決闘6
「はじめッ!」
審判が両腕を挙げるとともに試合が開始した。クレサ対例の大女だ。これが一騎打ちなら相手の圧勝だろう。でもまあ……、これまでなんだかよくわからない感じだったし、これもなんだかわからないうちに終わっているだろう。
「ふん、なんだい!まさかあたしの相手こんな小娘とはね!」
大女は鼻で笑うとそう言った。一人称は我とかだと勝手に思っていたがすごくおばさん臭い……。
おばさん臭の話は置いておいて、例外はあるが競技というのは男と女や大人と子供のように体格に差がある場合はカテゴリーを分けるものだろう。こんなランダムな戦闘形式を提案した奴が悪いし、採用する奴も悪いし……、まあ、この世界が悪い。
それにしてもとりあえず会話から入るの何なの?チェットの時もそうだったがお話ししたいなら審判が「はじめッ!」って言う前にやればいいじゃん!なんでしゃべり始めるのも試合が始まってからなんだ?
「あたしもとんだ外れくじを引かされたもんだね!」
「あぁん!図体がでけーからって調子に乗ってんじゃねーぞ!ぶっ殺してやる!」
……いや、会話にはなってなかった。クレサの乱心スイッチが入っている……。もう見慣れたがクレサのあれは以上だよな……。温厚なクレサしか見てなかったアミンは変貌したクレサに引いている。
「なんだい、この小娘!年長者に向かってなんて口の利き方をしているの!しつけがなってないわね!」
「うるせー!てめぇにしつけのことを言われる筋合いはねぇーよ!」
「ふぅ。まずは口の利き方から教えてあげるわ」
……なんだこの会話。これ一騎打ちだよな?反抗期の娘とそれに手を焼く母親みたいになってんぞ。そして、チェットは隣でクレサたちの様子を見ながらもじもじしている。年頃の娘にどう接していいかわからない親父か!お前まで乗っからなくていいんだよ!
本当にこの一騎打ちって何をすればいいの?もう最終試合なのにさっぱりわからん。
戦いが動く。乱心モードのクレサが拳を握り大女に突っ込んで行く。乱心モードになるととりあえず無策で突っ込んで行くよな……。青龍たちとやり合った時もそうだったし……。肉弾戦はどう考えても分が悪いのに……。魔法使えよ!
クレサが突っ込んでくるタイミングに合わせて女はビンタの構えをとる。大剣を抜こうとしていないのは口の利き方を教えるためか?まあ大剣を抜こうが抜くまいがリーチは絶対に負けないけどな。これで戦いは終わるかもしれん……。
「危ない!」
不意にチェットが横から叫ぶ。チェットの声に反応してクレサが立ち止まる。チェットの一言で我に返ったようだ。
だが大女のビンタはすでに動き始めている。
「失礼しました。私ったらなんてはしたない言葉使いを……」
とクレサが言った直後、大女の手はクレサの頭の上、空を切った。
「なんだい、それが本来のあんたなのかい?」
「ええ、数々の失言を申し訳ございません」
クレサは深々と頭を下げる。
「何も知らずに危うくぶっ飛ばしちゃうところだったわ」
何を納得したのかは知らんがどうやら大女はわざと外したらしい。動き出している状態から当たる直前で軌道を変える。見た目からして強そうだったが、この女、かなりできる。
「ええ、ですがここからは全力でいかせていただきますわ。一人の戦士としてお手合わせお願いします」
「そうかい、そっちがその気なら遠慮はしないよ!覚悟しな!」
この女、かなり手ごわいな……。正直これまでのゆるみ切った雰囲気なら体格差がすごい相手でも案外なんとかなると思っていたが……。
というかこれがアルメナスの悲劇の正しい雰囲気だとしたら、俺らの全体的にイレギュラー多すぎじゃね?
「ラッキー!あの女、クレサちゃんの緩急ある動きにまったくついてこれてないぞ!そうやって翻弄して隙をつくんだ!」
とチェットが見当違いのアドバイスをよそに再び戦いが始まる。
大女は背中に背負っている大剣の柄を握り、半身の姿勢でジリジリと間合いを詰める。抜いて構えないのは居合斬りでもするつもりなのか?なんにせよ、近接戦では分が悪い。クレサは可能な限り間合いを開けて魔法で攻撃するべきと考えればすぐに思いつきそうなものだがクレサはその場を動かない。いや、動けないのかもしれない。大女から放たれる殺気に圧倒されて……。このままだと……。
「ザアイス」
なんとかクレサが手を前にかざし魔法を発動させる。しかし、その直後、大女の背中にあった大剣がものすごい速さで振り下ろされた。運よくクレサには直接当たってはいない。しかし、クレサはよろよろと数歩後退る……。無理もない。クレサの出したクレサと同じくらいある氷の塊がきれいに真っ二つにされている。
クレサに大剣が当たっていないのは少なからずクレサの魔法の発動に気がはやったからか……。でも、次は修正してくるだろう。
この状況……、もはやクレサに勝ち目はない。実力差がありすぎる。これはクレサの身を案じて棄権するのも手だぞ……。勝ちたかったが、世界地図欲しかったがクレサの命を懸けるほどではない。
チェット、どうする?
