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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
2.避難拠点での生活と冒険者
18/265

2-3.

 前話あらすじ

 彰弘は雇われ院長のサティから話を聞きながら、融合した世界についての知識を集めていく。

 そんな中、見舞い兼お世話に来た六花達と再会を果たす。

 自分の胸ですすり泣く六花の頭と背中を彰弘は優しく撫でる。


 両親を亡くした六花にとって彰弘の存在は特別だった。

 何故なのかは六花にもよく分かっていない。命を助けてくれたからかもしれないし、必要以上に子供扱いしなかったからかもしれない。

 ともかく理由は分からないが、彰弘と一緒にいると安心できた、何より安らげた。

 別に他の大人を六花が嫌っているわけではない。現に自分のことを心配してくれる教頭の鷲塚や担任の桜井、それに他の大人達へと六花は感謝している。そして頼りにもしている。でもそれだけだった。彰弘に感じた安らぎを他の大人からは感じることができなかった。

 だからかもしれない。耳に届いた彰弘の声に、六花の身体は考えるより先に反応した。気が付いたら彰弘の身体に縋り付き六花は泣いていた。

 やっと彰弘の声が聞けた。やっと撫でてもらえる。そして何よりも、やっと無事なことが確認できた。

 いろいろな感情が六花の涙に、そして行動に表れていた。


 暫くの間、彰弘に抱きつき泣いていた六花だがおもむろに身体を離す。そして、目を赤くしたその顔に嬉しそうな表情を浮かべ口を開いた。

「おはようございます。彰弘さん」

「ああ、おはよう。六花」

 はにかむように微笑む六花の頭に手を置いた彰弘は、その手を優しく動かしながらそう答えた。









 六花が彰弘から離れると紫苑が自分の番とばかりに彰弘に抱きついたり、サティリアーヌが残る二人の少女をけしかけようとしたりと多少の騒動はあったが、今は落ち着いていた。


 部屋の中にいるのは六人だ。ベッドの縁に腰掛ける彰弘の左隣に六花が座り、反対側には紫苑が座っている。残りの三人は彰弘達と対面の位置で丸イスに座っていた。


 全員が座ったのを確認した彰弘が口を開こうとする。しかしそのタイミングで、彰弘の正面に座るショートカットの少女、そしてその少女によく似た顔立ちのポニーテールの少女が突然立ち上がった。


 二人の少女は一卵性の双子のように似ているが、それ以外は際立った特徴は見受けられない。容姿は普通であり背格好も特筆すべきところはなかった。ただその雰囲気が少しだけ普通の少女達とは違っていた。


 立ち上がった二人の少女は彰弘の顔を見据える。そしてショートカットの少女が口を開いた。

「あ、あの、小学校では助けてくれて、ありがとうございました!」

 大きな声でそう言ったショートカットの少女は、言い終わりと同時に勢いよくお辞儀をした。続いてポニーテールの少女も同じくらいの声量で「ありがとうございました!」と声を上げ、これまた同じように頭を下げる。

 小学校で助けてくれた彰弘に、もう大丈夫と伝えたかった二人は自分達が思う以上に力が入ってしまっていた。

 そんな少女二人に呆気にとられた彰弘だったが、一呼吸した後には顔に笑みを浮かべ「どういたしまして」と声を出した。

 その声に頭を下げていた二人はゆっくり姿勢を戻す。

 そして何かを感じたのか少女二人は部屋にいる人へ順番に視線を向けていった。

 そこには微笑ましそうに自分達を見る彰弘と目を見開く六花と紫苑。そして優しげな笑みを浮かべるサティリアーヌがいた。

「うわぁ〜! 何かめちゃくちゃ恥ずかしい〜」

 彰弘達の反応に恥ずかしさを覚えたショートカットの少女は赤面した顔を両手で覆う。その言葉と行動に隣のポニーテールの少女も「余計に恥ずかしいよ〜」と口に出し顔を赤くした。


