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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
5.旅立ちへの準備期間
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5-07.【東の森林ダンジョン:第一層目】

 前話あらすじ

 依頼の話があった翌日。冒険者ギルド北東支部を訪れた彰弘は会議室に通され、そこで正式な依頼書を受け取る。

 そしてその場で今回の依頼について確認の意味を持つ話を、同行者とともに聞くのであった。





 グラスウェルの東の森林を進む彰弘たち一行の前に姿を現したのは、一辺が十メートルほどの石畳と、その中央に建つ幅も高さも奥行きも四メートル程度の建物であった。

 よく見ると石畳には繋ぎ目がない。そう思えたのは模様が入っっているためであった。

 建物の方も同じである。地下へ続く階段を囲う三方の壁に天井、それから石床と、どこを見ても繋ぎ目は見当たらなかった。

「溶接したみたいな後もないし、削り出しかこれ? 造ろうと思ったら、とんでもなく時間がかかりそうだな」

「削り出すのも大変でしょうが、任意の場所に造るとなるとこの大きさの塊を運ばないとなりませんから、信じられないくらいの労力が必要になりますね」

「おー、硬い」

「ほんとだ。見た目は石なのに鉄っぽい」

「魔素溜まりからできたんだよね、これ? 一度、その瞬間を見てみたいかも」

「私も見てみたいですね。トラスター様はみたことがあるのでしょうか……」

 ダンジョンの入り口を見た彰弘たちの反応は三者三様である。

 彰弘や紫苑のようにできるまでの過程を自分たちに置き換えて考える者がいれば、六花や瑞穂みたいに実際に存在するそれに興味を持つ者もいた。また、香澄やクリスティーヌのようにダンジョンができる際の不可思議さを思う者がいた。それから森林の中にぽっかりと空いた石の空間に声なく立っているだけの者もいる。

「さて、みんなー。そろそろ準備するよ」

 ダンジョンの入り口に到着した面々が思い思いの感想を抱く中、ジェールが合図をかける。

 この一行の目的はダンジョンの攻略であるのだから、いつまでも行動を起こさないでいることに意味はない。

「とりあえず、ボクたちは軽く中の状況を見てくるから、その間に封鎖の方よろしく。で、ボクたちが戻って、そして封鎖も終わってたら、お昼ご飯。それから本格的にダンジョン突入だよ」

 ジェールの言葉はグラスウェルを出る前に話し合ったことと違いはない。

 ジェールたち潜む気配がダンジョンに入り中の状況を確認し危険度を判断。もし危険度が想定よりも高いようなら、断罪の黒き刃のメンバーでは彰弘とウェスター、それから臨時で加入しているメアルリアのゴスペル司教たち三人のみがダンジョン攻略に参加することになる。残る六花たちはグラスウェルへと帰還だ。

 なお、六花たちの護衛が目的で同行しているベントら草原の爪痕は、そのままダンジョン攻略に参加する。彼らにはそれだけの実力があるからだ。

 封鎖については主にアキラを筆頭にした兵士たちが行う。ダンジョンの入り口へ近寄れなくするため、石床の切れ目近くに生えている木々を使い鉄条網を張り巡らせるのだ。この鉄条網は魔鋼製の有刺鉄線で作られており、オーク程度の希少種であれば一時的に足止めが可能である。足止めをしてその間に槍で始末する算段であった。

 ちなみに万が一魔物に襲われて逃げる者が近づいてきた場合を考えて、この鉄条網の一部は空けられることになっている。

「じゃあ、始めるよ。作業開始!」

 ジェールの声でそれぞれが行動を開始した。









 鉄条網の高さは二メートル強。この森林に生息する動物や魔物では飛び越えられない高さである。その鉄条網の内側に目を向けるとダンジョンへ通じる階段を囲う建物の横に立方体を積み上げた高台が設置されていた。魔物などの早期発見を考え、彰弘がマジックバングルの中に保管していた輝亀竜の甲羅を使い急遽作り上げたのである。

 それはそれとして、ジェールたちが確認を行っていたダンジョンの中は想定内といったところであった。

 魔素溜まりから発生した階層型のダンジョンは、ある程度まで拡張が進むと迷路となる。しかし、この彰弘たちが攻略しようとしているダンジョンは発生してからそれほど経っていない。通路と呼べるようなものはあれどもまだ分岐などはなく、とても迷路とはいえない状態であった。

