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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
5.旅立ちへの準備期間
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5-19.【平等を謳う者たち:調査1】

 前話あらすじ

 平等を謳う集団や身奇麗な野盗のことを調査するために集合場所であるヒーガの東門へと向かう彰弘。

 そこで非公式で派遣されてきた兵士五人という、想定外の人員が調査に加わることを知る。

 しかし、幸いにも予定を大きく変える必要はなく、彰弘たちはほぼ予定どおりに行動を開始するのであった。





「「「「『ストーンウォール・ボーキー』!」」」」

 程好く開けた空き地に響く四つの声とともに、声の数と同じだけの石壁が出現した。

 四人の魔法により作り出された石壁はそれぞれが三角形で、お互いがお互いを支えあうように地面に対して垂直ではなく斜めに立っており、見事なピラミッド型を造り出している。

 この小さなピラミッドは地面に接する部分は一辺が十メートル程度で高さは五メートルといったところであり、なかなかの建造物であった。

「お疲れ。にしても思ったよりも、すげーもんができたな」

 自前の魔石で魔力を回復させながら戻って来た六花たちに労いの声をかけつつ彰弘は目の前の建造物を見上げる。

 他の者は感嘆、驚愕といった様子であった。六花たちを知っているものは流石だという、ある程度納得した表情である。しかし彼女たちに初めてあった兵士などは口をあんぐりと開けて驚愕の顔をしていた。

 ともかく、目の前に出現したピラミッドは、石壁の表面が多少凸凹していたりはするが正に見事としか言いようがない出来栄えである。

「見た目は二の次。強度を第一優先で造りました」

「一日以上だから、ちゃんと残るものを造ったよ!」

 紫苑と瑞穂が満足そうな顔で、自分たちが造ったそれを彰弘と同じように見上げた。

 魔法で作られる物質には大きく分けて二種類ある。一つは魔力の供給が断たれると形を保てない物。もう一つは魔力が供給されなくても、作り出されたその形を維持する物だ。今回、六花たちが造り出した石壁は後者であった。

 なお、街の防壁にしろ一般的な家屋にしろ魔法による手助けはあっても最終的にはそれ以外の方法で造り上げるのが普通だ。詳細を説明すると長くなるので省くが、魔法で何か形あるものを作る場合、周辺の素材を使いイメージしたものを形作る。だから単純に四角形――今回のは三角形であったが――の壁を造るのならともかく、複雑な形状のものを作ることは適していない。また防壁は強度を高めるために鉄筋が入っているものが多いのだが、この手の複数種の性質の異なる素材を使い何かを造るのも魔法では難しいのだ。

 ちなみに魔法で作ったものを、魔力供給がなくても作ったままの形で維持させるために必要な作成時の魔力量は、それでない場合の十倍以上が必要である。

「でも……出入り口どうしよっか?」

「おー。すっかり忘れてた。魔法で穴空ければいいかな?」

 続いて口を開いたのは香澄と六花である。

 確かに二人の言うとおり、できたばかりのピラミッドには中へ入るための場所がない。地上付近はもとより、余程上手に造らない限り隙間ができるだろう、それぞれの壁の接する部分にも何かが通り抜けるだけの隙間は見当たらなかった。

 勿論、唯一四つの石壁が接する頂点部分も同様だ。

「これは失敗しました。今空けます」

「いや、出入り口はガルドにやってもらおう。なかなかの硬さだからな」

 早速、動こうとする紫苑を止めた彰弘は、ピラミッドを造っている石壁を叩き強度を確認すると、肩にいるガルドへと目を向ける。

 するとガルドは心得たとばかりに彰弘の肩から飛び降り、小亀から全長一メートルほどの大きさへと身体を変化させた。

「横幅は一メートル。高さは……二メートルほどで良いか。頼むガルド。ああ、そうだ。こっちの壁が終わったら、そのまま進んだ先の壁も空けといてくれ。何もないと思うが一応な」

「(心得た)」

 彰弘の要望にガルドは念話と首を上下に動かすという仕草で応えると、特に急ぐでもなく石壁を食べ始める。一口目は味わうようにであったが、二口目からは一心不乱であった。

「(どうだ。美味いか?)」

「(デザートのような感じと言えばよいかな? この適度な柔らかさと滑らかな舌触りは癖になりそうだ。できれば食感にもう少し変化があればと思うが……今のままでも充分に美味いぞ)」

「(そうか。そいつは良かった。まあ、頼む)」

「(心得た(あるじ)よ)」

 石壁を食べ続けるガルドとの念話を終えた彰弘は笑みを浮かべた顔を六花たちに向ける。そして念話の内容を彼女たちに伝えてみた。

 特に何かの意図があったわけではなく何となくである。

「結構硬いと思うんだけど。さっすがガルド!」

「魔鋼さえ普通に食べるガルドさんには石壁もデザート感覚でしたか。もっと魔力を込めて、あれをああすれば……」

「ガルドのデザート……食感の変化……。おー、何かやる気が出てきたー」

 素直に感心する瑞穂に石壁の強化を考え始める紫苑。そして六花はガルドのデザート作りに意欲を燃やす。

 そんな中、香澄はというと小首を傾げていた。

「彰弘さん。これで出入り口ができるのは良いんですけど、その後どうしますか? 穴が開いたままじゃマズイと思うんですけど」

 実際、ピラミッドに穴を空けて中と外との出入りをできるようにしただけでは、調査を始める前にとりあえずの拠点を造った最大の目的を果たしていない。

 今回造ったこの拠点は、二泊するための物資を置いておくためのものであるので、見知らぬ誰かが簡単に出入りできては意味がないのだ。

 なお、今いる者の荷物を全て彰弘のマジックバングルに収納しておけば良いだけの話ではあるが、兵士たちの持ち物は彼らの私物ばかりではない。なので、兵士たちの荷物を彰弘が簡単に預かることはできないのである。