 少女二人が恥ずかしがる様子を暫く見ていた彰弘はあることに気付いた。

「そういえば、殴られた痕は消えたんだな」

 彰弘が言う痕とは、ショートカットの少女が小学校で殴られ負った傷のことであった。

「はい。ミリアさんて人が治してくれました」

 まだ赤面状態から脱していないショートカットの少女だったが彰弘にそう返す。

 それを聞いた彰弘が安堵の顔で「よかったな」と言葉を出すと、ショートカットの少女は嬉しそうに「うん」と頷いたのだった。









 恥ずかしがっていた少女二人が落ち着き、丸イスに座りなおしたところでサティリアーヌが口を開いた。

「そろそろ話を進めましょ? 忙しいわけじゃないけど、まずは当初の目的を達しなきゃ」

 その言葉に彰弘はそれもそうだと口を開く。

「サティの言うことももっともだな。ただその前に二人の名前を教えてもらっても構わないか? 何か会話をするにしても名前を知らないとやりづらい」

 そう言うと彰弘は目の前に座る少女二人へ視線を向けた。

 二人の少女は顔を見合わせ首を傾げる。少しして彰弘の顔を見て、また顔を見合わせ再び首を傾げる。

 妙な沈黙がその場に流れた。

 サティリアーヌがジト目で彰弘に視線を送り、六花と紫苑は何やら目線だけで会話をする。

 彰弘が「もしかして俺は忘れてるのか?」と疑問を持ち始めたころ、『ぽんっ』と手のひらを叩き合わせる音が響いた。

「あははは〜。ごめんなさい。もう自己紹介やったもんだとばかり思ってた。ほら、六花ちゃんや紫苑ちゃんと彰弘さんの身体拭いたりとか、ここ数日ずっとしてたからてっきり。ほんとごめんなさい」

 照れ笑いと申し訳なさが同居したような顔でショートカットの少女はそう口にし、頭を下げた。

 もう一人の少女も「ごめんなさい」と彰弘に向かって頭を下げる。

 それを期にジト目だったサティリアーヌは彰弘から顔をそらし、六花と紫苑は頷き頷き合う。そして彰弘は心の中だけでいろいろな意味を含んだため息をついた。

「ああ、いや……、いろいろあっただろうから仕方ないさ」

 頭を下げる二人の少女へ彰弘はそう声をかける。そして改めて名前を教えてもらえないかを口にした。


 始めに口を開いたのはショートカットの少女だった。

「あたしの名前は紅林くればやし 瑞穂みずほ。今年で十四になります」

 瑞穂はハキハキとした口調で自分の名前と年齢を口にする。

 続いてもう一人、ポニーテールの少女が声を出した。

「わたしは紅林くればやし 香澄かすみと言います。瑞穂ちゃんと同じで今年十四歳になります」

 香澄は瑞穂より幾分ゆっくりした口調だった。

「「よろしくお願いします。彰弘さん」」

 瑞穂と香澄の二人は、その言葉と同時に今日三度目の頭を下げた。


 二人が元の姿勢に戻るのを待って彰弘は声を出した。

「こちらこそよろしくな。ところで二人は双子なのか?」

 容姿がとても似ており名字まで一緒なのだ、そう思うのも無理はなかった。


 彰弘が二人の少女と初めて会ったのは小学校の校庭なのだが、緊急事態であったため容姿を気にしている余裕はなかった。その後もいろいろとあり、小学校にいたときは今ほど落ち着いて彰弘と少女二人が対面する時間はなかったのである。


「よく言われるんですけど、あたし達は従姉妹同士なんです」

 彰弘の問いに瑞穂が答える。その横では香澄が頷いていた。

「従姉妹か……双子、それも一卵性と言われた方がしっくりくるな。姉妹でもここまで似ているのは、見たことないし」

 そんな感想を彰弘が漏らす。

「あはは〜、あたしのお父さんとお母さんは香澄のお父さんとお母さんと双子なんだー」

「瑞穂ちゃん、それだと説明不足だよ〜。彰弘さん、わたし達の両親は一卵性の双子同士なんです。だからわたしと瑞穂ちゃんは似てるんです」

 瑞穂の説明に香澄が突っ込みを入れ付け加えた。

「ああ、それなら可能性はなくもないのか……」

 もう少し詳しく聞いてみたいと思った彰弘だがとりあえず納得することにした。が、少しだけ遅かったようだった。

「アキヒロさーん。女の子と仲良くお喋りするのはとーっても良いことなんだけどね。そろそろ話を再会するべきだと思うのよ」

 それまで黙って会話を聞いていたサティリアーヌが地の底から響くような声色で彰弘に声をかけた。

 その声に瑞穂と香澄はギョッとした様子で声の主へ目を向け、彰弘の目が醒めてから終始機嫌が良い六花と紫苑も何事? と視線を動かした。

 そして彰弘は乾いた笑いを浮かべる。

「ああ、いや、すまん。そうだなまず今後についてを話しておかないとな」

「まったくもう。まぁ、いいわ。ちょっとお茶と入れ直してくるから待ってて。それから続きを話しましょ」

 彰弘の言葉に声色を戻したサティリアーヌはそう言うと、丸テーブルの上の空になったコップなどをお盆に載せ始めた。

 そんな彼女に彰弘が躊躇いがちに声をかける。

 「なに?」と問うサティに彰弘は「タバコが吸いたい」と最低限の言葉で答えた。

「ぷっ。何の脈略もないわね」

 一端、手を止めたサティリアーヌは笑いで軽く噴出す。そして言葉を続けた。

「避難所から持ってきたアキヒロさんの荷物ならベッドの下にあるわ。で、吸いたいなら屋上ね。折角ひさしぶりに晴れたんだし外もいいわね。用意ができたら私も屋上に行くから、先に行ってて。屋上へ上がる階段はトイレを通り過ぎたところよ。じゃ、また後でね」

