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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
6.リュウを名乗る者たち
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6-03.【再戦】

 前話あらすじ

 旅の滑り出しは順調。





 彰弘たちの旅は順調そのものだ。

 獣車を牽く巨大な亀のように見えるガルドのことは、彰弘が『アンヌの加護を授かりし者』という称号を持っていると知ると誰もが妙な納得をした。神の名付きの加護持ちというのは、それだけの効果があるのだ。

 道中で遭遇する魔物についても、遭遇するのがオーク数体程度までであったために問題とはならなかった。一般的なランクEの冒険者パーティーであればオーク数体に襲われたらパーティー半壊や場合によっては全滅の可能性もあるのだが、彰弘たちの場合は人数もさることながら、誰もがランクEとは一線を画した実力を持っている。全ての遭遇を怪我一つなく切り抜けていた。

 さて、そんな彰弘たちは今、とりあえずの目的地である皇都サガへ続く街道ではなく、そこから外れた山道を徒歩で進んでいる。

 道幅が狭く獣車が使えないために車体は彰弘のマジックバングルに収納されており、その車体を引いていたガルドは小さくなり定位置といえる彰弘の肩の上だ。

 彰弘たちはここまで余計な寄り道をせずに進んできていた。理由はパーティーメンバーのウェスターに皇都サガで明確な目的があるからだ。それが何故このような場所を歩いているかというと、必要以上に急ぐ必要ない情報と興味深い情報を仕入れたからであった。

「ん〜、ピクニック気分?」

「ハイキングの方が近いかもねー」

「その二つよりは探検の方が近い……いえ、探険? 冒険? でしょうか」

「? ああ、検査の検と危険の険かな」

「どうにも適切な言葉が見当たらないものですね」

 先頭を往く六花と瑞穂の言葉に、紫苑や香澄、それからクリスティーヌが続き、更に残るルクレーシャたちもそこに加わる。

 一見、お気楽そうに見える彼女たちだが、必要な警戒はしているので最後尾を歩く彰弘とウェスターは彼女たちの言葉を止めるようなことはしない。

「道中に危険がある訪問ですが、確かにひと言で表す適切な言葉が見当たりませんね」

「だな。それはそれとして本当に良かったのか?」

「まあ思うところはありますが、一日二日遅れたからといって状況が悪くなることはないようですから」

「想像以上、想定外。噂の出所がメアルリア教だからなのか皇都の住民がそれ系が好きだからなのか」

「メアルリア教がというのもあるでしょうが、皇都関係なく、皆これ系統の話題が好きなのでしょう。私も他人事なら興味が出るでしょうし」

「まああれだな。とりあえず、俺らが皇都についてから改めて何かをする必要はなくなったってわけだ」

「こうなってしまったのは仕方ないとしまして……ヴェルン伯爵やミーナ様方に迷惑がかかっていなければ良いのですが」

 ウェスターの皇都サガでの目的というのは、自分に好意を持ってくれているヴェルン子爵家の令嬢であるミーナを無理矢理自分のものとしようとしているバルス侯爵家の令息バルから護るというものである。

 そしてその方法というのは皇都サガでこの夏に開催される闘技大会でウェスターがバルを打ち倒しミーナのことを諦めさせるという成功するかどうかが怪しいものであった。

 ウェスターの話を聞いた彰弘はバルのことを不快に感じたこともあり、少しでも成功率を高めるためにメアルリア教を巻き込もうとしたのだが、メアルリア教の一部の信徒たちにとってウェスターの考えはとても好ましいものであったようだ。

 彰弘が何かをする前にグラスウェルの信徒からサガの信徒にこのことが伝わり、ほぼ完璧な情報を皇都で収集した上でミーナを助けるためにウェスターがバルと戦うということを噂として皇都に流したのである。

 効果は劇的であった。今の彰弘やウェスターは知らないことだが、本来闘技大会の本戦に出場するためには予選を通過する必要があるのだが、ウェスターは予選免除の上にある意味で最も目立つであろう第一回戦の第一試合でバルと戦うことが確定していた。

 ちなみにバルは皇都で一つの部隊の隊長をしており実力も充分であることから元から出場するなら予選免除である。

「迷惑云々はまず大丈夫だろ。メアルリアの連中はなかなかに自由だが、意味もなく誰かに迷惑をかけることを嫌うからな」

「……確かに」

 自らが望む平穏と安らぎを求めるために尽力するのがメアルリア教徒である。だが、どれだけ望むもののために行動するとしても、意味もなく理不尽に他者を不幸に陥れるようなことはしない。

 無論、彼らのあずかり知らぬところで迷惑を被る者はいるであろうが、そこを考慮する必要はないだろう。生きている誰しもが望む望まないにかかわらず、他人に迷惑をかけてしまうものなのだから。

