6-07.【捕らえた者どうするか?】
前話あらすじ
ゴーレムを奪いに来たキリュウたちから情報を聞き出すため、彰弘たちは相手を殺さずに捉えるのであった。
「最初んときはいきなりでよく分からなかったが、なんつーか、すげえな」
「優秀だろ。うちのメンバーは」
「お前も含めてなんだけどな?」
「ははは。この数年はこれまでにないくらい努力したからなあ」
ウェスターの先導で先ほど無力化したばかりのキリュウたちが縄で縛られていく様子を見ながら、彰弘がキヨシの言葉に応える。
今の彰弘があるのは、運が良かったこともあるが、それをものにできたのは彼が言葉通りに努力していたからだ。剣技などの戦う技術を磨くための修錬をほぼ毎日していたし、魔物狩りも積極的に行っていた。
前者はともかく、後者は一般的な冒険者の場合、一度狩りに出て帰ってきたら、数日は休むのが普通だ。これは肉体的精神的な疲労を癒すためである。しかし彰弘は三日狩りをして一日休みを入れるという、他の大多数の冒険者とは逆とも云える日々を過ごしていた。
世界融合直後に地球人に与えられていた期間限定加護のお蔭で融合前とは比べ物にならない身体能力を手に入れ、且つその期間中に手に入れた血喰いという剣の性能もあり、彰弘は世界融合後の僅かな期間でオーク程度なら容易く屠れる実力を持つほどになっていた。これらのこともあり、彰弘は連日魔物を狩るということができていたのである。結果、彼は一般的な冒険者とは隔絶した数の魔物を狩り、相応の実力を身につけるに至ったのであった。
ついでにいうと、彰弘以外のパーティーメンバーも本人たちの資質もあって、連日の狩りに耐えることができ今の実力となっている。
ちなみにマジックバングルのお蔭で倒した魔物をその場で解体する必要がないということも、彰弘たちが一般的な冒険者よりも多く魔物を狩れてきた理由であった。
彰弘とキヨシが会話している内にキリュウたちの拘束と収容が完了していた。
マイクラの家の庭の片隅に魔法で造られた出入り口のない頑丈そうな檻が人数分できており、そこにキリュウたちは閉じ込められている。
無論、檻を造ったのは彰弘のパーティーメンバーで魔法を使えるものたちであった。
「で、こいつらはどうすんだ?」
作業を黙って見続けていたマイクラが、我に返ったようにハッとした後で彰弘に問いかける。
二十以上の檻があり、その一つ一つに縄で縛られた者が入れられていた。
野盗扱いで連行するにしても、二十名以上をとなるとなかなかに難しそうだ。
「連れて行くのは……まあ、歩かせても、ガルドに括りつけてくって方法もあるんですが」
「そんなに大きくなれんのか?」
「今なら横幅が街道からはみ出すくらいには大きくなれますね」
「それが本当なら移動はどうにかなるのか」
先ほどの戦闘時は小さな小屋程度の大きさでマイクラたち三人の側にいたガルドは、今は小亀ほどになって彰弘の肩に乗っている。
そんなガルドは、彰弘の従魔となってから順調に元の力を取り戻しつつあり、今では普通の獣車二台が余裕をもって通行できる街道から横にはみ出すくらいの大きさにまでなることができていた。
「問題はどこに連れていくかですかね。ガイエル領内なら領主も把握してるし、ある程度兵士間にも情報は行き渡っているんで悩む必要はないんですが、皇家直轄領のここだとどうなのか。……こいつらの拠点は全国にあったらしいし、国にも報告は挙がっているという話は聞いたんですけどね」
誰にでも失念するということはある。
まさか二十名以上を生きたまま捕らえることになるとは思ってもいなかったので、彰弘も寄る街々でどの地域でどの程度まで情報が周知されているか、また捕らえた場合にどこへ連れて行けば良いのかまでは確認していなかったのだ。
「この人数だと仮に問題なくどこかの街まで連れていけても相当面倒なことになるぞ?」
「全くもって言う通りです」
マイクラの言葉に返しながら彰弘は思考する。
そして、多くはない現状で取れる中から最良であるだろう手段を口にした。
「メアルリア教に頼るか」
「そんなことできるのか? あそこは頼んだからって動いてくれるようなところじゃないぞ? どれだけ金を積んでも動きたくなけりゃ動かないし」
「そこは問題ありません。この件に関して積極的に動いているのはあそこです。それにこれもある」
彰弘は身分証を取り出し、称号欄をいつもの『非常なる断罪者』から『アンヌの加護を授かりし者』へ変え、マイクラに見せる。
自己紹介のときに見せられた称号とは違うその文字にマイクラが目を見開き、横から覗き込んできたキヨシとマイカも同様に表情を変化させた。
