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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
6.リュウを名乗る者たち
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6-04.【組織の事情】

 前話あらすじ

 立ち寄った街での情報により、多少の寄り道は可能であることが分かった。

 そのため、彰弘たちは街道を外れ興味を引いたゴーレム研究者のところへ向かう。

 そこで遭遇したのは、以前ファムクリツで戦うことになったフウリュウという男と彼の仲間であった。





 基本的に人々が暮らす街を囲う防壁の外での出来事というのは、その場にいた者たちの自己責任である。少なくともこのライズサンク皇国や、その周辺国ではそうであった。

 無論、例外はある。例えば国や領が管理する鉱山で盗みを働くと、それは当事者同士だけの問題に留まらず司法の出番となる可能性があるのだ。

 ただ彰弘たちが訪ね戦闘を行った、その場所は例外に該当する場所ではない。

 だからこそ、そこに住む年嵩であるマイクラという男はため息の後で彰弘たちの謝罪を受け入れ、来訪の理由についても理解を示した。

「事情は分かった。こんなところに住んでるから仕方ねえっちゃ仕方ねえ。それはそれとして、あれだけは処分してくれ。あのままってのはぞっとしねえからな。あ、剣の方はもらうぞ」

 マイクラの視線の先には一本の腕と分厚い剣身だけの剣がある。

 その二つは彰弘が先ほどの戦闘で斬り離したものであった。

「ええ。腕はこちらで……処分します」

「随分と便利なもん持ってんな。持ち帰んのか?」

「あいつらに繋がる何かが分かるかもしれませんから調べてもらいます」

 マイクラに言われ、神官が使う神の奇跡である浄火で跡形もなく消し去ろうとした彰弘だったが、応える途中で方針を変え持ち帰ることにした。

 片腕だけではあるが篭手を装着しており、謎の集団の手がかりとなるかもしれないと、メアルリア教に預け調べてもらおうと思ったのである。

「加護持ちは伊達じゃねえな。まあ好きにしろ。おいキヨシ。何挙動不審になってんだ。おめえは剣を倉庫に入れておけ。マイカ。茶だ」

「え? あ、分かりました」

「おじいちゃん。中身は用意できてもコップがないよ?」

「こいつらもコップくらいはもってんだろ。なあ?」

「コップはありますが、お構いなく」

「そういうな。あのままあいつらが引き下がるとは思えねえからな」

 何故か彰弘の方をちらちらと見ながら剣身の回収に向かうキヨシと、そんな彼に不思議そうな顔をしつつも茶の準備のために家の中に入っていくマイカ。

 キヨシは四十代前後、マイカは三十代前後の見た目である。

「コップもだが椅子も人数分はないんでな。ついでにこの人数じゃ家ん中に入ることもできんから、地べたにでも座ってくれ」

 マイクラはそう言うと、玄関前から少し移動し地面に腰を下ろした。

 そこは自分たち三人と彰弘たち全員が車座になれる程度の広さがある。

 マイクラと彰弘たちが全員座り、それから少しして大きなヤカンをそれぞれ一つずつ持ったキヨシとマイカが現れた。

「ハーブティーですがどうぞ」

 大きさからして十リットルは入りそうなヤカンから彰弘たちが取り出していたコップにハーブティーを注いでいくキヨシとマイカ。

 そして全員のコップに注ぎ終わると、二人はマイクラの近くに座った。

「さて。おまえらが知りたいことで俺が知っていることは話すから、そっちはあいつらのことを教えてくれ。さっきも言ったが、このまま済みそうもねえからな」

 そう言ってマイクラはハーブティーを一口飲み、彰弘へと目を向けるのであった。









 マイクラが住む家から二キロメートルほど離れた森林の中。疲れた顔の二人が座っていた。

 フウリュウとガンリュウである。

「やれやれ。腕は大丈夫かねえ?」

「ポーションで傷は治したが……」

「……義手でも調達しようかねえ」

「義手じゃ間に合わねえだろうよ」

 フウリュウは身体の欠損がなかったのでポーションで傷を治した今、精神的な疲れ以外は特に問題はない。しかし、ガンリュウは彰弘の攻撃により左側の上腕部半ばから先を失っていた。

 この世界では手足などの欠損を治す手段はなく、義肢を使うことで無くした部位を補うことが普通だ。だが、どれだけ魔力の扱いに優れていようと、どれだけ高性能な義肢であろうと、元々の部位と同様に扱えるようになるにはそれ相応の時間がかかる。