「さて、運が良いというべきか悪いというべきか」

「……見覚えがある顔もありますね」

 彰弘たちが皇都サガまで獣車で三日の距離にある街で仕入れた情報は全部で三つ。

 一つは山道を歩きながら彰弘とウェスターが話していた、ウェスターの皇都での目的に関するもの。残り二つの内一つは彰弘たちが二度遭遇した謎の組織に関するもの。最後の一つは防壁に囲まれた街の中ではなく、外でゴーレムの研究をする者たちに関するものである。

 そしてその三つ目を目指して彰弘たちはこの場まで足を延ばしたわけだが、そこには目的のゴーレム研究者のみならず、街で仕入れた二つ目の情報の関係者である人物たちがいたのであった。









 いきなりというほどではないが、それに近いだろう。

 山道を進み開けた場所に出て、そこにいる人物を見るや否や彰弘たち全員が戦闘体勢に入った。

「荒れ狂う風よ我が身となれ! 『狂風麗装(きょうふうれいそう)』!」

「凍てつく刃よ我が身となれ! 『氷姫麗装(ひょうきれいそう)』!」

「暗黒の禍よ我が身となれ! 『黒禍麗装(こっかれいそう)』!」

「煌く刃よ我が身となれ! 『白滅麗装(びゃくめつれいそう)』!」

 瑞穂を初めとして香澄、六花、紫苑が武器を抜きつつ決戦用と位置づけた魔法を使い、その身を魔力の鎧で覆う。

 ファムクリツで使用したときは片腕のみであったが、今は両腕に胸部、それから両脚の膝から下に加え頭部も明確に防具を纏った状態である。

「ウェスター、こっちは頼むぞ」

「ええ、任されました」

 彰弘は二振りの魔剣を抜き魔力を流し込む。

 ウェスターも背中の大剣を抜いていた。

 当然、残るクリスティーヌたちも戦闘体勢だ。

「『切り裂け』!」

 麗装状態の瑞穂が剣を振るい魔法を発動すると同時に飛び出し、そのすぐ後を香澄に六花と紫苑が追う。

 目標はゴーレム研究者であろう者たちと話をしていた二人の内、気怠そうな雰囲気の男の方である。

「いきなり過ぎやしないかねえ!?」

 初撃の魔法を自分の魔法で相殺し、続く四人からの斬撃を辛うじて躱しきった男は言葉とともに冷や汗を流す。

 明らかに進化している魔法を見て。また前回対峙したときのことを思い出し、警戒度を一気に引き上げたことが命を繋いだ。

 男の名前はフウリュウ。以前、ファムクリツで彰弘たちと戦ったことのある魔法使いであった。

「手伝ってやろうか?」

 フウリュウの横にいた男が楽しそうに声を出すも、それに応える声はない。

 助けの必要がないというわけでなく、無言で迫る四つの刃に声を出す余裕さえもないのである。

 それでもフウリュウは現状を打開するため、僅かな隙に腰に着けた小袋の口を開け中身を地面に零した。竜骨兵を呼び出すつもりであった。

「おいおい、そこまでする奴らか?」

「『エアプレッシャー』!」

 近くから届く仲間の声に返されたのは強風により衝撃を与える魔法名である。

 これによりフウリュウを攻撃していた瑞穂たち四人は数メートル飛ばされ、援護に向かっていた彰弘が足を止めさせられた。

 そしてばら撒かれた竜骨兵の素となる骨片が散らばる。

「ガンリュウ。ボクたちが言ってたのは両手に魔剣を持ってる彼だよ。油断してるとキミでも負ける。多分ね」

「確かに強そうだが、そこまでには見えねぇな」

 ガンリュウと呼ばれた男はそう言いつつウェスターが持つ大剣よりもひと回り以上大きい剣を構える。

 仲間であるフウリュウの口調がいつもと違うことに気づき、警戒の度合いを高めたのだ。

 そんな二人と対峙する形となった彰弘は瑞穂たちに声をかける。

「気持ちは分からんでもないが落ち着け。そんなんじゃ倒せる相手も倒せないぞ」

 単純な魔法の勝負であったらフウリュウ相手に単独で勝つのは難しいかもしれないが、接近戦であるならば瑞穂たち四人の内誰でも勝つことはできるだろうと彰弘は考えていた。

 だが、現実には四人がかりで倒すことができていない。先ほどの戦いの瑞穂たちは動きが雑であったのだ。

「がぁー! あたしのバカー!」

「あーうー」

「ふぅー。もう大丈夫」

「まだまだですね私たちは」

 戦闘が一時中断し、そこにかけられた彰弘の言葉により瑞穂たちが我を取り戻す。

 冷静になり先ほどの自分たちの行いを思い返せば、どれだけ自分たちが危険なことをしていたかを四人は理解し反省する。

