バトル5
まあしかし、実況解説がつくと情報が増えるのはいいな。この世界のこと未だにわからんからな。それは助かる。ただ、実況解説は説明が悪いよな。もっと情報を端的に説明しろよ!
「あ~、そういえば大切なことを言い忘れていました!」
何?まだ何かあるの?
「言い忘れていましたが、べローン戦も引き続き、実況は私、キュネが務めさせていただきます。そして~!解説には引き続き――」
「カヅワ」
「――さんをお迎えしてお送りします」
だからそういう必要性も緊急性もない発言のことを言ってんの!余計なことばかりうるせーな!
「それではべローン戦を始めていただきましょう!フォルゼさん、お願いします」
審判はその言葉を聴くと両腕を上げて、
「はじめッ!」
と叫ぶ。ようやく戦いが始まるらしい。というかなんで実況が仕切ってんだ!お前らの仕事はあくまで試合の起こっている内容の説明とその補足だろ?こっちに干渉してくんな!
もうこれを言っても仕方ない!戦いに集中だ。はてさて相手が一体どんな手を使ってくるのか……。まあ、それは雷魔法で間違いないだろう。……というかそれしかなくね?魔法学校の卒業生だし……。実況がべらべらしゃべっちゃったせいで対策立て放題じゃねーか!あいつらは初めて戦ったわけじゃないからいいにしても、クレサも戦う前に手の内をさらされてしまうんだろうな……。可哀そうに……。
「チェット……。覚悟……しろよなー」
対戦相手の男はチェットを弱々しい目つきで見つめる。実況の話を聞いてしまったのか、さっきまでの元気はない。
「お前ごときの攻撃にどんな覚悟が必要なんだ!分かるように言ってみろ!」
それに対し、チェット、煽る。やめてあげて……。あいつもそこそこすごい奴だからさ!
「……くっそー」
相手はがっくり肩を落としてチェットをしたから睨み付ける。なんか勝負ついてません?もう終わってません?
「俺は4つの属性と剣を自在に操れるが、お前ごとき一つの属性で十分だ!一つの属性だけでお前を倒してやるよ!剣も使わない。」
チェット、さらに、追い討ちをかける。まあ、剣を使わない方が逆に勝率が上がることは考えないでおいてやろう。
「……、あの時は3つ使っていたのに……」
もはや泣きそうな目つきでチェットを見つめている。クレサ、そろそろ準備を始めておいた方がいいぞ。
「かかって来い!」
チェットが顎を上げ挑発的な見下した目で煽る。
「行くぞ!ザサンダー!」
対戦相手の男は手のひらをチェットに向けると電撃がチェットに向かって飛んでいく。……まあ、そうだよな。雷魔法を操る人間を初めて目の当たりにしたが大して驚いていない自分がいる。この世界に関して理解してはいないがだいぶ慣れてきたな……。
「ザアイス」
それに対しチェットも手のひらを前にかざし、そう叫んで目の前に氷塊を生成する。氷にぶつかった電撃はたちまち消えた。
ん?電撃が消えた?氷をぶつけて電撃を消す?何があった?
「魔法で生成される氷は超純水。電気は通さない」
チェットがクールな顔でそう言ったタイミングでチェットの出した氷がはじけ飛ぶ。超純水……、そういうことか……。……というか何、かっこつけてんだあいつ、腹立つな。
「え~!氷魔法で雷魔法を防いでる~!信じらんな~い!」
実況が一連のやり取りを見て絶叫する。いや、本来実況なら、なんとチェット選手、相手の電撃を氷魔法で防ぎましたとかだろ……。思いっきり感想言っただけじゃねーか。誰だ、この大会に実況をつけた奴!
「ええ、まあ。一般的に氷魔法で雷魔法を防げるのは常識ですよ」
解説が即座にフォローする。
「えー!何でですか!?私、さっぱりわからないんですけど?カヅワさん、教えてください」
おっ、解説の出番じゃないか!
「もちろん教えるのはいいですがその前にもう一度自分に聞いてみてください。本当に氷魔法で雷魔法を防げることに理由なんて必要ですか?」
必要だよ!解説しろよ!仕事しろよ!あいつ、この仕事向いてないんじゃないかな。
「……そう言えばそうですねー。要するに氷魔法で雷魔法が防げるってことが大事なんですよね!」
それを言っちゃったらお前ら必要ないじゃん……。観客は見たままだから実況する意味ないし、解説なんかそもそも存在する意味ないよな!
