バトル1
ゲルナの登場に観客も言葉を失い、波の音だけが遠くで聞こえる。俺に言わせればなんでそんな驚いてんだって感じだが……。名前がもう隠す気なかったもんな。組んでる面子もなんでそんな老婆とってなるし……。
この静寂をを破ったのは言葉を発することが仕事であるだけあって、やはり実況だった。
「ま、まさかの事態が起こりました。老婆が一瞬にして若返りました!」
若返った?何言ってんだ?マスク盗っただけじゃんか。
「解説のカヅワさん。今のどう見ますか?」
「すみません、若返り魔法を見たのは初めてなもので……。あれはフェニックスか……いや、フェニックスは炎とともに復活しますね。時間を戻したのか?いや、時空のひずみを発生させずにそれはできない……。うーん、一言で言うと謎ですね。謎の魔法ですね」
いや、魔法じゃないという発想はないのか?ゲルナ、まだマスク手に持っているし……。
「これはすごいものが見れました!」
実況がハイテンションで叫ぶ。
「世界でトップクラスの魔法学校、魔法を始めて学問としてとらえ、バイシュテン魔法学院を開設したかの有名なバイシュテン博士が当時の記者団に対して言った言葉にこんな名言があります。『魔法わっからーん!』と。これは当時から魔法の底のない奥深さや魔法が秘める可能性を的確に示した言葉ですが、ナルゲさんの魔法を見てふとその言葉が思い出されました」
深読みしすぎだろ!もはや何言っても名言扱いされるな!というか魔法博士が一番言っちゃいけないセリフじゃね?
「昨今4大属性魔法のほかにも様々な魔法が発見されていますが、これほどまでのものは私も……、正直驚きを隠せません」
俺はこの世界の人間の思い込みと思考力と分析力と観察力とリアクションの大きさと……、もろもろに驚きを隠せないんだが……。
「ああ!そういうことか!」
「どうかしたんですの?」
チェットが頭を抱えて大きな声を上げるのを聞いてクレサがチェットに質問を返す。こっちは何だ?
「名前だよ!あいつ……、そういうことか!」
ああ、そっちね……。それ今か!
「どういうことですの?」
「あいつ、あの女の名前なんて言っていたか覚えている?」
「ええ、確かー……糸クズでしたかしら?」
「違うよ、ナルゲだよ」
「そうでしたわ。それがどうかされたのですの?」
「ああ、ナルゲって繰り返して言ってみればわかるよ」
何で繰り返すんだよ。反対から見ればわかるよじゃね?
「ナルゲ……、ナルゲ、ナルゲ、ナルゲナルゲナルゲナルゲナルゲルナゲルナ」
最後ゲルナになってるぞ!何でそうなった?
「ゲルナ……ゲルナ……、あっ!」
「そう」
「ゲル、無いってことですわね!つまりスライムを最近倒していないということですの?」
何でそうなった!
「ごめん、違った。反対から読んで繰り返してごらんよ」
いや、だから繰り返す必要ないじゃん。というかすでに言わせたいところ言ってたけどね。
「ナルゲだから……、えーっと、ゲー……ナ……ル?」
ん?3文字だぞ?
「ゲナル、ゲナル、ゲナル、ゲナルゲナルゲナルナゲルナゲルナゲルナ」
また最後ゲルナになってるし……。何を言わせてもそうなるの?
「ゲルナ……ゲルナ……あっ!」
「ゲル、投げるな!つまり、スライムを大切にしろと言うことですわね!」
だから何でそうなった!
「……まあ、だいたいそうなんだけど、要するに俺たちが探しているゲルナがあの老婆だったってこと」
全然要してないけどな!
