決闘7
試合を仕切り直したとともにクレサは右手の親指と人差し指で輪っかを作り出す。魔法の概念が未だに理解しきれていないが印を結んで発動するものもあるのか?だとしたらいったいどんな……。
と思ったが、クレサはそのままその輪っかを口にくわえ、大きく息を吸う。間違いないあれは指笛だ。
……あれが新技?もしかして敵を混乱させたり、眠らせたり……、即死効果があったりする音が出るとか?いや、音によってダメージを与えるつもりなら俺が今までその音を聞いたことがないのはおかしい。
俺の思索をよそにクレサは思いっきり息を吐くと強めのブレス音がフィールド内に聞こえる。もともと成功率は低いとは自分で言っていたけども……、今のは指笛としては失敗だが……、いや、今のは何をしようと……、いや、成功したのかもしれないし……。もう狙いがさっぱりわからないので何とフォローしたらよいのやら……。
しかし、対戦相手の大女は目を丸くしてクレサを見詰めている。
「あんた……、まさか……」
大女はクレサがやろうとしていることを理解できたのか?
「指笛もできないのかい?」
いや、驚いていたのは指笛ができないことにだった。放っとけよ。
……いや、もしかして指笛ができるのはこの世界では常識的なことなのか?
……まあ別に、俺、この世界の人間じゃないしな。
「私としたことが失敗してしまいましたわ……」
「仕方ないわね、教えてあげるわ。指の形は大体いいわ。吹くときにもう少し奥まで咥えないと……」
「こうですの?」
「そうそう。そして、唇の形はこうよ」
「こうですの?」
「違うわ。ちゃんと見て」
とクレサはさっそく大女による丁寧に指笛指導を受けていた。
本当にさっきまで戦ってたやつらなのか?この世界の人間おかしいところ多いけど一番はこの切り替えの早さだよな……。
チェーンソーじゃないけどさっきまでの大きな刃物を持ってゆっくり追いかけていた光景は事実だけから見ればまさにジェイソンじゃん。さっきまで追いかけられていた女の子がジェイソンから何の役に立つのかわからん指笛を教わっている光景に誰も違和感を感じないのか?俺だけ?
ふと隣を見てみるとチェットと青龍が難しい顔で話していた。まあ、スッと腑に落ちるもんじゃ……。
「あれなんかいいんじゃないか?」
「いんや、もうちょっとだべ。あれで満足してもらっちゃ困るべ」
「そうかなー?」
「んだ!」
「クレサちゃん、もう少し頑張って!」
えっ!どういうこと!?なんでお前らがクレサの練習の成果を評価してんだ?クレサの先生か!?監督か!?マネージャーか!?
何でもいいけどだったらお前らがちゃんと教えろよ!
というかこれ当初の目的からかなり脱線してね?これは何を目的とした場だったかわからんないじゃん。……いや、わからないことは始まる前からわかっていたことだったな。
大女の指導の甲斐があってクレサの指笛は空気のかすれた音の中にかすかな高い音が聞こえ始める。
「あたしから教えられることはもうないわ。あとは自分なりにやりやすい方法を試して見なさい」
「ありがとうございました。それでは参りますわ!」
どうやら茶番は終わったらしい。どこからが茶番で今は何に対して真剣に取り組むべきなのか……、俺には何が何だかわからなくなってきた。
「それでは行きますわよ!」
そう言ってクレサが指笛を吹くと今日一番の甲高くて大きい音が鳴った。
「で、できましたわ!」
……ああ、おめでとう。
「今のはいいぞ!クレサちゃん!」
チェットが叫ぶ。
……それで?
