決闘9
「この大会は船に乗ることが目的だったけど気が変わった。俺たちがゲルナを倒す!いいよな、みんな!」
……いや、まあ……、な……。俺達さ、目的があったよな?なあ、クレサ?俺たちまだ仲間じゃないんだぜ?
「私はかまいませんわよ。ここまで来たら優勝したいですもの」
クレサは大きく首を縦に振る。
「オラも構わねーべ。もう契約が済んでっからマスターの決定には逆らえねーべさ」
青龍も大きく首を縦に振る。
「私ははじめからそのつもりでしたので、ぜひ最後までお願いしマス」
アミンも大きく首を縦に振る。
「……」
俺も適当に首を縦に振る。
もういいわ、好きにしろよ。お前らがそれでいいならな!
「よし!あとは奴を見つけるだけだな!」
そうだな……。……だけってことはないはずだが、まあそうだな……。
パン屋の姉は一つ息を吐く。俺たちの意思を聞いて安堵しているようだ。
「でも、私たちもこの大会始まってからずっと探しているけど見つからないのよね。あなたゲルナの顔知っている?」
……は?顔知らないで探していたの?どうやって犯人を特定したの?
「もちろん知っている!俺もそれらしき女は見なかったな。俺が見間違えるということもないし……」
チェットは間髪入れずに答える。凄い自信だな。もともと付き合いがあったのか?
「この大会に本当にいるのか?」
「ええ、それは確かよ。この子が神の力で見つけたんだから!」
そう言って姉はすでにこの会話に飽きて本を読みだした妹を指差す。確か1日1回確実に直感を当てる能力だったな……。マジか!顔も知らない相手の居場所まで特定できるのかよ!便利すぎる!じゃあ、それ使って……、いや、ツボ探すのに使っちゃったんだっけか?別に真っ当に参加しなくてもゲルナに復讐するチャンスなんていくらでもあるんだがな……。
「そうそう見つからないわね……。ゲルナは変装の名人って噂をよく聞くし……。アミンさんはどう?」
「ええ、私も探しているのデスが見つかりまセン」
「アミンもあいつに何かあるのか?」
「ええ、私も昔少しありまシタ……。昨日、ディーヌさんにゲルナがこの大会に参加しているという話を聞いて急いで仲間にしてくださいと書いた看板を作って街を歩いていたんデス。声かけてくれて本当に助かりマシタ……」
それでチェットはあんなに早くまったく知らない人を連れてきたのか。看板か、さすがに俺にはわからん。
「皆さんに遭えて本当によかったデス」
アミンの目にはうっすら涙が見える。アミンもまたゲルナに深い因縁があるのか?何者なんだ、ゲルナって……。というかなんだこの空気感……。真面目にやらないといけない感じなの?次さ、1勝したから7/9の確率で準決勝だからさ……。俺、負けたいんだよね……。
「やめろよ、アミン、こんなところで。ここはまだ道の途中だぜ!」
チェットがアミンの肩を叩く。道の途中って……。まあ、いいわ。願わくば面倒ごとに巻き込まれませんように……。
「とりあえず進もう!次の試合に遅れちまう!」
チェットが親指を立て先陣切って歩き出す。
「まあ、そいつがすでに負けていたら、笑えるわよね」
一番後ろを歩くパン屋の妹は嘲笑気味にそう言った。その後誰も話すことなく次の会場までたどり着いた。
「お待たせしました!今回勝ち上がりこの地で戦うのは2艘目の悪魔!対3艘目のダークホース!という異色の組み合わせです!アルメナスの悲劇準決勝!この試合は私キュネの実況と!」
「カヅワ!」
「の解説でお送りいたします」
今回の試合会場にはなんとあのうるさい2人が実況と解説を行うようだ。会場の広さや様式はさっきとほぼ変わらないが実況解説付きだと必然的に観客もついてくるらしい……。雰囲気は全然違う。というか解説にも言わせるならもう少しなんか言わせてやれよ……。
……ちょっと待て!いま準決勝って言った?ということは3位になるためにこの試合、負けなくては!
「いいか!みんな!」
チェットが大きな声を出して俺たちの注意を引く。
「ゲルナと会うまでは着実に勝っていくぞ!」
いつになく真顔でチェットが叫ぶ。アミンも何も言わずにチェットの言葉にうなずく。この空気感……。マジな奴だ……。最初から会場全体の雰囲気はそんなだったけど……、ようやく場の雰囲気には合う感じになってきている。
よし、チェットたちがやるからには俺も本気でいくぜ!本気で負ける!
「おおー!ですわ!」
屈託のない笑顔でクレサは拳を突き上げる。さすがクレサ、空気に飲まれない。
チェットはみんなの顔を見回すと
「よし」
と言って紙を取り出す。メンバー表だろう。
というかよしなの?
「今回の対戦順を決めるぞ!今回は前回の反省を生かして順番を変える。アーナムはさっきと同じアミン、頼む!さっきも勝ったしな」
さっき勝ったのは不戦勝だろ!さっきも勝ったからを根拠にすんな!
「わかりまシタ。大丈夫デス。私にも秘策があるノデ」
「べローンは俺が行く!さっきも勝ったから!」
お前は棄権による勝利だろ!勝ったことを理由にメンバー決めんな!さっき散々気にしなくていいって言われた俺の立場は!?
「そして、さっきも勝ったからクリッパーはクレサちゃん!また練習の成果を出して勝利をつかんでほしい!」
「はいですわ!」
クレサは一応真っ当?に勝ってはいたな。だけど今回は練習の成果は出してから出た方がいいぞ!
「そして、エイムをさっき負けちゃったけど、相棒でいく!」
負けちゃった言うな!気を遣うなって言ってんだろ!
「さっきは負けちゃったけど相棒がエイムだってことに異論は挟ませないぜ!さっきは負けちゃったけど相棒は世界で一番強い男だ!さっきは負けちゃったけどそう何度も負けるような男じゃない!さっきは負けちゃったけど俺が絶対の信頼を置ける数少ない男だ!」
何回さっきは負けちゃったけど言んだよ!いじめか!俺が真っ当にやり合えば負けるわけねーだろ!
……まあ、今回も負けちゃうけどな!
「悪いけど俺はさっきは負けちゃったけどこの中の誰よりも相棒を信頼しているから!」
「異論なんてあるわけないじゃないですか」
「ええ、私もアイボーさんを信頼してマス」
……ちょっとやめろよな。
「オラはちょっと不満だべ。いんや、不満さゆーより不安だべ」
青龍、お前は黙ってろ!
チェットがメンバー表を審判のもとに提出しに行く。いよいよ始まる。負け戦が!
「あの、私、次の戦いに備えてちょっと買い物して来ていいですか?」
クレサが俺の服をつまんで引っ張る。
まあ、いいんじゃない?最悪不戦敗になるだけだ。
笑顔で首を縦に振るとクレサは嬉しそうな表情を浮かべ、
「じゃあ、青龍!乗せていってください!あっ、低空飛行でお願いしますわ!」
と笑顔で青龍に向かって両手を突き出す。一端のドラゴンマスター気取りになったということか……。
「え~、いやだべ。めんどくせーべ」
しかし、青龍は普通に拒否してきた。さっきマスターの決定には逆らえないとか言ってなかった?
「それなら仕方ありませんわね」
と言い残し、クレサはどこかへ駆けだした。
マスター、聞き分け良すぎだよ!にわかドラゴン使いがばれるぞ!