 何かがツボに入ったサティリアーヌは丸テーブルの上を片付けると、笑いながらそのまま部屋を出て行った。


 部屋から出て行くサティリアーヌの後ろ姿を見ながら彰弘が「よくわからん」と呟く。四人の少女も同じだったのか、その彰弘の言葉に頷いたのだった。









 お茶の用意をし終え、お盆片手に屋上へ続く扉を開けたサティリアーヌはそこでの光景を見て疑問に首を傾げた。


 サティリアーヌの目に映ったのは台風一過のような空とここ数日で馴染みとなった屋上からの風景、そして何やら固まって話をしている五人の姿だった。


 屋上に備え付けられたベンチの上にお盆を置いたサティリアーヌは話をしている五人に近づき声をかけた。

「何してるの?」

「なぁ、この煙草にオイルライター、それに灰皿は俺のか?」

 彰弘はその声へと振り向くとそう返し、手に持った物をサティリアーヌに見せた。


 彰弘の手の上には、白い紙のパッケージに杖と剣が交差する印が付いた紙巻煙草とエッジング加工で人物などが精巧に描かれた白銀色のオイルライターと、そしてオイルライターと同じ材質に同じ加工が施された携帯灰皿が載っていた。


「『俺のか』とか言われても私はあなたの荷物を開けてないから知らないわよ」

 そう言いながらサティリアーヌは彰弘の手の上にある物を一つずつ手に取り確認していく。

 煙草自体にはそれほど反応を示さなかったサティリアーヌだが、残りの二つについては少し目を見開いた。

 その様子に彰弘を含む五人が注目しているとオイルライター以外を彰弘に戻し、サティリアーヌが口を開いた。

「結論から言うと、煙草はメアルリア製造の普通のだから何とも言えないけど、オイルライターと言ってたこの着火の魔導具と、その灰皿と言ってた煙草消却の魔導具はアキヒロさんの物だと思うわよ。だって底面に名前が刻まれてるし」

 そう言いサティリアーヌはオイルライターの底を見た。

 彰弘も返された携帯灰皿を裏返し確認する。

 そこには辛うじて読み取れる度合いの英語筆記体で確かに彰弘の名前が刻まれていた。

「俺、名前なんて彫った覚えないんだが……」

 オイルライターを返してくるサティリアーヌに彰弘はそう呟く。

「名前については答えようがないわね。何故その煙草を持っているのかとか、うちに関係ありそうな魔導具だなとか、そこは気になるけど、まぁ、いいんじゃない? 名前はパッと見わからないし。それにそれは便利な物だし、あなたの荷物の中にあったんだから自分の物として使えばいいと思うわ」

