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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
6.リュウを名乗る者たち
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6-01.【旅立ち】

 前話あらすじ

 彰弘は結婚報告のためにグラスウェルへ訪れた誠司たちを迎え入れた。

 そして誠司たちの用事が終わると同時に彰弘たちは家族探しの旅へ出るのである。

 




 本日は晴天なり。

 五月も中旬に差し掛かり、暑くもなく寒くもない過ごしやすい日の朝。彰弘の姿は自身の家が建つ庭にあった。彼の周りには二十名近い人数がおり、その前にはそれよりも倍以上の人がいる。

「仕方ない部分はあるにしても……なんつーか、やりづらいな」

 苦笑ともとれる表情で呟く彰弘に、彼と同じ立ち位置にいる何名かは同意するように困ったような曖昧な笑みを浮かべた。

 彰弘側にいるのは今日グラスウェルを発ち、彼とともに旅をする者たちだ。そしてその彼らの前にいるのは旅立ちを見送る者たちである。

「使用人総出だもんねー」

「それだけならまだマシだったんじゃないかな?」

 彰弘と同じような表情でそんな言葉を交わしたのは瑞穂と香澄であった。

 自分たちの主人である彰弘が長期間の旅に出るということで彼の下で働く使用人が全員揃っているのは普通といえる。また瑞穂と香澄の両親と弟がいることも不思議なことではないだろう。更に垣根を設けないで一つの敷地とした土地に建つ、彰弘邸の隣の邸宅であるストラトス邸の主と使用人もいることは、彰弘と共に旅立つ中にストラトスの孫であるクリスティーヌがいるので、これもなくはないことである。

「まあ、分からなくはないですが」

「うんうん」

「なんか、申しわけありません」

 だが、クリストフとその妻のファリンがその護衛とともにこの場にいるのは、流石に普通とは言えないかもしれない。

 クリストフはクリスティーヌの父親でストラトスの息子である。それだけを考えればこの場にいても不思議ではないのかもしれないが、彼は現ガイエル領の領主であり、更に言えば既に今日の早朝に娘の見送りは自身の邸宅で済ませていた。それなのに再度の見送りのためだけに態々この場まで来たのである。

「ごめんなさいね、アキヒロさん。まったく。私も娘のことは心配ではありますけどね。ケインに執務を押し付けてまで来るものではありませんよ。ただでさえ新たなダンジョンのことなどで忙しいのですから、少しは自重してくださいな」

 彰弘に謝罪し、その後でクリストフへ睨みつけるように顔を向けたのはファリンであった。彼女は旦那を連れ戻すために、この場を訪れたのである。

 ファリンは旦那の性格をよく知ってはいたのだが、流石に一度見送った相手を再度見送ろうとすることは読めなかったようであった。

 ちなみにケインとは、ほんの少し前に皇都からこのグラスウェルへ妻と一緒に戻ってきたガイエル伯爵家の長男である。

「そうはいうがな……」

「そのあたりにしておけクリストフ。あまりしつこいとクリスに嫌われるぞ?」

「いえ、そのようなことは」

「クリスは優しいのぉ。まあ、ともかく、気をつけて行ってきなさい。なかなかにとんでもない戦力だが、油断は禁物だからの」

「はい。ありがとうございます、御爺様」

 妻に睨まれ父親に苦言を呈されたクリストフを余所に見送りの場は時間が過ぎていく。

 まだまだ早いといえる時間帯ではあるが、だからといって必要以上に出発を遅らせる意味はない。

「んじゃまあ、行ってくる。冬になる前には帰ってくるよ」

「承知しました。お気をつけて」

 彰弘の言葉に使用人を代表してミヤコが応える。

 一歩間違えれば命を落としかねない防壁の外を旅するのだというのに彰弘の言葉に過度の緊張はない。そしてそれは応えたミヤコも同様だ。

 彰弘がそこそこ強いということは、そして彼とともに行く面々が無力ではないということも、この場にいる誰もが知っている。加えて彰弘の従魔であるガルドがどのような存在であるかも見送られる側も見送る側も知っていた。

