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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
6.リュウを名乗る者たち
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6-11.【宿泊先と情報】

 前話あらすじ

 皇都サガ到着。何故かぴったりの時間で来る迎え。

 そしてウェスターは目的の御息女と抱擁する。





 美形同士の抱擁はなかなか絵になるが、男が三十手前で女が十代半ばであることを考えると、元が地球側の人物であったら融合前の価値観がひょっこり首をもたげて思わず何か言いそうになるかもしれない。

 彰弘にしても、思わず目の前で抱き合う二人の姿に声が出そうになった。しかし、あくまで出そうになっただけで実際に出しはしない。世界融合後の自分に鑑みると見事なブーメランとして返ってくるだろうことが容易く想像できたからである。

「なんかこう、不思議な表情をしているわね」

「年齢差とかで、昔の価値観が思い浮かんでな……」

「う、ん? ……ああ、言ったら、それがそのまま自分に返ってくるのね」

「男が美形じゃない分、こっちの方がダメージでかいってオマケも付いてな」

 抱き合いなかなか離れないウェスターとミーナの様子を、大抵の者が微笑ましそうに見守る中、彰弘の表情に気づいたポルヌアが顔に苦笑を浮かべた。

 彰弘もなんだかんだで今目の前で起こっているようなことを六花たちと行ってきた過去がある。

 六花たちが学園に通っていたときは長期休暇に入るタイミングで彰弘は抱き着いてきた彼女らを受け止めていたし、学園を卒業後は別々の行動をとった後の家の中で似たような行為をしていたりした。

 繰り返すことになってしまうが、彰弘がここで口を出すと正しくブーメランなのである。

「ふふ。なんか素直に楽しいと思えるって素敵ね」

「そいつは良かった。さて、移動のタイミングか?」

 暫く抱き合っていた二人の身体が離れ、ウェスターはミーナの親御へと挨拶をし、ミーナはウェスターの横に立っていたアカリと何やら真剣な顔で話をし始めていた。

 ウェスターとミーナを見ていた面々もそれぞれ動き出す。

「では、誰がどこに泊まるか決めましょう」

「とは言いましても、本日それが可能なのは、当家の別邸とルクレーシャ様のおところだけですよね?」

「そうですわね。準備はできていても、ナミたちのところはご当主様が不在ですもの。……とりあえず、カスミさんとミズホさんには本日は当家で」

「では、こちらにはシオンさんにリッカさんポルヌアさん。勿論、アキヒロ様とガルドさんもです」

「ナミとカナとミナは、それぞれの実家に帰るとして、残りはあの二人ですけれど……どうやらヴェルン子爵様のところにお邪魔することになったみたいですわね」

 何がどう進んだのかは分からないが、ウェスターはヴェルン子爵とがっちりと握手をしており、そんな二人の様子を視界に収めるアカリとミーナは仲が良さそうにどこか不敵な表情を浮かべていた。

 なお、自分がガイエル伯爵の別邸に泊まることが決定した彰弘だが反対をすることはない。折角の厚意なのだからありがたく受け取るだけである。まあ、あまり考えるとよく分からないドツボに嵌まる可能性が捨てきれないので素直に受け取ったというのが、どちらかと言えば正解なのかもしれないが。

 ともかく、本日の泊まり先はほぼほぼ決定である。残りはウェスターたちの宿泊先を確定させるだけであった。

「とりあえず、確認だけはしておくか」

 いくら確定に見えても、そうでない可能性はある。

 なので、彰弘は念のために確認しようとウェスターたちに近づいていくのであった。









 宿泊先が決定した彰弘たちが向かったのは、その場所ではなく冒険者ギルドの建物であった。一晩を過ごすために立ち寄っただけなら不要だが数日以上を皇都で過ごすことになるので、滞在を報告する必要があったのだ。

 なお、この報告は到着日に必ずしも行う必要はない。ただ、ほとんどのところで冒険者ギルドの建物というのは門からそれほど離れていない場所にあるので、大抵は即報告を行う。彰弘たちもわざわざ後日に行うのは面倒だと、今日中に終わらせたのである。

 さて、そんな感じで冒険者ギルドへの報告を終えた彼らは、目的地別にそれぞれの獣車に乗り込む。

 獣車の行先は皇都に在る貴族の邸宅だ。

 六花と紫苑はクリスティーヌとエレオノールと一緒にガイエル伯爵家の別邸へ。

 瑞穂と香澄は、ルクレーシャとともに彼女の実家であるルート侯爵邸へと向かう。

 ウェスターとアカリについては、ヴェルン子爵の邸宅が行先だ。

 ナミとカナにミナの三名については、それぞれ自分の実家へと帰る。明日以降、誰を泊めるかは、まだ未定だが、それぞれの当主の在宅時には是非にとの想い抱いていた。

 そんな中、彰弘は従魔のガルドとゴーレムのポルヌアを傍に置き皆を見送る。

「お渡しした地図のところですからね。絶対、絶対に来てくださいね!」

 獣車に乗り込む途中のクリスティーヌが声を出す。

 その近くには当然エレオノールがいて、また六花と紫音もいた。

 彰弘はこの後、ガルドとポルヌアを連れて総合管理庁とメアルリア教の神殿へと向かうため、宿泊先へ向かうメンバーとは別行動をとる予定だ。

 総合管理庁は家族の情報を再確認するために寄る予定である。皇都サガから三日ほどの距離にあるクランベというところに弟が住んでいるという情報を彰弘は伝えられていたのでその確認と、未だに情報がない残る家族のことを聞く予定であった。