クレサにも大女にも特に何か変化があるようには見えないんだが……。
「あなた、今私が何をしたかわかりますの?」
クレサは急に勝気な態度になって大女に言った。事実だけを見れば指笛を吹いた。それだけだ。何も変わっていない。けどクレサのあの態度、相当自信があるようだ。自分よりもでかい大女に対して見下した態度をとろうと顎がかなり上向いている。
「指笛とはやってくれたわね……」
大女は少したじろいだ口調でそう言った。ただ、指笛はほとんどお前の功績だ。
「まさかあの指笛が……、いや、指笛じゃないわね。あなたが召喚術師だったとは思わなかったわ」
……召喚術師?召喚術師って言った?あの指笛は召喚術なのか?
そもそも召喚術ってなんだ?召喚術は魔法とは違うの?魔法とは別の概念なの?それとも魔法の一種なの?というかいつどこでそんなの覚えたんだ?召喚術ってなんでも呼び出せるの?呼び出すのに代償とかないの?指笛を吹けばだれでも召喚できるの?なんで今まで使わなかった?なんでついさっきまで指笛ができないままだったんだ?
などなどの疑問が絶え間なく浮かび上がったが、一番気になるのは当然何を召喚したのかだ。
しっかし、なるほど召喚術とはね!今まで指笛ができなかったんだから俺が見たことがないのは当然だし、強い奴を召喚できればVSジェイソンでも一発逆転が可能なわけだ!
何でチェットはクレサが召喚術なんて使えるのを知っていたのか知らんがまあ、チェットは俺と出会う前からクレサと知り合いだったみたいだし、10回に1回は成功するとか言ってた。昔から召喚していたのだろう。よく考えればあんな癇癪持ちの情緒不安定ババアとの2人暮らしなんて耐えられるもんじゃない。話し相手……、話せる相手は欲しいよな……。その気持ちすごいわかるぜ!
さてさて、クレサがどんな奴を召喚したのか……、ちょっと楽しみ!
「召喚術師?いえ、召喚術師ではありませんわ」
……違うんかい!もう少し早く否定してくれない?一人で舞い上がっちゃったじゃんか!
「でも、まあ、それに近いかもしれませんね。私はたった今生まれ変わりました!」
たった今……、たった今……ね。
「これから私のことはこう呼んでください」
そう言って一呼吸を置いたクレサの足元にクレサのものではない小さな影ができ、徐々に大きくなっていく。空から降ってくきたそれは長き胴をくねらせながらクレサを取り巻くように着地する。その尾は鞭のようにしなやかで、その胴は大木のようにたくましく、その鋭い眼光は否応なく相手を威圧する。蒼き肌は金属のように洗練された光沢を放つその姿はまさしく……。
青龍じゃねぇーか!何が召喚術だ!何だったんだ今までの!指笛とかいいからスッと出て来いよ!本当に茶番だったじゃねーか!茶番以外の何物でもない!
「龍使いのク……、いや、ドラゴン使いのクレ……、いや、ドラゴンマスター……。うん、これがいいですわ。そうこれから私のことは『ドラゴンマスター・クレサ!』とそうお呼びくださいませ!」
せっかくのキメ台詞がグッダグダ!そりゃちゃんと言えないよな!たった今なったんだし!そもそも俺を含めだれもクレサがドラゴン使いになったこと知らねーし!
「まさかドラゴンが出てくるとはさすがのあたしも思ってなかったわ……」
出てくるも何もずっとそこにいたけどな!
「私くらいのドラゴンマスターになると本当は指笛なんてしなくても呼び出せるのですけどね!」
ずっとそこにいたもんな!
「演出は大事だべ」
うるせーよ!その演出に付き合ったせいで余計な疲労感が半端ないわ!
「ドラゴンの登場はやっぱカッコよさが大事だよな!そう思うだろ、相棒!」
お前もうるせー!指笛一つで出てくる時点でカッコよくない!
その後、頭はどこかイカレているところがあっても一応聖獣である青龍の参入により形勢は逆転し、ほぼ青龍の攻撃でジェイソンを倒した。
そして、無事に?、当初の予定通り?、2回戦に駒を進めることができた。
結局、これが何なのか未だによくわかってないがひどく疲れるものだということはよくわかった。




