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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
5.旅立ちへの準備期間
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5-10.【東の森林ダンジョン:ダンジョンマスター】

5-10.

 前話あらすじ

 最終層に向かった彰弘たちは、六花たちの魔法もあって、無事ダンジョンキーパーを撃破。

 そして先にダンジョンに入っていた冒険者パーティーの救出にも成功する。




 グラスウェルの東に発生した攻略前のダンジョンで、三度目のダンジョンキーパー討伐を終えた一行は、このまま調査を続けるか、もうダンジョンの核に触れ攻略をしてしまうかを話し合っていた。

 ここで不思議に思うかもしれない。何故に三度もダンジョンキーパーを倒しているのかと。そして何の調査をしていたのだろうかと。

 切っ掛けはダンジョン攻略初日にダンジョンキーパーを倒した後、誰がダンジョンの核に触れるかを話し合っていたときのことであった。一行のリーダーを務めるジェールが、「拡張中のダンジョンも拡張済だったり攻略が終えているダンジョンとの違いは自分たちが知っていること以外に何かないか? 調べておくと良いかもしれない」という言葉を口にしたのだ。

 既に後はダンジョンの核に触れるだけなため、今回の攻略で役に立つことはないだろうが、もし今後どこかで新たにダンジョンが発生した場合、ここで調べ確認しておけば何かの役に立つかもしれないとジェールは考えたのである。

 そしてその考えは、その場にいたほぼ全ての人員が同意するものであった。

 だから彼らはダンジョンキーパーが三度も復活する期間の十日間ほど、ダンジョンを攻略せずにいたのである。

 なお、このことは外でダンジョンの封鎖に当たっている者たちへは当然のこと、ガイエル領領主にグラスウェルの冒険者ギルドや総合管理庁へも伝えられ、その全てから了承または許可が出ていた。

 封鎖に当たっている者たちはともかくとして、グラスウェルにある関係各所としては、現存の情報の少ない拡張が済んでいないダンジョンの情報は、今後のことを考えると多少なりとも欲しかったのだ。

 無論、ダンジョン攻略隊の戦力がダンジョン内の魔物に対してある程度の余裕があったからである。そうでなければ、どれだけ今後のためになるだろうとも、喫緊に必要ではない情報のため、許可は出さなかっただろう。

 それはそれとして、話し合いはどうなったのか。

 どうやら攻略してしまうとなったようである。

「間違いなく魔物が強くなってきているな。そろそろ終わりにした方が良いかもしれない。まだ余裕はあるが、このままだといずれこちらの強さを魔物が超えるのは確実だ」

「同感です。初日と同じ魔力を込めた魔法だと二層の魔物を一撃で殺せなくなってきています」

「俺もそろそろ切り上げたる方に賛成です。もう九日……いや、十日目か? 魔物の強さは勿論だけど、いくら良い機会だからといって、外に出ずこのままダンジョン内に篭るのは精神的に良くない」

「精神的な負担が目に見えて分かるようになってからでは遅いですから、今終わらせるのは悪い判断ではないでしょう」

「そうだね。拡張については文献にあったのと変わりはなし。魔物の復活については拡張済や攻略済とほぼ同じで一日間隔。ダンジョンキーパーについても総階層数かける一日くらいだったから、他と同じか。復活ごとに強くなっているところだけが違う、か。うん、最低限の情報は得ただろうし、余裕のある内に終わりにさせようか」

 このダンジョンでの目的は、あくまで攻略である。

 彰弘や紫苑、ベントにアキラの言葉を受け、そしてその他の面々の表情や動作を確認してからジェールがダンジョンの調査終了を決め、攻略をしてしまう選択をしたのは当然のことであった。

 ちなみにダンジョンキーパーであった魔物は、三メートルを超すオーガという額部分に立派な一本角を持った人形(ひとがた)の魔物であったことを記しておく。









 ダンジョンキーパーが死に消えさった跡地に、一般的な大人の頭部くらいの大きさをした赤黒い球体が台座とともに出現していた。

 これこそが自然発生したダンジョンには必ず存在するダンジョンの核である。

「改めてじっくり見るとゴブリンあたりの魔石に似ているか。大きいから禍々しく感じるが」

「一説によると、オーガはゴブリンが特殊進化した魔物だと云われているよ。さ、それよりも早く触って。ほら、皆何が起きても大丈夫なように警戒してるからさ」

 ダンジョンの核が乗った台座の前にいるのは二人。核に触ることに決まった彰弘と、このダンジョン攻略隊のリーダーを務めるジェールだ。

 他の者は少し離れたところで武器を抜いているわけではないが、ダンジョンの核を視界に納めつつも、周囲を警戒していた。

「本当に俺で良いのかね?」

「星の記憶を考えたら、ここにいる人たちの中じゃ適任だよ。決めたときにも言ったけど、今この世界にあるダンジョンで攻略されているものは、ほぼ全て……ううん、ヘタしたら本当に全部が元リルヴァーナの人たちの手により攻略されたものだと思う。そんなわけだから、まずボクたちは対象から外れる」

