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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
5.旅立ちへの準備期間
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5-23.【平等を謳う者たち:麗装と竜骨兵】

 前話あらすじ

 黄白色のローブを纏った集団と、それに関係するだろう二人の人物と相対する彰弘たち。

 何をやっていたのか聞き出そうとするも、事はそう簡単には進まないのであった。

 





 瑞穂と香澄がいきなり動いた地面の上でも体勢を完全に崩すことなく、その場より飛び退くことができたのは日頃の修練とグラスウェル東の森林にできたダンジョンでの魔物狩りの成果である。

「香澄」

「分かってる瑞穂ちゃん」

 動いた地面から動いていなかった地面へと退避した後、黄白色のローブを纏っていない二人を警戒しつつお互いに近づいた瑞穂と香澄は小声で言葉を交わす。

 地面を動かし巨大な壁を一瞬で造り上げた相手の魔法の実力は二人の遙か上であり、現在の彼女たちだけでは勝てる見込みがない。だからこそ壁の向こうから彰弘たちが来るまで時間を稼ぐことに決めた。

 また自分たちとは別行動をとっていた六花や紫苑たちが来る可能性もある。

 相手を捕らえるにせよ倒すにせよ、それができるのは充分な戦力が揃ってからだ

 今できることは仲間がくるまで時間を稼ぎ、自分たちが相手の手に落ちないことであった。

「そんな装備をしてるから動けるとは思ってたけど……やるねえ」

「ふん、なまいき。でもさっきフウリュウの魔法を防いだことといい、今の動きといい悪くない。ある意味で逸材ね。私たちには不要でもコウリュウの実験には使える」

「まあねえ。最終的な目標の糧にはなるねえ。メアルリアの神官ともう一人もといきたいところだったけど、欲張り過ぎは危険だからねえ」

 時間稼ぎを決めた瑞穂と香澄。

 しかし、そんな二人の腹の内は気にした様子もなく、今の状況を作り出した二人は対象に値踏みするような視線を向けるだけである。

 これは時間稼ぎをする瑞穂と香澄には幸いであった。

「あたしは瑞穂。こっちは香澄。とりあえず名前教えてくんない?」

 瑞穂が時間稼ぎを開始する。

 まずは会話だ。彰弘たちが来るにしろ、分かれて調査していた六花や紫苑たちが来るにしろ、いま少し時間が必要である。

 会話の後は逃げるか戦うしかないのだが、前者の選択肢は今後を考えると得策ではない。かといって、戦うという選択肢も現状で選ぶのは良いことではないが諸々を考えたら必要であった。

「いきなりだねえ。まあいいよ。ボクはフウリュウ。こっちはヒョウリュウ。ところで、助けを待っているようだけど無駄だと思うよ。そう簡単にあの壁は壊せないし、迂回しようとしても邪魔をする戦力は呼び出しておいたからねえ」

「何を驚いた顔しているのかしら。ここは私たちの実験場なんだから当たり前でしょ。それはそれとして勝手に人の名を伝えないでもらえる?」

「先にボクの名前を口にしたのはキミの方なんだけどねえ」

 名前についてで口論を始めてしまった二人を気にしつつ、瑞穂と香澄は小声で言葉を交わす。

 分かったことは目の前で口論する二人の偽名っぽい名前と、この場が彼らの実験場であること。それから何らかの戦力が用意されていたことに自分たちが時間を稼ぐつもりなのを悟られていることだ。

「ねえ。偽名っぽい名前のことは置いとくとして、戦力って何?」

「あらら、バレてら。ま、本名じゃないけど仲間内での通り名だから、全くの偽名じゃないけどねえ」

「そこまで教える必要はないでしょ。全く口が軽い」

「キミも人のことは言えないけどねえ。とりあえず戦力だったね。キミたちが諦めてボクたちに素直に付いて来るように教えてあげるよ」

 フウリュウがちらりとヒョウリュウの顔を見ると、彼女は「さっさとなさい」とばかりに顎をしゃくって話を促す。

 その態度にやれやれと言いたげな表情を浮かべ態度をとると、フウリュウは瑞穂と香澄に向き直った。

「この場所の外周には加工した竜の骨の欠片を埋め込んであってね、それらはボクかヒョウリュウが特定の波長を持たせた魔力を浴びせると竜骨兵というゴーレムみたいなものへとなる。成体未満の竜の骨のせいでオークのリーダー級程度が数十体とジェネラル級が数体程度でしかないけど、まあ充分でしょ」

 フウリュウの話を聞き、瑞穂と香澄がお互いの顔を見る。そして両者ともに僅かだが口角を持ち上げた。

「何よその顔は?」

「諦めたようには見えないねえ」

 フウリュウとヒョウリュウは彰弘たちの、いや今の彰弘がどの程度の力を持っているか知らない。

 二人は魔法使いであるから彰弘がどの程度動けるのかを正確に知ることはできないかった。仮にそれを完全に把握できていたとしても、二振りの魔剣のことを知らなければ戦力としての彰弘を完全に理解できるものではない。