「とりあえず、まだ一層の入り口周辺を見ただけだけど、想定内だったね。ダンジョン特有の光りもあって、行動には支障ないし」

「うん。まあ、奥に進んだら暗闇とかあるかもだけどねー。そうそう分岐はないっぽいしー、大人十人が横に並んで歩けるほど広かったよー」

「一層だからかもしれないけど、罠も見当たらなかった。魔物はゴブリンとフォレストウルフを見かけたくらい」

 食事をしながらジェールたちがダンジョンの中の様子を語った。

 ダンジョンが発生すると基本的に発生した場所にいた魔物と同種で同じ強さのものが、まず中で生み出される。そのため、今回のように希少種が多く発生していた場合、初日はダンジョンに入ってすぐ複数の希少種と遭遇するということになるのだ。

 そしてダンジョンが拡張していくとともに、最初に生み出された魔物は強化され下層へと移動していき、上層ではそれらより強さで劣る魔物が生み出されていくことになる。

「問題は最低でも数人……たぶん一つのパーティーだと思うけど、このダンジョンに入って出てきてないらしいってところかな」

「どのくらい前に、とかは分かりますか?」

「足跡の様子から今日の確率は高いかな。この森林の奥まで来れるくらいだから、一層にいる魔物がボクたちが見た種類だけなら、二層以降に進んではいるだろうね」

「それは少し面倒だが……とりあえずは予定通りにいけるか」

「そうだね。アキヒロさんの言うとおり。見かけて助けられそうなら助けるってことで。さてさて、それじゃそろそろ向かおうか。できたてほやほやダンジョンに」

 ジェールの言葉で、食事を終えてその後のお茶を飲んでいた一行は片付けをはじめる。

 それから少しして、彰弘たちはダンジョンへと入って行くのであった。









 ダンジョンの中はジェールたちの言う通りであった。

 通路と呼ぶよりは広い部屋と言ったほうが正しいのではないかと思える空間が階段を降りた先に広がっている。

 明るさについてもダンジョン全体が僅かな光りを出しているため、わざわざ彰弘たちが明かりを用意する必要はなかった。

「俺らが前に入ったことあるダンジョンは一番広い通路でもこの半分以下だったよな」

「だな。まだランクEで試しに一層を覗いただけだったが、確かにこんな広くはなかった」

 一頻り周囲を見回したベントたちは、ライズサンク皇国の北側にあるノシェル公国に存在するダンジョンを思い出し、そんな会話をする。

 実際のある程度拡張されたダンジョンで、ここまでの広さの通路を持つものは少ない。

 このダンジョンはまだ初期の初期であるために通路さえも未だに未完成であり、ここまで広いのである。

「もう少し拡張が進めばここも狭くなると思うよ。ほら、あそこが盛り上がってる。多分、あれが壁になるんじゃないかな」

 ベントたちの会話を聞いたジェールが指差すそこは通路の中央あたり。

 なるほど、地面が不自然な形で盛り上がっており、興味をそそられる。

 が、それを理由に観察しているわけにはいかない。

「なかなかに興味深いところですが……」

「そうだね。攻略を優先しよう。何事にも想定外は付きものだし」

 アキラが促しジェールが同意したように、想定外というものは必ず起きることではないが、その逆も否定できないからだ。

 例えば階層型ダンジョンの拡張についても、一日に一層ずつ増えていくというのは、これまで人種(ひとしゅ)が経験したものを書き記した文献から、そうであると導き出したものであって、正確にダンジョンのことを理解したものではない。

 ダンジョン内の魔物についても同じだ。ダンジョンの核に近いほど魔物が強い等も、あくまで経験則から来るだけのものであった。

 だからこそダンジョンは、その時点での難易度に関係なく、可能な限り早く攻略する必要がある。

 ダンジョが拡張していく過程などを調べるために様子見をして、その結果取り返しのつかない事態になることだけは避けねばならなかった。









 ダンジョン内の広い通路を進むのは総勢三十六人。

 彰弘の断罪の黒き刃がゴスペル司教らを入れ十七人。ジェールらの潜む気配は三人で、ベント率いる草原の爪痕が六人。そしてアキラ率いる兵士が十人である。勿論、彰弘の従魔であるガルドもいた。

