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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
6.リュウを名乗る者たち
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6-02.【彼らにとっての普通】

 前話あらすじ

 想定外の領主からの見送りはあったが、ほぼほぼ予定通りに彰弘たちは旅立つであった。





 ゴッ! という鈍い音を立て視線を集めたのは六花と美弥である。

 笑みの顔で拳を合わせている二人に向ける他人の様子は様々だ。

 ある者は気のせいかとすぐに視線を外す。またある者は、嘘だろ!? という表情で目を丸くしていた。そして多少なりとも二人を知っている者は妙に納得顔である。

「六花ちゃん応援してる」

「うん、勝利を掴んでくる!」

「じゃあ、気をつけて行ってきてね」

「ありがと美弥ちゃん」

 拳を合わせたままで分かる者には分かる会話を交わす六花と美弥。

 それから程なく、二人は離れた。

「さて、恒例の挨拶も終わったようだし行くぞ」

 目の前で交わされた会話内容にどことなく身の危機を感じた彰弘だが、とりあえずそれは無視することにして出発の声を出す。

 グラスウェルを発ってから四日目の朝。ファムクリツの西の玄関口、ファムクリツ・ウェスの門前に彰弘たちはいた。

 これから彰弘たちは本格的に『旅』をするのである。









 ファムクリツを出発して暫く。彰弘たちの旅は今のところ順調であった。

 街道を進んでいるからというのもあるが、獣車の車体を引くガルドの存在が大きい。

 殊更に威圧感を出しているわけではないが、世界融合前の地球にあった普通自動車と同等の大きさにまでなったガルドの存在は街道付近で見かけることのある魔物にとっては脅威と映るようだ。彰弘たちの視認距離まで近づいたとしても、即踵を返してしまうのである。

 中にはガルドに構わず襲い掛かってくる魔物もいたが、それらは近づく前にガルドの甲羅の上や車体の屋根の上で旅を楽しむ六花たちの魔法で倒されていた。

 このような理由で順調といえる旅の彰弘たちであったが、全く問題がなかったわけではない。

 通常、獣車の車体を引くのは元地球に存在した馬と似た姿をしたオルホースという名の動物だったり、飼いならされたディサウロスという魔物がほとんどである。そのため、巨大な亀のようなガルドは一見敵対的な魔物と捉えられすれ違う他の者たちに武器を向けられることもあった。

 彰弘たちはその都度ガルドが彰弘の従魔であることを証明し難を逃れている。

 ちなみに野盗の類は、まだファムクリツを発ってから一日目以内の距離であるためか遭遇していない。

 ともかく、このような感じでファムクリツを出発してから一日目はこれといった問題もなく進んでいた。









 空が茜色に染まり始めると、彰弘たちは街道から少しだけ外れ見通しの良い平地に移動し二組に分かれて夜営の準備を始める。

 一組目は彰弘をリーダーとして夜営地を整えていく。とはいっても環境に配慮してか、はたまた目立つことを避けてか、魔法で防壁を造ったり彰弘のマジックバングルに入っているプレハブハウスを取り出すようなことはしない。寝床として予備の獣車の車体を取り出し今日使っていた物と併せて内部を整えたり、調理器具を取り出して夕食の準備を始めたりといった感じである。

 まあ、入浴のために獣車の車体と同等の大きさの箱型の建物ができていたり、排泄のための仮設トイレのような長方形の物体が複数個できたいたりするが、そこは譲れない部分らしい。

 一方、ウェスターをリーダーとしたもう一組は、少し離れたところにある森林へと足を延ばしていた。目的は夜営の間に使う薪となる物を拾うためと夕食の食材探しである。薪にしろ食材にしろ、事前に充分過ぎるほどの量を用意して彰弘のマジックバングルに収納しているのだが、追加で手に入れられるに越したことはない。

