バトル2
「相棒、どうした?なんでそんなに緊張しているんだ?」
チェットの一声で自分の体に変な力が入っていることに気付く。どうしたんだろう、俺……。
「……ああ、そういうことか」
チェットは妙に納得した顔を浮かべる。
なんだ?チェットの奴、俺の何がわかったというんだ?
「相棒、ナルゲを逆から繰り返し読んでみなよ!」
うるせーよ!
チェットを人に一睨みし再びアミンの拳銃に目を向ける。それにしても、拳銃がなぜここにあるんだ?
剣や鎧なんかはチェットが持ち歩いているし、ウェットンやサボッチャがそうだったように割とこの世界で頻繁に見てきた。それはつまりこの世界の基本的な戦闘方法は近接格闘であるということを示している。まあ、魔法とかもあるけど……。襲われたらこの鎧が身を守ります、この剣で攻撃しますという主張をしていることになる。多くの戦いに精通している人間の格好がそれということはそれがこの世界の主要な武器であり防具であるということだ。
しかし、この世界に拳銃があるというのにその格好というのはおかしい。普通、銃があるなら銃を使う。そもそも近接戦闘は自分の身を相手にさらさなければならない。例え、自分の方が強いとしても無傷で済むとは限らない。一方、銃での遠距離攻撃ならやるかやられるかだから格下相手に負傷することは少ないはずだ。もっと言うと銃があるのに鎧を着ているのははっきり言ってバカだ。動くたびに音が鳴って居場所がばれるし、何より動きにくいからいい的だ。
よって、この世界の人間は拳銃自体知らないことがわかる。
次に考えられるのはアミンが作ったという可能性だが、それも低い。この世界に来たとか言っていた部分を考えるとアミンもこの世界の人間ではない可能性があるため、アミンが拳銃を知っていてもおかしくはない。しかし、あの拳銃はこの世界で作ったものではない。専門的な知識はおろか触ったこともないから銃がどういう構造になっているのかわからないが、きっと細かい部品でできているのだろう。製鉄技術は、チェットの鎧とかが鉄なのかはわからないが、それなりにあるのだろう。だが小さい部品を作る技術がこの世界にあるとは思えない……。雷属性の魔法使いがいれば動力源なんてどうとでもなるというのにさっき乗った船が帆船だったし、移動手段は徒歩がメインでたまにチェットの飛行魔法、航空手段にいたってはドラゴンしかなく、いたって近代的ではない。
要するにこの世界に拳銃という概念は存在せず、また、それを生み出せるだけの技術力もない。なのに、拳銃がまさにそこにあるというこの現実。この世界の物じゃないのにこの世界に存在するという事実。もう考えられるのは俺と同様にこの世界に召喚されたものということだ。まあ、俺の立場なら真っ先に思いつくことだが……、しかし、そうなると一つ問題がある。
……俺は?俺のは?
なんで俺、身一つで戦っているの?この世界、持ち込み可なんて聞いてないんですけど!
この世界に来たときにあったのはダサい茶緑色のローブだけ。これは俺が要求したのか?そんなわけない。例え、何かの間違いで俺がローブを要求したとしてもこんな色にはしない。まず俺の趣味じゃない。もしかして、俺が要求したのはこの最強のステータスか?いや、そんなことできるなら召喚とかのんきなことやってないで自分で勝手に最強になって自分で勝手に魔王と戦えよって話だし……。
ああ、今から何でも要求できるならとりあえず言葉が欲しい……。
アミンの懐から取り出した拳銃を見て、実況が声を張る。
「あれは何でしょう!アミンさんの懐から謎の黒い物体が出てきました!解説のカヅワさんはわかりますか?」
「さあ?でも大したものじゃないんじゃないですか?魔力も感じませんし、何より小さいですし。おそらく歯ブラシみたいな日用品なのではないでしょうか?」
あれが日用品の世界なんて俺は嫌だ。魔法を基準に考えんなよ!というかゲルナがマスクを外すときにどんな魔力を感じたんだよ。
「なるほど。リサイクルショップのオーナーならではの代物ですね」
「それよりナルゲを見てください!あの人、若返ってもまだ糸クズつけてますよ」
それよりってなんだ。それ実況の仕事だろ!
