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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
6.リュウを名乗る者たち
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6-09.【引き渡しと想い】

 前話あらすじ

 とりあえずの目的地である皇都サガを目指す彰弘たちは、ある情報を得たことにより少しの寄り道をする。

 その場所でなんだかんだあり、何故かそこで受け取ることになった少女型ゴーレムに魂が宿る場面を目撃するのであった。





 サリナやマイクラたちと別れた彰弘たちは、獣車を使わず徒歩で皇都サガを目指し進んでいた。

 先頭を往くのは平均的な獣車程度の大きさになったガルドであり、その甲羅の上には現在六花と瑞穂が乗っている。残りの者は捕らえたキリュウたちを監視するために、彼らの周りを囲むように歩いていた。

 ちなみにガルドの上には、彰弘とウェスターを除いた面々が交代で乗っている。

 さて、捕らえられたキリュウたちの状態だが、彼らは普通に歩く程度になら動かせるだけの余裕を持って左右の足が縄で繋がれていた。上半身は上腕部が胴体から離れないように、左右の手首は密着した状態で繋がれている。そしてその状態で彼ら全員が一本の縄で数珠繋ぎにされていた。更にいうと彼らの首には散魔と名の付く魔導具を改造し首輪にした物が付けられている。

 散魔と名の付く魔導具というのは自身の許容量以上の魔力を身に留めてしまう者から不要な魔力を散らすための物だ。

 通常は何もしなくても体内に溜め込める許容量に達すると生物は、それ以上魔力を吸収するという動きを止めるのだが、稀にその機能が働かない者がいた。そのような者は何の対処もしないと延々と魔力を体内に溜め込み続け高熱を出し、最後には死に至る。

 このような者を助けるための魔導具が、散魔と名の付く魔導具であった。

 キリュウたちに付けられた首輪は、この不要な魔力を散らすという効果を、魔法を使おうとすると、その魔力を散らすという効果に書き換えた物である。

 本来は魔法使いの罪人に付けられる物であるが、サリナが念のためにと神殿から持ち出し万が一がないようにキリュウたちに付けたのであった。









「そろそろ野営の準備をするべきかな」

 そんな感じで進む一行の中、ガルドの斜め後ろを歩く彰弘が、日も大分傾き赤さを表してきた空を見上げて、そんなことを呟く。

 確かに一般的な冒険者や商人などであれば、もう既に野営地を決めて準備をしている最中といった時間帯だ。

 焚火に使う薪を拾うのには存外時間がかかったり、警戒できる範囲も暗くなると狭まるので、日が傾き始めたら大抵はすぐに野営の準備を始めるのである。

 しかし彰弘たちパーティーの場合、彼の持つマジックバングルに野営をするための必要な物は全て収納されていることに加え、大半のメンバーが並み以上の魔法使いであった。薪拾いを必ずしもする必要はなく、周囲の警戒も日中とまではいかないまでも、不意打ちを喰らわない程度には警戒できる範囲を照らす光源を用意することも容易い。

 これらの理由から彰弘たちのパーティーは、他の一般的な者たちよりも野営の準備をするのが多少遅くても問題ないのであった。









 野営地と定めた場所で夕食を食べ終えた彰弘たちは、それぞれが好みの茶を飲みまったりと過ごしていた。

 捕らえたキリュウたちにも簡素だが食事は提供されている。無論、魔法で作られた硬質な土の檻の中で手足を縛られてはいるが、食事をすることくらいはできる余裕があった。

「このペースだとどのくらいで着くのでしょうか」

 休憩を挟みつつ徒歩で移動しているため、皇都サガはまだ先だ。

 最大化したガルドに捕らえたキリュウたちを縛り付け、彰弘たちもその背に乗り最大速度で移動すれば今からでも日付が変わる前に着くのだが、それは周囲への影響がいろいろな面で大き過ぎる。

「マイクラさん家からだと、山道分を考えて獣車で二日程度だからな。まあ、このままずっと歩きだと六日間くらいか?」

 獣車の速度は車部分の重量や積載物にオルホースなどの車部分をけん引する動物や魔物の力などによって変わるが、一般的な平均速度は普通であれば大体人種(ひとしゅ)が歩くそれの三倍程度である。

 無論、それより速くできるが、長距離を移動することを考えた場合、この速度がけん引側も、またけん引される車部分に乗る側にも負担が少ない。

「んー、ガルドに縛り付けて、ささっと行きたいところだねー」

「問題は縛り付けるのと、外した後が面倒なことでしょうか」

 仮に縄を使うとして、二十名以上の大人を何かに固定するのは並大抵ではない。しかもそれが柱などではなく、曲線を描くガルドの甲羅なら尚更だ。

 外すのはガルドに小さくなってもらえばいいだけだが、その後で縛り付けていた縄を解いてとなると、これまた大変な作業となる。

「ま、暫くは歩きだな。捕らえた人数は伝えてあるし、多分獣車あたりを用意してきてくれるだろ」

 彰弘がフロティーエに戻り助力を願った際には捕らえた者が何名いるかも伝えてあった。

 だからこその彰弘の言葉である。

「仕方ありませんね。……ふう、そろそろ休みましょうか」

「だな。見張りは……あいつらの監視もあるから一人増やすか。ゆっくり寝られる時間が少なくなって悪いが頼むな」

 彰弘たちパーティーの場合、通常は各時間ごとに二人が見張りにつき三交代である。つまり通常一晩を六人で行うところを九人で行うことになるので、必然夜を丸々休むことができる人数が減るのであった。

