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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
5.旅立ちへの準備期間
202/265

5-08.【東の森林ダンジョン:最終層攻略直前】

 前話あらすじ

 できたてほやほやダンジョン突入。

 めっさ余裕で一層目を抜ける。




 現在、ダンジョン攻略を目的に行動する彰弘たち一行は、三層へ下る階段の手前で小休止をとっている。ダンジョンに入るとき、そして今いる二層へ降りる際にも行っていた潜む気配の偵察が終わるのを待ちつつ、これまでに消耗した体力や魔力を回復させているのだ。

 幸い死んだ者はおらず、怪我をした者も軽くと言える程度である。そしてその怪我をした者たちもメアルリア教のゴスペル司教らの神の奇跡で傷は癒え攻略を続行するに何も問題はない。

「一つ降りただけで、これとかバランスが悪いなんてもんじゃない」

「クソゲーという感じですか?」

「一つ先のマップの敵がいきなり段違いに強くなったからといって一概にそうとは言えないが、まあ、そんな感じだ」

 三層目への階段を背中側にして立ち見張りをしている彰弘が何のことを言っているのか察し、同じく見張りをするアキラが応えた。

 直後に二人の顔に浮かんだのは苦笑である。今というときに世界融合前の娯楽の一つを思い出したことにより無意識に出た表情であった。

 さて、この二人は何について話していたのかというと、それは今いる出来立てほやほやのダンジョンのことについてである。

 一層目を難なく抜けた彼らを待っていたのは、踏破という言葉を使う程度には難易度が高い二層目であった。特に危険な罠や悩むような分岐路があったわけではないし、二層目が極端に広かったというわけでもなかったが、ただ遭遇する魔物個々の強さが一層目に比べると最低でも二倍となっていたのである。

「まだ苦戦するまではいってないが……三層の状態によっては撤退も視野に入れるべきかもしれないな」

 魔石を使い魔力を回復している六花たちを一瞥しつつ呟く彰弘にアキラが同意し頷いた。

 一層目は魔法と弓矢だけで事足りたが、二層目では剣と槍も必要なときが多々あったのである。

 一応、六花、紫苑、瑞穂、香澄の四人だけは、ここまで魔法で攻撃した魔物を仕留め損なってはいないが、それも余裕だったわけではない。特に二層での最後の戦いはオークのリーダー級と同等以上の強さを持つ個体の一団相手に相当の魔力を消耗したのである。

 二層でさえそんな状態なのだから、彰弘やアキラが撤退を考えたとしてもおかしなことではなかった。

「そういや、先に入っただろう人たちを見てないな」

「一層と二層での敵の強さの違いに気を取られてて失念してましたが、確かに。彼が見間違えるとは思えませんが」

 ダンジョンに入る前にジェールが調べた結果、彼が見た限りでは最低でも数人は彰弘たちの前にこのダンジョンに入っていて外へ出てきた様子はないということであった。

 ある程度以上拡張がされているダンジョンであれば、その中は迷路のようになっており、それぞれが別の通路を使っていて見かけないということはありえる。

 しかし、今彼らがいるダンジョンは、まだ発生してから僅かな日数した経っておらず、行き違いや入れ違えで会えないという可能性は皆無といってよい。

「通路が広すぎるせいで、俺らが戦闘中にすれ違った可能性は……」

「まずないでしょうね。あるとしたら、我々がグラスウェルを出た後に出される予定の御触れを知った上で、我々よりも早くにここまで来て潜ったために気配を消してすれ違うことにした、ということくらいでしょうか。……いえ、それもないでしょうね。御触れには封鎖する人員がいることも書かれているはずですし」

 彰弘たちが中にいるダンジョンへ入ることを一時的に禁止する御触れが冒険者ギルドから出たのは彼らがグラスウェルを出発した直後のことであった。

 領主と総合管理庁も同意の上で出されたそれは、従わなければ奴隷落ちはないものの、相当の罰金刑や一定期間の強制労働を科せられる程度には効力が高いものである。

 わざわざ罰を負う危険を犯してまでダンジョンに入る理由はない。

 あえて言えば、ダンジョンで手に入れることができる『星の記憶』産の物品で一攫千金や、強くなるために魔物の希少種狩りを行うことが理由になるかもしれない。しかし、前者は確率が非常に低く狙えるものではないし、後者にしても罪を犯して悪評受けることを考えたら、それを行う意味は薄い。