 彰弘はサティリアーヌの言葉を聞きながら風下に移動し煙草へと火を点けた。

 移動したのは少女達に煙草の煙がいかないようにするためだったが、完全ではなかったようで六花が「やっぱりバニラです〜」と鼻をひくひくさせた。

「普通に使えるのね。魔導具の使い方を知ってるとは思わなかったわ」

「ん? いつも通りにしただけだが……。そういえば魔導具とか何とか言ってたな」

 先ほどのサティリアーヌの言葉を思い出した彰弘はそう答える。

「そうよ。今この世界にはオイルライターに使われていたオイルは存在しないもの。中を見てみれば、違うということがわかるわ」

 その言葉に従い彰弘は咥え煙草で着火の魔導具のフタを開けた。


 フタを開け一見では今までのオイルライターとの違いは見えない。しかし、二つほど違いがあった。

 まず通常のオイルライターはケースの中にインサイドユニットが納まっている。だが、この魔導具はケースとインサイドユニットに別れてはいなかった。

 この時点でもう別物といってもいい。

 残りの違いそれはウィックの部分だ。この部分にはウィックの変わりに透き通った赤い石のようなものが鎮座している。

 ウィックの役割はインサイドユニットの中の綿球に染み込ませたオイルを気化させるものだ。

 オイルライターはこの気化させたオイルに火花を飛ばし着火させることで機能を発揮する。


 フタを閉めた彰弘は困惑したような声を出した。

「自分で使っておいてあれなんだが、これどうやって火を点けるんだ?」

 彰弘の言葉にサティリアーヌは一瞬固まり、四人の少女も動きを止めた。

「部屋で話を聞いたときも驚いたけど、身体を動かす以外の魔力も無意識に使っていたのね。まぁいいわ。その魔導具の場合、フタを開けることでその機能が活性化するの。そしてホイール部分を回すと同時に魔力を注ぎ込むことで火が点く。そしてフタを閉じると機能が不活性化して火が消える。ま、こんな感じね。ついでに言うと煙草消却の魔導具もフタを開けて魔力を流せば中に入れた吸殻を消すこができるわね。消せるのは吸殻と灰だけだからそこは注意ね」

 そこまで言ってサティリアーヌは口を閉じた。


 説明を受けた彰弘は何度か火を点けたり消したりを繰り返す。そして短くなった煙草を携帯灰皿の中に入れ、吸殻を消そうと意識を集中した。

 すると魔導具が起動し灰皿の中の吸殻が目に見えて消えていった。


「おお、これは便利だな。ところでこれ発火石の交換とかどうやるんだ?」

 携帯灰皿はともかく、火花を飛ばしていたライターの方は発火石が無くなると使えなくなるのではないかと彰弘は考えたのだ。

「あ、それダミーみたいね。他にも着火には不要なものがいろいろついてるわ。ホイールを回すときの重さや、多分だけどフタを開けたときに香る匂いとかね。ああ、そうだ言い忘れていたけど、二つ共、使用者の魔力だけを使って動く魔導具だから魔石の交換は必要ないわ。ちなみに一般的に魔導具と呼ばれる物はほとんどが魔石を使うタイプだから、その二つの魔導具は装飾含めて結構貴重よ。まぁ、大切にしてよ、どうやらうちの女神様達の贈り物の可能性があるし」

 聞き捨てならないサティリアーヌの言葉に彰弘の片眉が上がる。

「それは、ライターと灰皿に刻まれている女性達のことですか?」

 彰弘とサティリアーヌのやり取りを黙って聞いていた少女達の内、いち早く言葉の意味を悟った紫苑が声を出した。

「そうよ。その二つの魔導具に描かれているのはうちの五柱の女神様。ともかく大事にした方がいいわ。きっと何かの役に立つから」

 彰弘はライターを、少女四人は彰弘から借りた灰皿をそれぞれ見つめていた。

 そんな中、紫苑が再度口を開いた。

「そうなると、あの地図みたいな物も関係あるんでしょうか?」

 その言葉に彰弘はポケットに入れたままの紙を思い出し取り出した。

 「それは?」と聞いてくるサティリアーヌに彰弘はその紙を手渡す。

 暫く受け取った紙を見ていたサティリアーヌは彰弘にそれを返しつつ自分の意見を述べた。

「う〜ん、赤丸がこの拠点のことだとすると、その下に書いてあるグラスウェルは、この拠点から南に一キロメートルほどのところに融合した街の名前。そしてそこから左の方に書かれているサガというのは今の皇都。その皇都サガから左下に書かれているのが私達の本殿があるアルフィスよ。ちゃんとした地理が分からないから何ともいえないけど、魔導具と一緒に入っていたなら無関係とは思えないわね。多分、二年か三年もすれば主要街道が載った地図が出回ると思うから、それからどうするか考えればいいと思うわ」

 今は外に出て生き残れる可能性が低いだろうことを彰弘は感じていた。だから彰弘はサティリアーヌの言葉に頷いた。


 話が一区切りついたところで、サティリアーヌはお茶を入れて皆に配った。そして自分の分を一口飲むと声を出した。

「さて、随分脱線したけど本筋に戻るわよ」

 そうサティリアーヌは仕切りなおすと彰弘に目を向けた。

 そんなやり取りを見た六花が両手でコップを持って「何のお話ですか?」と首を傾げた。

「六花達が来る前に話してたことさ。これからどうするかって内容だ。まぁそれほど話すことはないんだけどな」

 そう言った彰弘は六花に目をやり一瞬の躊躇いを見せる。

 そんな彰弘に六花は違和感を感じたが次の瞬間には元に戻ったため、特に口を開かなかった。

「とりあえず、冒険者の登録を行う。そして外で活動できるように努める。その後、実力がついたと自覚したら……家族の安否を確認しに行く。生きているか死んでいるか分からないが、どちらにしても自分の生死はこちらから伝えたい。うちの両親は六十半ばだ、こちらから行かない限り出会える可能性は皆無だからな」