 なお、手足を失ったとしても、その特性により再度生やすことが可能な種族はいるが、ガンリュウは普人種であり、そのような特性を持ってはいない。

「……魔物の腕を使うか」

「お勧めはできないねえ」

「今日明日ってことはねぇだろうが、シンリュウのやつがいつ我慢できなくなるか分かんねぇだろ?」

「ま、確かに。全国各地で施設が潰されたせいで、余計にイライラしてきてるしねえ」

「いざ戦いになったときに義手が上手く使えません片腕がありませんじゃ話になんねえからな。確か魔物の部位を合成するのは問題ねーよな?」

「一応。四肢くらいなら問題はないって報告にはあったねえ。まあ、それも本体次第らしいけど」

 フウリュウとガンリュウが所属している組織では魔物を人種(ひとしゅ)に、また魔物と魔物を合成する実験を行っていた。

 少し前に彰弘たちが足を踏み入れたクラツの東側の施設もその一つだ。

 キメラ実験の成果は辛うじて成功といったところである。当初の目的は完全に支配できる強力な戦力となるキメラを造るというものであったが、フウリュウとヒョウリュウがファムクリツ近郊で彰弘たちと遭遇したときからメアルリア教が動き出し、キメラの実験施設は軒並み潰されたのだ。結果、キメラに関しては、人種(ひとしゅ)に魔物の腕や脚を合成するくらいなら何とか実用段階、というところで止まっていた。

 なお、その他の実験を行っていた施設もほとんどが潰されている。どの施設も組織の戦力増強を目論んだものであったが、その全てにおいて中途半端な結果しか残せていない。

「なら、やはり魔物の腕を使う」

「できれば、考え直して欲しいところだねえ。ヒョウリュウやコウリュウと違って、キミはまともだし」

 ガンリュウの中でフウリュウという男に対して、僅かながらの疑問が持ち上がる。

 フウリュウは組織全体の舵取り役のようなものだ。組織の最上位であるシンリュウという男の意を受けて、それを滞りなく下へ伝えるのも彼の役目であったはずである。

 だからこそガンリュウはフウリュウの今の言葉に疑問を覚えた。シンリュウの意を受け組織を運営するに等しい彼であれば、問題ないとされている魔物の腕を合成することに異を唱えるとは思えないからだ。

「……一つ、確認してえんだが」

「何かねえ?」

「あんたはシンリュウがやることに……やろうとしていることには反対か?」

「ボクはね、今の安定した世界に事を起こすのは得策じゃあないと思ってるけど、シンリュウが自分の仲間を殺した事柄に関係しているメアルリア教を怨む気持ちも分からないでもない。だから、消極的な賛成という感じになるのかねえ」

「聞いといてあれなんだが、そんなことを口にしていいのか?」

「聞いてきたのがキミだからねえ。もしこれがヒョウリュウやコウリュウあたりに聞かれたんだったらそれぞれが望む言葉を返すよ。表面上はどうあれ、彼らの内側は方向性は違ってもシンリュウと一緒で既に変えることができないところまできている。少なくとも、今のボクにはできないねえ」

 フウリュウの言葉に何かしら心当たりがあるのかガンリュウは少しの間を黙考する。

 自分は偶然一人で縁にいたために邪神の影響も神域の効果も受けるのは限定的で命拾いしていたが、シンリュウとヒョウリュウたちはそうではなく、邪神と神域の影響をまともに喰らい二人を残し全員亡くなったと聞いていた。

 シンリュウは身体が強かった。ヒョウリュウは卓越した魔力量と魔法の実力があったからこそ生き残ることができたのだ。

 邪神が顕現した地に、そしてそこに神域が展開されたことは不運でしかない。

 しかし自分たちだけが生き残り、共に戦ってきた何の罪もない仲間が理不尽に殺された。

 怒りの矛先がメアルリア教へと向くのも仕方ないのかもしれない。

 なお、コウリュウに関しては、先の二人とは異なる。彼は単純に人種(ひとしゅ)としての倫理観が欠落しており、ただキメラの創造に傾倒しているだけなのである。

「普通に見えることが異常……か」

「そういうことだねえ。人種(ひとしゅ)を実験に使っていても、欠片も心を乱すことなく平静だからねえ。傍から見たら普通でも、その内側は異常でしかないよ。もっとも、そんな上からの命令を下に伝えているボクもどこか壊れているのかもしれないけどねえ」

