6-05.【友人】
前話あらすじ
フウリュウとガンリュウを撃退した彰弘たちは、その場に建つ家の主と会話する。
一方、彰弘たちから逃げた二人は、森林の中で傷を癒し疲れをとるため休憩するのであった。
「人型で大きさも一メートルから二メートル程度のゴーレムを売ってもらうことは可能ですか?」
情報のやり取りが終わり、必然であろうゴーレムの話となった会話の一区切りに、彰弘の口からそんな言葉が出された。
彰弘がわざわざ人型と加えたのにはわけがある。
今あるこの世界のゴーレムは魔導具の一種だ。そして使用用途は世界融合前の地球でいう建設機械のようなものが大半である。
主に人種では困難な重量の物を持ち上げたり運んだり、または穴を掘ったりするために使われているため、この世界のゴーレムは作業に対する安定性や必要な性能を考え、人型よりも建設機械型となっているのだ。
「人型? そりゃ造れなくもねぇし在庫もあるが……冒険者のお前さんらじゃ多分使い所なんかねーぞ。対象を指定して殴れと命令すりゃ、殴らせることくらはできるがな。まあ、細かく命令すんなら、人と同じような動きをさせることも可能だが」
今現在のゴーレムは自立行動というものはできない。
過去の文献や口伝から、自立回路を魔導回路と同様にゴーレム本体に刻み込むことでゴーレムが判断し動けるようにすることは可能だと考えられているが、肝心の自立回路についての情報がほぼ失われているからだ。
ちなみにゴーレムが歩いたり、物を持ち上げてもバランスを崩さずにいられるのは、失われず伝えられてきた自立回路の一部によるものである。
「別に戦わせるわけじゃありませんよ」
「ならあれか? 貴族様のように家に置いて自慢の種にでもするのか?」
ゴーレムを所有するには相応の財力が必要だ。ゴーレム自体も高いのだが動かすためには魔石が必要で、その魔石代がなかなかに馬鹿にならないのである。
それでも建設機械型のゴーレムは需要があるため、魔石代はともかくとして、ゴーレム本体の価格はある程度納得できるものとなっていた。
だが、人型ゴーレムは別である。需要が少ないために建設機械型よりも割高だ。それを所持するのは「私にはこれだけの財力がある」と他者に対して見せ付けるために購入する見栄を張りたい裕福な者たちがほとんどであった。
「そんな趣味はありませんよ。ただ、話を聞いて非常に性能が高いと判断しました。今後ダンジョンに潜るときに使えると思ったんです。幸い持ち運びには苦労しませんから」
「ああ、そういうことか。ゴーレムなら全部じゃなくても一部の罠を無効にできる。後、おとりにも使えそうか。まあ普通のやつらじゃできねーことだな。移動だけでも魔石代が馬鹿にならねーし」
彰弘の言葉にマイクラが納得の顔を見せる。
そんな感じで彰弘とマイクラはゴーレム売買の交渉に入った。ゴーレム大きさや形に性能、金額などなど。細かい部分を全て書面に起こして契約書を作成していく。
時間にして一時間ほど。売買契約が成立する。
「では、前金として欠片を一つ。明日、ゴーレムを受け取り次第、残りをお渡しします。なので、庭先をお借りしても良いですか?」
「おう。家の中は無理だが外は好きに使え。ゴーレムの方は明日の朝までには仕上げて渡してやる」
マイクラは彰弘から手渡された輝亀竜の甲羅の欠片を掌の上で転がしながら、落ち着かない様子で自身の工房へと向かう。
結局、彰弘が購入するゴーレムの代金支払いはガルドの甲羅になった。
マイクラが輝亀竜のことを知識として知っていたことが今回の支払いに金銭ではなく素材となった要因だ。
ゴーレムを造るにあたり問題となることの一つが強度と重量である。建設機械型でいえばトン単位の石材を持ち運ぶなどの性能を要求されるため、強度がなければ話にならないのだ。そのため、基本的に金属部品が多く用いられるのだが、普通の鉄にしても、更に強度の高い魔鉄などを用いるにしても、完成させたゴーレムは相当な重量となってしまう。
知識として輝亀竜のことを知っていたマイクラが金銭ではなく、加工すれば強く軽い材料となる輝亀竜の甲羅を求めるのは不思議でもなんでもなかった。
無論これはマイクラが金銭には困っていないからだが。
「金が減らず在庫を捌けて欲しいものが手に入る。悪くないな」
「いくら割高な人型ゴーレムとはいえ、一メートル四方の輝亀竜の甲羅だと合わないとは思いますが」
「ま、物の価値は人それぞれさ」