 今の彰弘たちであれば仮に大討伐の只中に放り出されたとしても、誰一人欠けることなく逃げ延びることも可能なのである。

 ともかく、領主の見送りなどというものも加わったために予定よりは遅くなったが、それでもほぼ予定通りの時刻に彰弘たちは出発するのであった。









「よう。出発か?」

 北西門を目指し歩く彰弘たちにそんな声がかけられた。

 二十人近い集団が武装しており、尚且つそのほとんどが年若い娘ということで、何も知らなければ声をかけづらい彰弘たちであったが、そこそこ交流がある者であれば別である。

 今、声をかけてきたのも冒険者ギルドの訓練場で彰弘と模擬戦をすることがある冒険者の一人であった。

「ああ。この前行った通りにな。とりあえず冬になる前には帰ってくる予定だ」

「ま、お前らなら心配するだけ無駄な気はするが、気をつけて行って来いよ」

「ありがたく受け取っておく。じゃあな」

「おう。土産待ってるぞ」

 男は彰弘と短く言葉を交わし合い、最後は片手を上げて挨拶とし、そのまま立ち去る。

 昨日までに知り合いと呼べる者に、彰弘たちは今回の旅についてを事前に話していた。それでもこうして会えば声をかけてくれる者がいる。何ともありがたいものであった。

 ともかく、そんな感じで歩き続け、時折声をかけられながら進んだ彰弘たちは一つの建物の前で立ち止まる。

 そこは学習所と呼ばれる場所であり、中からは子供の声が聞こえてきていた。

「昨日、挨拶をしちゃいるが通り道だしな。……よう影虎先生はいるかい?」

「おっちゃん、相変わらず黒いなー。ちょっと待ってて、呼んで来る」

「頼んだ」

 彰弘に声をかけられた子供は、慣れた様子である。

 そう頻繁にではないが彰弘は何度かこの場所を訪れており、ある程度の子供たちと面識があったのだ。

 ちなみに黒いというのは彰弘の装備のことである。

 彰弘に頼まれた子供が学習所の建物に入ってから少し。影虎と穏姫が姿を現した。

「出発ですか?」

「ああ。通り道だから寄ってみた」

「んむんむ。昨日も会ったが大事なことじゃぞ」

「だな。ところで瑠璃さんと澪さんは神社か?」

 穏姫の言葉に微笑み頷きつつ、彰弘はこの場にいない二人の知り合いの名前を出す。

 瑠璃は影虎の妻で、澪は世界融合前の六花たちが通っていた小学校の先生である。

「ええ。二人ともまだ神社です。掃除が終わったら来ますが……もう少し後でしょうかね」

「そうか。まあ、仕方ない。とりあえず結果がどうなろうが、冬になる前には帰ってくる。穏姫。影虎さんと瑠璃さんの言うことをよく聞くんだぞ」

「分かっておる。そっちは気をつけるのじゃぞ」

「おうよ」

 そんな感じで彰弘たちは少しの間、影虎や穏姫と言葉を交わしていく。

 そして一通り知り合い同士の挨拶が終わると、彰弘が締めの言葉を口にした。

「じゃ行ってくる。瑠璃さんと澪さんによろしくな」

「ええ、伝えておきます。お気をつけて。土産話を楽しみにしていますよ」

 結局、話している間に瑠璃と澪は姿を表さなかったが、旅立ちの挨拶は既に昨日済ませている。今日の挨拶はあくまで通り道にあったからだ。だから彰弘は最後に伝言だけして挨拶を終わらせた。

