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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
6.リュウを名乗る者たち
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6-17.【弟】

 前話あらすじ

 クランベに入った彰弘たちはまずは宿をとり総合管理庁で情報の確認を行う。

 翌日、彰弘の弟の住む住所を目指し出発するのであった。






「よう。元気そうじゃないか」

 公園で遊ぶ子供二人と女を見守るような優し気な目で見る男へ声をかける者がいた。

 声をかけた者は男で見た目は三十前後。百七十を少し超えたくらいの背丈の身体は、服の上からでも鍛えられていることが分かる。

「……ええーっと、どちらさまで?」

 突然、声をかけられた男が声を返す。

 間違いなくそうであろうと感じているのだが、自分の記憶よりも目の前の人物は随分と若く見えるし、何より体形が雲泥の差であった。

「おいおい、酷いやつだな。数年会ってなかったからって兄の顔を忘れたか?」

「分かるわけないだろ!? どんだけ若返って脂肪なくして筋肉つけてんだよ」

 最早別人のようになった彰弘に彼の弟である圭司(けいじ)が声を上げるが、直後にほっとしたような表情を見せた。

「……まあ、無事で良かったよ。知らせを聞いたときは半信半疑だったが、漸く実感できた」

「ああ、そうだな」

 若干、目を潤ませた圭司へと彰弘は拳を突き出す。

 昔、偶にやっていた挨拶だ。

 圭司もそれを覚えていたようだ。彼もまた拳を作り、彰弘のそれに軽く当てたのだった。









 感動的とまでは言えないが目出度く再会を果たした彰弘と圭司は、まずお互いの連れに話をした後で、持っていた融合前と後の身分証と総合管理庁から渡された証明書を見せ合う。

 万が一、何者かが詐欺などを仕掛けるために似た容姿の人物を接触させるなどの可能性も捨てきれないため、この行為は総合管理庁から推奨行為として周知されていたものであった。

 もっとも、総合管理庁からの周知がなくとも大抵の者は確認を行うだろう。しかし当然というべきか、どう考えても必要だろう行為をしない者がいるのも事実だ。だから総合管理庁は、わざわざ常識的な範疇の行為を周知していたのである。

 ちなみに圭司の方だが、総合管理庁から連絡があってからいつ彰弘と再会しても良いように、世界融合前と後の身分証と証明書を持ち歩いていた。

「神様の加護って。兄貴、いつから、そんなに信心深くなったんだ?」

 彰弘の身分証に記された称号欄を見た圭司が心底意外そうな顔で自分の兄を見る。

 それに対して彰弘は、肩を竦める動きをした。

「さあな。神話とかは嫌いじゃなかったが。一応、理由は、もう少ししたら分かる……らしいぞ」

「なんだそれ?」

「この後、父ちゃんと母ちゃんと沙紀(さき)を探しに行くんだが、そのついでにメアルリア教の総本山に寄る予定でな。そこで教えてくれるらしい。ああ、ちなみにこの神様はメアルリア教の神様の五柱の内の一柱だ」

「いろいろ突っ込みたいけど……それはまあいいにしておくよ。場所は分かってんの?」

「正確な場所は分からんな。ま、地図は手に入れたんでどの辺りに融合したかは予想できるから地道に探すさ」

 兄弟だからだろうか。いろいろと言葉が足りないが、普通に会話が続いていく。

 今の二人は家族の居場所についてを話していた。

 なお、彰弘の両親の呼び方が父ちゃん母ちゃんであるのは、相手が弟という家族だからである。家族以外を相手にした場合、親父にお袋となる。ちなみに圭司のことは普通に弟だし沙紀については妹だ。

「まあ、予想できるからって、すぐに見つかるとは思ってないけどな。今年見つからなかったら、また来年探しに行けばいい」

「探し続けるってわけじゃないのか。昔の兄貴の性格だったら、探し続けそうな気すんだけど」

「まあ、俺だけだったらな。いろいろとあるんだ」

「それは……」

「理由の一つだな。それだけじゃないが」

 圭司の視線が彰弘の後ろへと向く。

 そこにはいるのは、六花、紫苑、瑞穂、香澄、クリスティーヌ、エレオノール、ポルヌアの七人であった。

「とりあえず、紹介しておくか。まず六花と紫音だ」

 彰弘の左右のすぐ後ろにいた二人が一歩前に出て圭司たちに向けて挨拶をする。

 まず六花だが、彼女は十五歳。茶色の髪をボブカットにしていることも、丸みをおびた顔のぷにぷにほっぺも世界融合当時から変わらずだ。身長については一応伸びているのだが、学園入学時が百二十九センチで卒業時が百三十五センチであり、それ以降は伸びていない状況である。体形は平均よりも凹凸の差が大きいといった感じであった。

 続いては紫苑である。六花の一つ上の十六歳。彼女は百七十弱の身長に凹凸が控えめなスレンダー体形。切れ長な目が特徴の顔は凛々しさが見え、髪は漆黒で腰辺りまで綺麗に伸びていた。

