5-27.【平等を謳う者たち:終3】
前話あらすじ
ガルドに乗ってファムクリツに着いたシルバとブロンは若干グロッキー。
だが、とりあえず予定通りに人員の派遣はしてもらえることになったのであった。
ファムクリツの中央に位置するセトラという街にあるメアルリア神殿を訪れた彰弘は、平等を謳う集団について、そこの責任者である高位司祭マリベルに話を聞いていた。
彰弘は明日グラスウェルへ帰るので、今現在判明していることを把握しておこうと考えたためだ。
しかし、平等を謳う集団について。またその後ろにいる者たちについての情報に新たに追加されたものはなかったようである。
「捕らえた者たちは尋問されましたが、そこから得られた情報は碌なものがありませんでした」
彰弘たちが先日捕らえたのは、平等を謳う集団を率いていたい者とその者に近い位置にいる者たちであったが、彼らは金銭により動いているだけであったようだ。
「あの者たちは、あのとき取り逃がした二人が行う実験をサポートするために、多額の報酬で雇われただけのようです。しかも実験自体に直接関わってはいないと。一応、実験に必要となる人たちを集めることには加担していたとのことですが、それ以上のことはしていなかったようです」
「あいつらが嘘を吐いている可能性は?」
「魔力による虚偽判定を使っての尋問を行ったとのことですから、嘘の確率は低いと思われます。またこの方法を使っての尋問だと知っている情報を話さなかったとしても検知しますので、本当に彼らは話した以上のことを知らない確率は高いのではないかと。もっとも、適切な問いでなければ前者の嘘についてはともかく、後者に関しては検知されませんので、そこは尋問を繰り返していく必要はあると思いますが」
結局、現時点で分かっていることは、平等を謳う集団は先日取り逃した二人の隠れ蓑として組織されたものであったということである。
「ちなみになんだが、全員が全員、報酬で雇われていたわけじゃないんだよな?」
「はい。私たちが捕らえた者たちで一グループ。実験に使われるために洗脳され確保されていた者たちで一グループ。そして純粋に平等をと考えているもので一グループ。これがあの集団の構成のようです」
彰弘たちが捕らえた者たちの同類は、あの後悉く兵士たちにより捕らえられていた。彼らは今現在も尋問されている最中である。
実験のために確保されていた者たちも、今はその全員が一所に集められていた。洗脳状態であるために、各種専門家によりその状態を解除する治療が行われている。
残るは純粋に平等をと考えているものたちであるが、この者たちは今のところ放置状態であった。捕らえるほどの罪となる行為をしていないために今現在は強行に何かをすることができないのである。
「ある意味最後のが一番厄介か」
「そうとも言えますね。尋問を受けている者たちについては、罪の大小により刑期は様々でしょうが不法な人身売買で犯罪奴隷となるので大きな問題はないでしょう。洗脳された者たちについては、解除された後は故郷に返されるか望めばこのファムクリツで農業に従事してもらうこともあるかと思います」
「残る一つは?」
「現時点では何ともいえません。個々で平等についての考え方が違うようですので。ただ自然消滅するのではないかと思われます。何せ生活費などの彼らの活動資金は上層部……つまり今尋問を受けている者たちが雇い主から受け取った報酬だけで賄われていたようですので、この後も街中で延々と活動するのは困難でしょうから。とはいえ、一部の者は働いて資金を得て休日に活動するくらいはやりそうですけど」
平等を謳う集団の活動資金は、マリベルの言うとおり一か所からしか出ていなかった。善意の寄付金などがあってもよさそうであるが、それらに関しては上層部が必要以上の繋がりを持たないように拒否していたのである。平等云々とは全く別の目的のために作られた組織であるために、不特定多数からの寄付金は邪魔でしかなかったのだ。
「一部か」
「ええ。自分で稼いで生活基盤を確保して、そして休日だけでもこれまでのような活動をという者は多くないと私は見ました。元々純粋に平等を声に出していたのは十数人でしたから、仮に全員がそうだったとしても気になるほどとはならないかと思います。まあ、私のお気に入りの宿屋にまたちょっかいをかけるようなら排除しますけど」
「……問題にならないようにな」
「それは勿論」
「それはそれとして、あの場所のことで何か分かったことはあるか?」
うふふ、と見ようによっては怖いと思える笑みを見せるマリベルに、話題転換というわけではないが彰弘は質問を口にした。
あの場所というのは、平等を謳う集団の調査で赴いた場所にあった地下施設のことである。
「残念ながら、そちらも大した情報はありません。今も調査は継続されていますが、なにぶん状態が酷く難儀しているみたいですね」
「結構な破壊され具合だったからな」
取り逃がした二人が実験を行っていた場所は、様々な魔導具があり、また魔石も多量にあった。しかし魔石は普通に使える状態で残されていたが、魔導具に関しては少なくとも機能しなくなる程度には破壊されていたのである。
