バトル3
「さっきの音はすごかったですね~。解説のカヅワさん!」
「ええ。どうやら、日用品は日用品でも覚まし時計だったようです」
何言ってんだ。思いっきり怪我してんじゃん。あれは眠らせる方が得意な道具だ。
「いえ、それは違いますよ!」
さすがに実況が突っ込んだ。解説が常に正しいことを言っているとは限らないからな。特にそいつは!聞いている人に誤解を与えてしまう。
「あれは起きているときにしか使えないじゃないですか!」
それはそうだけども!そこじゃねーだろ!
「言われてみればそうですね。でももういいでしょう、どうでも……。次の対戦が気になります」
お前は完全に観戦者だな!奴にマイクを渡すな!
アミンはそのまま本部に特設された医務室に連れていかれた。どうやら手以外はけがをしておらず、医務室へも自分の足で向かっていたから一安心だ。
「まさかアミンが負けるような展開になるとは……」
チェットが嘆息をもらす。まあ、さっきは不戦勝だし付き合いも今日の数時間前に初めて会ったわけだし、こいつはアミンの何を知ってそんな口をきいているのか。まあ、あんな負け方をしたのは確かに予想外ではあったが……。
「俺たちは何としても勝たなくては!ね!クレサちゃん!」
「はい!ですわ!私の秘策はあの人に負けないくらいの驚きをお見せしますわ!」
クレサは胸を張って応える。嫌な予感しかしないのだが……。
「何としても勝たなくては……」
その後、チェットは自分に言い聞かせるように何度も繰り返す。
……俺にも聞けよ!
まあいい。それにしても気になることがある。アミンの右手は明らかに腫れ上がっていた……。あれはどういうことなんだ?この世界はHP制度、ダメージ制のはず。ということは当たった場所によってダメージの大小はあるにしても、患部のみが腫れ上がるなんてことがあり得るのか?許容量を超えると外傷として現れるのか?部分破壊的な?
前に朱雀と戦ったとき、完全に火の海に囲まれたことがあったが、俺には熱さを感じなかった。ダメージがないのはいいのだけど、なぜ熱さを感じなかったのか、そこが問題だ。DEFとMDFが高いからというのはあるが、この守備力というのは何を表している?
真っ先に思いつくのは物理攻撃及び魔法攻撃によって受けるダメージがどの程度軽減されるしようということだ。まあ、それに関しては間違いないだろうが、もし、火の海の環境、例えば、火山活動が活発な場所とかがあっても俺なら普通に生活できるということになのか。本来なら火傷、少なくとも肌が赤くなるはずだ。守備力というのは痛みに鈍感になるということなのか?俺の体が実は鋼鉄になっているのか?
それにあの銃弾が仮にゲルナの体を貫いていたらゲルナにとっては致命傷だろう。守備力が高ければあの銃弾が貫通しないのか?いや、守備力は体の硬さを表す指標ではないはず……。普通の人だったら死ぬ。だが……、今の俺なら弾がはじかれるのか?銃弾の威力とちょうど同じくらいの守備力を持つ人間は?
慣れてきたつもりでもこの世界はまだわからないことばかりだ……。どうもスッキリしないな……。まあ、ここで死者が出るようなことがなかったのはよかった。たぶんスッキリしないな~では済まなかっただろう。
「チェットさん。ちょっといいですか?」
本部の人がチェットを名指しで呼び出す。なんだろうか……。まあいい。次はチェットか……。さてどうなるか……。見た感じ相手の3人の男達はそれなりに屈強そうに見える。チェットでは勝てないかもしれないな。いや、展開の予測ははっきり言って不可能だな。だって、純粋な強さの勝負じゃないんだもの……。棄権したり不戦勝だったりドラゴン呼び出したり拳銃出したりわけがわからん。
願わくば、アミンみたいに重症を負わない程度にボロ負けしてほしい……。
というかすでに1敗、俺で2敗だから対戦相手がいないというあのわけのわからんルールでもう1敗すれば3敗で負けられる!
これは世界地図に向けて上々なのでは!いや、まだだ。気を抜くな、俺!