 彰弘のマジックバングルは中に入れた物が劣化しないという特徴を持つ魔法の物入れであり、且つその収納容量が途轍もないほど多いので、今夜消費し切れなかった分も無駄にはならないからだ。

 ちなみにガルドは小さくなり、定位置である彰弘の肩の上で鉄球をもごもごしている。

 ともかく、夜営の準備は遅滞なく進み、程なくして完了する。

「やっぱ、利便性には勝てないよな。……それにしても」

 ウェスターたちはまだ戻って来ていないが、それ以外は終わった夜営地を見て彰弘が意図せずそんなことを口にする。

 一般的な冒険者が行う普通の夜営というのは、どのようなものだったかと記憶を探る彰弘だったが、どうにも思い出せない。

 それもそのはずで、彰弘がその普通の夜営というのを経験したのは世界が融合してからこれまでで数えられる程度でしかないのだ。

「そこのところ、どう思う?」

「何についてかが分かりませんが?」

「いや普通の夜営ってどんなものだったかなと」

 彰弘は自分が考えごとそしている間に戻って来ていた森林組を見て、自分が質問するのに適したと思うウェスターに声をかける。

 そしてその声をかけられた彼は一通り自分たちの夜営地を見回した後で口を開いた。

「ふむ。私たちのランクでしたら焚火以外を撤去して、人数分のカップと毛布くらいでしょうかね。全員分のスープを作る鍋もですか。ああ、あとは焚火の周りで串に指した肉や魚を焼いているくらいです。勿論、それには運良く獲物を手に入れられていたらですが。ついでにオークを三体も仕留めて、氷でソリを造って持ってくるなんてこともしません」

 ウェスターが運んだ視線の先では嬉々として、仕留めたオークの解体を行う面々が見えた。

 ウェスターたちが森林で得たものは、焚火を一晩は充分に維持できるだけの枯れ枝とオークが三体丸々に山菜が少々だ。

 枯れ枝と山菜はともかくとして、オーク三体丸々は彰弘たちのランクだけで考えたら人数を考慮に入れても普通とはいえない。

「俺にとって、今の普通がこれという感じか」

「そんなものでしょう。気にしてもしかたないことでは? で、いきなりどうしました? 今更ですよね」

「特に理由はない。今の状況での見張りは暇でな」

 夜営の準備も整い、後は食事をして入浴を済ませたら雑談後に寝るだけだ。

 食事や入浴の準備というものは残っているが、その二つは効率やら何やらの理由で彰弘とウェスター以外が行うことになっていた。特に食事に関しては六花たちが断固として譲らないので、彰弘はおとなしく見張り役を行うことにしているのである。

「これだけ見通しが良ければ雑談しながらでも警戒はできますか」

「そういうこった」

 適材適所というわけだ。

 ちなみに獣車の車体の向こう側については、食事や入浴の準備を行っていない者が車体の上で行っていた。

 そんな感じで時間は進み、そして彰弘たちは夕食をとる。

 オーク肉のフルコースは相当なもので、ヘタな街中の食堂で出されるものよりも余程良いできであった。

 戦うための訓練だけでなく家事関係もそこらの職人より力を入れて修行している六花たちの成果である。

「うん、美味い」

「ご満足いただけたようで何よりです。では、ご褒美に一緒にお風呂へ入ってください」

「紫苑。ないと分かってて言ってるよな? 当然、却下だ却下」

「可能性はあると思っています。今日のところは残念ですが、次こそは」

「むー」

「なかなかガードが固いね!」

「次はもっと頑張らないと」

「わ、私もがんばります」

 食事の流れから外れた話題であったためか、比較的あっさりと引き下がるいつもの四人と、何故か日に日にその四人と態度と行動が近づいていってるクリスティーヌ。

 彰弘の知らないところで何が起きているのか、それを彼が知ることはできそうもない。ただ言えることは五人の態度が過剰ではないためか、両者の関係がこのようなことがあっても悪くなることはなく、逆に少しずつ前にも増して良くなっていっているのである。