「必要なことですから、仕方ないでしょう。今日の最初は私たちですね。もう一人はどうしますか?」

 彰弘の言葉に応えたのはウェスターである。

 ウェスターはいつもアカリと組んで見張りをしていた。

「そうだな……まずは瑞穂に頼むか」

「およ? うん、わかった!」

「んで、二番目は俺と六花のところだが……ポルヌアに頼もう。で最後の香澄とルクレーシャのところはエレオノールに頼むか」

「分かったよ」

「承知いたしました」

 彰弘に名前を呼ばれた三人が思うところなく頷く。

 ゴーレムに魂が入ったポルヌアが呼ばれたことに、何等かの思いを抱く者がいそうなものだが、誰も何かを言う気配はない。

 これはポルヌアがゴーレムに入ったときに、メアルリア教の一柱であるアンヌの下の天使アイスが顕現し説明をしたこともあるが、その後半日とはいえ一緒に行動し何ら自分たちと変わりがないのだと受け入れていたからだ。

 ポルヌアが入ったゴーレムは、超常の意思が働いているようで、正しくゴーレムという状態にもなれるし、どこからどうみてもそして触っても生身としか思えない状態にもなれた。それがためか、彼女の存在は彰弘以外の面々にも驚くほど自然に受け入れられたのである。

 ともかく、見張りも決まり、彰弘たちは夜を越す用意を始めたのであった。









 彰弘たちが目的の人物と会ったのは、マイクラの家を出てから二晩を抜けた日の正午過ぎであった。

 昼休憩も終わり片付けをして歩きだしてから一時間ほど。彰弘たちの進む方向から、見慣れた服装をした人物が四台の獣車とともに近づいて来るのが見えた。

「んん〜? あれはサティーさん?」

 通常より二回りは大きい四台の獣車の先頭の御者台には二人の人物が座っていた。

 一人は獣車を制御する御者役であろうが、もう一人は彰弘たちの見知った顔である。

「どう見てもサティーだな」

 彰弘は瑞穂の言葉を肯定しつつ、若干速度を落とし向かってくる獣車の先頭の御者台を見た。

 そして数分後。

 瑞穂と彰弘が名を口にした人物と接触した。

「お久しぶり……ってほどでもないわね。それでもまた会えて嬉しいわ」

「確かに久しぶりってほど前ではないわな。で、何でまたサティーが? ん? リーベンシャータもいるのか」

 サティリアーヌが彰弘たちに挨拶をしている内に四台の獣車に分乗していた者たちが続々を降りてきた。

 その服装は御者も含めて全てメアルリア教の神官服である。

「こっちにもいろいろあってね。暫くサガに滞在していたのよ。それで、そのいろいろが終わって、アルフィスに帰ろうかというところで、今回の件ってわけ」

「いろいろね」

「ええ。例の組織の件でね。さて、引き取りましょうか。彼らはサガではなくアルフィスへ連れていくことになったわ。いいわよね?」

「ああ、それで構わない。それにしても、サリナの話じゃ客人として云々ってことだったが?」

「サリナ? ああフロティーエの。まあ、無理やり中に入れることはできるけど、面倒なことになりそうだって結論になったのよ」

「なるほどね」

「そういうことよ。……はじめて」

 彰弘との会話を一旦止めたサティリアーヌは、背後に控える神官たちにキリュウたちを引き取るように指示を出す。

 それに応えたのは、腰近くまでスリットの入った司祭を示す服装をした面々であった。

「相変わらず目のやり場に困る服だな」

「そう言いながら微塵も心が動いてないようだけど?」

「努力の賜物と思ってくれ。いろいろあるんだ」

「あの子たち? 大変ね〜」

 くすくすと笑うサティリアーヌに彰弘は苦笑じみた笑みを浮かべる。

 多少、扇情的なものに反応してもサティリアーヌが横目で見ている六花たちが過剰な反応を示すことはないが、あまり露骨に反応するとそれが彼女たちの彰弘に対するスキンシップに影響するのだ。

