決闘5
審判が叫ぶと相手側からフィールドの中央に一人出てくる。
そして、今日2度目の奇行、「はじめッ!」「勝負ありッ!」をコールすると女はそのままその場を去った。
チェットは小さなため息をすると小さな声でつぶやく。
「これで2勝2敗、もう後がないな……」
……何が?
まあ今ので大体わかってきたな。5対5のチーム戦……、この5は5人という意味ではなく、5つのブロック中で1チーム4人の誰かがその5つのブロックのどこかで戦う。相手がいた場合は戦う……、いや、何かして勝敗を決し、いなければ不戦勝ということなのだろう。これがなんでアルメナスの悲劇と呼ばれているのか、どういった成り行きでこんな面倒な方法が生まれたのか、そして、なんでこんな面倒なやつを採用しているのか……。わからないことはまだまだたくさんあるが勝ち上がって次に俺の番が来た時にやるべきことは決まっ……てないな……。何をすれば勝ちなのかまだわからん。というか俺が何をして負けたのかもまだわかってないし……。1回戦は組み合わせによる不戦勝、2回戦は俺がルールを理解していないことによる反則負け、3回戦は棄権による不戦勝、そして4回戦は組み合わせによる不戦敗……。実質何もないままここまで来たわけだ……。
まあ、わかっているのはこの試合結末はクレサ次第ということだ。
「私、ちょっと緊張してきましたわ。ちょっと怖くなってきましたわ……。」
とそのクレサは現状にちょっと臆している様子だ。それにクレサの対戦相手は必然的にパッと見たときに一番目立つあの大女だ。筋肉とかを見る限り戦うために生まれてきたと言っても過言ではない。まともにやり合ったら勝ち目はないだろう。いつも元気ハツラツなクレサには珍しい反応だが、こっちの方が普通の反応だよな。それが見れてよかった。
「落ち着いて、クレサちゃん。深呼吸して。いいかい、クレサちゃん。エイムという大役をクレサちゃんに任せたのはほかでもなくクレサちゃんならできると思ってのことだから!」
チェットがなだめるようにクレサに言葉をかける。クレサがエイムとやらになったのは自分で志願したからであってチェットは偉そうに言うな。
「今のクレサちゃんは昔のクレサちゃんと一緒じゃない!」
子供のクレサの昔っていうのはいつのことを言っているのか知らんが、クレサにはなんか秘策があるようだ。それは一安心だな。
「あれからいっぱい練習はしましたけど……、まだうまくいかないことの方が……」
視線を下に落として言ったクレサの言葉に俺も不安が募る。仲間になってから……、いや、まだ仲間じゃなかったか。その最後の試練を受けている最中だった。
……まあ、もういいか。クレサが仲間になってからほとんどクレサと一緒にいたはずだが、練習って何のことだ?俺の記憶が正しければ、クレサが練習したこと……、あの洞窟でやったしょうもない漫才のことしか思い浮かばない……。きっとこれではないだろうけど……。だけどほかに何かを練習しているところを見ていないし……。おそらくだがあの女に漫才は通用しないと思うぞ。何より一騎打ちだし……。
チェットはそっと怯えるクレサの肩をつかみ、優しい声で語り出す。
「不安なのはわかるよ、クレサちゃん。練習は練習。本番、大切なら大切なほど本番が怖くなる。うまくいかないかもしれないだけじゃない、その後もずっと恥ずかしい思いをするかもしれないし、思い返すたびに何度も恥ずかしくなって逃げたくなるかもしれない。みんなそうだよ。でもね、クレサちゃん、それでもやるしかないんだ。それに今回に関して言えば失敗したって何度だって試せばいいじゃないか。その中のたった一回成功するだけでいいんだ。そのために、そのたった一回のために練習してきたんだからさ。本当に恥ずかしいのは何度も失敗することじゃない、一度も成功しないことだ。自分はできるんだってイメージ、そのイメージをちゃんと持っていればきっとうまくいくよ!世界は君が望んだとおりに変わっていく」
「……不安ですけど、私、頑張ってみますわ」
「そうだ!その意気だよ!青龍からもなんか言ってやってくれ!」
「もう怖ぐねか」
クレサは小さくうなずく。
「したらば、きっと大丈夫だべ。自分を信じていれば、必ず道は開けるべ」
小さな女の子の小さな眼に大きな火が灯っていくのを感じる。俺の中にあった不安もだいぶ薄れた。自分だけじゃなく、仲間を勇ましい者にするなんてチェットは勇者になるべくしてなったのかもしれないな。
「じゃあ、相棒!最後にクレサちゃんの力になるような一言を頼む!」
……えっ!……マジで!ここで俺に振るの!?