その様子に、何だかんだで称号を自分の都合良いように使ってるなと、彰弘は自分自身に苦笑しつつ、身分証を仕舞う。
「さて。というわけで、ちょっと戻って知恵を借りてくる。ガルドに乗って行けば完全に日が落ちる前には戻って来れるだろうから、それまでここはウェスターに任せる」
「戻るということはフロティーエですか。確かにここからだと獣車で一日ほどですから、ガルドの速さなら夜になる前に戻って来られますね。分かりました。こちらはお任せください」
ウェスターの了承を得た彰弘は残りのパーティーメンバーへと目を向ける。
六花を筆頭に若干残念そうな顔が五つあったが、それ以上ではなく、世界融合直後から良い方向へ順調に進んでることが窺えた。
ちなみに五つの内の一つは、事情は異なり彰弘にとって考える必要がありそうな人物のものであったが、この場で何かをするべきでもできるものでもない。
「ガルド、頼む」
「(心得た!)」
彰弘の肩から飛び降りたガルドが、一人の人を乗ることが可能なだけの大きさへと身体を変化させ、その甲羅に彰弘が跨る。
ガルドは彰弘が乗りやすいように甲羅を変化させており、彰弘はそこに収まっている状態だ。移動中に振り落とされないように掴む場所もできており彰弘の手はそこを掴んでいた。
「(全速で良いのじゃな?)」
「(ああ。)じゃあ、行って来る」
ガルドの問いに念話で答えた彰弘は、その後で声に出してこの場に残るパーティーメンバーへと出発を告げる。
そして次の瞬間に彰弘を乗せたガルドは数メートルの助走の後、猛烈な勢いでその場から走り去って行った。
「……もう見えねえとかすげえな」
「確かに。それはそれとして、ギャグにしか見えないところはどうにかならなかったのか、榊よ」
純粋に驚くマイクラと浦島太郎状態の彰弘の姿に曖昧な笑みを浮かべるキヨシ。
ともかく、こうして彰弘はガルドの背に乗り、メアルリア教の助けを得るためにフロティーエへ向かったのである。
彰弘がガルドに乗ってフロティーエへ向かってから暫く。
魔法で造られた光りが照らすマイクラの家の敷地ではバーベキューの準備が進められている。
「シルバーグリズリーとオークリーダーが一体ずつとオークが四体。充分ですね」
夕食のためにと狩りにでた彰弘のパーティーメンバーたちは、見事一食分以上の肉を手に入れ帰還していた。
怪我をすることもなく魔物を狩ってきて、手際良く解体していく彼らにマイクラたち三人は言葉もでない。
「お野菜関係と調理器具は彰弘さん待ち……あ、来たかも」
そんなこんなで順調に夕食の準備を進める一行の作業もできるところまではほぼ完了となったところで、マイクラの家へと続く坂道方面から何かの音が近づいてくる。
果たしてそれは彰弘であった。
行きとの違いはガルドの大きさが二倍程度の大きさとなっていることと、彰弘以外にもう一人神官衣を来た二十代半ばに見える女がガルドに乗っていることか。
「お、バーベキューか」
「はい。お帰りなさい彰弘さん」
「見た感じほとんど準備は終わってるんだな」
「ええ。後はお野菜とか金網とかです」
ガルドから降りた彰弘は背後に乗っていたぐったりとした様子の女神官を下ろした後で、マジックバングルから必要そうな野菜や調理器具に食器を取り出していく。
「ところで、そちらの女性は大丈夫ですか?」
「彰弘さんの背中に抱きついているのを見たときはどうしてやろうかと思いましたが……」
「あれを見るとちょっと可哀想な気がするねー」
「おおう。乗り物酔い?」
「本当に大丈夫でしょうか。お顔が真っ青になっていますが」
彰弘から受け取った諸々を後ろで準備を行っている仲間に渡しつつ、地面に座り込み下を向き項垂れる格好の女神官に、六花たちが気の毒そうな顔をして声を出す。
「街道は良かったんだが、ここに来るまでの坂道がな」
「ああ。結構凸凹してますもんね」
平なところであっても高速で移動するガルドの背の上では相応に振動がある。それが坂であり更に凹凸もあるとなると、その衝撃は相当なものであった。
彰弘の後ろに乗っていた、今ぐったりとしている女神官はメアルリア教の司祭で名をサリナという。彼女は司祭でありそれ相当に鍛えられているわけだが、初めての経験ということで身体がついていかなかったのである。
「とりあえず、良くなるまでは休んでてもらうか」
「それが良いだろうな。一時的にベッドを貸す余裕くらいはある。マイカ案内してやれ」
「うん、わかった。歩けますか?」
