決闘8
なぜか勝ち上がることができたため、次の会場まで歩いていくことになった。次の会場とは言っても徒歩数分の距離で、大移動というほどのものではないが……。
……気が乗らない。もちろん勝ちたかったよ!勝ちたくて結果勝ったんだから嬉しいはずなのに……、嬉しさよりも疲労感がの方が先に来て……。損な性格しているな、俺……。
そんな俺の気持ちとは対照的に能天気なチームメイトは勝利の余韻に浸っていた。
「クレサちゃん、やったね!練習の成果がうまく決まったじゃない!」
上手く決まるに決まってるだろ、成功するまで待っててもらってたんだから。いや、待つというか手伝いまでしてもらってたし……。
「私頑張りましたわ!大事な戦いでちゃんと成功させましたわ」
……よかったな。次もそううまくいくといいけどな……。
「んだんだ。劣勢の時はどうなるが心配だったけんども、ほんどうによがっだなー」
青龍、お前は黙ってろ!
というかお前途中忘れてたよな。例の練習のこと。もういいけど……。
「本当に勝ててよかったデス。私はどうしても勝ちたかったノデ!」
アミンが小さく拳を握りしめる。まあ、アミン自体は不戦勝だけどね。
「いや~、本当に勝ててよかったよ」
皆が一通りしゃべるとチェットがまとめ始める。おしゃべり大好きチェットは話題の中心にいないときが済まないようだ。
「アミンが勝って、俺が勝ってクレサちゃんと青龍が勝って、これで全員勝利で胸を張って次に……あっ、相棒……。」
ん、なんだ?
「相棒は負けちまったけどさ……。まあ、気にすんなよ!誰も気にしてないしさ!」
いや、気にしてねーけど?俺の敗因はろくに説明のない運営や大会関係者、そして何よりお前らのせいだと思っているのでな!
「次勝てばいいじゃん!」
そうだよ、次勝てばいいよな。まあ、次が準決勝かどうか次第だけど。
「俺たちが頑張ったから勝ち上がれたわけだし!」
負けたことに関してはなにも気にしてないんだがその言い方はムカつくな。
お前が勝ったのは相手が棄権したからでお前何も頑張ってねーじゃん!アミンは不戦勝だし、クレサは指笛を吹くことに関しては頑張ったと言えるが、実質何もやってねーし。青龍はもともと力の差がある相手を倒しただけだし、しいて言うならやっすい演出にこだわりを持ち続けることを頑張っていた。けどさっき一番頑張ったのは負けはしたが俺だろ……。なにもわからないのにわからないなりに……。
「あっ、今の言い方だとなんか相棒が足引っ張ったみたいに聞こえちゃったかな?ごめんな。俺達っていうのは勝った人って意味じゃなくてみんなってことね。この中の誰か一人でもかけていたらここまで来れなかったはずだろ!さっき言った俺達っていうのはもちろん相棒も含まれているから!」
いや、別に頑張りを認めてほしかったわけじゃないからそんな必死に言い訳すんなよ。俺に気を遣うな!
「だから相棒が足引っ張ってたなんてこれっぽっちも思ってないよ。本当だからね。本当に思ってないよ」
そこまで念を押されると足を引っ張ってたと思われてたとしか……。
「相手と相性が悪いなんてことよくあることだしさ。」
もうわかったよ。俺のことは放っておけよ。
「何より俺たちはチームなんだ!相棒の負けだって俺たちの団結力、チームワーク、そして結束があればそんなの帳消しさ!」
何で同じこと3回も言い直した?うるさいんだけど。
「俺達で大きな1勝を掴んだ!そう思ってくれ!」
しつけーよ!気にしてねーって言ってんだろ!言ってはいないが察しろよな!それはあれか?逆に俺にもっと気にしろって言ってんのか?
「あっ、今の俺達っていうのは勝った人って意味じゃなくて――」
だからうるせーよ!無限ループか!
「旦那様、あまり自分を責めないでください。この私の力で必ず旦那様の分まで勝ってみせますので」
とクレサが心配そうな表情で俺を見つめて言った。
全く身に沁みない気遣いをありがとう。逆に俺からの心遣いとして自分への過信と俺が負ける前提の発言になっていることにもう少し気を遣って欲しい。
「アイボーサン、ポジティブシンキングデスヨ!」
アミンが肩を軽く叩きながらさわやかな表情で言った。
何なの?俺が落ち込んでいるように見えるのか?俺が無口だからこんなに心配されてんのか?
「まあ、こういう大会って実力の誤魔化しばきがねーからな」
青龍てめぇー、あの洞窟で俺に束になってかかってきたのに64戦全敗した過去を忘れてねーだろうな!すぐ調子乗りやがって!
わかったよ!うるせーな!次勝てばいいんだろ!
悶々とした感情を抱えたまま歩いていると不意に後ろから声がかかる。
「あら、こんなところで奇遇ね!」
振り返るとさっき戦っていた女たちのうちの俺とチェットが戦った2人がいた。さっきチェットと戦っていた女が声の主だ。というか奇遇も何も次の会場にまっすぐ歩いていたんだからお前らがついてきた以外にここで会うことはないんだが……。何しに来た?