 『星の記憶』というものがある。これは過去から現在に至るまでの地上と地下、それだけに留まらず、更にはその星に住まう何らかが想像しただけのものなども実物として生み出される現象である。そしてこの現象は主にダンジョン内で発生するのだが、攻略されたダンジョンの場合はその攻略した者の記憶にあるものが、僅かながら優先して生み出されるのであった。

 だからこそ、元リルヴァーナ人であるジェールはダンジョンの核に触れて攻略する対象から自分たちを外した。

「で、これで候補はアキヒロさんたち元地球人になるわけど、今いる面子の中だとアキヒロさんの記憶が一番面白そうなんだよね」

「そこが基準で良いのかってもんだが?」

「いいんだよ。あくまで僅かだからね。特別枠みたいな感じでダンジョンの核に触れた人の記憶にあるものが、ある程度優先されるだけらしいから、まあ誤差みたいなものだよ。一説によると、一万個の物をダンジョンから持ち帰ってもダンジョンの核に触れた人に関係するものは、その内の一個か二個らしいよ」

 ダンジョン内で生み出される星の記憶産の物品は、ダンジョンキーパーが待ち構える場所に近ければ近いほど良い物が得られる。

 つまりジェールが言う一万個の内の一個か二個というのはダンジョン全体でみた場合であり、百階層あるダンジョンの一階層目だけでというわけではない。仮に一階層目だけで一万個の物を得たとしても、その中に価値あるものが入っている確率は非常に低い、となる。

「ふう。ここで問答していても仕方ないか」

「そうそ。さくっと触っちゃって」

 最終確認というような問答を終え、彰弘がダンジョンの核に向き直る。

 そこにあるのは大抵の者が禍々しいと感じるような赤黒い球体であった。

 彰弘は一歩だけ前に出て赤黒い球体に近づき、おもむろに左手を動かす。そして特に遅滞のないまま、赤黒い球体の上に左掌を乗せたのである。









 彰弘がダンジョンの核に触れても、特にこれといった変化は見られなかった。

 だが変化が全く起こらなかったわけではない。

 赤黒かった球体の色が徐々にではあるが無色透明へと向かっているのである。

「こりゃ、色が落ち着くまでこのままでいろってことか」

「そうみたいだね」

「まあ、魔物の再出現までは、まだまだ先……」

「……どうしたの?」

 彰弘の様子にジェールは疑問の声を出す。

 ジェールの視線の先にいる彰弘の顔が、若干困ったような表情へと変わっていっていたからだ。

「どうやらダンジョンマスターになったらしい」

「へ? 何それ? そんな記述は今まで見たことないし、聞いたこともないよ」

「だが事実のようだ……ちっ、時間制限ありだと。集中する」

「え? ちょっとアキヒロさん!?」

 口を閉ざした彰弘へとジェールが声をかけるも、そこにあるのは目を閉じているが真剣な表情をしたダンジョンマスターとなった彼の顔であった。

 それから少々。時間にして五分程度であろう。彰弘の目が開きダンジョンの核から手を話しジェールを見る。

「終わったの?」

「ああ。とりあえず、ここを出よう。詳しい話は外でする」

「よく分からないけど……分かった。核も沈んでっちゃったし、いつまでもここにいる必要はないよね」

 無色透明となり禍々しさが消えたダンジョンの核は、彰弘が手を離すと石のようなものでできたダンジョンの床へと沈み消えていった。

 ダンジョンの核が無色透明となったということは、文献を信じればダンジョンの攻略に成功した証である。

 ならば、いつまでもこの場に留まる必要性は皆無に近い。

 ジェールは周囲を警戒していた面々に、ダンジョンの攻略が終わったこと地上へ戻ることを伝える。

 特に劇的なことがあったわけではないため、攻略したことに対するそれぞれの反応は薄いものであったが、外に出るということに異論があるわけではなく、一行は手早く荷物を纏め移動を開始したのであった。









