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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
5.旅立ちへの準備期間
216/265

5-22.【平等を謳う者たち:調査4】

 前話あらすじ

 駅舎とそこに繋がる駅ビルには何もなかった。

 しかし彰弘たちは、駅ビルの屋上から黄白色のローブを身に纏った集団を見つけるのであった。





「「ターゲット、マルチロック!」」

「『エアブレード』!」「『アイスブレード』!」

「「撃ち落せっ!」」

 頭上に展開された直後に襲いかかってきた魔法に対して、瑞穂と香澄はそれらを迎撃するために自らも魔法を放つ。

 勿論、対応したのはその二人だけではない。

 彰弘とマリベルも気がつき迎撃のため魔法を撃ち出している。この二人は瑞穂と香澄による迎撃の網の目を潜り抜けるであろう魔法に対して、無言の魔力弾を放っていた。

 兵士たちは魔力を視ることはできなかったが、彼らも今できることを行っている。魔法による迎撃を行う四人の視線の先や僅かな大気の揺らぎから敵の魔法の位置を察し、可能な限り味方の迎撃を邪魔しない場所へと退避していた。また、それだけではなく事態を把握できないでいるルクレーシャとミナの二人を、自分たちのところに引き寄せ安全を確保している。

 さて、そんな状況の結果はというと、見事に誰一人怪我をすることもなく切り抜けられていた。

「宣戦布告と受け取った!」

「意味は正しくないけど、言いたいことは分かるよ。でもね……もう最終段階だよ瑞穂ちゃん」

 瑞穂と香澄。二人とも魔石で魔力を回復しつつの会話である。

 建物の向こう側。すなわち、相手は的が見えないにも関わらずほぼ正確に魔法を放ってきた。それに魔法を維持するための導線は、そんじょそこらの魔法使いとは比べられないほどに洗練されたものだったのである。

 香澄が言うような戦いの最終段階と同じかどうかはともかく、可能な限り万全な状態で事に当たる必要があるべき相手であった。

 そしてそのことは相手の魔法の一部を防いだ彰弘もマリベルも当然認識している。瑞穂や香澄ほどには魔力を消耗しなかった二人も魔石からの魔力回復を行っていた。

「マリベル。『祝福』だとどれくらいまで防げそうだ?」

「あの程度のものならば、この中で一番耐性のない人でも無防備な状態で受けない限りは致命傷とはならないかと。ただ、それ以上となると障壁を展開するしかありません」

 『祝福』とは神官が使う神の奇跡の一種で、最長一時間ほど施した人物の全能力を強化する効果がある。副作用もなく有用であるが、強化率は一定という変えられない事実があった。

「充分だ。……逃げるって選択肢もないわけじゃないが、後々のことを考えると、相手の顔くらい見ておくべきだろう」

 平等を謳う者たちが裏で何をやっているのかを少しでも知っておく必要があると彰弘は考えたのである。

 何も知らないのと何かを少しでも知っていることでは天と地の開きがあった。

「マリベルは全員に祝福をかけてくれ。その後で顔見せといこう」

 彰弘の言葉に全員が頷く。

 先ほど全く自発的に動けなかったルクレーシャとミナも、強張った表情ではあったが同意していた。このまま逃げ帰ったら何も分からないまま終わることになり、近い将来碌なことにならないのではないかと二人も思っていたからだ。