「なんでここにいる?」
チェットが不機嫌そうな顔で聞き返す。
「もう私の番が終わったからルール上どこにいてもいいはずよ」
「それはそうだが……」
何だそのルール。じゃあ、俺たちは今ルールに従って歩いていたの?エフに始まりわけのわからんルール多いな。
「別にあなたに用があったわけじゃないのよ。お久しぶりね、アミンさん」
ん?アミンの知り合いだったのか?全然そんな素振りなかったけど?
「この前会ったのは……昨日かしら?」
全然お久しぶりじゃねーじゃん。
「姉さん、この前会ったのはさっきよ」
俺と戦った妹の方が茶々を入れる。それはそうだけど言わなくていいじゃん。
「ええ、ディーヌサン。いつもごちそうさまデス」
「アミンさんはうちのお得意様なのよ。ああ、私達はこの街でパン屋をやっているのよ」
姉の方が自慢げに答える。パンか……、いいな。そういや俺、最近ろくなもん食ってねーな……。
「まあ、私は学校に行ってるからパン屋なんてやってないんだけどね」
なんてって言うなよ。パン屋いいじゃないか、この世界には相棒という謎の職業のやつもいるんだぞ!パン屋の方が100倍いいわ。なんなら転職したい。
……ちょっと待て、学校行ってるとか言ったか?この世界にも学校があるのか。どんなことを教えているか少し興味がある。学校ね……、俺の学生時代の記憶はないが、この世界で振り回されながらもなんとかやっていけるだけの知識があるってことは学校ではしっかりやっていたのかもしれないな……。学校か、この世界の学校には一回行ってみたいなー……。
……あれ?ちょっと待て。
クレサ、学校どうした?
おい!今までは人目のつかない洞窟とか森の中とかだったからいいけど。昼間からこんな幼女が外をふらふらしてたらPTAとか教育委員会とかに怒られるぞ!
いや、学校に通っているらしい妹の方が今ここにいるということは今日は日曜日なのだろう。いや、ジェイソンの脅威が去った14日の土曜日なのかもしれない。
「学校か……。懐かしいな」
チェットは感慨深そうにうなずく。
チェットも学校に通っていたのか?まあ、そうだよな……、そうなるよな……。そうなるとやっぱりクレサのことが気になるよな!
「……ん?学校?」
チェットが何かを思いついたように表情をハッとさせる。
そう!気になることあるよな!
「じゃなくて学校の前なんて言った?パン屋とか言っていたよな!パン屋が何でこんな大会に出ているんだ?」
今そこかよ!別に何でもいいだろ!どうでもいいし。
俺らだって偶然海岸で見つけた壺の中身を見て強引に参加してんだから参加する理由なんてあってないようなもんだろ。
しかし、姉の方はチェットの軽い気持ちでした質問を聞いて重たい面持ちになる。
「あなた、ゲルナ盗賊団って知ってる?」
何の話?盗賊団?それが何か関係があるのか?盗賊団ってことはなんか盗まれたのか?
「ゲルナ……。こんなところでその名を聞くとはね。ゲルナは知っている。俺もずっとその女を探していた。そいつは団長の仇だ!」
さっきまでのテンションから一転、チェットは驚きの表情で興奮気味に答えた。チェットにも何やら深い因縁がありそうだ。団長……、前にもチェットの口から聞いたことがあったがいったい何者なんだ?
「私たちは仇なんて大層なものじゃないけど、盗まれた大切なものを取り返すために参加していたの」
「あいつ……!」
チェットは今まで見たことがないような怒りの表情を浮かべている。俺の中でさっきまでの軽いムードが一変、重たい雰囲気に変わる。チェットにとってその盗賊団はただ事ではない因縁があるようだ。
「ごめんさない。本当はここであったのは奇遇でも何でもないの」
女は申し訳なさそうにつぶやくが、それは知ってる。
「奴らと当たったら私たちが盗られたものを取り返してほしいの。お願いでき――」
「任せておけ!あいつが今まで奪い取ったものは俺が取り返して見せる!」
姉が言い終わる前にチェットは答える。相当燃えている。
「それで何を盗られたんだ?」
女は一呼吸置く。怒りで気持ちの整理ができていないのか?相当な悪党なのだろう、その盗賊団は……。
「私にとってとっても大切なもの……、小麦粉よ!」
えっ?小麦粉!?盗られたものを取り返すために参加しているとか言ってたからてっきり店のお金とかなんかこう、かけがえのないものだと思っていたが……、小麦粉!?いや、パン屋が小麦粉を大切にするのはいいことだと思うけどさ……、小麦粉かよ!
「しかも一袋も持っていきやがったの!」
一袋!?一袋の大きさが分からないけど、一袋なら大したことないだろ。
倉庫にあるのを根こそぎとかならわかるけど……。
「私はゲルナ盗賊団を絶対に許さないわ!」
「わかった。必ず取り返してやる!」
いや、取り返すより買い直した方が早いと思うぞ。