「そう思えるだけ、あんたは普通なんだろうさ。……腕については少し考えるか」

「そうしときなよ。キミなら性能の良い義手さえあれば、そう遠くない内に自分のものにできるだろうからねえ。さて、行こうかねえ」

 フウリュウはそう言いながら立ち上がる。

 怪我も治り、ひと息つけたために精神的な疲労も大分楽になっていた。

「そうだなと言いたいところだが、面倒なのが来たぞ」

 フウリュウに続いて立ち上がったガンリュウが、とある方向に目を向ける。

 そこには二十名ほどの部下を伴った、彼らの仲間であるキリュウという男がいたのであった。









 立ち上がったまま動かないフウリュウとガンリュウのところへ、キリュウとその部下が近づく。

 そして目の前まで来ると口を開いた。

「お二人ともどこへ行こうというのですか? 目的の場所は向こうでしょう」

 キリュウが目をやったのは、フウリュウとガンリュウの後ろ側。つまり、マイクラの家がある方向である。

「悪いけどボクたちは退散するよ。少なくとも今行くのは得策じゃないからねえ」

「返り討ちにされかねねぇからな」

 片眉を上げたキリュウだったが、二人の姿を見て「くっくっくっ」という嗤いを零した。

 フウリュウが来ている服はボロボロであり、ガンリュウは服と鎧こそ無傷であるが左腕がない。

「たかがゴーレム使いにその様ですか。日頃から私のことを何やら言っているようですが……クククククッ」

「キミにどう思われようとボクは構わないけどねえ」

「同感だ。皇都周辺の情報を探っていたお前が何故こんなとこにいるのか疑問はあるが、俺らは引く」

「ほうっ。貴重な戦力になりうるゴーレムを鹵獲もせずに立ち去ると」

「やっかいな連中がまだいるだろうし、少なくとも今はねえ」

「これまで散々人のことを無能呼ばわりしていたあなた方が……ふっ、良いでしょう。あなた方が成しえなかったことを私が成して、それから帰りましょうか」

 フウリュウとガンリュウにキリュウとその部下の蔑む目が向けられる。

 キリュウ自身もその部下も決して無能ではないし、フウリュウとガンリュウもそうだとは思っていないし口に出したこともない。ただ直接戦闘は苦手なのだから控えろと言ってきただけなのだ。

「お前らは戦闘には向かない。何度も言ってるだろうが」

「そうやっていつも見下すっ! ……朗報を待っていなさい。我々が主の命令を果たしてきましょう。行きますよ!」

 キリュウたちは、それ以上何を言うでもなく、フウリュウとガンリュウが逃げてきた方向へと歩き出す。

「彼らの真価は情報戦とかなんだけどねえ」

「戻って来ると思うか?」

「対応次第だねえ」

 全く戦闘ができないわけではない。並の相手であればキリュウたちも充分に戦力と考えられるだけの実力があった。

 しかし、これから彼らが向かう先にいるのは、フウリュウが防戦一方で辛くも持ちこたえ、油断していたとはいえ片腕を失うことになった相手がいる場所だ。

 もし戦闘になれば万が一にも勝ち目はないだろう。

「戦闘になったら終わりだろうねえ」

「あんたの仲間だろうってだけで、片腕持ってかれたしな」

「仕方ない、顛末だけは知っておかないと後が大変だ。もう少しここで休憩していこうかねえ」

 フウリュウは再度その場に腰を下ろす。

 そして一つの魔法を発動する。

「『ホークアイ』」

 ある程度までの離れた場所まで偵察を可能にする『目』を作り出す魔法であった。

 魔力を視ることができる者でも辛うじて視認できる程度の薄さの導線が上空へと伸びていき、ある程度まで上がるとキリュウが去った方へと進んで行く。

「とりあえずこれで良し。後は待つだけだねえ」

「やれやれだ」

 ガンリュウも腰を下ろして待機の態勢になった。

 キリュウは一応組織の仲間ではあるが、フウリュウとガンリュウにとって必死になってまで止めなければならないような存在ではなかった。

 それから暫く。フウリュウの発動した魔法がキリュウたちと彰弘たちの戦闘を捉えるのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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