このままというわけにもいかずマイクラが自分の家のベッドを提供すると進み出、孫のマイカに案内を告げる。
それに応えたマイカが未だに青白い顔で俯くサリナに近づき声をかけるが、どうにも自力で動けるようには見えなかった。
「……俺が運ぶから案内を頼めるか?」
「あ、はい」
やった後の六花たちの反応が怖いが仕方ない、と内心で思いつつ彰弘は自分がサリナを運ぶことにした。いくらなんでも、このまま放置しておくのは流石に気の毒である。
彰弘はサリナに近づき腰を落とすと、ひと言断ってから彼女の膝裏と背中に腕を通してそのまま持ち上げた。
「あれ? 今、一瞬で気の毒だなーって気持ちが消えたんだけど」
「瑞穂ちゃん目が怖いよ?」
「そういう香澄さんも戦ってもいないのに冷気が漏れていますよ?」
「紫苑さん。目に殺気が」
「六花さんも魔物を狩るときの目になってます」
「お嬢様。淑女らしからぬお顔となっております」
こうなるだろうなと思っていた彰弘だが、実際にそうなったからといって今サリナを放り出すわけにはいかない。
案内のマイカが戸惑いの顔を浮かべて彰弘を見るが、気にしないで案内を頼むと彼は彼女に告げる。
そんな光景を見てウェスターがため息を一つ。それから声を出す。
「とりあえず、今は準備を終わらせますよ。あれに関しては後で同じことをやってもらうなりしたらどうですか? アキヒロもまさか嫌とは言わないでしょう」
サリナに向けられていたままの顔と状態の五つが、そのままウェスターに向けられる。
彰弘がサリナを抱えマイクラの家に入っていくのを横目で見つつ、なかなかに堪えるものがあるとウェスターは内心で思いながらも平静を装い言葉を続けた。
「アキヒロは必要以上に女性と接することはないでしょう。あなたたちよりも付き合いは短いですが、それくらいは私にも分かります。つまり今は必要だったということですよ。あなたたちはこの旅の間に何かしようとしているのでしょう? なら、今はそのための行動をするべきだと思いますが、いかがですか?」
グラスウェルを出発してから一緒に行動してきているため、ウェスターも六花たちがこの旅の中で何かをしようと企んでいるだろうことは察している。
それは間違いなく彰弘に関することであり、彼の意に沿うものであるとは限らないが、悪いものでもないだろうと思われた。
「ふう。なかなか自分の感情を制御できるものではありませんね。ともあれ、ウェスターさんの仰るとおり、ですか。でもすぐに何かをしてもらいたいところではありますね」
「そうだね。何が良いかな? まあ、今は準備を終わらせることが一番かな」
「うーむ。お姫様抱っこはシチュエーションが大事だから……とりあえずは『あーん』かなー?」
「それ、してもらうのをありかも?」
「これは有効に使わねばなりませんね、皆さん」
オークロードと互角以上に戦えるウェスターさえ堪えるほどだった五人の雰囲気は元に戻った。が、ある意味それ以上に厄介なことになりそうである。彰弘にとって。
ともかく、こんな一幕もあったが、バーベキューの準備は以降滞りなく進む。そしてバーベキュー自体も何だかんだで問題なく終了した。
夜。
結局、サリナはダウンしたままだったのでキヨシは外で彰弘たちと寝ることになった。
「なんつーか大変だな」
「まあ、退屈はしないな」
「俺、マイカだけで本当に良かったと思ってる」
「その言い方は、いろいろ思うとことがあるんだが。……そういや結婚してんのか?」
「ああ。うーん、暫くフロティーエで過ごすかな。子供ができたっぽいし、あんなのが来るとなると子育ては厳しいだろうからな」
「だな。まあ、あれだ。ともかく、お互い生きて会えて良かった」
「最初に話すことだったな、それ」
まだ肌寒さを感じる時期だが、魔法で造られた壁と彰弘のマジックバングルに収納されていた寝具のお蔭で寝るには問題ない。
そんな状況の中で彰弘とキヨシは布団の上で横になったまま会話をしていた。
「さて寝るか。今日は見張りの日じゃないが、寝坊するわけにもいかんし」
「人数が多いだけじゃなくて、強いもんなお前ら」
「否定はしない。ああ、そうだ。明日マイクラさんにガルドの甲羅を追加で渡しておくから、防具とか作ってもらっておけ。今の世界、厳しいからな。出産はまだだろが結婚祝いだ」
「ありがたく頂戴しておくよ。ふぁ〜、いろいろあって疲れたわ。じゃあ、お休み榊」
「ああ、お休み水谷」
この会話の後、少しして二つの寝息が聞こえてきた。
こうして長いような短いような一日は終わったのである。
お読みいただき、ありがとございます。