チェットはなんか大会スタッフと話したあとすぐ戻ってきた。
「べローン、前へ!」
審判がフィールド中央で大声を張る。次の戦いが始まる。
「どうやらこの先俺にとって負けられない戦いがあるらしい。行ってくるわ!応援しててくれ!」
言わなくても応援はしているよ。結果は期待してないけどな!それにしても負けられない戦いがあるらしいってなんだ?というかさっきまで勝たなきゃって自分に言い聞かせてたじゃないか。フワフワしているな、ケガして帰ってくんなよ!
「おーっと、べローン戦が始まります!今入ってきた情報によりますとこの二人、魔法学院時代の同級生でライバル同士だそうですよ!」
実況が驚いた声を上げる。
そういうことか。ゲルナ以外にも因縁がある相手がいたってことね。でも、相手の顔はずっと見えてたけど、チェット何も言ってなかったぞ?
「こういう展開はあっついですね!解説もやりがいがあるってもんですよ!」
何言ってんだ。お前、解説なんかしてないじゃんか!
「あっ、アツイで思い出したのですがあの時はつい海に飛び込んでしまい、実況の仕事を放棄してしまいました。その節はどうも申し訳ございませんでした」
何の話?もしかしてセカンドステージのこと?今謝るのかよ!というかよく思い出せたな、それで!
あと知らない人は知らないからここで言うな!
フィールド内ではさっそく前哨戦が始まっていた。
「久しぶりだなチェット!」
相手はチェットに向かって指を差し挑発的な態度をとる。
「……。ああ、お久しぶり……」
なんだ?チェットのテンションが低い。因縁があったんじゃないのか?
「お前と戦える日をどんなに待ちわびたことか!」
「……、ハハ。そうだな」
なんだその愛想笑い。
「学院時代、結局、一度もお前に勝てたことはなかったな」
「……言われてみればソーダッタナー」
おい、棒読みになってんぞ。これ、完全に覚えてない奴だ。
「少なくとも前回のようにあっさり負けたりはしない!」
「……そうだなー。今回はそうだなー」
なんだこのやり取り……、相手が気の毒だ……。
「学園では来る日も来る日もお前を倒すために特訓を重ねてきた!」
「……そうだなー。昔から頑張ってたよなー……」
完全に他人事!まあ、チェットだし昔の記憶なんていい加減なところもあるよな。俺もチェットの学院時代の話は聞いたことないし。
「いつの間にか卒業していたときは驚いたが、ゲルナ盗賊団に入ってよかった」
「それはどうかな!」
あっ、そこは普通に返すんだ……。
「今日という日をどれだけ待ち遠しく思っていたことか!」
「……オレモダー」
嘘つけ!
「やっとだ。やっと!この日が来た!俺の成長を侮るなよ!あのころとは魔法の質もパワーも速さも全然違う!」
「……ナンダッテー」
知らないなら乗っかるなよ!相手がどんどん惨めになっていく……。
「覚悟しろ!チェット!」
「それはえーっと、あの~、あれ……、ああー、あれだ!お前が覚悟しろ!」
名前すら出てこないとは!思い出0か!
「もう耄碌しているのかチェット!言葉が出てないぞ!」
気づいてないの!?そんな幸せな頭しているから覚えてもらえないんだよ!
「お前が鍛錬を怠っていようと今日勝って連敗記録を1で止める!そのためにここに来たんだ!」
えっ、ということは一回しか戦ってないの?しかもその一回は瞬殺されたと……。
本当にライバルか?ごめんな、チェット。記憶を疑って……。
「ここには俺を知らない奴もいるから敢えて名乗ろう!」
実は誰も知らないんだよな……。
「ゲルナ盗賊団の主要戦闘員にして、最近巷で雷光石火のライトニングイナズマの雷の異名で呼ばれているギャロット様とは俺のことだ!」
とりあえずバカっぽいことはわかった。
「ああ!思い出した!」
思い出したって……、ついに言っちゃったな。そして、チェットは決め顔で言い放つ!
「お前はゲルナの部下で、巷でなんか長い名前で呼ばれているギャロット様だな!俺が相手をするからには覚悟しろ!」
そこに学院時代の思い出の要素は一つもないけどな!