マイクラの背中を見送りつつ、彰弘はウェスターの言葉に応える。
それが終わると、今度はこれまでほとんど声を発しなかった、この場の住人であるマイクラ以外の男へと顔を向けた。
「さて、それはそれとして漸く話しができるな。こんなところにいるとは思わなかったよ。なあ、水谷」
「俺もだよ、榊」
笑みを浮かべた彰弘の言葉に応えたキヨシの顔も、また笑みが浮かんでいたのであった。
座り直した彰弘は改めてキヨシの顔を見る。その顔は記憶と比べて大分引き締まって見えるが、間違いなく友人であった水谷清のものであった。
「彰弘さん。お知り合い?」
彰弘の隣に座る六花がこてんと小首を傾げる。
六花の疑問は彰弘側の残りの面々のみならず、キヨシの真横に座るマイカも同じ気持ちのようだ。それぞれが彰弘とキヨシの顔を見た。
「大学時代からの友人だ」
「初めはそんな素振りはありませんでしたよね?」
「最初は気づかなかったがキヨシという名前を聞いて、もしかしてってな。東北にいたはずってのもあるが、何より見た目が全然違う。どんだけ痩せてんだよ」
「人のこと言えないだろ。お前も随分と違うぞ」
融合前の彰弘とキヨシの体型は、世間一般的に言えば太っているという言葉が正しく的を射ていた。それが今は、両者ともに当てはまらなくなっている。
「おおー。ぷにぷにだった?」
「ぷにぷに言うな。後、腹を見るな」
彰弘は二人の腹部分で視線を行き来させる六花の頭に手を置いて固定させ苦笑した。
世界融合当初、大量のゴブリンを殺し魔素を取り込んだことで体型が変化したときに六花がいやに残念がっていたことを思い出しだからだ。
えへへ、と笑う六花からキヨシへと彰弘は顔を戻す。
「体型については置いておこう。で、なんでこんなとこにいるんだ?」
「体型はまあ、そうだな。なんでここにいるかは、俺が師匠について来たからさ。師匠の知り合いが東北……今だとノシェル公国か。そこにいてな。偶々出会ったんだ。三年ほど前のことさ」
「よくついて行く気になったな。危険と考えなかったか?」
「師匠もマイカも強かったんだ。後、ゴーレムの魅力に逆らえなかったなー」
三年前であれば、街の外がどれだけ危険であるかを間違いなく認識しているころだ。それでもキヨシがマイクラとマイカとともにこの地まで来たのは、それだけゴーレムというものに魅力を感じたということだ。
と、ここで彰弘は、このキヨシがロボットというものが好きであったことを思い出した。
「……ロボットか」
「ロボットだ。十八メートル級とかの巨大なのは難しいが、五メートルとかのサイズなら可能そうなんだよ。まあ、力を出すための魔導回路とか自立回路とかがクソ面倒なんだが……だが、それが楽しい。まあ、視界の問題とかいろいろあって先は長そうだけどな。外の景色を映せる魔導具を手に入れれりゃいいんだが、これがクソ高い上に性能が微妙でなあ」
「防御を考えると外に身体を晒すのは危険か。で、カメラは高いと。……そうだな。もしカメラを手に入れられたら譲ろうか? お前が造ったゴーレム一体と交換で」
「割に合わないと思うぞ。まだまだ未熟だしな」
「まあ、手に入ったらだ。ダンジョン潜ってもそう簡単に出るもんだもない」
「なら、期待しないで待ってるよ」
良い友人関係だったのだろう。
ここ数年間、全く連絡も取れていなかったはずだが、彰弘とキヨシの距離感はそれを感じさせない程度には親しく思えた。
そして暫くお互いの近況を伝え合う。そしてそんな中でふいにキヨシが彰弘と一緒に来た面々を見回した。
「にしてもあれだな。俺も随分変わったと自分で思うが、そっちはそれ以上だな。人間離れした動きするわ、イメージとは違うけど竜を従魔にしてるわ、ハーレムパーティーだわで。ちょっと犯罪的な年齢差のような気もするが」
「犯罪いうな。全員成人してる。それにそういう関係じゃないぞ」
「残念ながら、今はそのとおりです。ですがそれは、今は、です」
「紫苑……六花たちもその顔はやめてくれ」
そこにあるのは淑女然とした微笑ながら見るものによってはどこか恐怖を覚える表情の五人の姿だ。
彰弘は若干疲れたような顔でキヨシに向き直る。
「とりあえず、その話は無しで頼む」
「いけずですね彰弘さん」
「そろそろ覚悟を決めてもらってくれてもいいんだよー?」
「いや、なんか、すまん。そうだ、あれだゴーレム動かしてみるか? 造る側が動かせないと話にならないから、操作練習用とかそういうのがあるんだ」