 無論、先ほど見た彰弘が持つ魔剣が優れたものだと見抜いてはいたが、あくまでそこまでである。彼が十全にその魔剣を使った場合にどのようになるかまでは把握仕切れてはいなかった。

「諦める要素はどこにもないから」

「兵士さんたちも弱くないし誰も怪我すらしないんだから、わたしたちが諦める理由はないよね」

 疑問を受かべるフウリュウとヒョウリュウの二人。

 そこに更なる言葉が瑞穂と香澄の口からかけられる。

「そうそう言ってなかったけど、あたしたち二手に分かれて調べてたんだよね」

「うん。でね、あなたたちを見つけたときに、分かれてた人たちへこの場所を伝えてるんだ」

 そして聞こえてくるのは何かを破壊する音。

 まだそれほど近くではないが、徐々にその破壊音は近づいてきているようであった。

「お、おい! よく分からんがどうする!?」

 瑞穂と香澄の余裕ある態度。

 それから徐々に近づいてくる破壊音。

 今まで武器を抜きつつも状況を見守って黙っていた黄白色のローブを纏った中の代表である男が声を上げた。

「そうだねえ。逃げてもいいよ。ボクたちは自分のことを優先するし」

「一応、仲間だったからね。逃げたきゃ逃げなさい」

「すまんが逃げるぞ。おい、行くぞ!」

 黄白色のローブを纏った者たちの代表の男は、フウリュウとヒョウリュウの言葉を受け取り一も二もなく逃げることを選択し指示を出す。

 しかしそのやり取りを聞いていた瑞穂と香澄が、何もせずにいる理由はなかった。

「『アース・ディガホール』」

「うおわぁ!」

 唐突に瑞穂が一つの魔法を使用する。

 対象は目の前にいるフウリュウでもヒョウリュウでもなく、今まさに逃げだそうとした黄白色のローブを纏った者たちの足元だ。

「あの程度の穴を掘ったからといって何になるのかしらね」

 意味はないと口を開くヒョウリュウ。

 確かに穴の広さは黄白色のローブを纏った者たち全てを落としているが、その深さは一メートル強といったところ。

 穴に落ちたものの致命的な怪我を負った者はなく、今は全員が立ち上がり穴から出ようと動き出していた。

「そりゃ決まってるじゃない」

「あ、もしかして」

「『アース・フィリン』」

 フウリュウとヒョウリュウの相手をする瑞穂の横で、香澄も魔法を使用する。

 対象は瑞穂が空けた穴だ。

 瞬く間に魔法は効果を発揮し穴を埋める。

 穴に落ちたほとんどの者が腕まで地面の中となっており、誰かの助けがなければ脱出は不可能な状態であった。

 無論、魔法の実力が確かならば、その状態からでも自力で地面の中から抜け出すことは可能である。しかし、残念ながら黄白色のローブを纏った者たちの中には、そこまでの実力者どころか魔法使いは皆無であった。

「重要かは分からないけど、情報がゼロってことはないよね」

「何もせずに見逃すわけないでしょ」

 消費した魔力を魔石で回復させた瑞穂と香澄が戦闘態勢へと移行する。

「随分とやる気だねえ」

「確かに実力はあるけど私たちからみたらまだまだ。いくら援護が来るからといって得策じゃないわね、ほらっ!」

 杖を構えたフウリュウの横で、ヒョウリュウが言葉の終わり際に魔法を放つ。

 それは詠唱も魔法名さえもないものであったが、無謀なところに受ければ充分な殺傷力を持つ氷の礫であった。

 しかし、氷の礫はキンッという少々甲高い音を立てて香澄の剣で弾かれる。

「あなたたちを過小評価するつもりも過大評価するつもりもない。でもだから全力で時間を稼ぐ」

「どんなに長くても五分はかからない。実力差を考えても、そのくらいなら足止めできる」

「荒れ狂う風よ我が身となれ! 『狂風麗装』!」

「凍てつく刃よ我が身となれ! 『氷姫麗装』!」

 瑞穂と香澄が対単体用に開発した魔法をその身に纏う。

 荒れ狂う風が瑞穂の右腕を中心に渦巻く。

 鋭利な氷が香澄の右腕を覆い氷の結晶を煌かせる。

 二人が剣を持った右腕は指先から肩口まで、それぞれの魔法による鎧が現れていた。

「随分と中途半端だねえ」

「腕一本だけ覆って何になるのかしらね?」

「あなたたちなら分からないということはないと思うけど?」

「分からないというなら、みんなを待つまでもないかな」

「ふん。右腕以外大したことないじゃない」

「ヒョウリュウちゃん。右腕と比較したら危険だ。中途半端であっても侮れるものじゃない。他の部分も相当だよ」

 確かに今の瑞穂と香澄の右腕は魔法の鎧により、ちょっとやそっとの攻撃では怪我など負わないほどとなっている。しかし、それ以外の部分も右腕ほどではないが、相当な防御力を持つ魔力の膜で覆われていた。