「大丈夫のようだな。あの馬鹿でかい剣を持つ奴は俺が何とかする。竜骨兵も気にするな。ウェスターたちがいる。四人はあいつに集中しろ」

「「「「はい!」」」」

 瑞穂たちの意識の切り替えが終わるころ、フウリュウたちの戦闘準備も終わる。

 フウリュウの魔法で飛び散った骨片から二十を超える竜骨兵が生み出されてきたのだ。

「さて第二ラウンド開始といこうか!」

「乗り気になっているところ悪いけどねえ。逃げるよ」

「はあ!? 何言ってやがる!」

「同意だ」

 フウリュウの言葉に反応するガンリュウの横から自分たち以外の声が聞こえた。

 彰弘である。

 巨体となったガルドに自分を投げさせ極力音を立てないように二人の側へと彰弘は飛び込んだのである。そしてその彼の左右の手に握られた魔剣は赤黒い不気味な光りと白く冷たい光りを宿していた。

「ガンリュウ避けろ!」

 高速で迫る四人を見て魔法の障壁を自分の身体に展開したフウリュウは、後方へと跳びながら叫ぶ。

 彰弘が持つ魔剣の性能を完全とはいかないまでも、ある程度調べて知っており、且つそこに込められた魔力の量によりガンリュウの持つ装備では防げないと見たからである。

「遅い!」

 フウリュウの言葉の意味をガンリュウが理解する前に白く冷たい光りがガンリュウを襲う。

 避ける余裕がなくなったガンリュウは大剣を盾にするが、その行為が無駄であることを知る。

 ガンリュウの大剣は彰弘の魂喰い(ソウルイーター)を一時的には受け止めたが、追加で魔剣に注がれた魔力により断ち切られたのだ。

 根元付近で断ち切られた己の大剣に、信じられないと一瞬だけ全ての行動をガンリュウは停止した。

 相手が停止したからといって彰弘が攻撃を止める理由はない。

 今度は赤黒い不気味な光を灯す血喰い(ブラッディイート)がガンリュウに襲い掛かる。

「ガンリュウ!」

 全身全霊の力でガンリュウが動く。

 攻撃のためでなく、迫る斬撃を避けるためである。そしてそれはガンリュウの命を救った。

 だが無傷とはいえない。

 魔力により伸びた刃がガンリュウの左腕を断ったのである。

「くそがぁー!」

 叫びながらも咄嗟に取り出した縄で腕を縛り腋の下を圧迫しガンリュウは止血した。

 回復効果のあるポーションを使うにしても、今はそれをする行為自体が自殺行為になりかねない。

 彰弘たちが追撃をしないと確定しているならまだしも、ガンリュウたちの目の前では既に追撃のために膝を曲げ突撃の力を溜めている彰弘たちの姿があった。

「逃げるよ!」

「ちっ、仕方ねぇ」

 傷だらけとなったフウリュウと既に全滅している竜骨兵。そしてガンリュウも片腕を失っている。

 彼らにとってここは最終局面ではない。ここは逃げ一択であった。

「『アースウォール』!」

 フウリュウとガンリュウにとっては間一髪。

 彰弘たちにとっては後一歩。

 そのタイミングで両者を分ける土壁が出現した。

 彰弘たちは現れた壁に足裏叩き付け勢いを殺し地面に着地し、即座にその壁を破壊する。

 しかし、そのとき既に敵であるフウリュウとガンリュウの姿はなかった。









「あー、また逃げられたー!」

 麗装の魔法を解いた瑞穂が天に向かって叫ぶ。

 冷静になり着実に攻撃を当てていった瑞穂たちだったが、逃げることを前提に戦っていたフウリュウの防御は並大抵のものではなかったのだ。

「まだまだ瞬発力が足りないね」

「むー難しい」

「最初からボルテックスなら……いえ、魔法戦ではまだ通用しないかもしれませんか」

 瑞穂たちが反省する横で彰弘も自分の実力不足を感じていた。

 魔剣に込めた魔力量はオークキングを殺したときと同等程度である。だが、その状態では剣速が鈍ってしまうのだ。オークキングのときよりも速くはなっている自覚はあるが、通常時よりもまだまだ遅いのも確かであった。

「とりあえず怪我しなくて良かったと考えるか」

 瑞穂たち四人の姿や小さくなり肩に乗ってきたガルド。それから近づいてきたウェスターたちを見て彰弘はそう呟いた。

 そして次なる問題を考える。

 さて、この場の住人である三人に対して、どう説明したものかと。

お読みいただき、ありがとうございます。

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