「そもそも戦闘中であり通路がいくら広いといっても、その通路は視認できる広さでしかないのですから我々が誰一人として気がつかないとは思えません」

「まあ、そうだな。全員が完全に魔物に集中していたならまだしも、あの程度であれば周囲の動きに気がつかないわけはないか」

「となると、可能性は二つですね」

「ああ。既に全員やられているか、三層へと進んでいるか。恐らくは先に進んでいるんだろう」

 ダンジョン内で生み出された魔物はダンジョン内で死ぬと直後に装備品とともに消え去るが、外から入ってきたものは人種(ひとしゅ)だろうと魔物だろうと死体も身につけていたものも残る。そのため、仮に先に入った数人が途中で死んでいたのならば、何らかの痕跡が残っているはずなのだ。しかし、彰弘たちはその痕跡を見ることはなかった。それはつまり、その先に入った数人は死んでおらず先に進んでいるということに繋がる。

 なお、余談であるが、死体などが消え去るのはダンジョン内のみであり、何故か外に出た瞬間に元々外に在ったものと同様残り朽ちていく。

「さて。戻ってきたな。ちょっと険しい顔をしているのが気になるが」

「ええ」

 一通りの会話を終えた彰弘とアキラが三層目へと続く階段に目を向けると、そこには彰弘の言葉どおり、今までとは違う表情をした潜む気配の三人の顔があるのだった。









 魔法を使う者たちが魔力の補充を負え、それ以外の者も武具の点検を終えたころに戻ってきたジェールたちの顔は、見る人に緊張感を与えるほどに険しいものであった。

「良くない知らせですか?」

「正直、それはまだ分からない。でも、まず確実に次の三層でこのダンジョンは最後だと思うよ」

「簡単に説明するとー、下は真ん中だろうけど、でっかい壁があって、その向こう側で誰かが戦ってるっぽい。あ、壁の両端から向こう側に行けそうだった」

「ん。問題なのは一番大きい気配。壁の向こうから感じるそれは私たちだけじゃ勝てないかもしれない。遭遇しても凌ぐことはできるだろうし逃げられるだろうけど、多分勝てない。私たち三人だと」

 ジェールたちは全員が普人種の子供くらいの体格にしかならない種であり、そして直接の攻撃力も低い罠師ではあるが、彼らは三人とも冒険者ギルドが認めたランクC冒険者だ。その彼らが勝てないという言葉を出したことで一行の顔に強張りが浮かぶ。

「例えるならどの程度だ?」

「そうだね。恐らく一番強いのがオークロードより少し上くらい。だから、今ここにいるメンバーでなら倒せないことはないと思うけど、問題なのは壁の向こう側の数がはっきりしないことだね。多分全部で三十くらいかな。後は救出対象がいるだろうことかな」

「壁の向こう側だからはっきりわかんないけど、階段を降りたところの正面くらいの位置にでっかい気配があってー、向かって右側で戦闘がおきてるっぽい」

「同意。まだ前哨戦の最中。多分戦っているの私たちより先に入った人たち。今なら全員かは分からないけど助けられる可能性はある」

 助けるという選択肢は、なかなかに厳しく難しい。

 一層目と二層目の魔物の強さを考えると、恐らく三層目の魔物は最低でも二層目の二倍の強さを持っているはずである。そうなると、六花たち四人以外の魔法では足止めにすらならないかもしれないからだ。

「助ける必要があるやつらがいなけりゃ、どうにかなりそうなものを」

 ジェールたちの話を聞き、服の裾を掴む妹の頭を撫でながらベントが軽く舌打をした。

 一番強いと目される魔物がオークロードより少し強いくらいで数が全部で三十程度なら、今ここにいる人員で対処できるとベントは考えている。深遠の樹海の大討伐でベントはオークロードを数人がかりでとはいえ倒していた。また同じくオークロードを倒したウェスターもいて、更にはオークキングをほぼ単独で屠った彰弘もいる。そこに加えて最硬の防御を誇る輝亀竜のガルドもいるのだ。彼の考えは決して間違っているとは言えない。

「一つ、提案があります」

 ふいに紫苑が言葉を発した。

 彰弘含む面々の顔が彼女へと向く。

「どうした?」

「私たちは魔力が見えます。ですので魔法の誤射は限りなくゼロですから、その戦っている人たちの周囲の魔物を倒すことが可能です」

 魔力が見えないと自分が思っている目標とは違う場所へと魔法が着弾する可能性がある。これは知らず知らずの内に魔法を運ぶ魔力の導線が、そのとき意識したところへと逸れてしまうからだ。

 しかし魔力が見える者は、都度その魔力の導線を的確に修正することが可能であるために、実質魔法の誤射というものを起こさないのである。

「誤射がない。それは良いが、倒せるのか?」

 だから紫苑の言葉に頷けるところはあるのだが、問題はその威力だ。二層での戦いで、彼女らは魔物を屠ることはできていたが、それは今現在放てる最大の威力だったであろうことが、放った後の状態から彰弘たちには見て取れていた。