と場外のどうでもいいやり取りに奪われていた眼を再びフィールドに向けるとアミンが今まで見たことのない形相でゲルナをにらみつけている。
「こうなった以上、チェットさんには悪いデスガ、私が恨みを晴らさせていただきマス」
「チェット?ああ、あの弱虫チェットね。近くにいるのかい?」
向こうもチェットの名前を憶えているようだ。
「いマスヨ。すぐ後ろに!」
アミンはゲルナから目をそらすことなくこっちを指差す。
「ああ、本当だ。老婆に変装して腰を曲げているとなかなか上を向くのが辛くてね。……いや、別に眼中にないのよ、あんな奴!いようがいまいが知ったことじゃないわ!」
……なんだそれ。ツンデレか。チェット……、仇なんだよな……。
ここで実況が流れる。
「おやおや、フィールド内ではどうやら穏やかではない様子です。二人は知り合いだったのでしょうか?解説のカヅワさんはいかが思いますか?」
何でも解説に聞くなよ。そもそもなんで二人の因縁を解説が知ってんだって話だろ!
「これはさっきまでの話を聞いていて思った私の勘ですが、たぶん昔一人の男を取り合ったのではないでしょうか」
なんで?どこをどう聞いてその結論になった?もはやあいつら害でしかないな。
「そんなんじゃありまセンヨ!」
さすがにアミンがキレた。実況解説が一番の競技妨害しているのだが……。
「それは失礼しました」
解説が謝る。というかなんで競技中の選手と解説の会話が成り立ってんだ!
「後学のために是非お教え願います。お二人はどういうご関係でしょうか?」
勉強熱心なのはいいけどさ!時と場所!というか二人の関係なんて今後どこで使うんだよ!
「あとにしてくだサイ」
「ええ、わかっています。ですが、そこを何とか!」
……なんだ、こいつ。解説が解説を必死に懇願してる……。
どうしようもないと思ったのか、アミンが渋々語り出す。
「私には『神の右鼻』の能力がありマス」
「『神の右鼻』ですか。すごいですね。あっ、『神の右鼻』の能力がわからない人は図書館で神の能力大全をお借りしてくださいね」
お前は解説しろよ!
「私はこの世界に来てからしばらくの間その能力を奴に利用されていたんデス。あれで多くの人を不幸にしていたと思うと許せまセン。今でも夢に出てきマス! 今度会ったら私が犯した罪をこの手と誓ったものデス……」
……この世界に来てから?それって……。
「罪ってどんな罪ですか?」
あいつ、グイグイ聞くなー。さっきアミン結構大事なこと言ってたのに……。
「罪?ゲルナは盗賊団と名乗っていマスが、実際は詐欺集団デス。私の能力で道具の価値や使い方を調べ、本物とすり替えたり、法外な値段で売りつけていたり やっていまシタ……。後悔していマス……」
その道具の価値や使い方を調べるのが『神の右鼻』かな?それを使った仕事をしているとか言ってたもんな。道具の能力を知る能力か……。それでゲルナの香水の時の解説に必要以上の説明があったわけか。
「後悔ってどんな後悔ですか?」
解説のやつ、プライベートなことにも躊躇がない。たぶん、友達いないんだろうなー……。
「私、知らなかったんデス……。何もわからないときに優しくさレテ……、それで……協力していまシタ。今ではなんであんなことをしてしまったノカ……」
アミンも言わなくていいことを……、いや、どうせ言わされるか……。
「そう自分を責めるのはよくありませんよ!今それを悔やんでも仕方ないじゃないですか。まだ大丈夫です。ここで変わりましょう!」
……なんだこいつ。
「……そうデスネ」
アミンの指先が小刻みに震える。相当ストレスが溜まっていそうだ。
アミンはゲルナに向き直る。良い評判聞かないゲルナだけど、別に何かを仕掛けるわけでもなくさっきから立ち尽くしている。まあ、俺がその立場でも何もできないだろうけどな。今起こっていることの意味がわからな過ぎて……。
「私にはお前と再び出会ったときのために隠してきた秘策がありマス」
そういうとアミンは懐から黒い塊を取り出す。
アミンが懐から出したものはこの世界の世界観に合わない代物だった。
俺は見たことがある。高速で弾丸を発射し、高い貫通力を持って攻撃する武器……。
……あれは拳銃か?