「今は損傷の少ない魔導具を完全修復……とまでいかずとも、どのような機能があったものなのか分かるようになるまで復元している最中のようです」
「まだ数日しか経ってないし仕方ないか」
「はい。何か分かりましたら神殿を通じてアキヒロ様へお伝えします。もっとも、領主の娘がそのお付の者と代官のところへ挨拶に向かった際に何かを言ったようで、アキヒロ様へと今回の件の情報は入るはずですが」
「ああー。そういや、戻ってきた翌日に二人が代官に会いにいったな」
彰弘は同行しなかったが、調査から戻った翌日にクリスティーヌとエレオノールが代官であるシュッツ子爵に挨拶へと向かっていた。目的は挨拶が二割で、残りは今回の件の情報を分かり次第自分たちへと伝えるように言うためである。
クリスティーヌとエレオノールに今回のことが、今後どれだけ影響してくるかは不明だが情報を得ることに損はない。
「そのようなわけでして、仮に神殿からの情報が届かなくとも問題はないと思います。とはいえ、こちらはこちらで別口でも調査をいたします。それを併せてご報告いたします」
「頼む。情報は多い方がいい」
無論、情報が多ければ多いほど、真偽の見極めは困難になっていくが、複数個所からの仕入れがなければ判断材料が乏しくなるのも事実だ。
幸い彰弘には諸々を相談できる相手が複数人いるので、仮に彼自身で判断できないような情報も得ていれば何らかの結論へと辿り着けるはずであった。
「そういえば、例の魔導具はどうだったか聞いているか?」
情報の受け取りについて話す中で、今回手に入れシュッツ子爵へと献上の形で渡した魔導具についてを彰弘は思い出した。
その魔導具は一人では持ち運ぶのが難しい大きさと重さのもので、捕らえた者たちから話を聞く限りでは、周囲の魔力を吸収し貯え任意に使うことができるという有用そうなものであったが、実際に試したわけでもなく、聞いた話とともにシュッツ子爵へと献上したのである。
「はい。若干あの者たちが言っていた内容とは違うようですが、似たような効果があるようです」
「本当に人を介さずに魔力の吸収ができるのか」
「ええ。とはいっても、地中産の魔石に人種の手を介さずに魔力を補給することができるというものらしいです。専用の魔導具を用意する必要はありますが、あの魔導具に別の魔導具を接続すれば、組み込んだ地中産の魔石が使えなくなるまで接続した魔導具を使うことができますね」
「確かに聞いた話とは違うが……充分有用だな」
魔石には二種類ある。それは魔物を倒した際に手にできるものと、鉱石などの採掘と同時に手に入れられるものの二つだ。
前者は一度含有する魔力を使いきれば消滅してしまうが、後者は一度魔力を使い果たしても、ある程度の回数は魔力を補充すれば繰り返し使える。元地球のもので例えれば、使い切りの乾電池と充電式の乾電池といったところか。
さて、今まで地中から採れる魔石は、人種が直接魔力を注ぎこまないと魔力の補充はできないとされていた。古今東西、様々な者たちが人種を介さずに魔石に魔力を補充できないかを試してきたが、少なくとも記録に残る上で、具体的な成功例は一度もない。なので、今回彰弘が持ち帰り献上した魔導具は、ある意味で大発見といえるものであった。
ちなみに一部文献にはそれらしき魔導具の存在はあるが、どれもこれも描写が曖昧で創作ではないかと考えられている。
「惜しかったとか思ったりしていますか?」
「微妙なところだな。あの大きさでもマジックバングルがあるから苦じゃないが、効果を考えると個人で持つには周囲からの影響が凄そうだ」
「そうですね。恐らく、この後はガイエル伯爵の手に渡り、そこから天皇陛下への献上となるかと思われます」
一領主には過ぎたもの、というよりは今まで見つかっていない、また造り出せた者もいないというものであるから、まずは最上位への献上となる流れであった。
「あれば便利かもしれないが、なくても困らないからな。研究が進んで廉価版が出てくれたらってね」
「そうなれば、皆の生活が今よりももっと楽になるかもしれませんね。もっとも、魔導回路が相当に複雑らしく、いつになったら複製を造ることができるか分からないらしいですが」
「はは。まあ、気長に待つさ。さてと、そろそろ行くか」
「はい。では、情報に関しては新しいものが入り次第ご報告いたします」
「ああ、頼んだ」
一通りの話が済んだことで、彰弘が席を立つ。
それに応じて席を立ったマリベルに案内されて彰弘は神殿を出るのであった。
この後、彰弘はカイ商会のケイミングを訪ね、彼からも平等を謳う集団についての情報の精度を高める。
そしてその日は宿へと戻り、翌日グラスウェルへ向けてファムクリツを立つのであった。
ちなみに、この日彰弘と行動をともにしなかった六花たちなどの面々は、今年のファムクリツ滞在最終日だということで、それぞれが親しい、また親しくなった人たちと思い思いの時を過ごしていたのであった。
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