「とりあえずガルドの作業が終わったら中に物を置いて、ガルドの甲羅で塞いでおくさ」

「ああ、なるほど。それなら普通じゃ中に入れませんね」

 彰弘の説明に納得顔で香澄が頷く。

 以前、ケルネオンで切り分けたガルドの甲羅は一辺が一メートルほどの立方体となって、彰弘のマジックバングルにまだ大量に入ったままだ。

 ガルドの甲羅は加工していない状態での強度は鉄とそれほど変わらず、そして重さはマジックバングルに入っている大きさのものが一つで五百キログラムほどである。

 鉄と比べて大分軽い甲羅ではあるが、そう易々と動かせる重量ではなかった。

 ちなみに、このやり取りは分かっている者は感嘆ではないが納得の表情を浮かべ、何のことやら分からない者は疑問に首を捻っている。

「終わったか」

 なんだかんだと話している内に、彰弘が要望どおりの穴がピラミッド型の建物に空いた。

 ガルドは一度彰弘を振り返った後、彼からのお礼の言葉と再度の要望を受け、直進した先の壁へと向かう。

「さて、荷物を置いてこようか」

 彰弘は五人の兵士へ目を向けてから、ガルドが空けた穴へと向かい歩き出す。

 ちなみに彰弘自体は中に置く荷物はないのだが、非日常的な出来事で動きを止めている兵士たちを促すために自ら動いたのである。

 そんなこんなで更に数十分が経ち、今のこの場でやることべきことは全て終わった。

「んじゃまあ、少々時間はかかったが始めよう」

 こうして、漸くこの地での調査を彰弘たちは開始するのであった。









 彰弘たちの組は元日本の土地と元リルヴァーナの土地の境を先ほど築いた拠点から右方向へと移動していた。

 まずはこの調査区域がどの程度の広さなのかを確認するつもりである。一応、事前に各所に話を聞いてはいたが、実際に自分の目でも確認しておくことは大事だ。

 ちなみに、もう一方の組は逆の左方向へと彰弘たちと同じ目的で進んでおり、その組には彰弘と念話が可能なガルドもいる。

 さて、そんな理由でまずは外周を進んでいた彰弘たちの正面に道路のようなものが見えてきた。それから左手側に目を向けると、そこには大きな建物が建っている。

「線路と駅か」

 道路のようなものは大きな建物の中へと向かっており、よく見るとレールの存在も確認できた。

 彰弘たちは線路を越えて先に進む。

 少し寄り道をして駅舎周辺を見て回りたい気持ちはあったが、今はこの場所の広さを確認すべきである。内側を確認するのは、その後でも遅くはない。

「八王子かな?」

「たぶん。実際に来たことはないけど、テレビだかで見た気がする」

 土地の境目は丁度駅舎を回りこむようになっており、瑞穂と香澄の記憶に引っかかるものがあった。

 なお、彰弘も八王子には行ったことがない。勤めていた会社が新宿にあったので当然電車の定期券もそれであり、そのために買い物も行くのも新宿方面のみであった。加えて言えば彼の住んでいるところから新宿までは私鉄一本乗り換えなしで三十分弱だったため、わざわざ八王子へ足を運ぶことはなかったのである。

「おっと、また南に向かってるか」

 八王子駅だろう駅舎を通り過ぎ、暫く歩くと土地の境目はまた南へと向かっていた。見えてきたのは普通の住宅街である。

「特に何もない感じかな? あ、ここで東か」

 時間にしたら十数分。少し南に向かっていた土地の境目は東へと延びていた。

 このような感じで歩き続け、やがて彰弘たちの目の前に十人以上の集団が現れる。

「それほど広くはないみたいですね。後、特別何か、というものは見当たりませんでした」

「こっちも同じだな。広さについては詳しく全部をとはいかないだろうが、まあ充分に調査できる範囲ではあるか」

 誠司やウェスターたちと合流した彰弘たちは、その場で情報の交換を行う。

 拠点から出発して、ここまでにかかった時間は三時間程度。狭いというわけではないが広すぎる範囲でもない。本当にこの地で何かが行われているならば、それを見つけることは不可能ではない広さであった。

「とりあえず今日のところは戻るか。来た道をってのも一つの手だが……折角だ突っ切ってみようか」

 そう言って彰弘が目を向けたのは、人がいなくなった家屋が建ち並ぶ元日本の土地である。

 外周を歩いただけでは分からない何かが分かるかもしれない。そんなことを考えた上での言葉であった。

お読みいただき、ありがとうございます。




人数が多い場合の表現の仕方がよく分からない今日この頃。

どうしたものか。

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