友人だから、いや友人でなくとも、察することができるほどの雰囲気だった。
だからこそ、キヨシの露骨な話題逸らしである。
「お、それはちょっとやってみたい。やってみたいが……邪魔が来たな」
彰弘は当然のようにキヨシの提案に乗ろうとして、友好的ではない気配を複数感じ取り立ち上がった。
彰弘のパーティーメンバーも立ち上がる。
ウェスター以外は未だ気配を感じたわけではなかったが、彰弘がそう感じたということは間違いのないことだと、これまでの経験で知っていたためだ。
「さて、どうするか。水谷、戦えるか? マイカさんは?」
「オーク一体程度なら勝てる」
「同じくらいです」
彰弘は思案する。
オークを倒せるなら弱いとは言えないが、もし今近づいて来ているのが、フウリュウやガンリュウのような実力を持っていた場合、守りきることができるかは分からない。
先ほどの戦いでは一方的に攻撃し撤退させることができていた彰弘たちだったが、ふいを突いたからこその結果であった。
「マイクラさんの工房はあそこだよな。……ガルドの陰にいてもらうのが一番安全か」
「呼んで来た方がいいか?」
「ああ。絶対に戦いになるってわけじゃないが、何も知らないまま攻撃受けたら建物の中にいても危険だ」
「マイカ」
「うん。呼んで来る」
キヨシの言葉にマイカが応えて、マイクラが入っていった工房へと駆けて行く。
そして少ししてマイカがマイクラとともに姿を現した。
「何か変な奴らが来てるって?」
「まだ気配だけですが。友好的ではなさそうです」
「で、俺らはどうしてりゃあいい?」
「恐らく目的はマイクラさんたちでしょう。私たちを目的にここに来る人がいるとは思えませんから」
「だろうなー。とりあえずは、俺が話せばいいか」
「ええ」
いくら友好的ではない気配だったとしても、いきなり戦いとなることはないだろうと考えられる。
フウリュウとガンリュウとのときは、以前に戦い敵対していたという事実があった。しかし、今彰弘が感じ取っている気配の存在については、味方とは言えなくても敵であると断言できる要素はないのだ。
「で、もし、その気配の奴らが襲ってくるようだったらどうする?」
「相手の実力が未知数ですからね。ガルドに大きくなってもらってマイクラさんたちには、その陰に隠れていてもらおうかと。キヨシもマイカさんもオークを倒せるということだし、ゴーレムもあるのでしょうが相手がさっき俺たちが戦ったような力を持っていたら……」
「太刀打ちできないってことか?」
マイクラの問いに彰弘は頷く。
そして口を開いた。
「例えばフウリュウ……六花たちが戦っていた相手ですが、あいつの場合、魔鋼で造られたゴーレムがいたとしても、魔法で術者を狙い撃ちできます。そうじゃなくても、ゴーレムごと魔法でやられる可能性があります。もう一方の方もそう違いはないと思います。私はあいつを攻撃するとき全力でした。油断してたくせにこっちの攻撃に合わせて防いだ」
「腕を斬り飛ばしたにしては余裕がなさそうだな。戦うのは専門じゃないからよく分からんだけか?」
「アキヒロの全力は、オークキングを殺すことができるレベルです。でもあの男は一時的にですが剣で防いだ。それだけで普通の強さではありません」
彰弘とマイクラの会話に横から口を挟んできたウェスターが言った内容にマイクラたちが目を見開く。
そしてその表情のまま彰弘の顔を見た。
「まあ、魔物と人では戦い方なんかが違いますから、一概にオークキングレベルとは言えないと思いますが……ともかく、最大限の警戒はすべきかと」
「ともかく分かった。戦いになるようなら素直に隠れてよう。念のために聞くが、そっちの嬢ちゃんたちは?」
「防御に徹すればそう簡単にやられないだけの実力はあります。ともかく、もし戦いになったらガルドの陰にかくれてください」
マイクラたちが頷く。
見た目だけでみたら彰弘とウェスター以外は、そこまで強そうに見えないが、先の戦闘で六花たちが常人とは隔絶した実力を持っている姿をマイクラたちは見ていた。
「さて、ガルド頼むな」
「(心得た)」
彰弘の言葉にガルドが念話で声を返す。
それから少し。二十を超える人数が彰弘たちの前へと現れたのであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
やっと書けたー。
もっと書く時間欲しいところ。
んでは、またです。