 その言葉を聞いた六花は先ほど彰弘から感じた違和感の正体を知った。

 要は両親が死んだ自分の前で、彰弘自身の家族が生きているかもしれないから、それを探しに行くと言うのを躊躇したために出たものだったのだ。

 そんなことで躊躇う必要はないのに、と六花は思う。

 自分の両親は死んでしまったけど「見守っている」という言葉と共に指輪を残してくれた。それに六花は彰弘の家族に、両親に会ってみたかった。

 だから六花はそのことを声に出した。


「彰弘さん。行くときはわたしも連れてってください。足手まといにならないようにがんばるから、だからお願いします。わたしも彰弘さんの家族に会ってみたいです」

 真剣な表情でそう訴える六花を彰弘は驚いた目で見つめた。

「そうか。なら、そのときになっても六花の気持ちが変わってなかったら一緒に行こうか」

  そしてそう返して、彰弘は六花の頭を撫でた。


 危険だと思ったりもしたが、いざとなったら家族を探しに行くのを取りやめればいいと彰弘は考えた。

 死んでいるかもしれない人を探しに行くのに、今生きている少女を危険に晒すことは、彰弘にはできそうもなかった。


 彰弘がそう考えていると、今度は紫苑が口を開いた。

「彰弘さん、私もご一緒させてください。今すぐには無理ですが成人になるまでには、六花さんも私も外に出れる実力をつけてみせます。ですからそれまで……お待ちください」

 鬼気迫るとまではいかないが、それに近い雰囲気を纏った紫苑が六花と同じく真剣な表情でそう宣言した。

 どことなく彰弘は自分の考えを読まれたような気がした。

 彰弘は内心で、少女くらい守れるようにならないと駄目ってことかな、と苦笑する。

 そんな風に彰弘が思っていると黙っていた瑞穂が突然手を上げた。

「はいはーい。あたしもあたしも! あたしも彰弘さんと一緒に行く! ダメ?」

 元気に、そして笑顔で、だけど目だけはとても真剣な瑞穂。冗談やその場の勢いだけでないのは明白だった。


 そんな中、香澄は一人で悩んでいた。自分はどうなんだろうと。

 彰弘のことが嫌いなわけではない。寧ろ自分達を助けてくれた恩人である彰弘を好ましくは思っている。小学校で襲われた夜、瑞穂と強くなろうと誓いあった。しかし危険があるだろう旅についていくのは躊躇いがあった。

 その躊躇いは当然といえば当然のことなのだが、姉妹同然に育った瑞穂や自分よりも年下の少女が迷いもなく付いて行こうすることに、自分も付いて行くべきなのかと悩んでしまっていた。

 そんな折にサティリアーヌが香澄に近づき「無理する必要はないわ」と囁いた。

 サティリアーヌは香澄に伝える。

 人の気持ちは個人個人で違う。同じ状況に陥っても感じ方は違う。それは普通のこと。だからそのときの自分の気持ちに素直になって答えを出すべきだと。取り返しのきかないことについては尚更だと。

 香澄はサティリアーヌの言葉で少し楽になる自分を感じた。今はまだ決める必要がない段階なんだと、そう思うことができたからだった。


 彰弘は真剣な目をした三人の少女と会話しながら、悩みを見せる香澄にサティリアーヌが何事かを呟いているところを視界の隅に捉えていた。

 そしてサティリアーヌが香澄から離れたところで口を開いた。

「とりあえずだ。後、少なくとも二年か三年はここか、もしくは南にあるというグラスウェルにいるつもりだ。それに行くときには必ず声をかけるから、そのときに再度どうするか決めればいい」

 彰弘はそう言うと少女達を見る。

 六花と紫苑、そして瑞穂は真剣な目のまま頷き、少し離れたところにいる香澄は先ほどより和らいだ顔で頷いていた。

「と、まぁ、こんな感じだが。どうだサティ?」

「うん。満点、アキヒロさん」

 彰弘に話を振られたサティリアーヌは笑顔でそう答えた。

「何の点数だ何の」

 呆れた顔で彰弘はそう返し、視線を治療院の外へと向けたのだった。


すみません、いつもより遅くなりました。

予定は未定という言葉が身に染みます。


二〇一四年十一月 九日 〇〇時五二分

サティが魔導具の説明をする台詞に下記内容を追加


ああ、そうだ言い忘れていたけど、二つ共、使用者の魔力だけを使って動く魔導具だから魔石の交換は必要ないわ。ちなみに一般的に魔導具と呼ばれる物はほとんどが魔石を使うタイプだから、その二つの魔導具は装飾含めて結構貴重よ。

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