 別に今生の別れというわけではないので、この程度で充分である。

「さて、行くか」

 彰弘の言葉に全員が頷く。

 微笑む影虎と元気に手を振る穏姫に見送られて彼らは、その場を後にするのであった。









 遅くもなく早くもない歩みでグラスウェルの北西門に彰弘たちは辿り着く。

 門の内外はなかなかの混雑ぶりであった。

「混んでるな」

「少し来るのが遅かったですかね?」

「重ね重ね申し訳ありません」

「いや、予定通りの時間に出ても変わらなかっただろうさ。気にするな」

 ガイエル伯爵の登場で彰弘たちの出発時刻は多少遅れてはいたが、その時間を差し引いても回避できたとは思えない混雑ぶりである。

 最大の要因は歩く速度が遅かったことであろう。

「とりあえず並ぶか。多少の時間を気にしなきゃならないもんじゃないし」

 実際、ここでの待ち時間なぞ、これからの数か月からしたら僅かなものである。

 この程度を気にしていたら、この先やっていけないだろう。

「おう、今度は長旅だって?」

 混んでるなと思いつつも素直に街を出るための列へと彰弘たちは並ぶ。それから少しして、そんな声をかけてきた者がいた。北西門を守る兵士たちの長である。

 彰弘たちが何の目的で今日北西門に来たのか、衛兵隊の隊長である彼の耳には入っていたようであった。

「ええ。遠出しても大丈夫だろう準備ができましたので」

 彰弘はチラリと前に並ぶ六花たちを見てから幾分抑えた声の大きさでそう答える。

 六花の要望で一年旅立ちを遅らせた事実はあるが、その一年は自分にも必要だったと彼は考えていた。しかし、そのことを話したとしても六花たちが素直に受け止めてくれるかは分からない。場合によっては、良くない方向に捉えられる恐れがあった。

「なんか、いろいろありそうだな」

「今が一番良いタイミングだと本気で私は思っていますが、それが彼女らに伝わるかは別ですから」

「察するに向こうの何かで当初の予定を延ばしたってところか。……家族探しだったよな?」

「ええ」

「相手が負い目を感じてたら、確かに言葉で言っても伝わらんかもしれんな」

 言葉にしなければ伝わらないことがあるのは事実だが、言葉にしたからといって真意が伝わるとは限らない。特に今回のことは六花たちが自分たちの我儘といえる理由により出発を一年ほど延期しているのだから簡単ではない。

「一応、最終的には解決する予定ではあります」

「うん? よく分からんが、まああれだ。俺から言えることは気をつけて行って来い、ってくらいだな。……戻って来んだよな?」

「ありがとうございます。勿論戻ってきますよ。結果がどうであれ、今の私が帰る場所はここですから」

 将来的に家族と過ごすとしても、それはこの旅の最中や結末ではないと彰弘は考えている。そう考えるだけの理由がここグラスウェルにはあった。

「ここで産まれてここで育った俺としては嬉しい言葉だねえ。ともかく、気をつけて行って来い。そろそろお前の番だ」

 旅へ出るのを遅らせた要因となった六花たちは既に門の向こう側へ抜けており、今はそれとは関係していないウェスターとアカリが外へ出る手続きを行っている。

 ちなみに六花たちと彰弘の位置関係は今回旅をする仲間内では一番前と一番後ろであり、今衛兵隊の隊長とした会話は聞かれていない。

「では」

「おう、気をつけてな。……ああ、そうそう。次に会うときはもっと砕けた口調で話せよ?」

 手続きのために隊長から顔を外した彰弘が言葉に反応して振り返るも、そこには既に先ほどまで話していた彼の姿はない。防壁の外に出るために並ぶ人たちの間に問題はないかと見回るために、その場を離れていたのだ。

「帰ってきたら実践するかね」

「私たちにも、それで構いませんよ」

「まあ、隊長さんにだけってのも変だわな。じゃあ、よろしく頼む」

 これまでと口調を変えた彰弘は身分証を手続きをする兵士へと渡す。

 ある程度顔を会わせており明確な身分差もないとなれば、丁寧な言葉をずっと続けられるのは本人の意図はともかくとして、相手からしたら壁を作られているように感じるものだ。今回の隊長の言葉は手続きをする兵士にしても良い切っ掛けであった。

「はい、どうぞ。では良い旅路を」

「ああ、ありがとう。じゃ、行って来る」

 手続きが終わり身分証を受け取った彰弘は笑みとともに兵士へ言葉を返す。

 それから門の外で待つ仲間と合流するのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。




なんか最近、頭の中のメモリが解放されていない感じ。

週末ぐらい仕事のことを気にしないでいられたら良いなー。

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