 メアルリア教の神殿については、昨年の夏の遭遇からまだ解決できていない厄介だろう謎の組織に関しての情報を得るためである。また、ウェスターの決闘関係についても話を聞きたいところであった。

 このようなことで別行動をすることにした彰弘だが、何もクリスティーヌの誘いを断るつもりはない。

「ああ、日が暮れる前には訪ねさせてもらうから心配すんな」

 だから、笑みを浮かべた顔でそう答えた。

 笑顔の効果はあったようだ。

 クリスティーヌも六花も紫音も、必要以上に立ち止まらずガイエル伯爵家の獣車に乗り込んでいく。最後にエレオノールが彰弘に向けて一礼してから獣車に乗り扉を閉めた。

 残る面々も似たような感じであった。

 そして彰弘たち以外の全員が獣車に乗り込むと順番に動き出す。

 それぞれ獣車の窓から顔を出して彰弘たちへ挨拶の言葉を発したり、声には出さずとも会釈してから、その場を立ち去っていく。

 やがて彰弘が見送るべき獣車が全て彼の視界から消える。

「さて、んじゃ行くか」

「そうね。でも、その前に二つ聞いても良いかしら?」

「ん? 歩きながらでならな」

 クリスティーヌの言葉に「日が暮れる前には」と応えたのだから、それに間に合うようにできる短縮はしようと彰弘はポルヌアに返す。

 歩きながらの会話は特に問題ないようだ。

 歩き始めた彰弘にポルヌアも続いた。

「まず、あの子たち、あなたと一緒に行きたそうだったけど良いの?」

「ああ、それか。まあ、神殿には一緒でも良かったんだが、総管庁の方がな」

「……生きてはいるんでしょ?」

 彰弘の魂と自分の魂が一時的にくっ付いていたこともあり、ポルヌアは彰弘の家族が少なくとも世界の融合を生き延びていることを知っていた。

「恐らくな」

「恐らく?」

「ああ。アンヌも逐一情報をくれるわけじゃないし、俺も毎日確認しているわけじゃない。万が一を考えると六花たちと一緒に情報を聞きに行きたくはないな」

 彰弘にとって家族の無事と居場所が分かることが最善である。

 逆に最悪は何か? 家族が亡くなっていることがその要素となることは間違いないが、それだけでは最悪とはならない。本当に最悪なのは、この一年以内に家族が亡くなっており、且つその情報を六花たちと一緒に聞いた場合だ。

 六花たちがグラスウェル魔法学園を卒業するまでの期間に関しては彰弘本人の意向で家族探しに出なかったので問題はない。しかし、その卒業から一年間に関しては彰弘が了承したとはいえ、六花たちの要望により彰弘の家族探しは先送りにされていたわけだ。

 もし仮に六花たちの要望により先送りにした期間内に彰弘の家族が亡くなっていたら、そしてそこにショックを受けている様子の彰弘の姿があったらどうなるか。まず間違いなく六花たちは自分たちのせいで彰弘は家族と再会できなかったと考えるだろう。更にそこから悪い方向へと思考を伸ばすかもしれない。

 そんな状況を彰弘は望まない。だからこそ彼は六花たちと一緒に家族の情報を聞きに行こうとは考えない。

「リッカ、シオン、ミズホ、カスミは危ない、か。……クリスティーヌは大丈夫かもね」

「同情されるってだけなら別に構わないんだけどな。絶対にそれだけじゃすまないだろし」

「ちょっと想像できないわね。良くない方向に転がっていきそうな気はするけど、どの方向かが全く想像つかないわ」

「まあな。そんなわけで別行動ってわけだ」

「想像だけで精神が疲弊した感じがする……納得よ」

 考えても答えはでないだろうというところに会話が差し掛かったところで、彰弘がこの話題の終了を宣言する。

 ポルヌアにしても考えたところで、少なくとも今は意味がないと話題の終了を受け入れた。そして二つ目の質問に続く。

「で、二つ目なのだけど、なんで私を連れて歩くのかしら? あなたから離れたら私が何かするとか思ってたり?」

「んー、そうだな。簡単に言うと、いろいろな面で心配だってところだな」

「そりゃまあ……私は元があれだったから……」

「ああ、すまん。言い方が悪かったな。多分、今お前が考えていることと、俺が言った心配は別もんだ」

 自分の言葉にポルヌアの表情が曇ったことで、彰弘は言葉の選択と誤ったことを認識し、すぐに訂正した。

 そんな彰弘にポルヌアは不思議そうな顔を見せる。

「俺が言った心配ってのは、人ごみの中で問題なく行動できるかってのと、本当に魔石の交換なしで動き続けられるのかってこととかの動けなくなることはないのかってことだ。万が一、動けなくなったことを考えると俺とガルドの傍にいるのが一番だからな。身体にしろ魂にしろな」