「では。平穏と安らぎを司る守護神ルイーナ。御身が信徒たるマリベル・ヒューストンが希う。我らが身を守りし祝福を今ここに」

 瑞穂と香澄の魔力回復も終わり、その場の全員が戦える状態になったところでマリベルが祝福という神の奇跡を使う。

 彼女の言葉が終わると、その場にいた全員を薄っすらとした白い何かが一瞬だけ包み込み、そして消えた。

「さて。それじゃあ行こうか。先頭は俺が行く。瑞穂と香澄は離れすぎないようにな。マリベルは俺の後ろ。更にその後に兵士五人とルクレーシャとミナ。二人は兵士の中だ」

 正面からの魔法ということを考えると、マリベルが一番前を行くのが正しいかもしれないが、相手が馬鹿正直に正面から魔法を放つとは限らない。

 それに彰弘は魔力を外に出すことは下手だが、体内の魔力を動かし魔法に対する耐性を強化することは得意である。

 また瑞穂と香澄については魔力の扱いは一流といってもよく、過度に守らなければならないような存在ではなかった。

「さーて、攻撃してきたことを後悔させてやろう」

「反撃されないなんて思ってないよね?」

 いきなり殺そうとしてきた相手に対して、瑞穂と香澄の思考は完全に敵を相手にするそれへとなっている。

 その様子に頼もしさを感じつつ彰弘は号令を下すと、建物の向こう側にいるであろう相手へ向かい歩き出したのであった。









 ところどころに白い粒が落ちている円形に整えられた中心に二十二の人影があった。黄白色のローブを纏った者が二十。それ以外の服装の者が二である。

 黄白色のローブを纏った者の半数は武器を既に抜いており臨戦態勢であるが、同じ所属だろう残る十人は何もせずただ突っ立っているだけだ。

 残る二人はというと、武器を抜くわけでもなく腕組みをして立っていた。

「魔法のお礼をしたいところだが、その前に何をしていたのか何をする気なのかを聞いてもいいかな?」

「抜き身の剣を持ってとは穏やかじゃないねえ。ま、それはそれとして、いいよ、と言いたいところだけど……もう、さよなら、って言っちゃったし。それにしても全く悲鳴とか聞こえなかったから、まさかとは思ってたけど、本当に無傷ってちょっと自信なくすねえ」

「あの程度で、あたしたちをどうにかできると思ったことが間違いよ!」

「一応、普通の兵士程度の部隊なら殲滅できるだけの魔法だったんだけどねえ」

 実際、魔法に対しての耐性が並でしかなく、備えを何もしていない部隊であったならば、先の魔法攻撃により全滅とまではいかなくとも、戦闘が継続できない状態となっていただろう。

 少なくとも気だるげな男が放った魔法はそれだけの威力を持っていた。

「まあでも、そのお蔭で有用な人材を二人も見つけられたんだから良しとするよ。というわけでどうだい? うちに来ないかい、そこの双子ちゃんたち」

「は? なに言ってんの、おじさん」

「来てくれるなら、ボクたちがどこの誰で何をするつもりなのかを話てもいいよ」

 気だるげな男の視線の先にいるのは瑞穂と香澄である。

 実際のところは双子ではないのだが、そう間違っても仕方ないほどに二人は似ていた。とはいえ、世界が融合した際のあれこれで今は戸籍上双子となっているのだから間違っているとは言い切れないのだが。

 それはともかくとして、瑞穂と香澄の返事は決まっていた。

「わかったとでも言うと思ったかー!」

「彰弘さんの前で、冗談でもそんなことは言えません。それに何を仕掛けているか分かったもんじゃないし」

 魔法なんてものがある世界だ。同意を口にした瞬間に、良からぬ契約のようなものが発動しないとも限らない。

「特に何も仕掛けてないんだけどねえ」

「いつまで戯言を言ってるのよ。相手の同意なんて必要ないでしょ。他の奴を殺して攫う、それだけでしょ」

 唐突に挟まれる言葉。

 その声は気の強そうな女から発せられていた。

「気が短いねえ。まあ、強制的にするしかないみたいだし、仕方ないかねえ」

「いくわよ」

「はいよー」

 事前に準備をしていたわけではないのだろう。

 彰弘も瑞穂も香澄も。そして一行の中で最も魔力の扱いが上手いマリベルも、実際に発動するまで気がつかなかった。

 つまり、それほど相手が魔法に精通していたということである。

「『アースムーブ』」

 彰弘の左右にある地面が一瞬で前方へ数メートル動いた。

 動いた地面の上にいたのは瑞穂と香澄である。

 そしてそのことに気がついた彰弘が二人を追いかけようとした瞬間、今度は『アースウォール』の声をともに彼の前に土壁が出現した。

「はっ!」

 彰弘は目の前に現れた土壁に二振りの魔剣を振るう。

 二振りの魔剣には当然魔力が注ぎこまれており土壁を斬り裂くが、想像以上に分厚いようで切っ先が向こう側へ届いた様子はない。

 そして問題だったのは、硬さも高さも幅も尋常ではなかったことだ。

 硬さは鉄のようであった。魔剣を振り入れ途中で注ぎ込む魔力を増やさなければ剣身が土壁の中で止まっていただろう。

 高さは二階建ての建物を軽く超えている。しかも、いやらしいことに、彰弘たちのいる側へ僅かに斜めとなっており、昇るのを困難としていた。

 そして横幅だが、左右どちらも数十メートルはあるだろうことが見て取れる。

「マリベル、ルクレーシャ、ミナ。壁の破壊を頼む。残りは護衛だ」

「承りました」

「え?」

 マリベルと兵士たちは気づいていた。だから彰弘の言葉に素直に頷く。

 しかし、ルクレーシャとミナはまだ気づいていなかった。

「骸骨の相手は俺らがする」

 マリベルとルクレーシャにミナを土壁へと向き合わせて、彰弘と兵士たちは彼女らを守るように半円を描く。

 そうして陣形が整ったと同時に、地面の上に僅かに見えていた白い物体のあるところから一斉に剣と盾を持ち鎧をつけた姿の骸骨が現れたのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



少々、短めです。

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