「相手は腰が引けてクレサちゃんまで剣が届いてないぞ!クレサちゃん!この勝負、強気でいけば勝てるぞ!」
……だめだ、こいつ。
大女は大剣を背負い直し構える。
「ダメだね、あたしも。勘が鈍っちゃって……。でも次は当てるよ!降参するなら今のうちだよ!」
これ以上の脅し文句はないな……。相手の間合いに入ったら負け。救いなのは奴の間合いを詰める速度が遅いことだ。距離を置きながら魔法による遠距離攻撃、これがクレサに打てる最適かつ唯一の手だ。
「ザアイス!、ザアイス!」
さっそくクレサは試みる。しかし……。
「ザアイス・シールド」
大女の前に氷の塊が現れクレサの氷をかすらせて軌道を変える。
「魔法が使えるのはあたしも同じよ。氷魔法は守備の魔法。あんたが炎魔法を使えてたら状況は変わっていたかもしれないけどね。」
これでクレサの遠距離攻撃は通用しない。氷でダメージを与えることはおろか気をそらすことも氷をわざと斬らせて隙を作ることもできない。ジリジリと間合いを詰められていくのを待つだけだ……。というか魔法便利すぎるだろ!
「クレサちゃん!相手が氷魔法で盾を出してきたぞ!クレサちゃんの氷魔法にビビっている証拠だ!氷魔法をしこたま食らわせてやるんだ!」
とチェットの応援の声をよそにクレサはなすすべなくズルズルと後退る。
確かに複数の氷を様々な角度からしこたま打ち込めば、あの氷の塊を壊すこと自体は難しくない。だが、壊れればまた出すだろうし、何より大女の動きを止めなくては意味がない。
「クレサ!エフッ!」
審判が叫ぶ。クレサは後ずさりして、いつの間にか白線の外に出ていた。エフの宣言がどういう条件で発動するのかいまだにわからんがとりあえず今はいいや。
苦々しい表情のクレサにみんなが駆け寄る。
「クレサちゃん、大丈夫だよ!相手は未だに一撃も与えられてないじゃないか!こっちが有利だ!」
そう思っているのはチェット、お前だけだ。こっちも有効打は何一つない。確かにクレサはダメージを受けてないがおそらく精神的なダメージは結構もらっているぞ。
「それにこっちはまだ練習の成果を出してないしね!」
「あっ!」
クレサの表情が少し軽くなる。まだ練習の成果を出してなかったのか……。
「んだんだ。すっがりわすれどったな。」
「始まったらすぐに試してみますわ!」
「クレサ!早く戻って来なさい!二つ目のエフを出しますよ!」
審判の注意を受け、ここまで来た重い足取りとは対照的な足取りでクレサは審判と大女のいるフィールド中央に戻った。
「なんだい?とっておきでもあるかい?」
大女は戻ってくるなり嬉しそうな表情を浮かべるクレサに尋ねた。
「とっておきではありませんのよ。私の力のほんの一部をお見せするだけですから」
「そうかい。それは楽しみだね~。その力であたしにとっておきを使わせるまで追いつめられるかな?ふっふっふ」
おばさん、まだ奥の手があるのかよ!
あいつに勝つにはやつの氷魔法で防げない威力の魔法を使うか、大剣を見切る必要がある。そう言うステータス強化の魔法が存在しててもおかしくはないが、最初から使えって話だ。そもそもエンカウントしたわけじゃないんだから俺たちが戦っている間にいくらでもやれる時間はあったはずだ。これの可能性は低い。
何より練習して手に入れたんだろ?いや、そんなの相当な努力が必要だろう。そんな練習してるところ見たことないし……。何より練習してたら忘れない。
はっきり言ってここからこの実力差を覆すほどの秘策があるとは思えないんだが……。クレサはどこから来るんだ、その自信。
見てるだけなのにこの世界に来て今が一番気が気じゃない!
どうしようもなくなったら割って入るしかないな……。




