってそうだ。ま、メアルリア教からしたら敵対の意思を見せたという点では、俺らもシンリュウたちも同じだろうけどな」

「ほんと失敗したねえ。まあ、キミの言う通り。今は全力で逃げようかねえ。今のボクたちだけじゃ、追ってきてる集団を追い返すのは難しいし」

「ヒョウリュウとコウリュウだけなら、俺ら二人でもなんとかなるが、キメラとゴーレムもいるとなぁ」

 組織から逃げ出したフウリュウとガンリュウたちを追っているのは、組織の幹部であるヒョウリュウとコウリュウ。そしてその彼らが造ったキメラと擬魂を埋め込まれたゴーレムの集団だ。個々の実力という面では劣りはしないが、数という面では圧倒的に不利であった。

「ともかく、少しでも休んどこうぜ。とりあえず三時間くらいは寝れるか?」

「そのくらいだねえ。じゃまあ、おやすみ」

 ガンリュウに声をかけ、その後見張りに何かあったらすぐに起こすように伝えたフウリュウは目を閉じる。

 その様子を見届けてからガンリュウも休むことにしたのであった。

お読みいただき、ありがとございます。


二〇二〇年 四月二十五日 二〇時四十七分 修正

過去の内容との矛盾を偶然見つけたので修正

修正前)キメラ実験に関わった人種(ひとしゅ)は全て志願者となっている。

修正後)キメラ実験も同様だが、こちらは復讐のために強くなろうと考えた組織の志願者もいた事実がある。



6-19.の最後に次ぎの分を追加しております。

コピペの際に範囲はから外れてたっぽい。

話の流れには関係ないです。

ちなみに国境検問所の職員へポルヌアのことはゴーレムと伝えている。嘘偽りないから問題はないのだ。全てを伝えたわけではないが。


世界的に大変なことになっていますが、皆様もお気をつけてお過ごしください。

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