「そっちの馬鹿なおばさんと違って、おじさんは見る目あるね」

「なんですってっ!」

 激昂するヒョウリュウ。

 しかし、そのとき既に荒れ狂う風と凍てつく刃は地面を爆ぜさせていたのであった。









 瑞穂と香澄がフウリュウとヒョウリュウの二人を相手に時間稼ぎをしているころ、彰弘たちは竜骨兵相手に戦っていた。

 正確にはマリベルにルクレーシャとミナが壁に魔法で穴を空け続け、それを兵士の五人が守り、彰弘が少し離れたところで竜骨兵の相手をしてる。

「胸の中心部分に核があるはずです。そこを狙ってください!」

 状況をちらりと確認したマリベルが声を上げる。

 竜骨兵は竜の骨を媒介にして呼び出されるゴーレムのようなもので、核となる部分を破壊しない限り再生するという特徴を持つ。一応、身体を砕けば再生までの間は動きが鈍るので、核を壊さずとも全くの無意味というわけではないが、相手を無力化するには、やはり核を壊す必要があった。

「そういうことかよ!」

 マリベルの声を聞いた彰弘が視界を魔力が視えるものと変え魔剣を振るう。

 すると目標が定まり見事な剣筋で色濃く映る核を砕いた。

「無理はするな。数は俺が減らす!」

 彰弘が声を向けたのは、壁に穴を空ける作業を行っている三人を守る兵士五人にであった。

 胸の中心部分に核があると分かっていても、正確にその場所が分からなければ動きが鈍る可能性がある。

「承知した! 守りに徹しろ。そして砕け。狙う必要はない!」

 彰弘の動きが尋常ではないこと。そして竜骨兵を沈黙させるのは彼に任せるのが最善と判断した兵士たちの小隊長は部下に指示を飛ばした。

 自分たちで倒すことができない悔しさもなくはなかったが、その感情を押さえ込めないものはこの場にはいない。

 小隊長の部下たちは揃って「了解!」と一言声を上げると、迫り来る竜骨兵から自分たちを、何より背後にいる三人を守るための戦いを始めた。









 時間にしたら数分でしかないが、彰弘の周囲には物言わなくなった骨が散乱していた。

 無論、その骨は先ほどまで肉のない身体に鎧と剣を装備していた竜骨兵のものである。

「でかいのが来たな」

 最初に現れた竜骨兵が全て動かなくなるや否や、今度は新たな竜骨兵が少し離れた地面から出現した。

 そしてその中にはこれまで戦った竜骨兵をふた回り大きくした個体の姿が三つある。

「怪我をしているものは? 後、穴の様子はどうだ」

「怪我人ありません」

「穴は……光りが見えます!」

「もう少しですわ!」

 彰弘の言葉に小隊長と、作業に集中しているマリベルに変わりルクレーシャとミナが答えた。

「穴が完全に空いたらマリベルを先頭にそのまま突っ込め。俺はあのでかいのを潰してから行く」

 わざわざ倒す必要はないかもしれないが、今まで戦っていた竜骨兵とどの程度力に違いがあるか分からない。

 先ほどまで戦っていた竜骨兵の強さは、この場にいる兵士が精鋭であるということもあり一人で二体まで相手にできていた。だから新たに現れた他よりも大きな個体が少し強いというだけなら、まず問題はない。しかし、それ以上となると対応できない可能性があった。

 無論、彰弘にしても自分では対応できない可能性は考えている。幸いマリベルたちが空けている穴の大きさはそれほど大きくなく、先ほどまで戦っていた竜骨兵ならともかく、それ以上の大きさを持つ個体は入ってこれないので、最悪逃げるということも考えていた。

 ただ、壁を回りこまれて襲われた場合、最悪死人が出る可能性があったので、できれば排除しておきたいのである。

「穴が空きました!」

「瑞穂と香澄と頼む! 俺もすぐ行く!」

 マリベルの声をふた回り大きい身体の竜骨兵が襲い掛かってきたのは、ほぼ同時であった。

 マリベルに続いてルクレーシャとミナが壁の向こうに抜け、その後を兵士が続く。

 殿に残った彰弘は背後の動きを背中で感じつつ、頭上から迫る大剣の一撃を横に躱し魔力を注ぎ込んだ魔剣を振るう。

「なるほど。弱くはないが強くもない。早々にご退場願おうか」

 左右それぞれの手にある魔剣に今まで以上の魔力を注ぎ込んだ彰弘は、先ほどの一撃を受け体勢を崩した竜骨兵の核を斬り裂く。

 それから流れるような動作で目標とした残る二体の竜骨兵の核を難なく砕いた。

 目標を達した彰弘は周囲に群がってきた竜骨兵を倒しながらマリベルたちが空けた穴に飛び込み壁の向こう側へと抜ける。

 そして状況を瞬時に把握し、空いた穴の周囲を斬り裂き崩し竜骨兵の進路を塞いでから、改めて睨み合う四人と二人を見るのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



各話のサブタイトル思いつかないもんだねえ。

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