 隊列の先頭はジェールと彼のパーティーメンバーであるフーリが務める。これは罠の看破や魔物の接近を早期に発見するためだ。そんな彼らに続くのはアキラ含む彼の部下五人である。そしてその後ろには彰弘――とガルド――を除く断罪の黒き刃のメンバーがおり、その両脇を三人ずつに別れベントたちが歩く。更にその後方にアキラの部下の残り五人がおり、最後尾を彰弘と軽自動車ほどの大きさとなったガルドが進む。ジェールのパーティーの残り一人であるウィークはガルドの上で後ろ向きに乗っており後方を警戒していた。

 ちなみにアキラの部下で彰弘の知り合いでもあるショウヤもこのダンジョン攻略に参加しているが、彼は地上で封鎖の任に就いている。

 さて、一行がダンジョン内を慎重に進むこと数分。曲がり角まで後十数メートルといったところで、先頭を往くジェールが片手を横に広げ一行の足を止める。

「来るよ。多分ゴブリンが十程度」

「魔法用意。アカリも弓を」

 ジェールの言葉にウェスターが指示を口にし、射線上にいた者たちが身体をずらす。

 消耗は少なければ少ないほど良い。

 今回のダンジョン攻略にはメアルリア教の神官が三人もいるため、多少の傷ならどうということはないが、万が一を考えれば接近する前に現れた魔物を倒してしまえるのが望ましい。

 だから、事前の話し合いで魔法や弓矢だけで片付けられるのならば、そうすると決めていたのである。

 魔力も矢も無限ではないが、冒険者ギルドが気を利かして魔石と予備の矢をそこそこの量都合をつけていてくれた。そしてその大半は彰弘のマジックバングルに収納されている。

「三……二……一!」

「攻撃開始!」

 ジェールのカウントでタイミングを計り、ウェスターが合図を上げる。

 遅滞なく放たれた魔法と矢は、曲がり角から現れたゴブリンが攻撃に動こうとする間もなく炸裂した。

 ゴブリンの集団は、燃え上がり凍り貫かれ斬り裂かれ、瞬く間に地に伏し動かなくなる。

 二か月ほどの期間を連携などに費やした結果であった。

「攻撃終了!」

 ウェスターの声により、ダンジョン内での最初の戦闘が終わる。

 時間にして、ものの十秒ほどであった。

「見事だねー」

「ちょっと過剰だった気がしないでもないけど、足りないよりは良いよね」

 話しながら気配を探り、もう曲がり角の向こうに魔物がいないことを確認したジェールが笑みを浮かべて言うと、それを聞いた六花たちは少々恥ずかしそうな顔を見せた。

 六花にしろ、それ以外の者にしろゴブリンならどの程度の魔力で魔法を使えば良いかを分かってはいたが、初めてのダンジョン内での戦闘ということで少し力んでいたようである。勿論、唯一弓矢で攻撃したアカリも同様で、少し力が入りすぎていた。それでも狙いを外していないのは、それぞれが確かな実力を持っていたからである。

「まあ、最初だからね。んじゃ、行こうか」

 そして隊列を戻し歩き出そうとして、ジェールは言い忘れていたことを思い出し再び口を開いた。

「そうそう、すっかり忘れていたんだけど……ダンジョン内だと剥ぎ取りできないから攻撃する箇所は気にしなくて良いよ。ほら、見てご覧」

 ジェールの視線の先は魔法と矢で殺されたゴブリンの死体があった場所であるが、既に死体はなく変わりに殺したゴブリンと同じ数だけの魔石が落ちていた。

「ダンジョン内だと魔物の死体は残らないんだよね。だから剥ぎ取りはできない。でも変わりに魔石とかが落ちるんだ。運が良ければ一攫千金の物が落ちることもあるってさ。まあ、大抵は倒した魔物の質で倒した数だけの魔石しか落ちないんだけど」

 過去にはゴブリンからそこそこの性能の魔剣が落ちたという話もあるが、大抵は今のような感じである。

「さ、今度こそ本当に進もう」

 そう言ってジェールは、また歩き始める。

 それから何度か曲がり角を曲がり、数度の戦闘を経て一行は二層目への下り階段へと辿り着くのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



二〇一八年 七月 一日 〇〇時三十五分 追記

アキラの部下のショウヤもダンジョン攻略に参加していることを追記。


なくてもいいかなと始めは思いましたが、何となくもやもやしたので追記です。

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