 とても三層にいる魔物を殺せるとは思えない。

「残念ながら今の私たちの個人の力では無理です。ですが、私と六花さん。それから瑞穂さんと香澄さんであれば、複合魔法を使うことができます。使うと魔力が枯渇寸前となってしまいますが、少なくともこの二層程度の相手ならばまとめて塵一つ残さず消し去れるはずです」

 複合魔法は二人以上の魔法使いがそれぞれ別種の魔法を一つとして放つ強力な魔法である。しかしただ単に二つの魔法を合わせただけでは、お互いのそれが干渉し合い消失してしまう。この魔法を使うにはお互いの魔法を同調させるという熟練の魔法使いでも難しいと言うよりも、ほぼ無理と言えるだけの魔力操作技術が必要であった。

「彰弘さん。助けられるのなら助けたい」

「そうそ。できるのにやらないのはダメでしょ」

「伊達に学園に通っていたわけじゃありません。いっぱい練習しました。やれます」

 紫苑、六花、瑞穂、香澄の口調はいつもどおり。しかし、その雰囲気は既に各々が全力で戦う際のそれへと変化していた。

「ふむ。良いのではないかな? 彼女ら決意は見事。友人の顔も大丈夫と言っているのであるからして、ここは進むべきだと思うのであるな。なに、彼女らの守りは任せよ。こう見えても私は、いや私らはルイーナ様より加護を頂戴しているでな」

 ルイーナとはメアルリアが五柱が一柱、平穏と安らぎを司る守護神である。

 一緒に来た司祭の二人はともかく、司教服の上からでも筋肉が主張するゴスペル司教の加護がルイーナのものであることは見た目からは少々想像が難しいが、ともかく守りを任せるに不足はないようだ。

「そういうことらしい。ジェール、最後の判断は任せる」

 軽く息を吐き出してから彰弘はジェールに判断を求める。

 このダンジョン攻略のリーダーはジェールであるから当然のことだ。

 彰弘に顔を向けられたジェールは、一度目を瞑りそして開くと同時に口を開いた。

「分かったよ。なら行こう。三層に降りたら右へ。壁の向こう側に言ったらボクが声で余計な動きをしないように誘導する。だから、それから魔法を撃って。その後は状況次第だけど……遠距離攻撃できる人は、その場から攻撃。彰弘さんとウェスターさんは一番強いやつを。アキラ隊長たちは半分は攻撃、もう半分と彰弘さんのパーティーで魔法が得意じゃない人も、その場で護りに。ああ、ガルドも護りがいいかな?」

「ああ。ガルドには最大サイズになってもらって、背後を完全に塞いでもらう。逃げる必要があったら指示を出してくれれば、即座に小さくなれるからな」

「(任せよ。例え同じ竜種が来たとしても防ぎきってみせようぞ)」

 小休止の間中、最小サイズで彰弘の肩に乗っていたガルドがふんすと鼻息を鳴らす。

 少々フラグっぽい物言いであったが、大討伐以降も延々といろいろな金属を摂取しているガルドは、更に身体を強固に強靭にしていた。

「ベントさんたちは……」

「ああ、ミーミとベスは弓矢で攻撃させて、俺らは生き残ったやつらを相手する」

「うん、よろしく。ボクは劣勢になりそうなところをフォローするよ」

 簡単に行動の指針を示したジェールは、三層への階段に目を向ける。

 その動きに彰弘たち面々は表情を引き締め、それぞれが持つ武器に手を当てた。

「じゃあ、行くよ。救出およびダンジョン攻略作戦開始!」

 ジェールの合図で一行は動き出した。

 こうしてグラスウェルの東の森林に発生したダンジョンの最終層攻略が始まったのである。

お読みいただき、ありがとうございます。



二〇一八年 七月 一日 〇〇時三十五分 5-07.【東の森林ダンジョン:第一層目】に追記

アキラの部下のショウヤもダンジョン攻略に参加しており、入口封鎖の任に就いていることを追記。


二〇一八年 七月 一日 〇〇時三十分 5-06.【東の森林ダンジョン:出発直前】に追記

ダンジョンへ入ることを禁止することについてを、最後の質問箇所に追記


「さて、何か質問はありますか?」

「そういえばダンジョンへ入ることを禁止したりはしないの?」

「あなたがたが出発してから領主と総合管理庁の同意を付けた御触れを出します。ダンジョン発見と同時にとも考えましたが、知ったら行きたくなるのが冒険者というものですから」

「否定はできないね。まあ、ヘタに知られて殺到されるよりはいいかもね。うん、他にはないよ」

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