 現状ならまだ好ましいと言える段階であるのだから、それを妙な方向に崩すことのないように努力するのは、彰弘にとって当然であった。

「ま、それはそれとして、ちょっとリタに彼女と話をさせてもらえない? 今後のためにも」

「……別に構わないが。俺も付いていた方が良いか?」

「そうね。何もないと思うけど」

「分かった」

 サティリアーヌが言う彼女というのはポルヌアのことで、リタというのはリーベンシャータのことだ。

 ポルヌアは邪神の眷属であったとき、リーベンシャータを操り力を奪うということをしている。

 ポルヌアに問題がなくなったと言われても、リーベンシャータが「はいそうですか」と納得できるものではないかもしれない。

 またポルヌアにしても、そのときに必要だから行ったことであったが、そのことを何も思っていないことはないだろう。

 ここで二人が何かを思っていて、それを解消することができたとして、それが今後の何に影響するか分かるものではないが、少なくとも両者の心の平穏や安らぎについて改善される可能性はあった。

「んじゃ、私は引き取りの指揮とリッカちゃんたちとお話ししてるわ。ああ、そうだ。彼女の件については、関係のある人たちには問題がないように伝達されることになったわ」

「神託か?」

「そうね。神託を受けた子たちが、基本的にはアイス様が仰っていたことそのままを伝えることになってる」

「それで大丈夫なのかよ」

「生前を知っている人たちには、『アキヒロさんに憑いていた影響で完全に浄化されて無害になった』って説明が加わるけど」

「いや、それで本当に大丈夫なのかよ」

「問題ないわね。アンヌ様の名付きの加護持ちで魔力には神属性が混じってる。ついでに言えばその剣。浄化したでしょ」

 神の名付きの加護持ちというのは僅かだ。そして神属性の魔力を多少なりとも身に宿している者は更に少ない。加えてメアルリア教の神官だけでなく別の神を信仰する神官の目の前で彰弘は魂喰い(ソウルイーター)という魔剣を浄化したと同意のことをやっている。そこに神託まで加わるのだから、ポルヌアが無害になったと言われたら、この世界では納得するしかない。

「まあ、それに実際に見れば分かるわよ。彼女がそこにいるだけで危険かそうじゃないかわね」

「……ふう。分かったよ。」

「まあ、そんなわけで、こっちは気にせず二人をお願いね」

「ああ」

 サティリアーヌはここで彰弘との会話を止め、言葉どおりキリュウたちを引き取る指揮を執りつつ六花たちと話すために、その場を後にしたのだった。









 サティリアーヌが去った後、やってきたのは当然リーベンシャータである。

 彰弘はその少しの間にガルドの近くに立っていたポルヌアを呼び寄せていた。

 相対するポルヌアとリーベンシャータを彰弘は見つめる。

 なかなか話し出す切っ掛けを掴めないようで、少しの間、両者は無言でお互いを見ていたが、やがてポルヌアが頭を下げた。

「ごめんなさい。今のわたしには謝ることしかできない。謝って許してもらえることじゃないかもしれないけど、ごめんなさい」

 ポルヌアがこの世界に来て犯した罪は大きく二つ。一つは深遠の樹海でオークを強化し彰弘たちへ嗾けたこと。もう一つはリーベンシャータを操り、その力を奪ったことだ。

 前者については、仮にポルヌアが何かをしなくてもオークが彰弘たちを襲う確率は高く、彰弘は周囲に聞かれないように、こっそりと謝ってきたポルヌアを赦している。

 後者は間違いなくポルヌアが直接自分の手で犯した罪であり、これをリーベンシャータがどうするかであったが。

「謝罪は受け入れた。今のあなたを見る限り、結果としては最良に近いだろう。もう気にする必要はない。そもそもあれは私の油断と実力不足からきたものだ。気にするな」

 どうやら余計な心配をする必要はなかったようである。

 ポルヌアに対するリーベンシャータの顔は穏やかであった。

「でも……」

「私はメアルリア教の信徒だ。そして私が望む平穏と安らぎは、今の世界が不要な危険に曝されずに私の周囲が存続することだ。私の力が一時的に低下したとしても、それは大きな問題ではない。幸い資質までは奪われなかったようでな、以前と同様に力を得ることができている。だから気にするな。生まれ変わった今の生を堪能すれば良い」

「え、あ、……うん。ありがと」

 気にするなと言われてもそう簡単に、それができるものではない。しかし、リーベンシャータの言葉と態度は、ポルヌアに前を向いていけるだけの力を与えていた。

「さて、私は仕事に戻る。とはいっても、もう終わっているようだが。とりあえず私は暫くアルフィスにいる。来ることがあったら歓迎しよう。では、またな」

 リーベンシャータはポルヌアに笑みを向けてから、その場を立ち去る。

 残された彰弘とポルヌアはお互いに顔を見合わせた。

「良かったな」

「……うん」

「んじゃ、俺たちも向こうに行こうか」

「うん」

「ああ、そうだ。何かあったら溜め込まず相談しろよ。ここにあるお前の席は空いているからな」

 彰弘は動かしかけた足を止めて、自分の心臓部分を親指で指す。

 それを見たポルヌアは、小さく「ありがと」と呟いたのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。




お蔭様で稲刈り完了。

そして筋肉痛もいただきました。

道も狭いし田んぼの広くないのが複数枚のため、業者に頼めず自分ちでやるしかないという肉体労働。

でもお米がおいしい幸せ。

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