「そういうことです」
そういうことですじゃねーよ!給料泥棒が!
確か一般的に水には不純物であるイオンが溶けていてそれによって電気が流れるが、純水っていうのはそういった電気を流す不純物が理想的に言えば存在しない。だから魔法で生成される氷は電撃を通さないってことになるのかな?思いっきり科学だけど……。そもそもなんで生成される氷が超純水なのか、電撃だって電極とかないのにチェットに向かって飛んでいったのも謎だし……。魔法だからと言われればそれでお仕舞いだが……、今ようやく『魔法わからーん』の名言が心に刺さるわ。
というかなんで俺が解説してんだ、誰も聞いてないのに……。あいつが仕事しないから……。
「なるほど氷魔法ってそういうことですの!」
隣で見ていたクレサが叫ぶ。聞いていたの?そんなわけないよね。
「私とキャラがかぶりますのになんで氷魔法を使ったのかわかりませんでしたが――」
この子は何の心配をしてたの?
「氷魔法は雷魔法に対して優位に働く魔法ですわ。……あれ?そう言えばなんでチェットさんは相手が雷魔法使いだと知っていたのでしょう……」
この子、さっきまでのやり取り聞いてなかったの?いっぱいヒントあったけどね。……まあ、聞いてないよな。どうでもいい話だし。
「チェットさんの魔法使いとしての勘でしょうか……。それはいいとして、今回チェットさんは剣を使うことができないばかりか魔法も一つしか使えませんわ」
そこは聞いていたんだ……。けど、それあいつが勝手に決めたことだから、そんなに心配しなくていいよ。
「そういうことなら確実に勝つためには氷魔法を選ぶのが最適ですわ!最高の選択ですわ!他を選んでいたら負けもあったかもしれませんがきっとこれで大丈夫ですわ!」
……氷魔法は超安全策だったのか、それであれは逆にカッコ悪いな。さっきまでの肩書が泣くぞ……。あとクレサは黙って見てな!
「ここまでは想定済みだ」
一連の流れを経たが対戦相手は逆にさっきよりも冷静になっている。まあ、一回戦ったんならそうだよな……。むしろこれでさらに落ち込んでたらもはや白ける。
「だろうな!俺も想定内だ」
チェットが言い返す。
「俺がお前に負けてから何を訓練してきたか知っているか?」
「知らん!」
「筋肉だよ!この筋肉だ!」
男は上腕二頭筋を見せびらかす。なぜ急に筋肉自慢?確かにガタイはいいけども魔法で負けたんじゃないの?魔法って筋肉でカバーできるものなの?
「この筋肉はこうやって使うんだ!ザサンダー!」
相手の男がそう叫ぶと雷が落ちた。……あいつ自身に。
……何だ?傷心自殺か?……いや、死んではいない。むしろ何だかみなぎっている。あれは全身に電気を走らせているのか?見た目も髪の毛が逆立ってさっきまでとは違い、何かやりそうな雰囲気が漂う。
「肉体強化魔法だ!肉体強化魔法です!」
解説が興奮気味に叫ぶ。物は言いようだな!というか魔法の汎用性高くね?全身に電気を帯びたということは反射速度とかが上がるのか?それで筋肉を鍛えて近接格闘型になったということか……。もはや魔法使いではないと思うがそれは置いておいて、もしかして、チェットが最も苦手なタイプなんじゃないか?あいつダメージもらったら簡単に死ぬし……。まあ、あいつが魔物を倒したところそんなに見たことないし、得意なタイプもよくわからんが……。何にせよ、どうせあいつは勇者だから死んでもすぐ生き返るから成り行きに任せておけばいいか……。
いや、待てよ。万が一、チェットが死んだら、俺達はまたどこかに飛ばされるのか?どこかの祠の前に……。そうなればこれは当然失格だよな。
……それは厄介だな。3位とかそういうレベルの話じゃなくなってきたぞ……。頼む。なんとか死なない程度に負けてくれ!