 ちなみに、クリスティーヌお付の侍女であるエレオノールは、主の態度と行動についてを如何なる理由があってか黙認しているのであった。









 危険の危の字もなく一晩を明かした彰弘たちは、朝食を終えて片付けをした後で早速出発する。

 夜営跡を表すのは焚火の後が残り入浴施設と仮設トイレがあった場所に四角いむき出しの地面が見えているだけで、見事なまでに片付けられていた。

「さて、夕方頃には着けるかな?」

「多少、魔物や野盗と遭遇してもその頃には着けるでしょうね。まあ、野盗に遭遇して根城を漁ってたら翌朝になるかもしれませんが」

「野盗は潰しておいた方が良いよなあ。まあ、そんときはそんときに決めようか」

 一行の中の男二人は御者台でそんな言葉を交わす。

 グラスウェルから皇都であるサガまでは、街道を使い最短距離で進んだ場合、獣車を使って二十日ほどで着くことができる。勿論、これは何事もなく順調に進めた場合であり、魔物や野盗と遭遇したり道中の街でのんびりしたりすれば、それだけ時間はかかる。

 今回、彰弘たちは行きに関しては、そこまでゆっくりするつもりはなかった。

 行き先の終着点がはっきりしていないこともそうだが、皇都サガではウェスター関係の問題というものもあるからだ。

「『アトモスフィア・フォール』!」

「『アイススピア・ナイン』!」

 彰弘とウェスターが御者台で会話していると、頭上からそんな魔法名が聞こえてくる。声の主はガルドが引く車体の上にいた瑞穂と香澄であった。

「後ろから何か来ると思ったらゴブリンか」

「見た感じリーダーが二に普通のが七ですね」

 獣車を止め、御者台から降りた二人が目にしたのは五十メートルほど後ろで、氷の槍に身体を地面に縫い付けられた九体のゴブリンの姿である。

 瑞穂の魔法で動きを止められ香澄の魔法で息の根を止められた結果であった。

「片付けてくるー!」

「気をつけて行って来い」

 瑞穂が宣言し彰弘の声と同時に車体の屋根から飛び降りる。

 それに続いて香澄とルクレーシャ含む四人も瑞穂の後を追う。

 三メートル弱の高さから飛び降りても危なげなく着地できているのは、それだけ彼女らの身体能力が上がっているからだ。

 伊達にこれまで魔物を多く狩り鍛えてきたわけではなかった。

「とりあえず、魔物とかと遭遇しないことを祈っておくか」

「それしかないでしょうね。追いかけてくる魔物を無視して、後続の方たちが被害に遭おうものなら法的に問題なくても、何を言われるか分かったものではないですし」

 街の外での事柄は自己責任であるが、だからといって何をしても良いというわけではない。最低限のルールというものはある。

 理由は何にせよ、魔物を他者へ押し付けることは忌避されるべきことなのだ。

「ま、最悪獣車の速度を上げればいいか」

 仕留めた魔物がゴブリンとそのリーダーということもあり、瑞穂たちは魔石だけを取り死体を焼却すると一度周囲を確認し駆け足で戻って来る。

 そして彰弘から労いの言葉をかけられ笑みを浮かべた顔を返してから屋根へと昇った。

「んじゃ、動かすぞー! ガルド頼んだ」

「(心得た)」

 全員が元の位置に戻ったのを確認し彰弘は獣車を動かす。

 巨体であるガルドだが、その滑り出しは非常に滑らかで静かだ。ある程度自身の体重を制御できるからこそ可能なのだ。

 ともかく、こうして彰弘の家族探しの旅は始まったのである。

お読みいただき、ありがとうございます。



以前、どこかの話で書いたような気がするグラスウェルから皇都までの距離を忘れた。

距離については、そんなわけで違うかもしれませんが、ご了承ください。

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