 なかなかに不思議なものであるが、ポルヌアはゴーレムに魂が宿り動いている。この状態だと重さは変わらないが、どうやら部分的に重力制御が働いているらしく、普通の人と同じように動くことができていた。また、魂が宿っているためか魔力についても普通の人と同じように自力で回復できているのである。

 だが、もしポルヌアの魂が今の身体であるゴーレムから抜けたらどうなるか? 答えは単純、元の金属製ゴーレムに戻るのだ。小柄な人型ゴーレムではあるが全身が金属でできており、正確な重量は不明だが間違いなく数百キロはある。そう簡単に誰でも持ち運べるような重量ではない。

 それに彰弘が口にしたように魂のこともあった。

 仮にポルヌアが彰弘の魂と一緒になりたいと考えていた場合、距離がどのような影響を及ぼすか不明である。だから、この面でも両者は近くにいた方が良いと彰弘は考えたのであった。

「そっか、うん。うん……そっか」

「質問は終わりか?」

「うん、納得した」

「そいつは良かった」

 ポルヌアがはにかんだ笑みを浮かべて、それに彰弘も微笑みを返す。

 この後は特に会話もせずに二人は歩き続け、やがて皇都に複数ある総合管理庁の支店の一つへと辿り着く。

 基本的に一つの防壁に囲まれた中にあるのならば、全ての支店で必要な情報は共有されているのが総合管理庁である。そして今回彰弘が求めている情報は、その必要な情報に該当していた。

「さてさて、どんなもんかね?」

「もう少し緊張感みたいなものがあっても良いと思うけど?」

 先ほどまで落ち着いて歩いていたのに、ここに来てわざと雰囲気を軽くしたような彰弘にポルヌアが疑問の声を上げた。

 それについて彰弘が理由を口にする。

「ある程度軽い方が、精神的に楽なんだよ。あまり思いつめた感じで行くと、聞く内容が内容だけに職員も釣られて必要以上に暗くなるからな」

「経験談?」

「いや。他人の様子を見てだな。それより行くぞ。ここで時間をかけても仕方ない」

「それもそうね」

 こうして彰弘とポルヌア、そして彰弘の肩に乗るガルドは総合管理庁へと入っていくのであった。









 総合管理庁とメアルリア神殿を訪ねた彰弘たちは、それぞれから情報を仕入れた後、渡されていた地図に従いガイエル伯爵家の別邸を目指し歩いていた。

「家族の方も組織の方も新しい情報は多くなかったようね。闘技大会については、明日ウェスターと一緒にって言ってたわね」

「家族については良かったと言えるな。闘技大会はまあ明日以降でも問題ないしな。で、例の組織は目的らしきものが分かり、施設は順調に襲撃し無力化していっているってことくらいか」

「復讐……というか逆恨みに近かったわね」

「気持ちは分からなくもないが、無関係な人を巻き込んでいる時点で同情はできんな。まだお前やドルワザヌアたちの方が良い」

「私と同じ眷属が名前を口にしている可能性があるから声に出さない方が良いと思うわ。でもありがと」

 彰弘はポルヌアの頭にぽんぽんと軽く触れる。

 特に理由はなく何となくであった。

 その行為に照れたのか、若干顔を赤くしたポルヌアが次の話題を口にする。

「もう。そういえば、あなたが伝えた擬魂(ぎこん)に関して、全く情報がなかったわね」

「形状とか分からんし、もしかしたら知らずに破壊なりしているかもしれないが……まあ、様子見の情報待ちだ。例の組織に対して個人でできることはあまりないからなあ。襲われたら迎撃するくらいだ」

「やれやれって感じね」

「ああ、やれやれだ」

 ガルドを肩に乗せた彰弘が、ポルヌアと今日仕入れた情報を話しつつ辿り着いたそこにあったのは、グラスウェルに建つ彰弘の家と同じくらいの邸宅であった。

「このレベルの屋敷を見ても驚かなくなったな。良いことか悪いことかは分からんが」

「他の家を見て馬鹿にするようなことがなければ問題ないんじゃない?」

「ま、そうだな。それはそれとして、なんとか日が暮れる前には辿り着けたか」

 彰弘とポルヌアは、ガイエル伯爵家の別邸の壁に沿って進む。

 やがて門の前まで来ると、そこを守っていた兵士に声をかけるのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



二〇一九年一〇月一九日 二一時四十七分 追記

なぜポルヌアを同行させているのかと追記


職場の喫煙所がなくなった。

近くに喫煙スペースはない。

ただいま、強制禁煙中。

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