 六花とかわいい系としたら、紫苑は正しく美人系の容姿である。

「で、瑞穂と香澄」

 一卵性双生児と言われても疑いを持たないだろうほどに似ている二人が前に出て頭を下げる。

 二人とも身長は百六十センチ強で、どちらかと言えばかわいい系の容貌であった。

 若干、茶色の入った緩やかにウェーブする髪をショートカットにしている活発そうなのが瑞穂で、背中くらいまで伸ばしているおっとりした感じであるのが香澄だ。

 雰囲気と髪型以外で二人を判別する要素で残るのは体形で、簡単に言ってしまえば瑞穂は紫音側で香澄は六花側であった。

「そして、クリスティーヌとエレオノール」

 一目で日本人でないと分かる二人が前に出てお辞儀をする。

 ガイエル伯爵の息女であるクリスティーヌは現在十七歳。緩やかにウェーブする金色の髪が腰の辺りまである楚々とした美少女であることは彰弘と最初にあったときと寸分の違いもない。が、今はそこに女らしさというものが徐々に備わりつつあった。体形に関してはクリスティーヌを六花たち四人の中に入れるとしたら、丁度真ん中という平均的なところである。

 エレオノールはクリスティーヌ御付きの侍女兼護衛で二十二歳。藍色の髪を肩口まで伸ばした凛としている。落ち着いた雰囲気の彼女はクリスティーヌの最も信頼する一人であった。

 なお、女らしさについてだが、六花たち四人も女らしさという面では間違いなく備わりつつあるが元々の成人年齢や教育内容が関係しているのだろう。これに関しては、若干クリスティーヌの方が上であった。年齢的なこともありエレオノールは別枠だ。

 ちなみにクリスティーヌとエレオノールの身長であるが、前者が百五十センチほどで後者は百六十五センチ程度である。

「最後はガルドとポルヌアだな」

 ガルドが彰弘の肩の上で右前足を上げ、ポルヌアが戸惑いながら前に出る。

 ガルドは輝亀竜という竜の一種だ。数千年の時を生きており、身体の大きさを一定範囲で自由にできる。現在、最小は片手の平に乗るくらいで最大は電車の車両四両を横に二つ縦に二つ合わせたくらいの範囲で自由に大きさを変えられた。

 ポルヌアに関しては、六花と同じ身長だが顔はやや細めである。身体の凹凸は僅かであり、まんま少女の見た目であった。特筆すべきはゴーレムに魂が宿った当初と違い、髪の毛が人種(ひとしゅ)と同じようになったことだろう。元々髪の毛以外は謎の力で普通の生物と同じようにできていたのだから不思議ではないのかもしれないが。

「まあ、こんな感じだ。服に関しては突っ込むなよ。実用性を考えたら、これがベストなんだ」

「……まあ、似合ってるから良いんじゃないか」

 全員が黒と白の組み合わせの服にちょっとしたアクセサリーという感じである。年若いころにかかる精神的なちょっとした病っぽい服装であった。

 このような服装をしている理由はある。少々過剰かと思わないでもないが、例の組織が街中で何かをしてくる可能性を捨てきれず、街中での服装も魔物の素材を用いたある程度の防御力を持つものを身に付けているというわけだ。

「ちなみにだが、ガルドは亀じゃなくて輝亀竜っていう竜の一種だ。今は俺の従魔をしてくれている。ポルヌアも実は人じゃなくてゴーレムなんだ。ダンジョン探索中に見つけて仲間になった」

「……うっそだろ」

 驚きつつも兄の姿が自分の記憶と随分と違っていることは、まあ受け入れられる。また自分に会いに来るのに女ばかり七人連れて――亀のペットも――来たのも、ちょっと受け入れがたいが、まあまだ良いだろう。

 だが、女七人の内の一人が人ではなくゴーレムで、ペットだと思っていた亀が竜であると聞いたときに圭司の思考が一時停止した。

 日々の疲れが残っていたこともあるが、兄と再会でき安心と安堵が起こり多少の緩みが心にできたところへ、ちょっと常識では考えられない情報が多量に入り込んだことによる一時的な混乱であった。

 なお、彰弘がポルヌアをダンジョンで見つけたゴーレムとしたのは、門を通過したりするときにポルヌアにゴーレムらしくなってもらうのは何となく申し訳なく思うし、自由に変化できると知られたときに面倒なことになる可能性があると思ったからだ。

 幸い、この世界には星の記憶という特殊な現象がある。これは主にダンジョン内で見られ、現在では造ることができないものが生み出されたりする現象だ。つまり、確率は低いだろうがポルヌアのようなゴーレムが生み出される可能性もある。

 ダンジョン産ということに、もし万が一、変な疑いを持たれた場合も彰弘の持つ称号で誤魔化せるだろう。彼が持つ称号の中に『アンヌの加護を授かりし者』と『ダンジョンマスター』というものがあるわけだが、その二つの影響力は並大抵ではないからだ。