 久しぶりにダンジョンの外に出た一行は、眩しい日差しに目を細めた。

 ダンジョンの中は行動するに不便はない明るさではあったが、やはり太陽のある地上とでは雲泥の差がある。

「飯の準備中か」

「だね。折角だからボクらもご飯にしよう」

 ダンジョンの中では時間を計る魔導具により食事の時間はもとより、睡眠時間も計っていた。だから、元々昼飯時であることは分かっていたのだが、ダンジョンの出入り口を封鎖していた兵士たちの一部が食事の準備をしているのを見て、改めて今がどの時分かを認識したのである。

「それはそうと、話はどうするの?」

「そうだな……全員にってのは、少々無理があるか。とりあえず、リーダー格だけに伝えて、その後はお任せにしよう」

「となると、ボクとアキラ隊長にベントさん。後はゴスペル司教かな。ベントさんの知り合いだった、半壊パーティーは……いいよね?」

「だな。知りたがったらベントに説明は任せよう」

「ボクはアキラ隊長とベントさんに声をかけてくるよ」

「分かった。俺はゴスペル司教を呼んでこよう」

 地上に出てきて早速食事やら休憩やらと、それぞれがそれぞれのため準備をしている中、彰弘とジェールはそんな会話を行ってから、手分けして今あげた人たちに声をかけていく。

 途中、彰弘が今聞きたいという六花たちを宥めたり、ジェールが声をかけにいったアキラがショウヤにも話を聞かせても良いかと尋ねたりで、多少予定とは違ったりしたが、まあ大した問題ではない。

「んじゃ、まずは飯でも食うか。いただきます」

「そうしよ。いただきます」

 彰弘、ジェールと続いて、他の面々もそれぞれに一言ずつ出してから食事を始める。

 車座で黙々と食事をすること暫し。この場の全員が食べ終わり、食後の茶を一口飲むと、ジェールが改めてダンジョン攻略を口にした。

「とりあえずダンジョンの攻略は完了。みんな、お疲れ様」

 このみんなには、勿論ダンジョンの封鎖をしていたショウヤたちも含まれている。

 ダンジョン内ほどの戦闘はなかったものの、外も怪我をして疲労が蓄積する程度には戦いがあった。

 ショウヤがアキラの代理を務めていたダンジョン封鎖部隊は、毎日なにかしらの魔物と戦っていた。時には希少種が複数混じっていたこともあるので、流石に無傷とはいかなかったようである。その証拠に用意してきた傷薬を大分使っていた。幸いなのは動けなくなるような怪我をしたり、死んだりした者がいなかったことか。

 ともかく、ダンジョンの外も大変だったのである。

「さて。まあダンジョン攻略は、今もいった通り問題はないんだけど……ダンジョンマスターだっけ?」

「そうだ。さっきちらっと確かめてみたら称号にもなっていやがった」

 ジェールに話を向けられた彰弘は身分証を取り出し、称号欄を普段表示している『非情なる断罪者』から『ダンジョンマスター』へと変えて皆に見せた。

「うわ、ほんとだ」

「称号って、そう簡単に得られるものじゃないと思うんだが」

「うむ。広く多くの人々に認知されるか、神が関わるかであるからな。今回の場合は間違いなく後者であろうな」

 彰弘は全員に見せた後、称号欄を元に戻し身分証を仕舞い、そして茶を一口啜ってから声を出した。

「とりあえず分かっている事実だけ話す。ダンジョンの核に触れた瞬間は特に何もなかった」

「そうだね。でも、そのすぐ後だよね。アキヒロさんが何か困ったような顔をして、何かに集中するって。時間制限とかも言ってたかな?」

「ああ。ジェールと話している最中に『あなたはダンジョンマスターになりました』って表示が目の前に浮かんできた。で、その表示の下に設定って文字と時間が書かれててな」

「ボクには見えなかったから、それが事実か分からないけど。まあ嘘を言う理由はないよね」

 確かにここで彰弘が皆を騙す理由はない。

 何らかの益があるのなら別かもしれないが、今の彰弘にはここで嘘を吐いて得られる益というのは皆無である。

「話を続けるぞ。設定には何階層のダンジョンにするか。魔物の強さをどうするか。星の記憶をどの頻度で出しどの程度価値あるものにするか。罠の種類や迷宮の構造をどうするか。とかあってな。で、それを五分以内やれと」