外野は外野で盛り上がっている一方で、中では物騒なやり取りが続く。
「それは?」
ゲルナは興味深げにアミンの拳銃を見つめる。
「ピストルデスヨ。撃ち抜かれればあなたは死にマス」
「人殺しの道具?怖いわねー」
解説のインチキ情報を聞いたせいか、越えてきた修羅場の数か、ゲルナにはどこか余裕がある。何か奥の手を隠しているのか……。逆に銃を向けるアミンの方は少し震えている。
「これを使うのはあなたが初めてデスヨ」
そういうことか。俺も力の加減がわからずにチェットをやっちまったことがあるからな。あの時の気持ち悪さは半端ではない。そもそも俺がこの世界に呼ばれた理由は魔王退治だからな。人と戦うなんて……。
……いや、ちょっと待て。なんで人と戦ってんだ?魔物狩り対決とかでもいいんじゃね?むしろ一石二鳥じゃね?やっぱ見直せこの大会。
アミンは震えたまま弱々しい声で言う。
「護身用でお願いしたものデスし、弾数にも限りがあるノデ」
お願い……ね……。やっぱり……。弾数に限りがある辺りがもう……。
強気な態度を崩さないゲルナは
「ちゃんと私に当たるといいわね。ザ・ウィンド」
と言って指を鳴らす。
するとどこからともなくアミンに向かってちょっと鬱陶しい程度の風が吹き始める。
「今からあんたは常に向かい風だけどね!」
ゲルナは拳銃を何だと思ってるんだ?その程度の風は無意味ですよ……。まさかさっきの余裕の根源がこれってことはないよね……。
「それしきの風なんて意味ないデスヨ」
アミンはそういうとおもむろに拳銃を鼻に近づける。
「なるほど、初めに弾丸が入っているか確認しマス。6発ちゃんと入っていマス。はいはい、これが安全装置デスカ。ここのトリガーを引いて……。この出張っている部分で照準を合わせて……。なるほど、使い方はわかりまシタ。」
今、確認したの?それにしても便利だな、『神の右鼻』。俺の左目も便利といえば便利だがステータスがステータスだからほぼ勝てるし……、人を探したい時にしか使えない……。いいな、あの能力……。この世界にちんちくりんな道具一杯あるし……、いいなー。
アミンは銃口をゲルナに向け、語りながらゆっくり間合いを詰めていく。拳銃を知らないせいか、追い風に絶対の自信があるせいか、ゲルナは微動だにしない。銃弾を受けるつもりなのか。アミンが引き金を引けばもう戻れない。彼らの因縁は俺にはわからないし、止めることはできない。復讐にかられた男の結末を見届けるだけだ。
俺にできることはない。いや、そっとクレサの後ろに回り、目をふさいだ。
「最初に出会ってから2年デスカ」
「そうね。あなたはよく働いてくれたわ。あなたがいたときのうちの興業はうまくいっていたのに、気づいたら逃げ出していたの。驚いたわ」
「ですがこれでサヨナラデス」
そう言うとアミンは引き金を引いた。
大きな破裂音が会場中に響き渡り、そして……。
「ビ~~~~ックリしましたわ!あれ?静かですわね?どうかしたんですの?」
場内がどうなっているかわからないクレサはのんきに声を上げるが、拳銃を舐め腐ってた実況解説はもちろん、拳銃を知らない観客やチェットと青龍はあまりの破裂音と威力に目が点になっている。
しばらく呆然としていた審判はふと我に返り、片手を天に振り上げて言った。
「勝負ありッ!勝者ナルゲ!」
アミンは拳銃を持っていた右手を抑えたまま倒れこんでいる。あんなに念入りに使い方を確認したのに……、アミンの拳銃が……暴発した。神の能力は道具の故障には対応してないらしい。
「アミン!」
チェットとともに倒れこんだアミンのもとに駆け寄る。
「……大丈夫デス」
アミンはそう言ったが、アミンの右手は目も当てられないほど腫れ上がっている。意識もはっきりしているし、右手以外に大きな損傷は見られないから、そういう意味での大丈夫なのだろう……。だが、とてもじゃないが再び拳銃はもちろん、包丁を握ることはできないだろう。
「アミン、大したことないわね」
ゲルナは嘲笑すると身を翻して仲間たちのもとへ去っていった。
その一言は余計だが、人を呪わば穴二つ、何かを成し遂げるにはそれ相応の覚悟が必要ということだな。
アミンには聞きたいことがたくさんあったが今はやめておこう。