 ともかく、彰弘は今後の面倒ごとを極力回避するために、ポルヌアをダンジョンで見つけたとすることに決めたのであった。









 聞かされた情報の整理を終えた圭司が目を前に向けると大きい亀の背に自分の子供が二人乗ってはしゃいでいる姿が見え、それを見ているのだろう兄の彰弘の姿も見えた。そしてそんな彰弘の近くには五人の女がいる。

「落ち着いた?」

「……ああ」

 隣から聞こえてきた声に応えつつ圭司が横に顔を向けると微笑む女がいた。彼の妻の千里(ちさと)である。

「あの亀……えっとガルドだったっけ? 凄いのよ。大きくも小さくもなれるんだって。後、頭が良いの。お義兄さんの言葉だけじゃなく、私たちの声も理解してるのよ」

「受け入れきれなかったのは俺だけか……」

「うーん。多分、私と直哉(なおや)理沙(りさ)はギャップがなかったからだと思う。私の場合、お義兄さんとまともに話したのなんて時間にしたら一時間もないし。直哉と理沙がお義兄さんと会ったのなんて数回よ。しかも今日を抜かして一番近かったのは、直哉が二歳のときだし、理沙なんて生まれた直後くらいのときだもの。いるとは知っていても覚えていたかは、ね」

 圭司が千里と結婚してから世界が融合するまでだと五年、付き合い出してからだと十年近くになるが、彰弘が千里と会話した時間なんてものは確かに一時間にも満たなかった。

 彰弘と圭司の二人が実家住まいであれば別であっただろうが、両者ともに外へ出ていたため、会うのは夏や年末年始などの長期休暇のときだけである。しかもそれぞれの都合により実家に帰る日程が重なるとは限らないのだ。更にいうと、圭司は子供と一緒に実家に帰省したとしても、千里は別件で圭司の実家に来なかったりということがあったため、会話云々より顔を会わせた時間というのも少ない。

 また圭司と千里の子供二人についても千里が口にしているように、ほとんど会ったことのない彰弘について圭司のようにギャップを感じることはないだろう。

「まあ、良いか。お互い無事だったんだ」

「そうね。後はあなたのご両親と沙紀(さき)ちゃんね」

「そう、だな」

「そんな顔はなしよ。言ったでしょ」

 千里の両親。圭司にとっては義理の父と母になる二人は世界融合の際に魔物に殺されていた。

 神々や元リルヴァーナ側からの情報を基に政府が発表したよりも世界の融合が大分早かったこともあり避難がスムーズにいかなかったこともある。しかし、何より運が悪かったのは千里の両親が住んでいた土地のすぐ横にリルヴァーナ側森林が繋がってしまったことが魔物に殺されてしまった原因であった。

「そうだな……ところで、二人ほど見当たらないけど」

「えっと……エレオノールさんとポルヌアちゃんは宿屋に行ってるわ。北側に宿とってるけど、戻るのは時間かかるからって。五年分だから今日中じゃ終わらないだろうしって。明日休みよね?」

「ああ。休みだし特に予定もないな」

 千里との会話中に圭司がふと前を見ると、直哉と理沙がガルドから降りており、彰弘の近くにいた五人も一緒に鬼ごっこのような遊びをしていた。

「楽しそうで何よりだ」

「そうね」

 圭司と千里がお互いに微笑む。

 何はともあれ、こうして彰弘と圭司の兄弟再会は成ったのである。









 翌日。再会した日には話せなかったことを話す彰弘と圭司。

 彰弘は自分がこれまでどのように生活をしてきたか、今現在どのような立ち位置にいるのか、そして人を殺したことまでも話した。

 一方の圭司も自分がこれまでどうやって生きてきたか、また千里の両親が魔物に殺されてもういないことなどを彰弘に伝えている。

 両者が話終えた際の顔は悲しさが混じった表情であった。

 だが、それは僅かな間である。実家を出てから二人はそれほど頻繁に顔を合すことはなかったが、それでもそれぞれの事情を理解できないほど相手のことを知らないわけではない。

「会えたら、無事だと伝えといてよ」

「言われなくても伝えるさ。とりあえず、会えても会えなくても帰りに寄るわ」

「ああ。頼む。後、気をつけてな」

「ま、心配すんな。俺も強くなったし、皆も強いからな。何よりガルドがいる」

「そうか。そうかもな」

「ほら」

 彰弘が再会したときと同じように拳を突き出す。

 そしてそれには圭司も最初と同じように応えた。

「じゃあ朗報を待ってろ」

「おうよ」

 こうして両者は別れた。

 この後、彰弘たちは皇都サガに戻り準備ができ次第、旅の続きに出発する。

 一方の圭司たち家族は、またいつもの平和といえる日常に戻っていくのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



誤字脱字報告、ありがとうございます。

何度見直しても抜けがあるとはぐぬぬ。

ともかく、感謝です。

ありがとうございました。

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