「それ、全部できたんですか? 私だったら全部をまともに考えたら一日あっても足りませんよ」

「アキラ隊長の言う通り。全部を細かくなんてできなかったさ。結局、大雑把に決めただけで時間が終わった」

「具体的には?」

「階層は十にした。魔物の強さは一層を、ここ周辺の魔物と同じくらいにして、下に行くと徐々に強くなるようにした。襲い掛かってくる数は最大で一定範囲内にいる人種(ひとしゅ)の数プラス五だ。ダンジョンキーパーは折角だからオークエンペラーと同じくらいにしたよ。それ以上にはできなかっただけだが。星の記憶はお任せだ。極端に価値ある物を多く出すことはできないらしいし、他がどんなのか分からなかったからな。ああ、一応、ダンジョンキーパーを倒したら、強さに見合ったものを出すってことだけは設定しておいた。後は……罠か。罠は即死系なしで下に降りるほど難しいものにしただけだから、余程無茶や無理をしなければ問題ないだろう。で、迷宮の構造は普通の一パーティーが普通に戦えるくらいの広さで、マッピングをちゃんとやってれば迷うことのないようにしておいた」

「ふむ。ダンジョンキーパーは異例ではあるが、それ以外は普通……いや、良い修練場といったところであるな」

「まあ、できるだけ無理じゃないようにしたつもりだ」

 彰弘が設定した内容は、冒険者で言えばランクC上位の実力があれば最終層に辿り着けるだろうというものであった。

 簡単に言ってしまえば、今現在彰弘が欲しい修練場にした、ということだ。

 強い魔物と戦いたければ深遠の樹海の奥へと進むという手はあるが、六花たちがいる今のパーティーだとそれは危険すぎる。あの樹海は今は大討伐の影響が残っているので、まだ多少ましだが、もう少しでそれもなくなるだろう。そうすると、仮に浅い部分で戦っていたとしても想定外が起こりうる。

 そんな場所へ今の段階のパーティーで行くのは躊躇われた。

「まあ、実際にどうなっているかは、明日の朝少し降りて様子見か。最終層あたりの様子確認は、高ランクに任せるさ」

「なんつーか、他のやつには知らせたくない気がする。実際に見たわけじゃないから、まだ何とも言えないが、恐ろしくバランスが良さそうだからな」

「ベントさんに同意だね。まあ、混むか混まないかは、星の記憶次第だと思うな。確かに戦うとか罠に関しては良い修練場だけど、それをメインにする冒険者ってそうは多くないからね」

 攻略されたグラスウェルの東に発生したダンジョンは、冒険者のランクDなりたてからランクC上位までになら戦闘関係と罠関係の術を上げるという意味で恩恵があることは確かだろう。

 ただ問題は、そこでどれだけの金銭が稼げるかということだ。

 どれだけバランスが良いダンジョンであっても、潜る度に赤字になるようでは混み合うほどとはならない。何だかんだいっても稼ぎがなければ生活できないのだから。

「ま、そのへんはなるようになるだろうさ。てなわけで、ちょっと休む。見張りの兵士には悪いけどな」

 話している内に腹も落ち着き、飲んでいた茶もなくなった彰弘は身体を後ろに倒して寝転がると、肩にいたガルドが彼の腹の上へと器用に移動する。

 空を見ながら、ようやく終わったなと彰弘が空を見た。

 ダンジョンがこれからどうなるかは分からない。ダンジョンマスターの称号を得たが、それは何かの益となるわけでもその逆となるわけでもない。

 ともかく、今は誰も失うことなく依頼を終えたのだからと、彰弘は少しだけ気を抜くのであった。









 後日、この攻略されたダンジョンを確認するために複数のランクCパーティーが最終層を目指す。

 ダンジョンキーパーを倒すことは無理だと判断し戦わずに帰還したこの複数のパーティーだが、それでもしっかりとしたダンジョンに関する情報を持ち帰っていた。

 結果、このダンジョンは過疎となることも混み過ぎることもない、また大きく稼げはしないが赤字になるほどでもないという、しっかりと対策さえしていれば何とも絶妙なバランスを持つダンジョンであることが判明したのである。

 なお、更に後にではあるが、ダンジョンマスターの称号を得る条件も判明した。それは自然発生したダンジョンが五階層と同等以下であること。初日にダンジョンキーパーを倒していること。ダンジョンキーパーと戦った者がダンジョンの核に触れることであった。

 ちなみにこのダンジョンマスターに関する情報は、今現在彰弘の一番身近にいる神の一柱である分身体からのものである。

お読みいただき、ありがとうございます。

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