この場面なら「頑張れよ!」とか「応援しているからな!」とか簡単な一言でおそらく士気はMaxまで上がると思うけどさ……。本来ならめちゃくちゃおいしいシチュエーションだけどさ……。
そこそこ長い付き合いなんだから察しろよな!場を温めすぎなんだよ!
嫌な沈黙が流れる。
チェットの、青龍の、アミンの、何よりクレサの真剣な眼差しが突き刺さったかのように心臓のあたりが痛い……。すごく恥ずかしい……。消えたい……。
チェットさん、一度も成功させられなさそうな場合はその恥ずかしさをどうしたらいいですか?
「両チーム、エイム、前へ!」
審判が叫ぶとクレサたちはフィールドの中央をチラッと振り返り、またこちらに視線を戻す。
俺だって何か言いたいよ……。今みたいに場の空気感とかそんなの関係なしに応援したいよ……。
いや、やる前からあきらめている場合じゃないか。頑張ってもできないかもしれないが、クレサには勝ってほしいし、何より何の練習かは知らないが一生懸命頑張ったらしいことに関しては成功してほしい。
親指を立て『頑張れ!』と言ってみた。
案の定、言葉は声にならず、耳には潮風とかすかな波の音が聞こえるだけだったが、クレサは小さくうなずいた。
「旦那様のお気持ち、ちゃんとここに伝わりましたわ」
そう言ってクレサは自分の胸に手を当てる。俺の言いたいことはなんとなく伝わったようだ……。案外やってみるもんだな。なんか嬉しいもんだな、こういうの。
「つまり、1000年前――」
つまり、1000年前?何を言い出すんだ、クレサは。
「魔王軍の四天王の1体をも倒す勇者軍の快進撃により、魔王軍の四天王の残りの3体と魔王を残すだけとなりました。その4体が待つ魔王城まで進軍した勇者軍、その数20万」
数で言ったら500000倍だな……。というか何の話?
「誰もが勇者軍の勝利を疑っていませんでしたが、ここで初めて魔王軍に負けてしまいましたわ」
勇者軍は何やってんだ。
「この話はあっという間に広まり、そして、いままで語り継がれてきました。それがアルメナスの悲劇」
ああ、アルメナスの悲劇の話ね!それが今なんで急に?
「しかし、どうして負けたのか……、それは長い間謎とされてきました。しかし、100年前に現れた考古学者によってその理由が解明されました。彼が言うには圧倒的に不利な魔王軍の四天王の1体が一騎打ちを提案し、勇者軍がそれを快諾したためとされていますわ」
何やってんだ、勇者軍……。どう考えたって一騎打ちなんて数が1/50000の魔王軍に都合がいいだけだろ。全然悲劇じゃねーじゃん。自滅じゃん。
「さらに、ただの一騎打ちではつまらないと勇者軍の幹部だった大海賊バンジャローが今日のアルメナスの悲劇方式の決闘を提案しました。結果は1勝4敗で敗北し勇者軍は撤退せざるを得なくなってしまいました。主力が忘れ物を取りに家に帰っていなければこんなことにはならなかったと言っていましたわ」
バンジャロー、戦犯じゃねぇーか!この方式を使ってバンジャローを決めるのはバンジャローに対する冒涜なんじゃね?
「というアルメナスの悲劇を思い出させることによって、初心や童心を忘れず、積極的にチャレンジをして来いとそう言いたかったのですよね?」
あっ、今までのくだり俺から伝わったことの確認だったの!?
……全然違う。むしろ、俺が伝えてほしかったことだわ……。
そもそも俺の何を見てアルメナスの悲劇が思い出されたの?というかアルメナスの悲劇のどこに積極的なチャレンジというメッセージがあったんだ?
第一、童心も何もクレサ子供じゃんか。
……結局、何も伝わってなかった。
「さすが!相棒の言うことは一味違うな!」
だろうな!俺も俺の一言がさっきまでのいい雰囲気をここまでぶっ壊すことになるとは思ってなかったわ。
「皆さんに言われたこと……、肝に銘じて私戦ってきますわ!」
そう言ったクレサの小さな背中を見送った。
もう一度言う。俺が伝えたいのはとてもシンプルなことだ。
一生懸命にやっておいで。




